和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
ある日のこと俺は父さんたちに連れられて初めて外に出た。
今世で初めてとなる外出、それもかなり厳重な結界に守られた車に乗ってやってきたのは、同じくらい――いや、そんな言葉が霞むほどの術に守られた武家屋敷。
ずっと外の景色が見れなかったからではあるが、二時間ぶりに見る外の景色が平安時代の貴族屋敷みたいなのは驚いてしまう。
「史郎様、到着しました」
そう運転手の方に言われて降りてその場所を目にしてみても、やっぱりでかいというか広すぎて意味わからないというのが本音。
というか一番理解したくないのがこの場所を俺が知っているということで。
既に胃が痛いというか、原作で見たところだこれ! というオタク魂と、あ、これ原作で見たところじゃん……の絶望が同居している。
いーやーだー帰りたいー!
という本心を抱えながらも、親のメンツもあるので帰ることができないのは分かっているが、せめてもの抵抗に誰とも関わらないという選択肢をとろう。
「緊張してるか?」
「……え、うん」
「そりゃそうか、俺もここに来るのは疲れるしな。まぁあれだ蓮、大人とはかかわる必要ないからちゃんと友達作るんだぞ?」
「頑張んなきゃ、ダメ?」
「そりゃあ、父さん的には友達作ってほしいが」
「そっか」
それは、残酷な親としての願い。
友達が欲しいと言っていた前の俺のことも考えているだろうし、ずっと家に一人でいる俺を心配してのことだろうが。
現状の俺としてはあまり他者とのかかわりを増やしたくなくて……でも、こないだ迷惑かけたばっかりで心配してほしくなかった俺は、
「わかった頑張る」
「無理はしなくていいからな?」
「大丈夫だよ父さん、俺の夢は友達百人だから!」
「……そこまで言ってないぞ。まぁやる気出たならいいか」
とりあえずだ、目の前にある門をくぐった先には戦場がある。
父さんの頼み的に友達を作らなきゃいけないが、数回は開催されてるこの催しの中で今さら友達を作るというのはきっと難易度が高い。
しかしだ、この催しの主役達の中には高確率でネームドキャラたちがいるはずで、俺にはそのキャラ達を知る原作知識がある。
つまり何が言いたいかというと、俺はパーフェクトコミュニケーションを取ることができる可能性があるのだ! ふはは待ってろよネームドォ、俺の友達にしてやる。
「あ、あいつがいるのか行くぞ。蓮、挨拶だ」
石段を登っていると、屋敷の入り口付近で父さんが誰かを見つけたらしい。そのまま俺を連れて顔を合わせるのは、父さんと顔立ちが似てる一人の女性。
短い黒髪に整った顔立ちと青い瞳。
穏やかな雰囲気なその人は、父さんを見てにっこりと笑う。
……わぁ、さっそく知らない人だぁ。
「よぉ
「うんそうだね兄さん。えっと、この子が?」
「あぁ、俺の息子の蓮だ……で、蓮これが妹の彩乃だな」
「初めまして、水蝕蓮です。父さんがお世話になってます?」
妹なんていたんだ。
さっそく知らない原作情報に頭を痛めながらも、俺を見て驚く彩乃さんの反応が気になった。なにか信じられないようなものを見るような、ありえない現象に遭遇したかのような顔に。
「ねぇ兄さん、本当に兄さんの子供? 礼儀正しくない?」
「おまっそれは酷くないか?」
「残念だけど、兄さんの幼少期知ってる人からすると当然の反応だと思うな」
「えぇ……なぁ蓮、なにか擁護とか」
「五歳の子供に助け求める時点で、だと思うよ」
その通り過ぎるから俺に助けを求めないでほしい。
様子を見るに仲は良さそうな二人、兄妹ということもあってかかなり似ているが、なら尚更なんで知らないんだろうという疑問が残る。
「そういえば、蓮君はもう五歳なんだよね? それならボクの息子と同い年だ」
「はやくないか? あと最近顔出してなかったんだ同年代の子っているか?」
「相変わらず直球だね。いるにはいるというか、五行家の子は殆ど今五歳だよ」
「……すごい偶然だな、じゃあ今回の集まりって」
「全員いるよ、それに普段参加しない宵闇家の子も来てるらしいから凄いよね」
大人たちの会話を聞きながらも、俺は流れてくる情報を何とか咀嚼する。
えっと、五行の家ってことはネームドの五人がいるというわけで……その集まりに参加しろという無理難題が課せられたということだろう。
五行家というのは、その名の通り木・火・土・金・水の五つの属性を祀りそれに特化した一族のこと。この世界の陰陽師を支える五つの家であり、原作時点で出てくるその家の者達は誰もが別格の能力を持っている。
その子達とは原作時点ではあまり関わってなかったというか、関われなかったというか、この先現れる主人公がいなかったら敵対すらしてたらしいし、複雑ではある。
――だけど、それ以上の問題が一つ。
それは……いるらしい宵闇家とかいうところの子供。存在を知っているというか、メインヒロインというか、この世界の運命的にめっちゃ凄い子というか。
「とりあえず立ち話もなんだし、入ろうぜ?」
「そうだね。というかボクは兄さんを待って外にいたんだし、みんな待ってるよ」
それなら悪いことしたなぁとか思いつつ、俺と父さんは彩乃さんに連れられて屋敷の中に、それも大広間に案内された。
そこにあったのは巨大な鏡。周りに子供がいたしそれも気になったのだが、それより先に目に入ったのはその呪具のような何かだった。
「おうおう来たか、史郎。久しぶりだが、それが貴様のガキか?」
声をかけてくるのは、長い黒髪の男性。
存在感がやばいというか、感じるのは圧倒的な霊力と……何なのかわからないくらいの圧倒的な個の気配。今の俺にその存在を表す語彙と知識はないが、前世の記憶を手繰ってそれを理解した……あれは龍だ。
それも最上位とも言える黒の九頭龍。
その存在が俺を認識しているのか、異質ともいえるぐらいの圧に襲われる。
それが持つのは恐怖を感じることすら……死ぬとも思う事さえできない、すべてを蹂躙する暴の気配だった。
「へぇ……感じるのか。いい才だな、とりあえず座れよ、これからちょうど儀式だ」
「儀式って何も聞いてないぞ源弥……なにするんだよ」
「安心しろ今回は属性の確認だけだ」
「……先に伝えろよ、というか蓮のは申請してるだろ」
「はっまぁな。まぁあれだ形式は大事だろ? それにな、あれが本当なのか確かめたかったしな」
確かめるってなんだろうかと思いながらも、俺は改めて周りを見渡す。
この場所にいるのはこの大広間に広がるように座る五人の大人と子供達――そしてあの人。
そして何より、その全員が俺に興味を持ってるのが……視線から嫌にでもわかってしまって、とても胃が痛かった。
「じゃ、交流会……そして命式を始めるぞ」