リリカルヤンデル短編集   作:コミュニ爺

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どうも皆さんこんにちは、コミュニ爺です。
今回は前話のアリア視点です。おかしい……オリ主視点も大概ドロドロしていた気がする……。もちろんアリアも負けていないつもりですが。

キャラ解釈の違和感や設定ミスがあれば、お気軽にお伝えください。それでは本編をどうぞ。


『熱き鼓動の果て』Side:リーゼアリア

 

 

『おれ、アリアねーちゃんだいすき〜』

『ふふっ、ありがと』

『オトナになったら、アリアねーちゃんとけっこんするんだ〜』

『……嬉しいこと言ってくれるわね。でも、それは無理よ』

『え〜、なんでさ〜?』

 

 夢を、見ていた。あの子との一番古い記憶だ。グレアム邸(私たちの家)の庭であの子と遊んでいた時のものだろう。あの子の無垢な瞳が私を包み、純真な言葉で私を好いていると言ってくれた。

 それはもちろん嬉しかったが、子どもの気持ちなど容易く移りゆくものだと知っていた私は、あの子の気持ちに応えられないと返した。それでも、あの子は強い瞳でそれを拒む。幼いながらに、確かな意思が感じられる瞳だった。

 

『……私、使い魔だから。人間のあんたとは一緒に生きられないのよ』

『そんなのカンケーないよ!好きだから好きなんだもん!』

『……そっか、ありがとね。じゃあ、あんたが大きくなっても気持ちが変わらなかったら……ケッコンしてもらおうかな?』

『ホント!?やったぁ!』

 

 あの喜びようは、随分経った今でも覚えている。そして、あの子の言葉が本当に嬉しかったことも。きっとあの子が大きくなるにつれて、記憶から薄れていく約束だろうけど……。それでも、あの子が覚えていてくれたら嬉しいと思えた。……下手をすれば親子ほどに歳の離れた子ども相手に、一体何を思ってるのかしらね、私は。まぁ恥ずかしいとも、嫌だとも思ってないけれど。

 ―――きっと、あの時の私は綺麗に微笑(わら)えていたのだろう。なぜなら、向かい合うあの子は満面の笑顔だったから。そしてその笑顔に応えられていたら、それは素晴らしいことだと思うから。そんな願望を抱えながら、私たちは歩き出していた。あの子の小さな歩幅に合わせて、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

☆☆

 

 それから、幾年の月日が流れた。あの子の態度が少しずつ余所余所しくなることに覚えた僅かな寂しさと、会う度に大きくなるあの子の成長を喜ぶ気持ちが、私の胸の内で綯い交ぜになっていった。

 ある日のことだ。小さな頃のようにあの子を抱きしめた時、あの子に顔を真っ赤にして拒まれた。本気で嫌がっているというよりは照れているようだったが、流石にショックを覚えたことは記憶に新しい。しどろもどろになりながら離れてくれと言われた時は、思わず愕然としたものだ。

 その後にあの子の見せた申し訳なさそうな表情と、いきなりじゃなければ抱きついてもいい、という言葉がなければ、暫く立ち直れなかっただろう。ロッテに対してはそんな反応をせず、無理やり引き剥がそうとしていたのに、この扱いの差は一体何なのだろうか。抗議したい気持ちをグッと抑え、素直にあの子を抱きしめることにした。

 あの子の体温がわずかに上昇したのがわかる。その熱が心地よくて、抱きしめる力を一段と強める。すると、あの子の胸から伝わってくる鼓動が、一段と激しくなったように感じた。

 

 

☆☆☆

 

 ―――あの子の両親が、亡くなった。テロに巻き込まれてしまったそうだ。

 悲しみに暮れ、誰もいない自宅で泣き腫らすあの子に、なんて声をかけたら良いのかわからなかった。私にできたことは、いつか立ち直ってくれることを信じて、暗がりの中で啜り泣くあの子を強く抱きしめることだけだった。

 

『アリア姉……。父さんと母さん……もう、帰ってこないんだよね……?』

『えぇ、そうね……』

『俺、俺……!どうしたらいいのかなぁ!?父さんと母さんを殺した奴らが憎い!憎いよぉ!』

『……ごめんね、私があんたにしてあげられることなんて思いつかないけど……。今は、思い切り泣いていいから……』

『ちくしょう……!ちくしょおぉっ……!!』

 

 あの子の涙が私の胸を濡らす度、胸を刺されるような感覚に襲われた。あの子の痛みは私の痛みだ。あの子を一人で苦しませずに済んだように思えて、少しだけ嬉しかったこと、救われたように感じたことを、今でも覚えている。

 そうして泣き疲れたあの子の頭を、そっと撫でる。何日も部屋に籠もりきっていたのだ、あの子の髪はボサボサに傷んでいた。手ぐしで梳いていく髪のように、あの子の心が整い、癒されて欲しいと強く願う。同時に、それを願うことしかできない己の非力さが、ひどく厭わしかった。

 

 

☆☆☆☆

 

『―――お願いします、アリア姉、ロッテ姉……!俺を、俺を二人の弟子にしてくださいっ!』

『今から教えるとなると、相当ハードになるわ。……それでも構わないわね?』

『はい、覚悟はできています!』

『おっ、言うねぇ……。それじゃあたしも遠慮せずビシビシいっちゃおうかな〜?』

『の、臨むところだぁ!』

 

 両親を亡くした悲しみを吹っ切った()が、私たちに弟子入りを希望してきた。曰く、もう大切な人を失わないよう、自分の非力さを呪うことがないよう強くなりたいとのことだ。身近にクロノの姿があったことも大きいのだろう。彼はクロノに良く懐いていたから。

 だが、彼に課される鍛錬は、幼い頃から地道な研鑽を積み重ねてきたクロノとは訳が違う。より短い期間で、より密度の高い鍛錬を積むことになるからだ。正直気の毒に思うが、彼の気持ちに答えるためにも手は抜かなかった。その結果、彼に課されたのは、超が頭に三つは付くほどのスパルタトレーニングである。何度も泣き出し、弱音を吐く彼だったが、一度たりとも逃げ出したり音を上げることはなかった。……まぁ、私たちが出来るようになるまで無理やりやらせていただけなのだけれど。

 泣きながら無理だ無理だと連呼しつつも、決して諦めずに食らいついてきた彼が誇らしく、愛おしく思える。……本人の前で口にしたら間違いなく調子に乗るから、絶対に褒めないけどね。

 そうして数年かけて激しい鍛錬を積んだ彼は、見違えるほどの実力を身に着けた。流石にクロノにはまだまだ及ばないけれど、一般的な水準を大きく超えた魔導師に育てられたと思う。……まだ少し自信なさげなのが可愛らしいとも思うが。比較対象が悪いのよ、比較対象が。私やロッテはもちろん、お父様やクロノと比べたら、そりゃあ一枚も二枚も落ちるでしょうに。中々褒めなかった私たちも悪いけど、少しは胸を張りなさい。だってあなたは―――

 ―――あなたは、私たちの自慢の弟子なんだから。いつか、私の口からそれを伝えられるように腕を上げなさい?……ずっと、ずっと待ってるんだからね。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 ……お父様が、私たちとの契約に限界を感じ始めた。年齢とともにリンカーコアは衰えていくものだ、それは優れた魔導師であるお父様といえど例外ではない。次第に、私たちに供給される魔力量が少なくなっていくことがわかった。

 まぁ、悪くない人生……使い魔生?だったと思う。辛いことは数え切れないほどあったけど、良いことも、それと同じくらいあったと思っている。けれど、欲を言うならば……彼の成長する姿を、もっともっと見守っていたかった、かな。ダメね、私。腹を決めたつもりでも、まだ未練が断ち切れないんだから。

 ―――しかしその未練は、他でもない彼の手で果たされることになった。彼が、私たちとの契約を引き受けると言ったのだ。幼い頃と変わらない、決意に満ちた瞳で。その言葉が嘘じゃないと直感した私は、嬉しさのあまり流れる涙を、拭うことができなかった。

 

『おじさん、二人は……二人は俺が引き取ります!おじさんほどじゃないけど、俺だって魔力は多いんだ、やらせてください!』

『……良いのかい?私も彼女たちが亡くなる所を見るのは忍びない。君が良ければ是非頼みたいが……』

『もちろんです!もう俺は、大切な人が死ぬのなんて……!耐えられないから……!』

 

 一時的にお父様との契約が打ち切られ、彼と契約を結び直す。彼の魔力と心が、さざなみのように流れ込んできた。穏やかで温かい魔力が、私の身体を満たしてゆく。彼の心で静かな焚き火のように燃えている優しさが、私の心も温めてくれているようだった。

 私が思うよりもずっと、彼は私たちのことを大切に思ってくれていたらしい。それが嬉しくて、少し気恥ずかしくて……。素直になれずにつっけんどんとした態度を取ってしまったが、彼は苦笑を浮かべながらも、私たちが魔力欠乏により死なずに済んだことを喜んでくれた。

 彼から伝わってくる心が、その言葉の真実味を担保してくれる。―――マスターとして認めるには実力がまだ足りていないが、家族としてなら認めてもいい。思わず口を衝いて出た、そんな捻くれた強がりを受けても尚、彼の笑顔は崩れなかった。まだまだ大きくなるであろう彼の成長と、この笑顔を見守っていたい。小さな未練だったはずの気持ちが、私の胸で大きく膨らんでいくのを感じた。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

「んぅ……っ」

 

 目が覚める。相当深い眠りに就いていたのだろう、随分昔のことまで夢に見ていたようだ。未だ眠気の残る瞼を擦りつつ、隣にいる彼に微笑みかける。彼も、幸せそうな笑顔を返してくれた。そのことに僅かな気恥ずかしさと、比にならないほどの嬉しさを覚える。

 まだまだ眠っていたい気持ちを感じつつも、ベッドを離れ、朝食を作りに台所へ。彼との分担も慣れたものだ。手早く準備を済ませ、食卓に着く。淡々と、穏やかな時間が流れていった。

 

「ふぅ、なんか幸せだなぁ……」

「どうしたのよ、藪から棒に」

「いや、なんでもな……痛い痛い。スネを蹴らないでくれよ、結構痛いんだからさ」

「私に隠し事なんてするからよ。さ、キリキリ吐きなさい」

 

 眉間にシワを寄せながら俺は犯罪者かよ……と呻いた後、彼は幸せを感じた理由を話し始めた。といっても大して長い理由ではなかったのだが、その言葉は私の理性を沸騰させるに余りある破壊力を秘めていた。

 

 「……こうしてるとさ、俺たち夫婦みたいだろ?それが、なんか嬉しくてね」

 

 ……やはり、嘘をついているわけではない。こういう時にマスターの気持ちがわかってしまうのは、嬉しいような、恥ずかしいような……。顔が朱色に染まりゆくのを感じつつ、俯くフリをしながら彼を見つめる。彼も自分の言葉に照れていたのだろう、頬を赤く染めていた。

 彼の使い魔となった今、直接触れずとも彼の胸の内が、鼓動が伝わってくる。私と共に過ごせること、契約で繋がっていることを、心の底から喜んでくれているのがよくわかった。この生活も、彼の心も、誰にも渡したくはない。たとえロッテが相手でも、だ。

 人と使い魔の婚姻が結ばれた記録は、私が知る限りでは、たった一つの例もない。ならば、私たちがその始まりになろう。アダムとイブ……と呼ぶには照れくさいが、きっと、彼も拒まないでいてくれるだろう。早く、素直に気持ちを表したい。けれど、今まで姉として振る舞ってきた下らないプライドが邪魔をする。なんとも情けないが、キッカケが欲しいところだ。そう、例えば―――

 

「じ、十年早いわよっ!まったく、もう……!」

「そ、そうだよな。なに言ってんだろうな、俺ってばさ……」

「……せめて、クロノから一本取れるようになりなさい。それならその大口も認めてあげる」

「……えっ、マジ?」

「大マジよ。一々言わせんじゃないわよ、バカ……」

 

 彼の顔が喜色に染まる。これほどぞんざいに扱っても怒らない辺り優しすぎるというか、甘すぎると言うか……。まぁ、そこが彼の良いところでもあるのだけれど。

 こんな素直になれない私を愛してくれていることに、計り知れないほどの喜びと感謝を覚える。彼から供給される魔力から伝わってくる、彼の喜びと興奮の十分の一でも、私から彼に伝えられたら。そんな思いを籠めて、朝食もそこそこに彼に縋り付く。

 

 ―――ねぇ、伝わる?私の胸も熱くなっているわ。あなたと、同じように……。

 

 この熱い鼓動が一つになることを願い、瞳を閉じて彼にすべてを委ねる。ダイニングに差し込む朝日から生まれた二人の影が、一つに重なった。




今度 会う時には 迷わないで手と手をつなごう

鳴りやまない 熱き鼓動の果てに
僕たちは何か見つけるだろう

恐怖を知っても その足をとめないで
その痛みを 僕が消してしまおう 今

離れても この胸に いつでも 届いてる
風は揺れ 大地揺れ 生命を揺らして 響く
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