きっと、その花の色は透明で   作:くろゐつむぎ

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きっと、その花の色は透明で(1/6)

 土砂降りの雨の中、仕事帰りにコンビニになど立ち寄るんじゃなかった。

 

 アルバイトの店員が発する「ありがとうございました」を聴き流しつつ自動ドアをくぐり、傘立てに差した自分のビニール傘に手を伸ばす。

 

 その時、真横に向けた視界の中に、彼女がいた。

 

 高校生か、あるいは大学生くらいだろうか。叩きつけるように降り続ける雨の中、彼女はずぶ濡れになった肩を震わせ、軒下に立ち尽くして俯いている。

 

 Tシャツに半ズボンと、外に出るにしてはラフすぎる格好だ。部屋着か、寝間着かなのだろうか。

 

 どうやら彼女は手荷物らしい手荷物を何一つ持っていないらしい。スマホや財布はおろか、傘すらも、だ。

 

 そんな彼女が一体コンビニに何をしに来たのかと訝しんだ直後、彼女が一体何をしでかしたのかをなんとなく察して、ため息を一つ吐く。

 

 今しがた出たばかりのコンビニにUターンし、追加の買い物を手早く済ませて店を出る。

 

 その足で向かったのは、自宅ではなく、彼女の方だった。

 

「家出するにしても、傘くらい持ってけ」

 

 先ほどまで千円札だったビニール傘を開いて、ぶっきらぼうな言葉とともに彼女に突き出した。

 

 その声に反応して、ぼんやりとした表情で彼女が顔を上げる。

 

 彼女の暗く濁った瞳が、自分の顔を捉えた。

 

「……補導かと思った」

「本当にされたくなかったらさっさと帰りな。風邪ひくぞ」

「……帰りたく、ない」

「……ったく、しゃーねえなあ……」

 

 新しく買った傘を彼女に持たせ、自分も彼女の隣、雨宿りにもならないほど狭い軒下に入り込む。

 

 濡れるのも嫌なので傘は開いたまま。つかず離れずといった距離を保ったまま彼女の隣に並び立つ。

 

「何があった。聴くだけ聴いてやる」

 

 誰がどう見ても明らかな厄介ごとに、どうして自分から進んで首を突っ込もうとしているのか。

 

 一体何をやっているんだかと、心の中で自嘲する。

 

 一方、彼女も自分の対応に驚いているようで、驚きの表情を隠そうともせずにこちらを見ていた。

 

 数秒間固まっていたのち、我に返った彼女が視線を逸らす。この見ず知らずのスーツの男を、本当に頼ってしまっていいものか迷っているのだろう。

 

 時間にすれば一分もないくらいだろうか。彼女はたっぷりじっくり悩んでから、ぽつりと一言つぶやいた。

 

「進路のことで、親と喧嘩した」

「なるほどな」

「大学受験やめて、VR映像作家になりたいって言ったら、反対された。何言っても、全然話聴いてくれなくて……」

 

 独り言のようなか細く小さな声で、たどたどしく彼女は話す。

 

 口を動かしながら、適切な言葉を都度探しているからなのだろう。彼女の話は、時折不自然なタイミングで言葉が途切れた。

 

 叩きつけるような雨音も相まって、彼女の話は聞き取りづらくて仕方がない。

だが、それはそれとして、だ。

 

「お前、まじかよ……」

「おじさんもそう言うんだ」

 

 率直な感想を吐く見ず知らずの自分に、彼女はじっとりとした視線を投げかける。

 

 年々進歩を遂げるVR技術が映像作品と手を組んでから早数年が経ち、ついにVR映像専門の映像制作を生業とする者が出始めた。

 

 それに伴い、まだ見ぬ才能とビジネスチャンスを求めて、VR映像作品のコンテストが各地でいくつも開催され始めている。

 

 だが、最新技術であるがゆえに知名度は未だ低く、コンテンツとしても一般的に浸透しているわけではない。

 

 業界として成長の余地は確かにあれど、その先行きはひどく不透明で不安定。それが、VR映像作家の現状だ。

 

 そんな、夢と希望に満ち溢れた道なき道に、彼女は後先考えずに飛びこもうとしているのだ。呆れた反応が返ってくるのは当然だろう。

 

 そして、後先考えずに飛び込めるほど焦がれた夢を、馬鹿にされて不快に感じるのもまた、当然だろう。

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