目覚めたらフラウ・ボゥだった件~知識ゼロだけど破壊されるはずだったガンダムに乗せられて一部の皆さんにしごかれる~ 作:T9816
「数時間でありゃあ、すぐ終わるって」
カイさんのその言葉が、残酷な冗談に変わるまで時間はかからなかった。
ズガァァァン!!
シェルターの至近距離に爆撃が直撃する。
悲鳴、瓦礫の山、立ち込める煙。外に出た俺の目に飛び込んできたのは、さっきまでの日常が嘘のような火の海だった。
「動ける若者は船に乗れ! 急げ、死にたくなけりゃ走れッ!」
軍人らしき男たちの怒号に押されるまま、俺たちは巨大な白い船――ホワイトベースへと逃げ込んだ。
艦内は戦場そのものだった。あたふたと走り回る大人たち。その喧騒を切り裂くように、一人の少年が帰還した。
「アムロ・レイ……っていうのか」
ボロボロになりながらも、彼は「ガンダム」というロボットで襲撃者を退けたらしい。しかも操縦は初めてだったという噂だ。
「フラウ! フラウじゃないか! よかった、生きてたんだね!」
突然、そのアムロが駆け寄ってきて俺の両肩を掴んだ。
(……え、誰? ああ、こいつと俺……いやフラウは親しい仲なのか)
俺は咄嗟に顔を作って、ミラーリングを開始する。
「アムロ……! よかった、あんたも無事だったんだね!」
精一杯の「幼馴染」を演じて彼を送り出した後、俺はふらふらと格納庫へ向かった。
そこには、青っぽい髪をかき上げたカイさんが、巨大な鉄の塊を見上げて立っていた。
「おいフラウ、お前メカに詳しかったよな? これ、動かせねえか?」
指差された先には、予備パーツの山に埋もれた不格好な機体。
(……知らねえよ! 俺はただの一般人(男)だったんだぞ!?)
心の中で叫ぶが、状況は最悪だ。周りの軍人たちは「女の子は看護兵か炊事係だ」と俺を追い出そうとする。
「嫌だ! 俺は男なんだ! 戦うなら前線がいい、そっちの方が性に合ってるんだよ!」
思わず地声に近いトーンで叫んだ言葉を、カイさんが聞き逃さなかった。
「ほう……。お嬢ちゃんにしては、随分と威勢がいいじゃねえか、フラウ」
カイさんはニヤリと底意地の悪い笑みを浮かべ、予備の機体を顎でしゃくった。
「なら、あそこに転がってる『予備のガンダム』に乗ってみるか? 炊事場でジャガイモ剥くよりは、刺激的だと思うぜ」
冗談のつもりだったんだろう。だが、俺はその武骨な鉄の足元を見て、体の芯が震えるのを感じた。
(……これだ。これに乗らなきゃ、この体での未来はない)
俺は震える足で、その漆黒のコックピットへと歩き出した。
第3話:3分間の突貫工事、そして初陣へ
「おいおい、そんな分厚い本、戦争が終わるまでに読み終わるのかよ?」
カイさんの呆れた声が横から飛んでくる。
「うるさい! 5分……いや、3分で叩き込んでやるよ!」
俺は鼻で笑い飛ばし、ページをめくる手を止めなかった。自分でも驚くほど、内容がスッと頭に入ってくる。
(……なんだこれ。男だった頃の俺より、今の脳みその方がデキがいいのか!?)
「フラウ、お前……マニュアルなんて読んでどうするんだ? 素人が乗れるほど甘い機械じゃないぜ」
カイさんが心配そうに、あるいは冷やかし半分に覗き込んでくる。
「黙ってて! 今、必死なんだから!」
俺は分厚いファイル――連邦軍の最高機密が詰まった冊子を、猛烈な勢いでめくり続けた。
本来なら、何ヶ月もの訓練を受けてようやく理解できる内容だ。
でも、今の俺には1秒の猶予もない。複雑な電子回路や操縦レバーの配置が、まるでパズルが解けるように、完璧なイメージとして脳内に定着していく。
(……よし。1分で起動、2分で基本操作、3分で火器管理。いける、これなら戦える!)
「カイさん、そこどいて。……俺(私)が出る!」
「……マジかよ、あのおてんば娘が」
呆れ果てたカイさんの声を背に、俺はガンダムの狭いコックピットに飛び込んだ。
重厚なハッチが閉まり、密閉された空間に俺の吐息だけが響く。
メインモニターが光り、外部カメラの映像が映し出された。そこには、サイド7の残骸が漂う、底なしに暗い宇宙空間が広がっていた。
そして、その闇の向こう側から。
「……赤い、モビルスーツ?」
レーダーに捉えられたのは、通常の3倍の速度で接近してくる正体不明の影。
あの有名な「赤い彗星」が仕掛けてくる確率は、ほぼ100パーセント。
俺は震える手で操縦桿を握り締めた。
(……はたして俺は、この可愛い体で明日を拝めるのか!?)