和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第27話:目覚めて

なんか俺、この世界に来てからぶっ倒れてばかりだなと。

 寝ぼけ眼をこすりながらも目を覚ました俺は、妙にポカポカする上半身だけを起こして周りを見渡した。

 綺麗な部屋だ。

 すごく片付けられつつも、掛け軸や生け花がおいてある和風なモノ。

 こういうのが好きな俺は少しテンションが上がるが、それから周りを見渡してどうしても許容できない物体が一つあった。

 

「あの、生きてますか?」

 

 視線の先、天井からぶら下がっているのは革の出来た包帯のようなものにぐるぐる巻きにされている……知り合いの姿。

 すごく哀愁の漂う表情を浮かべている一人の男性。

 この場所に来た男は、俺と仁さんそして天治さんを含めればあと一人なのだが、こういう目に合いそうなのは彼しかいなかった。

 

「あぁ、生きてるぞ。川の前まで行ったが、幸い戻ってこれた」

「源弥さん、一つ聞いてもいいですか?」

「なんだ? 答えられるものならいいぞ」

「じゃあ、その。俺らって何を食わされたんですか?」

「何って、陽塊だが」

「それは、食べ物なんですか?」

「まあ食えるし、そうだろ」

 

 ん、あれ? 溶岩とかいう名前じゃなかったっけ? 

 なんとか消えかけている記憶を手繰り、思い出してみるが……確か茜さんと雫は溶岩と言っていた。忘れたいけど記憶に残ってる光景はぐつぐつ煮える魔女の窯の底のような物体。よくある漫画表現の暗黒物質的なものだと思うが、この人はその正体を知っているのだろうか?

 

「あれはな、茜の術で作られたある意味回復できる料理だな」

「……それは、どういう」

「あれはほぼ太陽の気そのもので、食えば陽気を取り込める効果持ってるぞ。まぁ、相性悪いか取りすぎるとキャパ超えてぶっ倒れるけどな! だけど味は旨いだろ?」

 

 旨かったけどさ? 

 多分俺がぶっ倒れたのって陽の気を取り過ぎったことでいいのか? 中に空がいるわけだし、実態とかはわからないけど、相性が悪いのかもしれない。

 

「多分茜は嬉しくて張り切りすぎていつもより込めすぎたんだろ、それにお前は曲がりなりにも神依木だ。あいつの炎に混ざる神威に影響された説もあるな」

「神威って……茜さんは人ですよね?」

「そこらへんは話してもいいが、本人からの方がいいだろ。あ、そうだ頼みがあるんだがいいか?」

「なんですか?」

「降ろしてくれ、流石に」

 

 ……あ、忘れてた。

 

――――――

――――

――

 

「起きたのですね、馬鹿源弥」

「なんで縛ったかは後で聞くが、なんで急に俺らを呼んだんだ?」

 

 それから暫くして大広間に俺達は戻り、茜さんと再会した。

 その部屋の中には絡繰だろう者たちがずらっと並び、何より雫とイザナが神妙な顔つきで正座している。

 

「雫が気になった奴ができたとはいえ、そうそうお前は俺を頼らねぇ。それに、この場にいる絡繰は全部が戦闘用だ。なにがあった?」

「そうですね、隠しても仕方ないですし話しますが。私、命を狙われています」

 

 ――その瞬間のこと、空気が死んだ。

 圧倒的なまでの何かの圧が場を支配し、源弥さんの後ろに龍が浮かぶ。黒き体躯の九つの首を持つ彼の相棒が、主の怒りによって呼応してその姿を現した。

 其の名を九獄黒天竜王《きゅうごくこくてんりゅうおう》。

 八つの地獄を冠する首と現世を表す一本の純白の首を持つ、この世界でも上から数えたほうがいい式神だ。

 あの命式の日に姿だけは見えたけど、今はその気配が何倍も濃くこの空間にいるだけで呼吸が詰まる。

 

「ほんとせっかちね貴方は。しまいなさい」

「――それで、どこの塵だ?」

「相手は知らないわ、ただ天狗という事だけわかっていて呪われているのよ」

「あぁ、そうか。殺すか、それ」

 

 茜さんと、天狗?

 それを聞いた時、思い出すのは一つの事件。

 原作前に起こった幾つもある悲劇の一つ。そういえば宵闇茜というキャラは本編初登場時はずっと眠っていたのだ。理由は妖怪に襲われて魂を封じ込められたから。

 ……過去回想では、源弥さんは親友を失いその後で妻である彼女を封じ込められた。そして、茜さんはこの地を守る結界の起点であり、原作で主人公がこの地に来るまで高千穂は邪に落ちた天狗が牛耳ってたという。

 魂を奪われている以上は手を出せず、荒れた源弥さんは雫との関りまでも自分がいると不幸になると絶ってしまい、雫も雫で自分のせいだとより心を閉ざした。

 

 封が解かれるように一気に溢れるその記憶。

 なんで忘れていた? とも自問するが、そんなことは後の祭り。

 この場所に来てしまった時点で、関わることが確定しているが……俺にできることなんてあるか? 曲がりなりにも茜さんを単独で封じられる化物だ、そんな相手に何かできるかなんて。

 

「貴方は今回手を出さないで、そうやってお願いしてもいい?」

「お前が傷つくのを見てろと?」

「いいえ、貴方はほかの蟲を殺して? 大将の相手は雫と蓮君達に頼みたいの」

「――予言か?」

「まあ、そうね――私の親友からのお願い。これは覆しちゃダメなの」

 

 それを聞き露骨に嫌そうな顔をする彼。

 いまいちそこを理解できないが、この場合俺はその天狗と戦わないといけないのだろう……それは、考えなくても分かる原作を確実に崩す行為。

 覚悟は足りない、それに死にたくはない。

 それにだ、これを失敗すれば俺が知ってる未来から遠ざかる。主人公が作ったハッピーエンドを壊してしまうそんな可能性すら孕んでいる。唯一の武器である原作知識というモノが機能すらしなくなるかもしれない。

 だけど、それでも――そんな、俺の天秤は……この話を聞いている間、ずっと不安そうな、今にも泣きそうな雫の表情を見て。

 

「……茜さん、その天狗が来るのっていつです?」

「明後日には来るそうよ、それは確実ね」

 

 なら用意する時間はあるか……それなら、やろう。

 覚悟も未来も分からない、だけど俺は湖の下で空の友達になると言った。それを思えばあの邪天狗を祓えなければこの先で死ぬ。

 それにここで死ななければ未来で死ぬかもしれないし、それは嫌だ。

 だから鍛えて宵闇家に来た――だから、そんな悲劇の一つぐらい覆せなきゃ意味がない。だから、俺は頑張ろう。

 

「源弥さん、限界ぎりぎりまで鍛えてくれません?」

「いいのか、お前に押し付ける形になってるぞ」

「ぶっちゃけるとめっちゃ嫌です。だけど、やるしかないんでしょう? なら死ぬ気で頑張ります――だから、俺を死なない程度にボコってください」

「その発言だけ聞くとキモいが、俺の宝を守るのなら――容赦しないぞ」

 

 ……そこから約一日。

 俺は、この世の地獄を見た。

 それは天上とも呼べる実力者の一端、というかやる気になった最強の鍛錬。途中からイザナも参加してくれたけど、二人して死にかけたというか――もう二度と、この人とは戦いたくないと本能に刻まれた、そんな決戦前の鍛錬だった。

 

 

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