和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第3話:純白透明な少女

神社に足を踏み入れれば、辺り一帯に満ちる瘴気とも言えるようなもの。

 今までも知識でしか知らなかったはずのそれだが、この場所にいるだけで魂を蝕まれるような感覚に、それがなんなのかを理解する。

 

 今までは暗闇に包まれていて、何も認識する事が出来なかった境内。

 湖に佇む社の中に、やはりというか誰かがいる。

 あまりに強大すぎる存在に身が竦み、これからの地獄に目眩を覚える。

 だけど、この場所から帰るには何が何でも彼女の許しを得る必要があり……逃げる事は許されない。

 

「ほんとおっもいな……」

 

 自分を保つためにも、ゆっくりと息を吐いて言葉を出す。

 そして、本殿がある境内を前にして……ナニカに見られる感覚と、明確にはっきりと誰かと目が合った予感を覚えた。

 

「貴方は、だぁれ?」

 

 そして届くのはそんな声。

 凜とした鈴のような、だけど何の感情も籠もっていないその声音が耳に届く。

 この世界の主であるそんな彼女は、俺を見下ろしながらも全く俺に興味を抱いてないようで完全にハイライトの消えた虚ろな瞳をしている。

 

「……ねぇ、貴方は誰?」

 

 真っ白な、それこそ透明な雰囲気を感じる全てが純白に染まった少女。中高生ぐらいの身長で、巫女服というか見たこともないような和服に身を包んだ少女は、あまりにも記憶と瓜二つ。

 それだけで発されるのは先程境内で感じたよりも何十倍も濃い瘴気の嵐。

 一歩間違えれば死ぬというか、そんな予感が体を支配する。

 

「答え、ないの?」

 

 やはりというか、声を聞くだけで……体に不調が。

 あれ……ないな、全然普通だわ。

 待ってくれ? この子の一言一言は呪言で言葉一つで呪われるのに……え、あれ? なんでなん?

 

 そんな驚きつつも色々な事を考えながら出方を窺っていると、その少女がてくてくじゃらじゃらと俺に近付いてきて目の前でしゃがんできた。

 そして見上げながらも反応のない俺が気になったのか、頬をつついてくる。

 

「……何するんだよ」

 

 咄嗟の行動にそうツッコんだが、喋ったのに驚いたのか少し後ろに下がった。

 事前に警戒していた様子とはかけ離れた行動に、俺も驚いてしまい続く言葉を喋る前に彼女が口を開く。

 

「わぁ……喋った」

「喋るわ」

「じゃあ、あれ? なんで、さっき……話さなかったの?」

「考えてたんだよ。というか君は、敵意とか無いのか?」

 

 状況的に威嚇というか瘴気を出してるのは彼女だろうけど、なんか今思えばなんで敵対していないのか分からない。

 だからこそ、そう聞いたのだが……彼女は首を傾げながらも。

 

「……んっと、なんで?」

「いや、さっき瘴気出してきただろ」

「だって、驚いたから……」

「……一歩間違えたら死んでたんだが俺」

 

 敵対しないように言葉を選びながら話しているのだが、なんとういかやりづらい。凄く警戒していた手前、こんな風に会話が成立するとは思っていなかったし――何よりこうして接する最恐様はなんか普通の少女みたいだ。

 

「それは、ごめんなさい」

「……なぁ俺さここから帰りたいんだけど、行っていいか?」

 

 なんか不思議な雰囲気の少女だし、敵意が無いしで頼めば帰らせて貰えそうだったので俺はそう聞いてみた。

 騙すみたいで気が引けるが、戦わないのに超したことはないし。

 

「やだ……初めてのお客さんだから、お話ししよう?」

 

 そう言われたら進めない。 

 多分ここの主であろう彼女の意思で許されなければ、帰れないからだ。そのせいか俺に選べる行動はあまりなくて、取れる行動も絞られた。

 

 ……とりあえず、名前を呼べないこの少女の話相手になることに決めた。

 瘴気がヤバいかと思ったが、何故か今それの影響がないので情報を手に入れる為にもそれが最善だと思ったからだ。

 

「……それで何を話すんだ?」

「なんだろう? ――そうだ貴方は、どこから来たの?」

「ごめん、まじでそれ分からない」

「まじで、なんだ」

「え、うん……べりーまじ」

 

 会話のペースがマイペースというか、独特のテンポのせいで俺の語彙も死ぬ。

 というか意味が分からない状況過ぎて、頭がパンクしそう。これ、本当にあのラスボスよりも強いとされた女神なんだよな? 別人……のような気はしないし、こんなに変な子だったっけ?

 

「たぶん、外から?」

「一応、外ぉ……だと思う」

「ねぇ外って綺麗?」

「多分、綺麗さならここの方が凄いと思うけど……桜とかあるし今の季節は綺麗?」

 

 なんか、可愛い?

 というか……漫画の推しキャラだったこともあるせいか、めっちゃ可愛く感じる。なんか凄い純粋そうで、変な感じだ。

 

「そう、なんだ。あ、名前教えて?」

「距離の詰め方エグくない? あと、それは無理」

「けち。あれ? エグいって何?」

「……説明難しいけど、多分凄いの亜種」

「へぇ……そうなんだ」

 

 なんかぎこちない会話を交わしながらも、俺は彼女の質問に答えていく。

 名前を聞かれたけど、この「あやかしがたり」の世界では真名というのは大事なので答えないようにしたんだが、納得していないご様子。

 

「私は……空亡(くうぼう)百鬼空亡(なきりくうぼう)。空って呼んで」

 

 あ、本物なんだ。

 この世界での空亡の意味と重さを知る身としては、それを軽々名乗れる存在が居るわけがないと知ってるから――今更だけど、この娘本物だと。

 

「百鬼空亡さんは」

「空」

「空亡さんは」

「そらー」

「空……さん、は」

「ふふ、よろしい」

「空は何でここに繋がれてるんだ?」

 

 暗闇に目が慣れてから理解したが、この子は社の奥から鎖に繋がれて……この社の中でしか自由を許されていないように感じた。

 それは、原作のコマでは分からなかったことで……知らないそれに疑問を持ってしまったのだ。

 

「気付いたら……ずっとここ。何百年も誰かが来るのを待ってたの」

「…………そうなのか?」

「うん、目覚めたらここだった」

 

 少しだけ胸が痛んだ。

 一応知識だけで、俺は彼女の境遇を理解して覚えている。

 だから、その背景も生まれた経緯も知っているが……彼女がここにいてラスボスに拾われるまでのことは描かれてなくて知らないのだ。

 本来彼女とは関われないし、これはきっと偶然。

 救えない存在で、まず言葉を交わせるなんて思ってなかったけど……こうして言葉を交わし境遇を聞くと同情というかなんというか変な情に襲われる。

 

「寂しく、ないのか?」

「考えたことはない――でも、ここでは初めて誰かを見た。それに私と似てると思った誰かも初めて?」

「……似てる? 俺が?」

「うん。あ、時間かも……」

 

 それは唐突な言葉、そう彼女が言ったとき。

 気付けば意識が薄くなり……彼女の言葉の真意も分からぬままに、俺の意識は途絶えてしまった。

 

「またね、きっと会えるから」

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