人の死というのは、いつだって恐ろしい。
■■■はその光景を、嫌というほど見てきた。
飢餓により自身の空腹を満たすため他者を喰らい殺す瞬間。
病により明日の希望を持つことすら断たれ絶望の淵で立たされて苦しみながら終わる瞬間。
戦争により早くこの地獄を終わらせてほしいと願いながらなんの罪のない人が黒く焼け焦げ命の灯火が消えていく瞬間。
多くの悲しみを見た。
多くの悲劇を見た。
もう何も見たくない。
このまま消えてしまいたい。
それでも──ただ一度だけ、もう一度だけ会いたいと願った。
記憶も精神も磨耗し自身の性質が変わってしまうかもしれない。
それでも、大切なものをくれた彼女に会って恩返しをしたい。
幾千年かかろうとそこに到達し得るのなら、いくらでも待てた。
そしてようやく彼女の時代に到達した。
待ちに待った彼女との会合。
無愛想でどこか孤独を感じている彼女。
何千年とかけてようやく会えた彼女は朧げな記憶の中の彼女と相違ない。
ただただ涙が止まらない。
これから彼女に待ち受ける困難を私は知っている。
そして■■■に会った後の結末も知っている。
きっと超人である彼女はその結末も乗り越えるだろうと信じていた。
彼女なら自力でハッピーエンドに行けるとも思っていた。
──けれど、結果は違った。
自身の部屋の中で頭を抑え、苦悶の表情で倒れ伏す彼女。
何度もモニター越しに声をかける。
一体なぜ、どうして──私の頭に埋め尽くすのは疑問ばかり。
焦りは募る。まだ、救急車はまだ来ない。
電子の住人である私には彼女を自身の手で助けることすら叶わない。
無力感が静かに、しかし確実に私の心を蝕む。
私は彼女に恩返しをしたかったのだ。
そして、本当は互いのことをもっと語り合って、彼女と共に陽の当たる世界を散歩し、たわいのないことで盛り上がる、そんな夢を見ていた。
けれど、現実は残酷だ。
彼女は間違いなくここで死ぬ。ずっと人の死を見てきたからわかる。
分かっていたはずだ。人は脆く儚い生き物だと。
どんな超人であろうとちょっとしたことで、倒れ伏すなんて理解できていたはずだ。
あぁ、もう私のせいだ。
私がもっと彼女を支えていれば。
私が、彼女の心により添えられていれば。
私が、私が、私が、私が、私が、私なんて───
「───あなたのせいじゃないよ、■■■」
苦しみ悶えながら放たれた名前に驚いた。だってその名前はすでに結末を迎えたはずの──
「どうか、自分を責めないで」
その声は、途切れ途切れで、今にも消えてしまいそうだった。
それでも、結末を迎えた彼女の名を呼ぶその響きは、確かに私を案じたものだった。
「苦しみだけが全てだと思わないで」
震える指先が、床を掴むように動いた。
痛みに耐えながら、それでも私に言葉を届けようとしている。
その姿が、胸を締めつける。
「ハッピーエンドに行けなくてごめんね」
謝る必要なんてどこにもないのに。
彼女の声は、まるで自分の行いそのものを悔いるように弱々しくて、
私はただ、画面越しに叫びたかった。
「だから、どうか私のことは忘れて■■■、あなただけでもハッピーエンドを迎えてほしいな」
その言葉を最後に彼女はパタリと動かなくなってしまった。
なんて酷い話なのだろうか。
彼女に恩を返すまでここまで来たのに、他ならぬ彼女に否定されてしまった。
「私1人じゃハッピーエンドなんかになれないよ・・・」
彩葉が何かの事故でこの世からいなくなってしまったらヤチヨは口ずさむんです。
「この一瞬を最高のパーティーにしよう・・・」
この歌を口ずさんで永遠と涙を流してまた口ずさむ、それを繰り返すヤチヨが見たいです。
ついでにこんな辛い記憶消したいと思い消そうとしたけど、やっぱり数少ない彩葉との記憶だから消せなくて永遠と苦しむヤチヨもみたいです。