和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
――芥火家。
それはこの「あやかしがたり」の世界で、代々五行の火を冠し祀る一族であり、原作主人公君のライバル枠である女の子が生まれた家であり、俺がこれから向かう場所である。
行く経緯としては二日前に遡る。
宵闇家当主の宵闇源弥さんになんでか芥火家に行けと言われ、その理由を聞けば、俺の持つ五つの属性を鍛えろとの事らしい。
もっと詳しく話すのならば、俺を強くするために源弥さんが提案して五行家の中ですぐ決まった【水蝕蓮君強化プラン(笑)】というモノの一環。
でだ。あまりにもふざけたその計画のタイトルを聞きツッコむ間もなく渡された計画書というか、説明用の漫画がありそれに書かれた内容が――これだった。
五つの属性とどんな神仏でも降霊出来ちゃう才能あふれる水蝕蓮君!
神依木の才を高める為に五行を束ねる宵闇家で修行したらあら大変! なんと修行から数日で生きる伝説である鬼神金平鹿を五歳で祓っちゃったー!!???
激震する陰陽師界、そんな超すごい蓮君の事を疑う勢力と利用する勢力に挟まれてクソ上司がてんてこまい? 募り重なる疑惑に、増える恐怖の見合い写真、労い用の漫画とラノベで凹む財布。
次回、水蝕蓮修行編――火を祀る一族との邂逅。
あらすじ漫画作者:狗神仁
それが貰った計画書(漫画)に描かれていた内容。
――それを貰って読んだ時、俺はいったん冷静になったというかあまりに驚きに思考が凍り付いてしまったのは記憶に新しい。
一周回って仁さんって漫画描けたんだえぇ……って思考になることで落ち着くという体験をして――そしてそれから俺は、あの計画書説明漫画の作者でもあった仁さんの運転する車の助手席に座りながら青森県に珍しく一人で向かっていた。
「……しかしよかったのか蓮? あのイザナという女子を置いてきて」
「俺としては、何してるか心配ですし――あとすごい顔してましたからね」
「まぁ、そうだな。逆に子供がしていい苦渋の決断の顔ではなかったな」
一応というか俺もイザナを連れて行こうと思ったが、それは源弥さんによって止められたのだ。なんでも今から行くのは芥火家の秘境であり、いくら俺の従者みたいなポジションになってるイザナでも入れないとのこと。
彼女の煎じた苦渋で作ったパフェを食べさせられたような、どう考えても七歳の女子がしてはいけないような悩み方をしていた姿を思い……。
「最後は折れてくれましたけど、大丈夫なんですかね?」
「む、あれは折れたというより飢餓することを決意した狼の様だったぞ」
「……オオ、カミ? どういう?」
「お前は気にするな、今は修行のことを考えろ」
「はーい」
まぁ仁さんが言うなら大丈夫だろう。
だって、俺が転生したこの世界でのサブカルの師匠だし!
そういえばさらっと漫画に描かれていたが、俺のためにいろいろ用意してくれてるらしいしので、いつか家に行かせてもらったら読ませてもらうことにしよう。
「そういえば、陰陽師の人で漫画とか読むのって珍しいイメージあるんですけど、きっかけとかあります?」
「……無駄なことを聞くんだな」
「その、気になりまして」
「まぁ移動が長いからな、まぁあれだ……技がかっこよかったからな」
「それは、出てくる?」
こくりと首が縦に振られて頷かれたことで、確かにと思った。
彼が前にリムジンで用意してくれていた漫画の数々に出てくる技は確かに格好良かったし、その気持ちはすごい分かる。
「それにだな、これはあまり誰かに言ってほしくはないんだが……物語の主人公は格好いいだろう? それを知って憧れた」
そこには純粋な憧れを感じるような真っ直ぐな瞳、そして僅かながらに震えた視線があった。そして、少しして情けなさそうに苦笑しながらもそう言い切った仁さんは、忘れてくれと言って俺の頭を撫でてきた。
「……いいですよね、主人公って!」
そこで俺は、そうやって気づけば零していた。その時に仁さんから見えた感情は、俺の根幹に近かったから、何よりもその表情を知っていたから。
この「あやかしがたり」という理不尽な世界。いつか現れていろんな人を救う主人公は格好良かった。
前世で、それこそ俺が前の俺だったころに読んで憧れたのは、完璧じゃないけど、お人好しで、周りの皆を救うために動き続けたそんな彼。
「どんな逆境でも進んで、理不尽なんて跳ねのけて、悲劇的な運命でも笑って覆して、仲間と笑うそんな未来を見せてくれる。そんな主人公が、俺は好きです」
「――そうか、俺もだ。そんな者がいればいいと、俺は思うよ」
それが到着前の最後の会話。
……車で到着したのは青森県の北に位置する津軽半島の龍飛崎という場所。
そこで降りてみれば、陰陽術で隠された結界がありそこには火の気配がする五芒星があった。
「ここからは一人でだな、蓮。一応二か月後に迎えに来る」
「了解です、えっと乗ればいいですかね?」
「あぁ、手筈だと一定出力の火の術を練れば飛べるらしい。俺はその才がないから同行できないな」
一応俺も飛べるか不安だったのでちょっと頑張って術を練れば意識が浮上し……次の瞬間に俺がいたのは、一切見知らぬ赫い世界だった。
赫に彩られた別の世界。
舞い上がる炎によって視界が埋まり、自分の肉の焦げた様な音が鼻を通る。チリチリとした音が耳に届き、舌が異常に渇いていく。
「――――――」
掠れた老人、いや赤子だろうか?
誰が喋ってるのか、そんな定まらない声が無意味な言葉として暗闇の中に響いていき、その声が届いたとき――その世界の奥底から視られていることに気が付いた。
「ほぉ――貴様、魅入られているな?」
最後の聞いたのはそんな声。
その声から感じたのは、怨念と生への執念、何者かへの殺意に憎悪、異常な狂気に底の無い生者への妬み。
それが声となって渦巻いていて、その全てが俺に牙をむく。ただただこの場は重く、少しでも意識を向ければ、きっと俺の全ては持って行かれるだろう。
――そして、その直後に。
「オレはお前を絶対認めねぇ!」
そんな聞き覚えのない少女の声が耳に届いて、俺の体は他のものを認識する前に宙に舞った。