きっと、その花の色は透明で   作:くろゐつむぎ

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きっと、その花の色は透明で(6/6)

 思えば、何度も彼女と待ち合わせて、いつものように話し込んでいたくせに、お互いの連絡先も、名前すら教えあっていなかった。

 

 寂しいとは思わなかった。

 

 彼女は今もどこかで、映像作家への夢のために頑張っていると知っているから。

 

 たとえもう会えないとしても、その確信があれば十分だ。

 

 そんな、もう二年も前になる出来事を思い出したのは、AYANEの新作動画を見終えた直後のことだった。

 

 大学進学により生活環境が激変したことと、個人的に挑戦してみたいことがあるとして、活動規模をしばらく縮小していたAYANEが、およそ二年ぶりに新作動画を発表した。

 

 そしてその際、彼女は近況報告を兼ねたメッセージをSNSに投稿していた。

 

 大学生としての新生活が始まり、学業と映像制作の両立がなかなか上手くいかず、作品を発表できず申し訳なく思っていること。

 

 それでも、大学生活も少しずつ慣れてきて、今は同じ目標を掲げる仲間とともに、映像制作に励んでいること。

 

 仲間のおかげでできなかった表現にも挑めるようになり、今後はより良い映像を発表したいと意気込んでいることが、メッセージに記されていた。

 

 確かに、AYANEの最新作は、これまでの作品とはずいぶん作風が変わっていた。

 

 これまでの彼女の作品にはなかった、登場人物同士の対話がかなり増えている。おそらく、脚本や役者の演技指導を仲間に担当してもらったのだろう。

 

 AYANE本来の持ち味である映像美は、登場人物たちの心象風景を映し出す舞台装置として、その役割を全うしていた。

 

 動画を再生し終えたVRゴーグルを取り外し、長いため息を吐き出す。

 

 そして、こみ上げてくる笑いをこらえることもせず、思うがままに笑い出した。

 

「あいつ、頑張ってんじゃねえかよ」

 

 笑みとともに、思わずそんな言葉が漏れ出た。

 

 動画の感想とは全く関係ない笑いの原因は、作品の原案となったであろうエピソードと、SNSに投稿されたメッセージだ。

 

 AYANEが投稿したメッセージは、これから先の将来の展望と、かつて出会った恩人への感謝の言葉で締めくくられている。

 

 AYANEはメッセージの中で、実は昔、高校卒業後の進路について悩んでいたことを明かしていた。

 

 その時AYANEを救い、大学進学を決めたきっかけをくれたのが、当時出会ったとある恩人なのだという。

 

 彼女が明かした過去に、心当たりがあった。

 

 登場人物である二人の男女が、作中で繰り広げたやりとりに、心当たりがあった。

 

 彼女の言う恩人に、心当たりがあった。

 

 さすがに露骨すぎるだろうがと、心の中で思わずぼやく。

 

 涙目になった目元を軽く指でぬぐいつつ、改めて新作映像のタイトルを小さく呟いた。

 

「『荒天に咲く、二輪の花』ね……」

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