和風陰陽師漫画の終盤で死ぬ親友枠に転生した俺はどうすりゃいいですか? 作:鬼怒藍落
その子の事を忘れない。
この世界「あやかしがたり」に関してこの子だけは忘れたことがなかった。推しはもちろん何人もいる。それこそ今日会った凪沙だって好きなキャラではあるからだ。
でも、この子だけはそういうのじゃなくて……自分がそのキャラの生き様を見て生きようと思えた人だから……どこまでも特別な、思い入れがあるキャラで。
一切の淀みがない純黒の髪に銀の瞳をしたそんな少女だった。
触れてしまえば消えてしまいそうなほどに儚くて、現実味を感じないようなそんな子供。幻想のようなそれこそおとぎ話の姫のような綺麗さを持っていて、月明りの下で歌っている。
「あら、あなたも抜け出してきたの?」
「まぁ、そんなところだよ。あんたは?」
「私は退屈だったのと、ここに入れればあなたが来そうだったから……かしらね」
俺に気づいた彼女は、屋根の上でくすくすと笑いながらもそう言った。
その横には二匹の獣、黒く闇を煮詰めたような影の犬がそこにはいて主である彼女を守っている。
「それで貴方はどうやってここに来たのかしら?」
「歌声が聞こえて気になったからだけど、歌ってたのあんただろ?」
「……聞こえたの?」
「結構はっきりと?」
そう答えれば彼女は考え込むようにしてから……深く笑った。
新しいおもちゃを見つけたような、興味深いものを見たかのように、何より演技ではなく本心からの笑顔を浮かべて。
そしてその銀色の瞳の奥に、俺は別の誰かを幻視する。
空亡とは別種の白い少女、彼女の中に映る白髪赤眼のウサギのような誰かが俺を覗いていて、目が合った瞬間に。
「貴方、もしかして見えるのかしら?」
「――なに、をだ?」
それは、彼女の根幹。
起源ともいえる、本当の姿。知ってはいた。だからそれには触れないはずだった。
だからこそそこで反応したのが悪かったのだろうか?
完全に興味を持たれてしまったのか、屋根の上からふわっと降りて……俺の傍にまで一瞬で距離を詰めてきて。
「へぇ……ふふ、そうなのね。まさかあなたが私の運命なのかしら? 空の瞳に見初められた神依木、あそこで見ただけじゃわからなかったけれど……すごいわね貴方」
品定め。
そんな言葉が正しいだろう魂まで見透かされたよう感覚。
根本から覗かれたのか、身が竦んで……何より言葉も出せなくなって。下から俺を覗きいたずらを成功させた子供のような笑みを浮かべた彼女は、意を決したように。
「決めたわ、あなた今日から私のものよ」
「いや、遠慮するんだが……」
「だめ、絶対にだめ。だって私、誰かを欲しいと思ったことなんてないんだもの。私に見つかってあの子が見える時点で貴方に拒否権なんてないの……ね、お兄さん」
あ、これ中身までバレてる。
だから逃げようと、術を使ってでもなんとしてでも帰るため、頑張ろうとしたのだが……。
「ふふ、反抗するの? なら術比べ、躾けないとね」
「あぁもう、この頃から変わらないのかよヤンデレお嬢が!」
五行の起動。
そして瞬時に身代わりを作って逃走、そのまま暴れられないだろう屋敷の中に本気で爆走。これならいけると作戦を練り、そのまま脱兎の如く走りだせば、後ろから影の獣が追ってくる。
「と、父さん帰ろう今すぐ! まじで捕まったら終わるぅ!」
「おい慌ててどうしたんだよ蓮!? ってなんだよその数の式神ぃ!?」
親子で同じような反応をしながらも、俺は父さんの腕を引いて逃げ出した。
大の大人を連れて逃げる力とか五歳児にはないので、全力で身体強化を回して屋敷を出ようと画策したのだが。
「お父様、その子捕まえてくれないかしら? 私、彼が欲しいの」
「へぇ、お前が興味を持つのか。よし、父様に任せろ!」
影の龍に乗ってやってきた雫とかいう問題児の一言で、本気を出しやがった宵闇家の当主様のせいか屋敷の中心に闇が広がり、俺は一瞬で捕縛された。
「なぁ、史郎くーん。ちょっとお話ししようぜぇ!」
「馬鹿野郎、誰がするか! 今すぐ蓮を離して帰らせろ!」
「……わぁカオスぅ」
そんな一言だけ漏らした俺は、もはや諦めの境地に達し……これどうなるんだろうか俺と思いながら、天命に任せることにした。