和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第29話:嵐が過ぎて

戦闘が終わり、俺は一息ついて――屋敷の前に立っていた。

 ここにくるまでに味わった地獄に理不尽、それに何度も行った三途の川っぽい所。たった一日、されど一日。その思い出の数々が過って……頭をめぐって。

 

「終わったかガキ?」

「ッ一発殴らせろ!」

 

 妖怪の気配が消えたせいか屋敷の中を守っていた彼が、俺のトラウマが現れて声をかけてきた――ので、俺は練度の上がった岩石を纏う術で拳を強化してその腹に、何より鳩尾に殴りかかった。

 

「はっ遅いな、叶と比べると避けやすいぞ」

「はらをなぐーらーせーろー」

 

 彼の術で操られる闇が俺を拘束する。

 無様に空中でばたばたと暴れるが、どうやっても抜け出せず五分ぐらいで俺は諦めた。荒れた茜さんの屋敷の前に拘束されたショタ一人というカオスな状況で、なんかイザナがじっとこっちを見てた。

 

「貴方様って、宵闇様の前だと可愛いですよね」

「――え?」

 

 なんでだろうかと聞く前に、口に出されるのはそんなこと。

 あまりの悪口に思考が止まり、理解ができなかった。なんてことを言うのだイザナは、言っていいことを悪いことがあるというかとてもひどい。

 

「はっ」

「は? ……は? ――はぁ?」

 

 じったんばったん、抜け出そうとして暴れる。

 許せない、本当に許せない。イザナは天然で言っただろうからまだ許せるけど、この人に鼻で笑われるとかは許容できない。

 

「離せ―俺を開放しろー!」

「抜け出せたらいいぞー」

「貴方、それにお父様何やってるの?」

「こいつで遊んでる」

「あほに拘束されてる」

「むぅ、なんか仲良くなったわよね二人」

 

 俺達が仕留めそこなった際の保険として待機していた雫。

 孫彼女が屋敷の中からやってきて、俺達を見てそう言った。呆れたような顔だけど、ちょっと目元が赤いというか、ほっとしたような表情。

 心配してたのが見て取れて、いつまでもふざけているわけにはいかないからと拘束が解除される。

 

「まぁあれだな、よくやったぞ――蓮。オマエは俺の宝を守ってくれた」

 

 闇から解放されて伝えられるのは、そんな言葉。

 今までガキだの子供だのでずっと名前を読んでなかったこの人は、俺を認めたかのようにそう言って――見たことないくらいに、俺に優しく微笑んだ。

 

「お前に任せてよかったよ。だからこれは一つ貸だ宵闇家当主である俺が、お前の頼みを一つなんでも聞いてやる」

「……あ、その。今は保留でいいですか?」

「らしくねぇな、どうした?」

「源弥さんに礼を言われるのが死ぬほど慣れなくて……」

「おまっ失礼だろそれ、俺だって感謝ぐらい伝えるわ」

「えぇー」

 

 なぁ俺ってそんなに敬われねぇか? そう零すようにしてイザナや雫に質問する彼。だけど、二人はくすくす笑るだけで答えようとしない。それに不安がる姿が面白くて、元気な彼の姿を見て……俺は、守れて勝ててよかったなと。

 

 あぁそうだ。俺は――ずっと、不安だった。

 この世界の未来を知っていて、自分が死ぬことを知っていて、そうしなけれ大切な前世で憧れたキャラクターたちが幸せになれないとわかっていて、全部この世界の救世主が救うはずで、その道筋を邪魔しちゃいけないと思っていた。

 

 強くならなきゃ死んでしまう、頑張らなければ、休んでしまえば生きていけない。

 悲劇ばっかりで優しくなくて、だけどその世界で描かれる人間達が綺麗で、輝いていて、その輝きを人生に関わってすべてを壊すのが嫌だった。

 

 彼女を宿し、過ごすようになって、漫画のキャラではなく生きた者たちと知って、より怖くなった――変える覚悟なんて持てなかったのに。

 なんでなんだろうな、あの目覚めた夜に空と友達になったあの日に見た雫の表情が、あんまりにも悲しそうで不安そうで、それを見るのが嫌だったから。

 ただ笑顔で彼女に過ごしてほしくて、俺を助けてくれた源弥さんに報いたくて、イザナを助けた自分に胸を張りたくて、気づけば頑張れた。

 

「なぁ、雫……イザナ。ありがとな、俺を見守ってくれて、一緒に戦ってくれて」

「お礼を言うのは私の方なのに、何よその顔」

 

 呆気にとられたような、少し心配そうなその表情。

 俺が今どういう表情なのかは分からないけど、雫にそんな顔を刺せるようなものなのだろうか? 自分ではよく分からない、理解できない、ちくりとした感傷。

 だけど、どうしてだろう? 悪い気がしなくて、今のまま言葉を出さないとと――そう思ってしまって。

 

「気にすんな、ただ受け取ってくれ。俺さ、お前らといれてよかったわ」

 

 ずっと張っていた気が抜けたような。

 肩の荷が下りたようなものを感じて……そんな言葉を伝えれた。

 

「貴方、そういう顔もできたのね」

「貴方様、写真を撮るのでもう一回お願いします」

「はは、どんな顔だよ」

 

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