今回はアリア編ということですが、自分の趣味が入り込みすぎた結果、この短編集で最長の話となりました。い、意外だ……。
誤字脱字、口調や設定などミスなどがあれば、お気軽にご連絡ください。
今回のオリ主の設定をば
名前:未設定。いつものやつですね。
外見:リーゼ姉妹よりは身長が高いしガタイもいい。クロノくんと同じくらいか、少し大きい感じです。
年齢:クロノくんより2〜3歳下です。
それでは、本編をどうぞ。
☆
吾輩はしがない魔導師である。名前はまだない―――ごめんなさい、嘘です。
俺と
「へふっ、はふっ、んむぅ……っ」
「んんっ……あの、アリア
「ん〜?んっ……嫌よ。あんたの側が、一番落ち着くんだもの」
「あ、そう……。でもせめて、首を舐めるのはやめてほしいなぁ」
「……しょうがないわね」
そう言うなり、彼女―――リーゼアリアは俺の首に腕を回すと、頬を擦り寄せてきた。豊かな双丘が俺の脇腹に触れて、彼女の鼓動と体温が伝わってくる。加えて彼女の喉から響いてくる、甘く蕩けきった声が、俺の鼓膜と理性を揺らした。
……気取らずにハッキリ言うと、すごくムラムラする。それはもうムラムラする。いつまでも俺のことを子どもだと思って、まるで警戒してないんじゃないかね、この人は。もう十分オトシゴロだぞ、俺ってばさぁ。
……まぁ、無理もないか。なんてったって、親子並に歳が離れて……痛い痛い、痛いっスアリア姉。爪を立てないでくれい、首の傷が増えるから。たまらず顔をしかめ、彼女に謝罪の言葉を告げる。彼女は細めた瞳で俺を射抜くと、満足気に鼻を鳴らした。わかればいいのよ、と呟くと、再び頬を擦り寄せてくる。
女の勘、というやつだろうか。彼女は時折ものすごい鋭さを発揮することがあり、その都度折檻と称して、俺の身体に傷を付けてくるのだ。今回のように。……最近はその頻度が増したように思う。いくら本当の姉のように思っているとはいえ、心臓に悪いからやめてほしいものだ、普通に痛いし。グレアムおじさんの故郷では親しき仲にも礼儀あり、って言うらしいしね。……でもこれじゃ、彼女を怒らせてる俺もお互い様なのかな?
話はまるで変わるけど、彼女との付き合いは、かなり長いと思う。俺が4つの頃だったかな、親戚のグレアムおじさんの家に遊びに行ったことが始まりだ。使い魔だから今と見た目は変わらないけど、当時の俺はアリア姉とロッテ姉にひどくドキドキしたものだ。クロ
で、またまた話が変わるわけだけど、なんで彼女が俺にベタベタしているのかだが……。ついこの間、リーゼ姉妹が俺の使い魔になったからだ。グレアムおじさんも結構な歳だし、二人へ十分な魔力を供給しきれなくなったそうだから、身内の中で最も魔力量に優れる俺が引き取ることになったのだ。……昔面倒見てくれてた姉ちゃんたちを引き取るって……随分偉そうになったな、俺。多分機嫌を損ねるだろうから、本人たちの前では黙っておこうっと。
「ねぇ……またなんか変なこと考えてたでしょ?」
「え?いやぁ……昔と立場が随分変わったなぁ、と思ってさ。俺が二人のマスターになるなんて思ってなかったよ」
「はぁ……調子に乗るんじゃないの。契約上ではそうだけど、まだあんたをマスターと認めたわけじゃないわ。もちろん、私だけじゃなく、ロッテもね」
「うっ、相変わらず手厳しいな……。じゃあ、俺のことを何だと思ってるわけ?」
「ふふっ、決まってるでしょう?」
彼女が、嗜虐心を滲ませて、妖しく微笑む。……俺は昔から、この顔に弱い。こちらの胸の内を見透かされているようで、腹の奥がゾクゾクする感覚に襲われるからだ。あぁ、くそ……惚れた弱みっていうのは、如何ともし難いな……。
悶々としている俺を尻目に、彼女は呟いた。ねっとりとした声色に込められた感情を、俺は推し量ることができないでいる。愛しいものに向けているのか、お気に入りの玩具に向けているのか……。できれば前者であってほしいと思うのは、俺の我儘なのかな。
「―――大事な大事な……弟分よ」
舌なめずりを一つすると、彼女の舌が、俺の首筋を再び這い回る。人間の舌にはないザラザラした感触が、どうしようもなく気持ちいい。首にかけられる力がほんの少しだけ強くなるのを感じながら、俺は彼女にされるがままでいることにした。
俺は、ズルい男なのかもしれない。彼女から向けられている親愛に甘えて、一歩を踏み出せずにいるから。でもいつか、この気持ちを彼女のもとへ伝えたいと思う。だからそれまでは……このままでいても、許されるかな?
不安な気持ちに蓋をするように、俺の瞼も閉じられ、まどろみに落ちていく。身体に寄り添う仄かな温かさと、首筋に残るざらついた感触だけが、沈んでゆく俺の意識に残っていた。
☆☆
アリア姉、ロッテ姉と契約を結んではや半年―――。俺は、魔力の欠乏に喘いでいた。
仕方がないじゃないか!だって、だって……!あの二人、メチャクチャ魔力食うんだもんっ!逆にあの歳まで契約を維持できてたグレアムおじさんが何なんだよチクショー!あれか!?管理局の英雄サマは魔力量もバケモンでしたってか!?俺だって別に魔力が少ないわけじゃないのにぃぃぃ!!
内心荒れ狂っている俺を呆れた目で見つめながら、二人が言葉を紡いだ。使い魔にはマスターの気持ちがある程度わかるらしいから、俺の心を見抜かれてしまってるようだ。そのせいか、二人からの小言に、段々と容赦がなくなってきている。正直ツラい。
「……みっともないぞー、今更になって。あたしたちを引き取るって言ったんだから、根性見せなー」
「そうよ、頑張りなさい。男の子でしょう?」
「でもさぁ……俺が不甲斐ないせいで、二人に不自由を強いてるわけだし……」
「弟のくせに姉の心配をするなんて、―――も生意……立派になったねぇ……」
「いや感動するところじゃないから。怒っていいんだぞ、ロッテ姉」
「第一、あんたが未熟なことなんて、私もロッテも織り込み済みよ」
「うぐっ、ハッキリ言われるとそれはそれで傷つく……」
だからこうして猫に変身して魔力消費を抑えてあげてるんじゃない、とまで言わせてしまっているのだ、情けがない、立つ瀬がない。穴があったら入りたいとは、まさにこういうことを言うのだろう。
二人は使い魔の中でも超一級の能力を持っている。AAA級の魔導師と比べても遜色ない、下手をすればS級の魔導師とも渡り合えるほどの実力者だ。それだけに、契約を維持するために必要な魔力も膨大な量を必要としている。決して少なくない俺の魔力でも、二人との契約を維持することに限界を感じ始めているほどだ。
今では一日のうち二、三時間程度しか人の姿をとらせてあげられないのは、本当に申し訳ないと思っている。魔力が切れて死なせるよりはマシだと思うけど……。それでも、今まではできてたことが急にできなくなるっていうのは、悲しいもんな。
俺も魔導師としての活動に支障をきたすレベルで魔力が足りてないし、何かしら手を打たないと……。俺が頭を悩ませていると、困ったような笑みを浮かべながら、ロッテ姉が話しかけてきた。
「あ〜、その……やっぱりあたし、クロ助と契約し直そうか?―――も頑張ってくれてるけど、魔導師として働けないのは流石にマズいでしょ?」
「でも……良いのか?十中八九クロ兄は良いって言ってくれるだろうけど、アリア姉と離れることになるのは辛いんじゃ……」
「だから、弟が姉の心配をするんじゃないの。おねーちゃんに任せときなって、うりうり〜」
……ロッテ姉のことだけじゃなく、クロ兄のことも心配なんだよなぁ。エイミィさんにあらぬ疑いをかけられたらどうするつもりなんだ、この姉は。クロ兄ほどの人のケツを蹴り飛ばせる人なんだぞ、エイミィさん。そんな女傑を怒らせたらメチャクチャ恐ろしいじゃないか……。ロッテ姉の肉球を頬にぐりぐりと押し付けられながら、ぼんやりとそんな事を考えていた。ん……?契約者を、変える……?
―――その時、俺に電流走る。
そうか、それだっ!名案が浮かぶ。俺以上に魔力があって、他の使い魔と契約してなくて、話が通じそうな人が一人いるじゃないか!歓喜に打ち震えた俺は、こうしちゃいられない、と二人にこの案を告げた。……なんか二人ともバツの悪そうな顔を浮かべてるけど、なんでだろう?
まぁ細かいことはいいか。善は急げというしな。明日にでも
―――まどろんでいる俺の耳に、二人の話し声が入ってきたが、その内容を解す前に、俺の意識は落ちてしまっていた。
☆☆☆
ついに、例の計画を決行する時がやってきた。……といっても、あれから二日しか経ってないけど。まぁ、こういうのは気分が大事なんだよ、気分が。プレゼン用に資料も作ってきたし、菓子折りだって用意した。
「あの、―――くん……大事な話って、何かな?」
「まずは時間を割いてくれてありがとう、高町さん。君に頼みたいことが……いや、君にしか頼めないことがあるんだ。……聞いて、くれるかい?」
「う、うん」
やや緊張した面持ちで俺の言葉を待っているのは、高町なのは―――エースオブエース、なんて呼ばれているエリート局員だ。彼女は誰にでも親切だし、親しみやすいし、何より魔力量がメチャクチャ多い。俺どころかクロ兄以上というのだから、管理外世界出身とは思えない人物だ。……グレアムおじさんといい、地球って世界は魔力がスゴい人がポンポン生まれ出る、結構恐ろしいところなんじゃなかろーか。グレアムおじさんが気にかけてる八神さんも地球出身らしいし。
っと、脱線してる場合じゃないな。せっかく話を聞く姿勢を取ってくれてるのに、これ以上彼女を待たせるのは忍びない。ここは一気に決めるぜ!
「……高町なのはさん、あなたにお願いがあります」
「は、はい!」
「俺の……」
「俺の……!?」
「俺の使い魔を、一人貰ってやってくださいっ!!」
「……え?」
……ふぅ、言ってやったぜ……!これで彼女も納得して……って、高町さん。
普段の彼女からは決して聞くことのないような声が、俺の鼓膜を震わせる。底冷えするような、静かに練り上げられた怒気を―――いや、殺意すら感じさせる声だった。
「―――少し、頭冷やそうか……」
「いや、俺は至って正常……」
「うるさい、このバカーッ!!」
「―――あべしっ!」
フルスイングされた彼女のデバイスが、俺の脳天を打ち据える。い、痛えぇ〜っ!見ろ、カートリッジの弾倉がちょうど直撃したからタンコブになってやがる!たまらず頭を抑え、彼女を非難した。
「い、いきなり何すんだ!人間はな、小突かれただけでも打ち所によっちゃ死ぬんだぞ!?」
「―――くんが悪いんでしょ!?乙女の純情を踏みにじるなんて、本っ当信じらんない!」
「いや純情って言われても……あぁ、そういうことか。……ごめん、誤解させて悪かったな」
「ごめんで済んだら管理局はいらないよ!大事な話だっていうから、私、緊張してたのにっ!」
「十分大事な話じゃないか、今回のはさ。高町さんの今後に関わるわけだし」
「……それは、そうだけど」
「それに、もう乙女って
た、高町さんって怒らせるとこんなに怖いのか……。教導隊所属だから厳しいところもあるとは思っていたが、ここまでとは思わなかったな。追撃を躱したことに内心安堵しつつ、彼女へのプレゼンを開始することにした。……だから、その冷ややかな目で睨んでくるのをやめてください。腕と足を組んでふんぞり返ってるのも含めて、メチャクチャ怖いっス。
……一通りロッテ姉と契約するメリットを説いてから、彼女の反応を伺ってみる。一応、俺が喋る度に小さくリアクションを取ってくれたから、芳しくない、なんてことはない……ハズだ。これまた冷え切った声だったけど。大丈夫、大丈夫だ。きっと、多分、めいびー。
「ど、どうでしょうか……。ウチのリーゼロッテも、高町さんとならきっと上手くやっていけるかと……」
「ごめんね。……悪いけど、お断りします」
「えっ、そりゃまたどうして!?」
「あぁ、知らないんだ……」
彼女はクスリと妖しく微笑むと、これまでの鬱憤を晴らすように、嘲りの意を込めた目を向けてくる。……うん、男女交際の告白だと誤解させた俺が悪いのは良くわかったから、そろそろ機嫌を直してください。
生唾を飲み込み、思わず身構える。そんな俺の怯え様が伝わったのか、少し気を良くした彼女から、花のように美しい笑顔と共に、衝撃の言葉が告げられた。
「だって私―――あの人たちのこと、嫌いなんだもん」
「何したんだ姉ちゃんたちぃぃぃっ!!」
……彼女の笑顔に、不覚にもときめいてしまったよ、アリア姉がいるというのに、俺ってやつは……。まぁ、最高の笑顔で告げられるにしては、些か恐ろしい言葉が出てきたわけだけど。しかし高町さんにここまで嫌われるなんて、一体何をしたんだ二人とも……。間違いなく相当なやらかしだぞ、多分。
後で二人に問い詰めることを決めて、高町さんと別れることにした。別れ際に菓子折りを彼女に渡して、時間を取らせたことに感謝と謝罪を改めて述べる。なんとも言えない複雑な顔をされたが、品物も言葉も、渋々と受け取ってくれた。渋々と、だが。
「本当にすまなかった、高町さん。二人にはよく言い含めておくよ。だからロッテ姉と契約を―――」
「―――くん、いい加減しつこいよ。……頭冷やす?」
「すみませんでした。この話は二度と口にしません」
……どうやら俺は、彼女に逆らえないらしい。条件反射で90℃のお辞儀をしてしまうくらいだもんな。一方彼女は、俺の平身低頭な姿勢を見て、満足げに鼻を鳴らした。……なんか、今まで積み重ねてきた彼女への印象をぶち壊されてるみたいだなぁ。……今後は、高町さんを怒らせる真似をするのはやめよう。だって怖いもん。
他の女性職員に今回のような紛らわしいことをしないように約束を結ばされてから、その場で解散することになった。別に誰にでもこんな話をするわけじゃないし、高町さん相手だから打ち明けた話なんだが……。それを聞いた彼女は顔を真っ赤にして脱兎のごとく駆け出していったが、一体なにが原因なんだろうか。
女心ってヤツはよくわからないし、普段優しい人を怒らせたら怖いという教訓だけが、俺の胸に強く刻まれた。
☆☆☆☆
足取り重く、帰路につく。うぅ、二人になんて話せばいいんだ……。一昨日の様子から察するに、二人は今回の提案が上手くいかないと思ってたみたいだけど……。それでも、二人に対する罪悪感が、俺の胸を締め付ける。
今回上手くいかなかったということは、姉ちゃん二人だけじゃなく、クロ兄にも迷惑をかけるわけだからな……。俺一人で魔力問題を解決できていれば良かったのだが、なんとも情けない話だ。
家に帰り着くと、落ち込んでいた俺を二人が慰めてくれた。俺の未熟が原因で勝手に落ち込んでいたというのに、俺のせいじゃないと言ってくれる二人に甘えたくなる。うぅ……ごめんなぁ、二人とも……。
ひとまずリーゼセラピーで落ち着いた後、クロ兄に通信を飛ばすことにした。提督の地位に収まっても、俺が困ってたら颯爽と助けてくれるんだから、頭が上がらないよ本当に。
「―――そういうことで、ホントに申し訳ないんだけど……ロッテ姉のことお願いしてもいいかな、クロ兄……」
『まったくお前は……自分だけで解決できない事態は、他の人を頼れといつも言っているだろう』
「うぐっ、耳が痛いです……。でもよ、クロ兄だってすぐ無茶するじゃん。フェイちゃんから聞いたよ、ほとんど休み取れてないんだろ?」
『話を逸らすなよ……その分、たまの休みは満喫させてもらっているさ』
「……俺、嫌だからね。クロ兄まで早死にするの」
『……あぁ、わかっているよ。後でミッドに戻れる直近の予定を送るから、その日にまた会おう』
「うん、わかった……。じゃ、無理すんなよ、クロ兄」
『あぁ、お前も気を付けてな……』
ぶつり。通信が切れ、大きなため息が漏れる。また、気を遣わせてしまったな……。兄貴分へ甘えてばかりの自分が情けなくて、たまらず天を仰ぐ。涙は溢れなかったけれど、気持ちまで落ち込まないようにしたかった。
―――クロ兄は、優しい。少しだけ言動にトゲがある節こそあるけれど、その心根は、いつだって他者への優しさと労りに満ちている。
……ナイーブになっていた気持ちを、
ロッテ姉はクロ兄のところでノビノビやるから気にするな、だってさ。アリア姉と離れるのが辛くないはずないだろうに、いつも通りのいたずら好きな笑顔を浮かべて、俺にそう告げてきた。俺は、その笑顔を正面から見つめていられただろうか。しっかり笑顔を作れていただろうか。
―――ごめんな、ロッテ姉。本当はアリア姉と一緒に居たいだろうに、俺が不甲斐ないばかりにアリア姉と引き離すことになっちまった。
―――……ごめんな、アリア姉。俺、嬉しいと思っちまった。惚れた
こんな胸の内を、二人には知られたくない。表情筋をフル動員させて目一杯の笑顔を作った俺は、二人と別れ、そのまま床に就くことした。……落ち込んだり、嫌なことがあった時は、眠るに限る。閉じた瞼から薄らと流れゆく涙に気付かないフリをしながら、俺はゆっくりと意識を沈めていった。
☆☆☆☆☆
―――夢を、見ていた。ひどく懐かしい夢だ。あの頃の俺は、
『おれ、アリアねーちゃんだいすき〜』
『ふふっ、ありがと』
『オトナになったら、アリアねーちゃんとけっこんするんだ〜』
『……嬉しいこと言ってくれるわね。でも、それは無理よ』
『―――』
俺は、アリア姉になんて言葉を返したのだろう。綺麗さっぱり思い出せない。でも、アリア姉がきょとんとした顔を浮かべた後、優しく
『―――お願いします、アリア姉、ロッテ姉……!俺を、俺を二人の弟子にしてくださいっ!』
『今から教えるとなると、相当ハードになるわ。……それでも構わないわね?』
『はい、覚悟はできています!』
『おっ、言うねぇ……。それじゃあたしも遠慮せずビシビシいっちゃおうかな〜?』
『の、臨むところだぁ!』
それから少し時間が流れる。父さんと母さんが、時空犯罪者の起こしたテロに巻き込まれて、命を落とした。悲しくて、犯人が許せなくて、でも何もできなくて……。ちっぽけな自分に覚えた無力感を拭い去るべく、クロ兄の背中を追いかけた俺は、二人に弟子入りすることにした。
14歳になってようやく本格的に魔法を学び始めることになった俺は、二人のスパルタ訓練に悲鳴を上げながら食らいついていった。何度も泣いて、弱音を吐いて、逃げ出そうと思った。でも、ここで逃げたり諦めたりしたら、また大切な人を失うかもしれない。その恐怖が、俺を繋ぎ止めてくれた。両親を亡くし、途方に暮れていた俺を引き取ってくれたグレアムおじさんが、後悔しない道を歩めと言ってくれたから。こんな俺を支えて、導いてくれる人たちがいたから、俺は今まで歩いてこれたんだ。
「また……随分と、懐かしい夢を見たな」
むくり、とベッドから身を起こす。隣では、人間の姿に戻ったアリア姉が、小さな寝息を立てていた。なぜロッテ姉を放って俺のベッドに潜り込んでいたのか、そしてなぜ人間の姿を取っているのかは甚だ疑問だが……。まぁ、今はそんなことどうでもいいか。
彼女の髪を優しく撫でながら、彼女を起こさないようにぼそりと呟く。今まで支えてくれたことへの感謝を、そして―――
「愛してるよ、アリア姉」
本人に直接伝えるには、僅かな気恥ずかしさと、後ろめたさが残る言葉を。いつか俺が、自分のことを誇れるようになったら、この言葉を彼女に届けられるのだろうか。その"いつか"が何年先になるのかもわからない現状に苦笑を浮かべつつ、彼女の寝顔をもう少しだけ眺めていることにした。
傍にいるだけで、彼女の温もりと鼓動が伝わってくる。繋がれた魔力のパスからではなく、直接それらを感じられることが、なぜだか無性に嬉しかった。この胸に届く彼女の響きが、俺自身のそれと重なるようで、彼女と一つになれた気さえしたから。
胸の鼓動が熱くなるのを感じながら、彼女が目を覚ますまで、この愛しい時間を味わうことにした。願わくば、ずっと一緒に居られますように。隣で眠る彼女もそう思ってくれていることを祈って、瞳を閉じた。
どしゃぶりの雨だって 君となら 喜んで濡れよう
聞こえるよ熱き鼓動の嵐
抱きしめた時 僕は震えたんだ