和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
「ねぇ貴方、大丈夫?」
「……どうした雫?」
また雨が続いている。
道場の中で自分を鍛えていると聞こえるその音、嫌な感覚をぬぐうためにもずっと迷走を続けていたら、いつの間にか来ていた雫にそう言われた。
「ここ数日ずっと一人で修行して手合わせもしなくなったわよね、何かあったの?」
「……ちょっとした気分転換だから安心してくれ」
初めて、彼女に噓をついた。
ずっと胸の中に巣くう不安が、どこまでも離れない純粋な暴力ともいえる神威が、雨の下で嗤うあの男の顔がずっと離れなくて。
何より俺と一緒にいてくれる二人に心配かけたくなくて、俺はそうやって嘘を吐いた。少しの罪悪感があるけれど、こんなことを原作知識なんて話せないから。
「そう、ならいいけれど……何かあったら言ってちょうだい、心配なの」
「大丈夫だって、何があっても……頑張るから」
決意するように、自然とそんな言葉が出てしまった。
言ってはいけないその言葉、だけどそれだけは一度でも口にしないと俺が折れてしまうから。
心配しているのは伝わる、だから少しでも安心させないとと思って俺は彼女と時間を過ごすことにした。今いる訓練場を出て、家の中でいつものように――って。
「くはっ――待ってたぞ、黒陽の覡」
その瞬間に、空から鬼が堕ちてきた。
なんの前触れもなく、ただ唐突に表れたのは刀と槍を構える一匹の鬼。
蒼い髪に灼眼の瞳、そして異物な白い角に鋭い爪を持ったその鬼は、俺を認識すると同時に突きを放つ。
「――防げ、デイダラァ!」
本来は攻撃に使う岩石巨剣。
それを四つは召喚して防ぐはずだった――だけど、あぁその程度ではこいつの攻撃は防げない。
「ごぷっ」
衝撃は殺せた、だから死ななかった。
だけどその反動で俺は屋敷の壁まで吹き飛んで、この人生で初めてなくらいの痛みに襲われる。痛い、痛い、もはやそれ以外の感情が抜け落ちるほどの痛み。
五歳児の柔らかい体では耐えられないくらいの、それに襲われて俺は大量の血を吐いた。でも、それじゃあだめだ。
抗わないと、みんなが死ぬから。
無理やりにも回復の術を回す、傷を塞いで体を動かしてそのまま相手に突撃する。
そして合わせる瞬間――その鬼が俺へと迫った。
暗月を創り出して、五行すべてを起動する。
周りを気にしている余裕などないが、一瞬の判断で土の壁で雫のいる場所だけを保護。身体強化。今まで鍛えて蓄えた霊力で防御力を上げ――。
一秒経過……迎え撃つように腕を斬ったはずなのに、すぐに再生してそのままの腹を殴られ俺が血を吐いた。
二秒目……喰らうは連撃。何回殴られたか分からないが、身体強化がなければ死んでいただろう。そして、三秒……経過、反撃として暗月に炎を纏い首を刎ねたはずなのに、体だけで動いて俺は蹴り飛ばされる。
「ッ――ガッ!?」
たった三秒の攻防、それだけで察する力の差。
でも駄目だ――抗わないと、皆死ぬ。だから反撃しろ――動け、動かせ、頼むから! だけどこの刹那の間に蓄積したダメージで俺はもう動けなくなって。
「いいな、本当にガキか? 二回も死ねたぞ?」
「なら、死ねよ――頼む、から」
「ははっ雨降ってる間じゃ死ねねぇんだ。仕方ないだろ」
軽口として伝えられるその情報。
あぁ知っているとも、それが金平鹿の持つ力だから。
金平鹿――それは紀伊国熊野の海を荒らし回った鬼の大将。海賊多娥丸とも呼ばれるそいつは、この世界で海と雨を司る神を殺してその権能を奪い取った。
それで得たのは、雨が降っているときのみの不死性。
殺せず、傷ついても癒え、雨が続く限り戦いを続ける修羅ともいえる妖怪。俺が倒すべき因縁の鬼で、原作の蓮が全てを失う原因だ。
「なんで、お前が今来るんだよ!」
「あ゛? いつ来たっていいだろ、見つけたんだから」
心底不思議そうにそういう鬼。
その男は、何が面白いのかくつくつと笑いながら言葉を投げてくる。
「にしてもすげーな、普通なら殺してる。流石は黒陽の覡だ」
……知られている。
空のことも多分俺のことも。
気にすることはいっぱいだ。だけどそんな事を言うよりも、体を動かさなければ意味がない。ほんとに、なんで――こいつがここにいるんだよ!
「退きなさい、殺すわ」
「死になさい!」
「……ははっいいな!」
一歩も動かない体、ただ目の前の光景を見ることしかできないが……守ったはずの雫と家にいただろうイザナが金平鹿に攻撃を仕掛ける。
雫は二匹の式神で、イザナは喰らった妖怪の力と術を使って。そんな莫大な殺意と練度によるその攻撃は、確実に相手に届いたが。
「だけど、さっきのに比べたら温い」
「ッ――」
「きゃっ」
完全に術を体で受けられて、二人は神威によって地面に叩きつけられる。それで終わり、たった一匹の妖怪に蹂躙された俺達は完敗した。
「動けねぇのか? これで終わりか。なんでこんなんに柘榴がやられたんだ?」
落胆したようなその声音、だけど俺にはもう戦う力が残ってなくて……ただこいつをにらむしかできなくて――流し続けた血のせいで俺の意識は途切れるように、堕ち。
「まぁいいか、じゃあ連れてくぞ」