和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか?   作:鬼怒藍落

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第35話:空の瞳と契約を

 夢の中、月下の湖で目を覚ます。

 いつもの光景だ、空がいて前世の俺の姿でそこにいるというそんな――いつもの。本当はここに来たら空と話したい、だけど今はそんな時間はなくて。

 

「落ち着いて、もうあれは奏を連れてどこかに行ったよ」

「ならッ追いかけないと!」

「現実の貴方は瀕死だよ、それでも行くの?」

「……」

 

 そんなことは分かっている。

 だけど、それで止まっていいはずがない。

 助けないと、守らないと……だってきっとこれは俺が原因だから。でも、付け焼刃でどうにかなる相手でもない。それを理解しているから俺は黙ることしか出来ない。

 悔しさだけが心に積もる。

 自分の不甲斐なさに奥歯を噛んで――気づけば空の顔が目の前にあった。綺麗な、まるで作り物のようなそんな顔。妖怪たちの理想の彼女は、俺の顔に手を添える。

 

「そんな顔しないで。ねぇ貴方、少しお話ししよ?」

 

 そんな時間はないと、そう言いたかった。

 だけど、真面目な彼女の声音と表情に俺は言葉を飲み込んで。少しだけ、彼女と話をすることにした。

 

「ねぇ貴方。そういえば貴方の事を聞いたことなかったよね」

「まぁ、そう……だな。話したことなかったし」

「うん、だから聞かせて? 好きなモノとか色々な事」

 

 湖の下、社の前。

 木陰の下で俺達は座って向かい合う。

 そしてかけられる言葉に、どうしようかと迷ってしまう。

 俺は自分のことを話していいのだろうかと、全部……なんて怖いし。一方的に彼女の事を知っていたと知られれば、どうなるかなんてわからない。

 

 不安になって空の顔を見る。でもそこにあるのは、とても優しく俺の言葉を待つ女神様の顔で――何よりも俺が知ってる空のままで。

 

「俺さ、前世の記憶があるんだ」

 

 それを見たとき、自然と言葉を出すことができた。

 自分でもよく分からないけど、彼女にならそれを話してもいいって……今思うことができたから。

 

「それは分かるよ、貴方の魂は歪だから。一人なのに二つ分、それは輪廻しても記憶を失わなかったモノの特徴――でも、それだけじゃないのでしょ?」

 

 まぁそれは彼女なら気付きそうな事だからいい。

 だから大切なのは次の事だ。意を決して、何よりも彼女に伝えるために口を開く。

 

「なぁ空、俺はさこの世界の外から来たんだよ」

「……外って?」

「正確に言えば、俺はこの世界の観測者だったんだ。俺は前世で漫画としてこの世界を見てた読者で、ずっとこの世界が好きだった」

 

 それから俺はこの世界の事を話した。

 俺が覚えている限りの前世の事、【あやかしがたり】の事しか語れないけど、俺が見て来たこの世界の彼らの事を。残酷で理不尽でその中にある希望に焼かれた俺のことを――俺が知ってる百鬼空亡という少女のことを。

 

「あぁだから貴方は私を知ってたんだね。それで時々私じゃない私を見てた」

「気付かれてたのか、ごめんな」

「別に良い、貴方はそれでも私を見てくれたから、触れあってくれたから。でも一つ聞かせて、推しって何?」

「……好きなキャラの事、だったはず」

 

 急に聞かれたから反応が遅れたが、そう答えれば彼女は少し微笑んだ。いや違うな、そんな微笑んだなんて生易しい表現じゃ足りない。凄く嬉しそうに、それこそ何かを気付いた風に。

 

「つまり貴方は私が好きだったんだ」

「まぁ、そういうことになるのか?」

「ほかにも推しはいたの?」

「い――ない、です」

「そっか、そっかぁ……なら私が一人だけの推しなんだぁ」

 

 ごめん、めっちゃ怖くて嘘ついた。

 こんな弱い俺を許してほしいが……じゃないわ、待ってくれ。

 

「怖くないのか? 俺は一方的に空を知ってそれを隠して接してたんだぞ?」

「それが、どうしたの? 貴方は、知ってたから私と関わった訳じゃないでしょ」

「……どういう?」

「最初はそうだったかもしれない。でも私が見てきた貴方はね、真っ直ぐでお人よしで、私が寂しそうだといつも助けてくれて言葉をくれる大好きな人なんだ」

 

 ……ずいっと顔が近づいた。

 えへへとはにかむ彼女は、少し恥ずかしそうだけどはっきりとした意思で俺に言葉を送ってくれる。

 

「私はそんな貴方が大好きで、ずっと一緒に居たいと思ったの。だからね、怖がらないよ……それが答え」

 

 そう言って空は俺の手を取った。

 愛おしそうに大事な宝物を包むように……だからこそ、俺はそんな彼女にこう伝える。こんな俺を受け入れてくれた彼女だから、原作の百鬼空亡というキャラではなくこの世界で俺と関わって言葉を交わしてくれた彼女にこう伝えた。

 

「なぁ空……俺と契約してくれ」

「……いいの?」

「覚悟はした。最後の一押しも君がやってくれた。だから俺はもう迷わない」

「いいよ。でも、理由を聞かせて……どうして契約する気になったの? それに納得出来ないの、だって私が理由じゃないから、きっとこの契約はあの子の」

「違うぞ、雫達のためだけじゃないんだ。これは俺自身の為でもある」

「……どういうこと?」

 

 分からないのかそう聞いてくる空。

 そんな彼女に俺ははっきりと自分の意志を伝えることにした。

 

「俺、気付いたんだよ。俺の夢はこの世界で一緒にいる皆に笑っていて欲しいって事だって。だからその夢の為に力が欲しい。俺を受け入れてくれた空と一緒に前に進みたい。これはその為の契約だ。俺の全部をあげるから貴女の力を、君をください」

 

 俺と一緒に未来を歩んでくれと、もはやプロポーズに近いその言葉を彼女に伝えた。俺だって恥ずかしい、だけど彼女にはそのぐらいの言葉を捧げなければいけない。ずっと俺を見守ってくれた相棒になる彼女に本心で一緒にいたいと。

 

「ふふふ、熱烈……本当に私が欲しいんだ。ねぇそれは嘘じゃない?」

「あぁ、これより先の人生で俺は君のモノだ――そして、一緒にいると貴女を守り抜くと誓う。だからどうか、俺と契約してくれよ女神様」

 

 その言葉を聞いた空は笑った。

 心の底から今まで見たことない程に綺麗な笑みを浮かべて、立ち上がって俺の前にやってきた。そして――俺にキスをした。

 

「これは私の初めて、だから……ね。これから一緒だよ。どんな輪廻を巡ったって辿ったって、貴方は私の物……それが覆せない契約で、貴方との約束」

「ほんと、おっもいな」

「そんなの知ってるでしょ? ねぇ、貴方。私に名前を捧げて? 今のじゃなくて、その真名を」

 

 それを言われて、改めて覚悟をする。

 これを捧げれば戻れない、これを渡せば俺は永劫縛られる。

 だけど、それでも……皆で明日を迎えるために、あの鬼神に勝つために。

 

阿久良火燐(あくらかりん)。もう名乗ることがないと思ってた俺の大切な名前だ。どうか、この名前を貰ってくれ」

「うん、覚える。絶対に忘れないよ――私の運命の人」

 

 

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