和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
いつものように目を覚ます。
……近くに香る桜の匂い、相変わらず安心するその香りを感じながらも俺は近くにいるだろうその子に声をかけた。
「おはよ、イザナ」
「軽いですよ貴方様、私がどれだけ心配したと思ってるのですか!」
「ごめん――だけど、もう大丈夫だ」
布団に横になりながら、俺は彼女に笑いかける。
安心させるためにも、俺の覚悟を伝えるためにも、そう言ってから……そのままイザナの頭を撫でた。
「あのぉ貴方様、雫様が攫われて」
「知ってるよ。うん、ちゃんとイザナだ」
「いつもと違いありません? 積極的な様な……」
「そうか? それよりさ、イザナ。俺と一緒に戦ってくれないか? 雫を助けたい」
真っ直ぐと彼女の瞳を見て告げる。
俺には彼女の力が必要だから、みんなで笑う未来に彼女もいて欲しいから、本心から彼女の手を取り頼み込んだ。
「俺には君が、黄泉坂イザナが必要だ、だからこれからも助けてくれ」
俺はもう、誰かを頼ることを自重しない。どうせ一人で背負っても意味がない、というかそんな余裕はないのだから。少しでも笑い合える未来に行くために、俺は。
ほんのりと赤に染まる彼女の顔、俺の言葉に何を言えばいいのか迷っている様で、その反応をみて俺は首を傾げてしまったが……少しして、彼女は下に顔を背け。
「……その、末永くよろしくお願いします」
「おう、助かる!」
「ねぇ史郎、邪魔しちゃダメかなこれ」
「わかんねぇ、俺らの息子はどこに向かってるんだ?」
なんかイザナと喋ってたら、父さんたちの声が聞こえた。
ひそひそと俺らを見ながら真剣に悩んでいるようで、ちょっとおもしろい。
だけど、彼らにも言うことがあるので。
「父さん達も俺を助けてくれ、今から鬼神を祓うから手伝って!」
「お、おう。なんかいい顔してるな、蓮」
「色々吹っ切れたから! 多分あの鬼の配下いっぱいいるから、そいつらの相手お願いね!」
金平鹿という男は、鬼ケ城という場所に百の配下を構える鬼の大将だ。平安時代初期に百鬼夜行を率いた鬼であり、神を殺めた大罪人。そんな相手と百鬼夜行を倒した後に戦えなんて無理な話だ。
「……確かに陰陽寮の情報で、海に謎の城が出来てるって報告だが」
「蓮は、どうするの?」
「俺は金平鹿と一騎打ちするよ、あいつは俺が倒さなきゃいけない」
それは未来の因縁だからではない。
恨みがあるからでも、使命感なんてものでもなく……雫をさらったことが許せないから。それに、負けっ放しじゃ癪だし――あいつに勝たないと前に進めないからだ。
覚悟はできた、目標もできた。
俺は死にたくないよ。この先でラスボスを、空の激キショストーカーを倒すために主人公君の覚醒のきっかっけのために命を落とすとか、原作通りにならないと増える悲劇とか、理不尽とか、全部全部どうでもいいとは言わないけど……単純に。
俺が俺でいるために、みんなが笑顔で明日を迎えるために、俺を受け入れてくれた女神様と一緒に過ごすために。何よりさ、この残酷で理不尽な世界に抗って、ハッピーエンドを迎えるためにも――勝つしかないのだから。
「さぁ父さん、さっそく進軍だ! 金平鹿を、百鬼夜行を祓おっか!」
――
――――
――――――
攫われた先、鬼の根城で目を覚ます。
ここにやってきて一日と半、厳重にそれこそ宝物かのように囚われる私は、退屈そうにしている鬼神に目覚めたとたんに声をかけられた。
「起きたか、あと少しで時間だが……覚悟はいいか?」
霊力を完全に封じる腕輪、どうしてこんなものがあるのかはわからないが……そんな封じられた状態の私に彼は聞いた。
私が殺してきた妖怪と同じようにこのままでは私は殺されるだろう。
死ぬなんて今まで想像なんてしてこなかった。だって、私は強いと思ってたから。それにあの子の器である私は常に守られていたからだ。
初めてのその状況、想像できない死という現象。
覚悟と聞かれても困る、だって分からないのだから。
……でも、私の胸の中で燻る黒い何かがあることだけがわかって。
「怖いか? あの女神を宿す癖に人間らしいんだな」
「これは恐怖なの?」
「そりゃあ震えてるだろ」
そう言われ、考える。
私はこの状況に恐怖を覚えてるのだろうか? 今まで奪った命の報いを償わされるから怖いのだろうか? もう次がないことが、ずっと一緒にいたあの子と離れることが、一人ぼっちにしてしまうことが怖いのだろうか?
考えて、考えて……色々頭の中を巡って、そんな中で思ったのは。彼と、私を見つけてくれたあの男の子と離れることで。
「あぁ……そうなのね。ありがとう金平鹿、私何が怖いか分かったわ」
「どうせ殺すんだ、あれの依代が何を思うかだけ聞いてやるよ」
「私は、あの子と水蝕蓮と会えないことが怖いの。もう二度と彼と話せないって思うだけで体が震える、あの子がこの先で私以外と関わると思うと嫉妬が隠せない」
「……は? 狂ったかお前」
「いいえ、本心よ。これが私なの、誰よりもあの人が大好きで、大切でずっと一緒にいたいから、あの男の子が欲しいだけの、恋を知った女の子」
それならもう私は何も怖くない。
この状況で自覚した、私はやっぱり彼が好きなんだって。
大切で大好きで、彼のことをもっと知りたいと思う、彼と一緒なら何も怖くない。何より、彼がこないなんてことはありえないから。
「ませすぎだろ、おっもいなお前」
「いい子でしょ私、とっても一途なのよ」
「これが女神の器じゃなければな、染めるのもありだが……俺だって、馬にけられたくない。来るんだな? あのガキは」
「――えぇ、だって彼だもの。貴方の飢えもきっと満たしてくれるわよ」
そこで彼は、その鬼は笑った。
何がおかしいのか大声で、だけど戦意を滾らせて、その腕に槍と刀を出現させて、私に告げる。
「俺の名は金平鹿。海賊多娥丸と呼ばれた鬼神だ……なぁ女、名前は?」
「宵闇雫よ、鬼神さん」
「そうか、そうか! さぁ――それならば始めよう、百鬼夜行を戦争を!」
その瞬間、私が今いる岩石の島の天井が両断された。眼前で慌て暴れる鬼の群れ、大将である彼はその光景を空を見上げて笑みを零す。
そこにいるのは、巨剣を構えた愛しい人で――。
「さぁ、戦おうぜ鬼の神」