リリカルヤンデル短編集   作:コミュニ爺

1 / 11
時系列的にはストライカーズ直前とかそのくらいで考えていただければ…。
サブタイはなのはさん視点です。失ったものを取り戻そうとあがいてる感じですかね。

ここでオリ主の解説をば

名前:未設定。好きに設定してやってください。
年齢:20代前半程度の想定。クロノくんと歳が近い感じですね。
外見:皆様の想像力に任せたっ!!


『TIME』Case:高町なのは

吾輩は社畜である。名前はまだない———ごめんなさい、嘘です。

 

俺は時空管理局の一等陸士(陸軍、一等兵相当の階級である)に属している。入隊して十年以上経つのに階級の昇進はさっぱりの、うだつのあがらない男だ。

まぁ、これでもそこそこの稼ぎはあるので、金銭面では満足している。しかし、大きな不満点が一つ。この職場———すっっっごいブラックなのである。いや、仕方がないことは理解しているつもりだ。なにせ管理局が管轄している次元世界の治安維持が主な勤めなのだから、業務の規模が大きくなるのは必然だ。認めたくはないが仕方のないことだろう。しかし、それはそれとして———

 

「や…休みをくれぇ…」

 

流石に二週間もの間連勤なのはひどいと思うの。しかも定時上がりなんてほとんどなかったし。いくら魔導師の数が少ないからって、俺のような下っ端にこれはないだろう。魔力、魔導師ランク共にCよ、C。ぶっちゃけ並程度の実力しかないの、俺。

かつての後輩(・・・・・・)のようにバケモン魔力とか持ってないっつーの。いや、いくら優秀だからって個人に負担を強いるようなシステムで業務を続けるのはおかしいと思うけどさぁ…。情けないが、それでも愚痴らずにはいられない。なぜ俺がこんな目に…。

 

———辞めよっかな、管理局。

 

思わずそう考えてしまうほどに、俺の精神は弱っていた。あまりの激務としつこい勧誘(・・・・・・)の前にKO寸前だったのである。沈んでゆく日と同期するかの如くデスクに身を投げ出す。そのまま突っ伏していた俺の耳に、ドアの開く音と静かな足音が響いてきた。ま、まさかまた(・・)彼女ではなかろーか…。

 

「セ~ンパイ♡六課への異動の件、考えてくれました~?」

 

甘ったるい声が耳に入り、思わず顔が歪む。嫌なカンが当たっちまったよ、くそったれめ。声の主は高町なのは一等空尉(空軍、大尉相当の階級)。俺の上官にして、かつて面倒を見ていた後輩その人(・・・・・・・・・・・・・・・)である。気まずいったらありゃしない。

 

「…あの、高町一尉。何度も申し上げたように、自分は異動するつもりはありません。機動六課は選りすぐりの精鋭と、気鋭の新人で構成される部隊だと聞き及んでおります。自分では実力不足だと愚考します」

「……また、そう呼ぶんだ」

「…うげっ」

 

高町の雰囲気が変わる。先ほどまでの朗らかな表情が一転、怒りとも悲しみとも言い表せない強張ったものになった。こうなった彼女は、正直めちゃくちゃ怖い。思わず呻いてしまった俺に非はないだろう、多分…。

 

「———どうして昔みたいに名前で呼んでくれないんですか?どうして六課を拒み続けるんですか?それどころかここ最近ずっと私を避けてますよね?なにが不満なんですか?私はただ昔みたいにセンパイと一緒に居たいだけなのに…。どうして?なんでなんですか?ねぇ、答えてくださいよ。言葉にしてくれなきゃ分かりませんよ?さぁ、言ってくださいよ。さぁ!さぁ!!さぁ!!!」

「ひいっ!落ち着いて、落ち着いてください高町一尉!」

「———なんで?ねぇ、なんで名前で呼んでくれないの?私がセンパイの上官になったから?プライベートの時間だって合わせられないのに仕事の時間でも公私の区別をつけないといけないの?そんなのイヤだよ…。イヤだ、イヤだ!イヤだ!!昔みたいに一緒に居てよ!!一番辛かったあの頃じゃないと優しくしてくれないの!?他の人には優しくするクセに、どうして私だけダメなの!?どうしてあの頃みたいに支えてくれないの!?なんで?ねぇなんで!?———黙ってないで答えてよセンパイ!!」

「ひいぃっ…!」

 

最近の彼女はいつもこうだ。俺をしきりに六課に勧誘してきて、断ると堰を切ったように問い詰めてくる。だからさっきも言ったじゃん…!俺じゃエリート部隊なんか務まらないの!ただでさえ気が滅入るほど忙しいのに、これ以上の激務が予想される部署なんかで勤めたくないの!!なんなら最近高町を避けてる理由なんて、こうなった君が怖いからなの!!!

———内心はやかましかったが、恐怖に顔が歪み、言葉に窮した俺を見て一旦の溜飲は下がったらしい。彼女は冷たさを孕んだ声で呼びかけてきた。だから怖いって。

 

「…私、諦めませんから。センパイが六課に来てくれるまで、絶対に」

「いや、あのですね…。先程も申し上げた通り、機動六課は自分ではとても務まらない部署だと判断しておりまして…」

「———そんなの、センパイの勝手な思い込みです。センパイよりも階級の低い子だって所属してるんですよ?何の問題もないじゃないですか」

「…いえね、自分の魔導師ランクは高町一尉と一緒に働いていた頃から変わっていないんです。六課はエース級の隊長陣が率いる独立部隊でしょう?Cランクの自分では足を引っ張るだけですよ、間違いなく」

「———聞いてるんですよ?今の部署だと、もうずっと働き詰めだって。もう二週間も連勤だそうじゃないですか。六課ならそんなことはさせない。優秀なメンバーが揃っているんです。センパイ一人に負担が集中することは絶対ありません」

「いや、だから()じゃそもそも実力不足なんですってば…」

「———あは」

「———ッ!?」

 

高町の眼の色が変わった!?背筋に冷や汗が伝う。今までの感情を爆発させたような詰り方や、冷淡な意見の述べ方ではない。例えるなら、長年探し求めた宝物を手に入れたような恍惚とした表情———。ハッキリ言って、今までのプレッシャーを優に凌ぐような悪寒を

俺は感じた。こんな状況は確か、高町の出身世界の言葉で———。

 

“蛇に睨まれた蛙”と言うのだったか。

 

「———やっと、やっと昔みたいに喋ってくれましたね。センパイ♡」

「…え?」

「もぅ、とぼけないでくださいよぅ♡私にお仕事のこと初めて教えてくれたのセンパイじゃないですかぁ♡」

「た…確かにそうだけど…」

「私、あの時すっごく嬉しかったんですよぉ?右も左もわからない私に管理局でのお仕事を親切に教えてくれて…。本当に…本当に心強かった…♡」

「いやいや、もう十年近く前の話じゃないっスか。喜んでくれてるのはそりゃ嬉しいけども…」

「———だから、だから私、センパイと一緒に働きたいんです。これまで引き離されてた分、これからはずっとずっと一緒に…」

「いや、なんで六課に異動するのを許可したみたいになってんですか。俺は嫌ですよ、高町一尉(・・・・)…」

「———は?」

「…へ?」

 

こ、今度はなんだ!?ご機嫌モードからまた急転直下の不機嫌モードになっちまったぞ!?さっきまでの緩み切った顔が急速に冷え固まっていくにつれ、彼女のまなざしも冷たく、鋭くなっていく。だから睨むなって!怖いんだよお前のその顔!!

 

「どうして?せっかく昔に戻ったみたいに話せてたのに、どうして名前で呼んでくれないの?昔みたいに“高町”って…いや、“なのは”って呼んでよ。ねぇ、センパイ…センパイ、センパイ!」

「ちょっ、落ち着いて…!落ち着いてくださいよ…!」

「…私は落ち着いてますよ?だから努めて冷静にセンパイに尋ねてるんじゃないですか…。なんで昔みたいに名前で呼んでくれないんですか?ねぇ、なんで?私なにかセンパイに嫌われるようなことしましたか?どうなんですか?ねぇ?」

「そーいう感じで問い詰めてくるのが怖いんだよぉ…!」

「———それなら、私のこと“なのは”って呼んでください。仕事中も、プライベートの時も。その上で六課に来てくれるなら、こんなことはしませんから」

「他の人に聞かれたらまずいでしょうが…!」

「六課のみんなはそんなこと全然気にしませんよ?」

「だから俺は六課には———」

「———嘘つき」

 

彼女のその一言は、俺の耳にひどくこびりついた。

俺が、嘘つき…?なにか彼女と約束事でもしたのだろうか…?残念ながら、パッと思い出せる限りでは、高町とそんなことをした覚えはない。いや、十年近くも前のことなんてそうそう思い出せなくても不思議ではないのだが。

 

「———私が撃墜された時、センパイ言ってくれましたよね。私が辛い思いしてるのを見てられないって。自分にできることならなんだってしてくれるって」

「あ…あぁ、そういえばそんなこと言ったような…気がする」

「…忘れちゃってたんですか?ひどいなぁ…。 …あの時の私、とっても苦しかったんですよ?身体は思うように動いてくれないし、常にひどい痛みに襲われるし———」

 

「だから———センパイの言葉が、本当に嬉しかったんですよ?」

 

「センパイはお仕事の合間を縫って、毎日のようにお見舞いに来てくれましたよね?時々リハビリにも付き合ってくれて…私、センパイが支えてくれなかったら、きっともう飛べなかった」

 

「でもね、センパイ…。私まだまだ辛いんですよ。私がリハビリをしてる間に、センパイが配置換えになっちゃって…。お見舞いにもなかなか来てくれなくなって…。それからずうっと、同じ部署で働くことはなくって…」

 

「———だから、もう離さない。これからはいままで離れ離れになってた分、ずうっとセンパイといるの。そう———あの時、約束してくれたもん」

 

そう言った彼女の笑みは、奇麗だった。事情を知らない者が見れば、向日葵のように爛漫な笑顔に見えただろう。しかし、俺にはそんな風には思えなかった。

 

———あれは、執念の渦巻く笑顔だ。失ったものを取り戻すべく、あらゆる手を講じる…。そんな笑顔だ。ただ奇麗なだけでは断じてない。

俺は、食虫植物のようなその笑みに吸い寄せられてしまうのだった———。

 




どうすれば時が戻る 今何処で何をしている
すべてを捨てたとしても 罪だけがふえてゆく

どうすれば時が過ぎる 言葉はいつも役に立たない
あの日の君の声は もう僕に届かない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。