和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
「というわけでようこそ別荘へ」
神社の奥に広がる森の中、幾百もの結界を通り抜けってやってきたのは武家屋敷。
東京の源弥さんと雫がいる本家よりは小さいが、一般人からするとアホデカい屋敷を前に、俺たちお邪魔することになった。
「よう久しぶりだな、
そして入れば出迎えてくるのは栗色の髪をした女性。
だけど、露出している方の関節は球体で出来ており……一目で人間ではないことを理解した。和風のメイド服に身を包んだ彼女は、俺達を見て礼をした後……で。
「遅いんだよ、クソご主人! 一発殴らせろ!」
源弥さんを天井に吹っ飛ばした後でそう言った。
うん、カオス。
え、飛んだけど宵闇家現当主吹っ飛んだんだけど、え……なに? 怖いけど全然。見間違え、いや幻覚かなぁこれ。
「もう、殴ってる……ぞ」
「これは挨拶だからいい―んだよ。で、久しぶりだな雫姫。茜が待ってるぜ」
「私こそ久しぶりね、叶。母様は何か言ってた?」
「んーっとそこの馬鹿、一発殴っとけぐらいだったな! それより背―伸びたなー、嬉しいぞ」
「えぇ、貴方こそ元気そうでよかったわ」
なんだろうこのパワフルなヒト。
いや、人ではなさそうなんだけど……メイド、であってる? あ、でも日本だから侍女かなぁ? 原作で見たことない、いやなんかコマの端には映ってた気がするけど、こんなに濃いヒトだったとはびっくり。
「えっと雫、この方は?」
「そうね紹介が遅れたわ、この人は叶。お母さまが創った陰陽絡繰で、ずっと世話になってる恩人よ」
「正式名称は
キャラが、キャラが濃い。
なんだこの癖を擬人化したかのようなヒト。
球体関節のオレっ娘、何より片目が隠れている和装メイドって……属性の煮凝り、いや大渋滞――ちがう、もはや百鬼夜行っぽくなってる。
「まぁ積もる話もあるけどよ、とりあえず茜が待ってるし向かうぞお前等」
「あの、源弥……さんは?」
「あーソレなら、あとで他の絡繰りが回収するから放置でいいぞ」
「そっかぁ」
なんだろう、本編ではさ。源弥さんってずっと威厳があったんだ。
めっちゃ強いし、いつも雫や主人公君を助けてくれる師匠ポジで封印されるその瞬間まで頑張ったすごい人。でも、なんか今までかかわってきた姿やこの扱いを見ると、色々苦労してるし本当に家族大好きな人なんだろうって。
こんな時に感じるものではないかもしれないが、原作を読んでるだけじゃわからないこういう人たちの姿を見ると、すごいなって。
高そうな屋敷の品々がおかれた廊下を歩きながら、俺たちは奥の大広間に通された。そこはどういうわけかどんな場所よりも陽の気が満ちていて、とても暖かいそんな場所。その中心には布団の上で正座をしている一人の女性がいた。
「ふふ、いらっしゃいませ雫。それに、貴方が蓮君かしら?」
そこにいたのは黒い髪をした雫を成長させて穏やかにしたような女性。
童顔ながらにも非常に整った容姿をしており、何よりも相対しただけで穏やかなことがわかるそんな人。
「えっと。そう、ですね。水蝕蓮です」
「まぁ、ってことは後ろの子がイザナちゃんね。雫からの手紙で聞いてるわ」
嬉しそうに手を合わせて、とても喜んでいるのがわかるような仕草で笑顔を深める。宵闇茜さん……会って事のない、穏やかというか清楚なタイプにどう接していいかわからないまま、俺は軽く雫に耳打ちする。
「手紙なんか送ったのか?」
「そうね、貴方のことは全部書いているわ……そこの桜色のこともだけどね」
「うふふ、なにかしら二人でお話し? 私にも聞かせて? それより近くに来てほしいの、よかったら顔を見せて?」
そんな少しマイペースな感じで、会話を進める雫の母親。ちょっと離れてるのもなんだしと、俺達は近づいてその人も近くに座る。すると、顔をぐっと寄せてきて俺の頬に手を添えてきた。
「こうしてみると、真冬に目元がそっくりね。瞳の色もそうだけど……それに、顔立ちは史郎君似かしら? 面影あるわね」
「お母様、あまり触れないで頂戴」
「だって、懐かしいんですもの。そのぐらい許して?」
「蓮も狼狽えないで、むかつくわ」
俺にどうしろと?
急なことで固まってしまったし、何よりなんかやりづらいしですっごく大変。というか美人すぎるし、何より雰囲気が優しすぎる。あれ、原作だともっと雫寄りだったよな? とか思ったけど、源弥さんがいないからか?
「そういえば、あの人は?」
「あーご主人ならノックアウト中だ。そろそろ運ばれてくるんじゃないか?」
「そう、それなら水につけときなさい。連絡くれなかった薄情者にはそれで充分よ」
「温度は?」
「冷水ね、耐えれるでしょう?」
「了解だ、他の絡繰りに伝えとく」
あ、ごめん雫の母親だこれ。
全然似てるし、何ならもっと容赦なかった。
さらっと繰り広げられた会話内容に戦慄しながら、俺は将来の雫の姿を想像して身震いした。だけど、原作が始まれば矛先は少しは分散する筈だから耐えられるだろう。
だって、原作主人公君はきっとパーフェクトコミュニケーションを連発してくれるはずだから! 将来の親友ならきっと――。
「そうねご飯にしましょう? みんなが来るって聞いて、とても頑張ったの!」
「あれ、お母様料理出来ないでしょう?」
「そうなんだけどね、今日は絡繰りの皆に手伝ってもらって焼くだけしたのよ?」
「原型は残したの?」
「それがね、残ったのよ今日は」
これは、怖い会話なのかもしれない。
料理で原型が残るってなんだ? あれ、そういえば茜さんはキャラのプロフィールで苦手なものが料理と温度調整とあったが、それに関係するのだろうか?
「というわけで叶、持ってきてちょうだい?」
「おけーっと、オレらが作ったのとあの溶岩でいいよな?」
「えぇ!」
何を持ってくるんだろうと、心底不思議だったが持ってこられたのはとても豪華な海鮮料理と――本当に、溶岩だった。
ぐつぐつぱちぱち、ごぽぉ。
そんな効果音がするナニカ……よく見れば、手が伸びているというか赤い腕がこっちに助けを求めているというか、魔女の窯の底的な見た目に脳がショートする。
これ、食べるの? と思ったのも束の間、いいにおいだけはするから食べれそうだけど、時々炎を放ってるこれはなんなんだろう?
後ろのイザナはドン引きしてるけど、雫は何もツッコんでいないし……もしかして、食べれる? とそう思って恐る恐る好奇心半分でスプーンですくってみて? 食べてみれば。
「――あれ、おいし」
そこから、俺の意識はなんかなくなった。