きっと、その花の色は透明で   作:くろゐつむぎ

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きっと、その花の色は透明で(2/6)

 とはいえ、手放しに応援できる行いかといわれれば、そんなことは全くないのだが。

 

「そりゃ言うだろ。挑戦するのは自由だが、いくらなんでも大学受験やめてまですることじゃねえ。上手くいく保障なんてどこにもねえんだぞ」

「大学に行っても、それが上手くいく保障になるわけじゃない」

「高卒で夢追い人やってるよりはよっぽどマシだ」

 

 その正論を前にして、彼女はしゅんと黙りこくってしまった。きっと頭では、こちらの言い分が正しいことを理解しているのだろう。

 

 だが、そんなありきたりな理屈で簡単に捻じ曲がるほど、彼女の夢は、彼女自身は、どうしようもないほど強情だった。

 

 そして、進路についての話は平行線のまま交わり合うことなく、ついには家出に踏み切った。といったところだろうか。

 

 ただ正しさを振りかざしたところで、家出前の口論をもう一度繰り返すだけだ。そう思い、いまだ返答のないまま沈黙する彼女に向けて口を開く。

 

「というか、別に大学行きながらでも映像制作はできるだろ。それじゃだめなのか?」

「映像制作に使える時間が減る。それが嫌」

 

「確かに制作時間は減るかもしれんが、その分大学に通ってないとできない経験が手に入る。みすみす手放すにはもったいねえぞ」

「経験って、具体的には?」

 

「図書館使い放題調べものし放題。取る講義の選択も時間割の組み立ても自分でやることになるから、スケジュール管理のいいシミュレーションになる。あとは周りの環境も人間関係も劇的に変わるから、いい刺激を与えあえる仲間が見つかる可能性は高い。……ほかにもいくつかあるだろうが、ま、あとはお前の立ち振る舞い次第だな」

 

 大学進学のメリットを思いつく限り口にして、彼女の顔色を横目でちらと窺ってみる。

 

 ちらと見るだけのつもりだったが、こちらをじっとまっすぐ見つめていた彼女と目が合った。

 

 最初の暗く濁ったものとも、先ほどまでのじっとりとした不快感をはらんだものとも違う、感心と驚きに満ちた視線がこちらに送られている。

 

 そんな彼女に、大学進学のメリットをもう一つだけ付け加えてみた。

 

「あと、現役女子大生映像作家っつー肩書きはメディアにもウケがいいだろ。知名度を勝ち取るんなら使わない手はない」

「そういう売り出し方。すっごく嫌。作品で評価されたい」

 

 感心と驚きで満ちた少女の瞳が、また先ほどまでの嫌悪感に溢れた眼差しに逆戻りする。

 

 予想通りの反応に思わず苦笑してしまった。

 

 そんな自分の反応に、彼女はますます厳しい視線を向ける。

 

 少々彼女で遊びすぎた。「悪い悪い」と軽く謝りつつ、先の言葉を補足する。

 

「お前の作品を見てもらうために、お前自身に興味を持たせて間口を広げんだよ」

「……そういうことだってのは分かってる。でも……」

 

「そりゃ中には話題性で寄ってくるだけのやつもいれば、どうせ肩書きだけだろって軽んじる連中も出てくるだろ。そんな肩書きに釣られた奴らに作品を魅せつけて、根こそぎ全員真の意味でお前の作品のファンにできれば……、痛快だと思わないか?」

 

 ひどく長々と、らしくもない演説をかましてしまった。

 

 恥ずかしさと蒸し暑さで体がほんのりと熱くなってくる。

 

 それを悟られないよう、なんでもないふりをして曇天の空を見上げた。

 

 雨音と、時折通り過ぎる車の走行音。夜の街からそれ以外のすべての音が消えた。

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