和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第32話:雨の日に

 その日も、雨が降っていた。

 梅雨ではあるし、自然なこと――だけど、どういう訳か嫌な予感が拭えなくて、修行に身が入ることがなかった。

 なんでかは分からない。

 それが本能故なのか、経験からなのか……原作知識故なのか。

 この世界での雨にはいい思い出がない、まだ自分が経験したわけではないが悲劇が起こる日にはいつも雨が降っているから。

 

「杞憂……だよな?」

 

 庭を眺めながら、ふと呟いた。

 ……冷たくて、荒い雨だ。そこまで勢いが強いというわけでもないのに、暗くて重く、何よりも気分が沈むようなそんな感覚が。

 ずきり、と頭が痛む。

 氾濫する記憶の波に、吐き気を覚えた。気が付けばからからと音がする。

 何かを回すように(はた)を織るようにそんな音が耳に届いている。

 

「どこだ……ここ?」

 

 そして目が覚め呟けば、俺は真っ暗闇に立っていた。

 何処ともしれない暗闇で、俺が周りを見渡すも何もない。この空間に広がるのは純粋な黒のみで状況が何も分からない。

 どうしても直前までの事が思い出せず記憶を手繰るも――なんで自分がここに居るのかも分からなかった。

 

 そんな中でさっきとは別のパチパチという静かで寂しい音を聞く。

 拍手のような音だった……何故そう思ったかも分からないが、どうしてかそれが気になるも、この暗闇の世界では何処に行けばいいかは分からなくて――。

 でも、どうしてか俺の足は動き始めていた。

 

 行かないと……そう思ってしまったから。

 進まなければいけない、音の原因を確かめなければいけないと――心からそう思ってしまったから。

 進む道も分からずにただ前に前にと歩を進める。

 暗闇の中では音しか頼りに出来なくて、本当にこっちにいけばいいのかも分からないけど、ただ確かめないとという一心で前に。

 

「なんだ光りか?」

 

 そんな時だった。

 進む道の先に光りを見たのは。

 それはよく見ると紫色に光る蝶々だった。

 見覚えのないそれ。なんでだろうと思うもその蝶はそんな疑問を浮かべる俺を無視して先に進んでいく。

 

「着いてこい……って、事なのか?」

 

 果たしてそれがあっていたのかなんて分からない。

 けれど、正解だと言いたげに速度を上げた蝶を見るに着いて行った方がいいのかもしれない。

 蝶に着いていくとより音が鮮明に聞こえる。

 それどころか、匂いまでもが正確に感じられ――何がこの先で起こっているのかを大体理解した。

 そして辿り着いて――見てしまった光景は。

 到底信じたくないような、あまりにも異常な光景だった。

 地面からは水が溢れ、空には雷雲が轟いている。見える限りの建物は倒壊し、幾つもの死体が並んでいる。そして、その場所には。

 

「父……さん?」

 

 こんな場所は知らない。

 だけどそこに倒れていたのは自分の父親である水蝕史郎その人だった。ナイフを片手に地面に倒れる彼は、真っ直ぐと何かを睨んでいる。

 思わず視線の先を追ってしまう。

 父さんを倒せる相手なんて想像出来なかったから、何よりそんな光景を信じたくなかったから。

 

「――なんで、こいつが?」

 

 思わず声が、体が震えた。

 そこにいたのは絶対に居てはいけない相手だったから。いや、見てはいけないし出会ってはいけない相手だったからだ。

 空に浮いているのは槍を構えた蒼髪灼眼の鬼。

 古来から、それこそ妖怪が暴れに暴れた最悪の時代から生きる最悪の一つ。ラスボスの配下の一人であり、個の武力であれば最上ともされる――鬼が。

 海を荒らした鬼の大将、海賊としても恐れられた金平鹿という化け物がそこにいた、そいつは、未来の俺の因縁で、父さんたちの死因で、俺が乗り越えるべき――。

 

「――あぁよかったぞお前、こんなに楽しかったのは久しぶりだ。でもまぁ、守りながらってのがよくねぇな」

 

 そいつの声を聞くだけで動けなくなる。

 体が魂が動く事を拒絶する。相手は俺を見てないはずなのにその声に含まれる気配と神威が俺に恐怖を刻みつける。

 初めて会うはずだ。

 ただ知っているだけのはずだ。

 なのに――怖い。

 今まで戦ったどんな敵よりも強く異質な戦闘特化のこの鬼に恐怖しか抱けない。ただ見ているだけなのに、体が竦み喉が渇く。

 

「じゃ死ね、お前のガキは俺等がちゃんと使うからよ」

 

 だけど、それでも守らないといけないとそう思ったから。 

 守るために武器を取り出そうとした。何が何でも家族を救うために、少しでも抵抗しないといけないと思ったから。

 ――でも、動けなかった。

 どれだけ武器を取り出そうとも術を練ろうとも何も出来なくて、次の瞬間に世界が鬼の必殺に染められる。

 

「――そこか、見つけたぞ?」

 

 そして、最後にそんな声を聴いた俺の意識は簡単にも途切れて。

 

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