和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
相手がゆっくりと、だけど確実に俺に近づいてくる。
動けと体に言っても、どれだけ命令しても、ただ痙攣するだけで何もできない無様な姿。ただ重くて、痛くて、悲鳴だけを上げる体に苛立ちだけが募る。
「へぇ、諦めねぇのか」
さっきの落胆から一転して、少し嬉しそうなその声音。
まるで新しいおもちゃを見つけたかのようなその呟き――相手の顔を真っすぐと睨み続ける俺に何かを思ってることは分かる。
「――ねぇ、何してるの……かな?」
その瞬間の事だった。
この一帯を包むように、周囲に圧倒的――いや、そんな言葉すら生温い神聖な神威が溢れ出した。熱すら感じるほどのそれ、あやかしを妖怪を滅ぼすためだけに創られた女神のその力は、ただ一身に金平鹿だけに向けられる。
「その子はね、私達のなの――それを傷つけた存在が許されていいわけないよね?」
彼女の後ろに九つの天体が浮かぶ。
それは太陽系に存在する九つの星、彼女に搭載されたあまりにも圧倒的な破魔の権能。そしてこの瞬間に選ばれるのは木星、正確な能力は覚えてないが創造神に由来する破壊の力だったはずだ。
「
顕現するのは一つの弓。
それには炎の矢が構えてあり、それは今の俺なんかでは絶対に練れないような練度の術。周りに存在する全てを焼いて離れた俺にまで熱を感じさせる。
「だから、消えてよ」
「ッ奏、こいつは!」
不死の特性を伝える前に、放たれる祈りの矢。
それは目の前の鬼を消し飛ばし、その存在を塵に変えた。肉片一つすら残さないその一撃――だけど、こいつを殺すには!
「動いて――動いてよ!」
雫の体を借りて一瞬だけ顕現した奏。
だけど、あの一撃が限度だったんだろう。あれを放っただけで雫の体は限界を迎えて、憑依が解かれて瞳が元に戻る。
「おい娘、お前の中に何がいる?」
「教えるわけ、ないでしょ……」
「ならその体を壊してでも探るだけだ」
驕りが消えた。
その存在を認識して、妖怪の宿敵たる太陽の女神の姿を知覚して金平鹿は莫大な殺意を滾らせている。
動け、動けよ――頼むから、彼女を守らないと、動かないと、そうしなければ雫達が死ぬ。変えるって決めただろ、守るって言ったんだ――だからなんでもいい、俺に力を!
(心意気はいい、だけどあまりにも足りない。故に、わたしが助言をしてあげよう)
その瞬間に響くのは聞いたことないはずなのに、懐かしさを覚えるそんな声。
ずっと昔に聞いたようなその声が、俺の頭に響いて――。
(さぁ我らが女神の覡よ、わたしの愛し子よ――君ならば、倒せるだろう? わたしの脳を焼いた君ならば)
流されるのは力の本流。俺が通常使う陽の気ではなく、圧倒的に歪で暗くて人を壊す魔の力。それが体を巡り、俺の扱う火を反転させ次の言葉を唱えさせた。
「五行反転――
世界に冷気が満ちて、氷の波が金平鹿を襲いその体を完全に凍結させた。
そして、俺は溢れる力に任せて氷で刀を創りだし……そのまま鬼の腕を両断する。だけど、それが最後。力に耐えきれず倒れた俺は、そのまま意識が消える。
「お前は、俺が……祓う」
だけど、最後まで相手を睨みつけて……その心臓に刀を投げつけた。
――――――
――――
――
「はっ面白いな、お前」
大切な人が、その場に倒れた。
最後の力を振り絞り、私達を助けて意識を失った。
奏の顕現にすべての霊力を使った私は、もう限界で一歩も動けそうにない。でも、彼が作った時間だ、それを生かさなければ私は一緒にいられない。
「ねえ交渉しましょう妖怪」
「何をだ? 俺としては、すぐにお前を殺して覡を連れてくだけでいいんだが。それに状況分かってんのか?」
「えぇ、でも――乗ってくれないなら私は今ここで自決するわ」
「へぇ……聞いてやるよ」
「貴方は彼女を知っている、それにあの子は妖怪の天敵で滅ぼさないといけないんでしょう? だけど、普通に私を殺しても彼女は別の子を依代にする」
これは私しか知らないこと。
奏に聞いた忌まわしき呪いの一つ。妖怪を滅ぼすまで生き続けなければいけない、永劫の呪い。器を転々とするそんな術。
「それで?」
「この人なら貴方を祓える。だから三日間だけ猶予を頂戴。もしも彼が来なければ分離方法を教えるわ」
「……そうかよ。で、他に利点はなさそうだが……それで通ると思ってんのか?」
「そう? 貴方は彼との戦いを楽しんでたように見えるけど」
「……チっ。わかったよ、二日やる。場所は近くの海な」
図星だったのかは分からない、ただ賭けだったこれが成功してよかったと。
だけどここからだ……あとは全部、彼に任せてしまう。それに、本当に二日で目を覚ます保証なんてない。だけど、彼ならきっと私を助けてくれる。
「ごめんなさいねイザナ、伝言頼むわよ」
「……待ちなさい、そんなの――」
「これしかないの、わかって?」
それがこの場所での最後の会話。
私は鬼に攫われて――そのまま、海まで連れていかれた。