リリカルヤンデル短編集   作:コミュニ爺

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ガンブレイッ!(挨拶)
皆さんはガンブレイズヴェンジェンスを楽しんでいらっしゃいますでしょうか?自分は毎週楽しみにしています!

というわけで、今回はシイナさん編です。本編の設定と矛盾するところがあるかもしれませんが、その際は教えていただけると助かります。

ここらでオリ主の設定をば
年齢:17歳。シイナさんと同い年ですね。
外見:黒髪でシイナさんより少し背が高い。170cm〜?
名前:皆さんのご想像におまかせします。

それでは本編をどうぞ!


『だれにも言えねぇ』Case:久瀬シイナ

 

 

 吾輩は男子高校生である。名前はまだない―――ごめんなさい、嘘です。

 

 突然だが、俺には気になっている(ひと)がいる。この場合の気になるっていうのは、異性としてというのものより、彼女の安否の方なのだが。

 ―――久瀬シイナ。俺のクラスメートだ。この島では知らぬ者がいないであろう有名人にして、我が校、ひいては海女取島(あまとりしま)全体における人気者だ。

 明るく元気、島の大人から仕込まれた家事能力にも優れている凄いやつだ。他にもライフセーバーやら猟銃を扱える免許やらも持っているらしい。……というか学校に持ち込んでるしな、ガンバッグ。始めて見た時はちょっとビビったのが懐かしい。

 ……で、そんな久瀬が珍しく学校を休んでいるわけだ。少なからずクラス内でも話題になった。なんでも、昨日ヤク中のオッサンがこの島で通り魔的に暴れたらしい。彼女の家の近くで、だ。……まぁ、その時の俺はすっかり眠りこけていて、騒ぎにまるで気が付かなかったのだが。

 普段なら迷惑な話だ、程度で流すところなのだが、あの久瀬が学校を休んでいることに一抹の不安を感じずにはいられなかった。なにせ、彼女の家の近くで起こった事件だというのだから、気になって仕方がない。悪い方向にばかり考えたくはないが……。

 まぁ、数日もすれば久瀬も笑顔で教室を賑わせてくれることだろう。誰もいない隣の机を寂しく思いつつ、今日の授業が始まった。……あ、いけね。教科書忘れたみたいだ。

 

「すまん、久瀬。教科書を……」

 

 しかし、言葉を返してくれる人は、そこにいなかった。……参ったな、我ながら想像以上にショックを受けていたらしい。言い切る前に声量を落とし、他のクラスメートに声をかける。快く見せてもらえたから良いが、これを笑われたのは流石に少し堪えた。羞恥の念が強まり、顔に血が集まってゆく。

 何も考えずに久瀬を頼ろうとした自分への苛立ちと、彼女が無事でいて欲しいという願いが絡まり合う。そして何とも言えないもどかしさとなって、俺の胸中を支配していった。

 

 

☆☆

 

 ―――結局、今日は一日中ぼうっとしたままだった。どうにも久瀬のことが気になって気になって仕方なかったらしい。元気でいるだろうか、怪我はしてないだろうか、そもそも生きているのだろうか、といった風に物騒な思考に頭が支配された結果がこのザマだ。

 高校に入ってから仲良くなった相手だというのに、ここまで心を掻き乱されるとは思っていなかったな。……どうやら自分で思っていた以上に、俺は久瀬のことを好いていたらしい。少なくとも、また笑った彼女の顔を見たいと思えるくらいには、だ。

 

 ―――ピロリ。

 

 どうやらケータイに着信があったようだ。この音はトークアプリからだろう。家へと歩を進めながら、緩慢な動きで画面のロックを解除する。お使いの連絡じゃなきゃ良いが……。

 もしものことを考えると、至極面倒くさい気持ちに襲われてしまう。まぁ、その時はその時か。さて、メッセージの送り主は誰だろう?

 

 ―――久瀬シイナ

 

 呼吸が、止まった。ほんの一瞬だけだが、確かに。一拍して、大きく深呼吸。それと同時に、安堵の気持ちが込み上げてくる。そうか、無事だったんだな……。思わず頬が緩むのがわかった。

 しかし、久瀬が俺に対してわざわざ連絡してくるとは珍しい。少し疑問に思いながら、メッセージの内容を開いてみることにした。

 

 ―――会イタイ。

 

 書かれていた言葉は、ただそれだけだった。簡素で飾り気のない、その一文だけ。普段は騒がしいとすら評せる彼女から発せられたとはとても考えられない、凪いだ海のような、深い静けさを感じるメッセージだった。

 それだけに、この言葉の持つ重みが強く感じられた。生唾を飲み込むと、緊張で震える指を操り、返信の言葉を打ち込む。細かい事情を尋ねる勇気はなかった俺が紡げた言葉は、彼女に負けず劣らず簡素なものだった。

 

 ―――ワカッタ。ドコニ行ケバイイ?

 

 ……時間を尋ねることすらしなかったのは、我ながら悪手だったと思う。メッセージを送信した後に気づいた俺は、慌てて時間についても尋ねる旨の文を打ち始めた。そして送信ボタンに触れる直前、久瀬からの返信が返ってきた。

 

 ―――◯◯公園デ待ッテル

 

 ◯◯公園。島内唯一の、海沿いにある公園だ。潮風が香る良い場所だと思うし、待ち合わせにはピッタリだとも思う。それに、 あの久瀬(島中で人気な女の子)からのお誘いだ。何事もなければ舞い上がっていたかもしれない。

 だが、久瀬は昨晩の事件に巻き込まれていたかもしれないのだ。そんな状況である以上、とてもじゃないが素直に喜べなかった。

 このまま放っておけば、久瀬が何処か遠くに行ってしまうような気がする。そんな危うさを感じた俺は、急いで彼女へとメッセージを飛ばした。今すぐ公園へ向かって良いか、というものだ。即座に既読が付き、大丈夫だとの返事をもらう。家族に帰りが遅くなると連絡を入れ、俺は公園に向けて駆け出した。

 

 

☆☆☆

 

 学校から公園までは、徒歩で十分程度の時間がかかる。走れるだけ走ったこともあり、予想よりも早く辿り着くことができた。それまでの間に積乱雲が近づき、雨の匂いが漂い始めたが、そんなことはお構いなしだ。乱れた息を整えながら、公園に足を踏み入れる。

 ―――そして、ベンチに腰掛けている久瀬と、目が合った。

 

「良かった……。怪我とかしてるわけじゃなさそうだな……」

 

 普段通りの久瀬の姿を見て、ため息が一つと、安堵の言葉が口を衝いて出る。それを聞いたからか、彼女は眉間にシワを寄せた後、わずかに俯いた。

 ベンチの前まで近寄り、俯いた久瀬と目線の高さを合わせる。だが、俺が屈んだところで、目を伏せている彼女の表情を伺うことはできなかった。それはわかっていたが、身体が勝手に動いていた。彼女と同じ高さでモノを見れば、少しでも彼女に寄り添えると思ったから。

 続けて労りの言葉を紡ぐ。気の利いた言葉は溢れてこなかったが、少しでも彼女の心が軽くなってくれれば良いと思い、口を動かし続けた。

 ―――それでも彼女は、俯いたまま、身体を震わせるだけだった。

 

「……なぁ久瀬、なんとか言ってくれよ。何があったかはよくわからんが、俺でも相談くらいなら乗れるからさ」

「……じゃあ、ちょっと立ってくれる?」

 

 ……謎の要求だが、断る理由もない。返事と共に立ち上がると、久瀬も同様に立ち上がる。そして―――

 ―――そして、俺に抱きついてきた。

 

 「ちょっ、久瀬!?いきなり何を……」

「……ゴメン。もう少し、もう少しだけで良いから……このままでいさせて……」

 

 急に抱きつかれて慌てふためくも、肩を震わせながら力なく縋り付いてくる久瀬を見たことで、却って冷静になった。胸に伝わってくる熱い湿り気から、彼女の悲しみも感じられるようで、俺の胸中を悲しみとやるせない気持ちが支配してゆく。

 昨日、久瀬の身に何があったのだろうか。問い質したい気持ちをぐっと堪え、啜り泣く彼女を受け止め続けた。

 

 

☆☆☆☆

 

 しばらく泣き腫らしたことで幾分落ち着いた久瀬をベンチに座らせ、俺も隣に腰掛ける。少々続いた無言の間を破り、彼女がぽつり、ぽつりと言葉を紡ぎ出した。昨日の事件の真相について、である。

 ……軽率に聞くべきじゃ、なかったな。久瀬が妹さんをどれだけ大切にしていたのかを、俺はそれなりに知っているつもりだった。それなのに、妹さんを失ったばかりの彼女に、辛いことを話させてしまったのだ。……俺が、考えなしに放った一言のせいで。

 

「……ゴメン。辛いことを思い出させちゃったな……」

「ううん、あたしなりに受け止めたつもりだから。だから、もう大丈夫」

「それでも……。それでも、ゴメン……」

 

 自責の念が胸を締め付け、涙が零れそうになるが、グッと空を仰いで堪える。俺に、そんな資格はないから。泣きたいのは久瀬の方だ、何もかもを失った、彼女の方なハズだ。

 そんな俺を見かねてか、久瀬は薄く微笑むと、肩から俺にもたれかかってきた。思考が動揺一色に支配される。だがそのお陰で、零れかけた俺の涙は、完全に引っ込んでしまったようだ。

 

「落ち着いた?」

「あぁ、うん。なんとかな……」

「それじゃ、―――くんを呼んだ理由、聞いてくれるかな?」

 

 久瀬と密着したままなこともあり、内心落ち着かないまま生返事と共に首肯する。……そうだ、何か俺に用があったから呼んだんだよな。緊張感を高め、彼女の言葉を待った。

 ―――しかし、久瀬から発せられた言葉は、俺の想像を超えるものだった。

 

「あたしと一緒に、本土に行って欲しいんだ」

「……え?」

「あはは……まぁそうなるよね」

 

 苦笑を浮かべた久瀬曰く、妹さんを殺したやつに関する情報が欲しいから本土に行くつもりだそうだ。……俺はちょっと彼女のことをナメていたらしい。な、なんてアグレッシブな……。

 

「俺にお前のやること(本土行き)を止める権利なんかないけどさ、一応聞いとくぞ。……なんで、俺なんだ?」

「……あたしね、ずっと―――くんのこと、好きだったんだ。だから、これからも一緒にいて欲しいな、って」

「な……っ」

 

 絶句、ただただ絶句する。久瀬が、俺のことを?付き合いも一年と少しぐらいなのに?なぜだ?なんでだ?再び思考がパニックに染め上げられた。

 女の子から告白されるという夢のようなシチュエーションを前にした俺は、動揺のあまり言葉に窮する。

 ……その結果、一言の返事を呟くだけに留まった。それでも、それが今の俺の精一杯だったのである。

 

「……気持ちは、嬉しい」

「!……じゃあ!」

 

 ……喜色に染まる久瀬を見て、罪悪感が胸を駆け巡る。違うんだ、俺が言いたいことは……。噛み締めた唇から血が滲むのを感じながら、本題を告げる。……きっと、恨まれるだろうなぁ。

 

「でも、でも……。父さんや母さんを置いてこの島を離れることは……できない」

「……なんで」

「ゴメン……。許さないで、くれて良い……」

 

 深く、深く顔を伏せる。震えた声で縋り付いてくる久瀬を見る勇気が、俺にはなかったから。……彼女に頼れる人がいないことは、知っている。守りたかった人がもういないことも、知っている。それでも、家族や島での生活を捨ててまで、彼女に付いて行くことは選べなかった。

 

「……嫌だ。もう、一人は……嫌だよ」

「久瀬……」

 

 震えながら涙を流す久瀬に、一体なんと言えば良かったのだろう。答えが見つからないまま、重苦しい時間だけがどんよりと過ぎていった。

 空から広がる雷の匂いと、肩口に寄り添う久瀬の香りが鼻腔をくすぐる。雨に降られる前に、雨宿りできる場所に身を移したいものだ。

 ……今の俺にできたことは、目の前の現実から目を背け、これから先のことに思いを馳せることだけだった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 心身ともに弱りきっている久瀬を、そのままにしておくことなどできるはずもない。彼女を落ち着かせた後、一旦自宅まで招くことにした。今の彼女はきっと、人の温もりに飢えているのだろう。俺だけじゃ足りないのなら、俺の両親とでも話して心を癒して欲しかった。

 ……両親からは、久瀬(島中の人気者)を連れて帰ったことをひどく驚かれたが、まぁ仕方のないことだと思う。俺には今まで浮ついた話の一つもなかったのだから。

 だが、息子に春が来た、なんて喜ばないで欲しい。俺は、久瀬をフッている立場なのだから。そんなことを言われたのでは、ますます彼女が居た堪れないだろうに。

 

「ゴメンな、久瀬。ウチの父さんと母さんが……」

「ううん、嫌じゃないよ。でも、ここまで喜んでくれてるなら……ホントに付き合ってから来たかったなぁ」

 

 ぐさり。久瀬の一言が、俺の胸を深く抉る。うぅ、罪悪感でどうにかなりそうだ……。その挙句、彼女に気を遣わせてフォローまでさせたのだから、なんと情けないことか。

 無理やり作った笑顔で冗談だと言わせてしまったことに、ひどく胸が揺さぶられる。久瀬の沈んだ声が鼓膜を揺らすたび、俺なんかよりもずっと傷付いているハズの彼女が思い起こされ、心がずっしりと重くなった。……沈黙が支配する空間が憎い。心からそう思ったのは、人生で初めてかもしれない。

 二人して大きく落ち込んだ後、今日は早く寝る運びとなった。大して整理されてない俺の自室を適当に片付け、久瀬の分の布団を敷く。女の子の隣で眠るという初めての経験に、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。

 

「……ねぇ、まだ起きてる?」

「うん……。なんか、眠れなくてさ」

「あたしも、そうなんだ……」

 

 横這いになったまま、久瀬が腕を伸ばしてくる。彼女の腕が優しく俺の腕を掴むと、そのまま両腕で抱きかかえられた。……彼女の胸に押し当てられた腕から、彼女の鼓動が伝わってくる。緊張しているのか、彼女のそれは熱く、激しかった。

 

「やっぱり……一緒に来て、くれないの?」

「……ゴメン」

「そっか……。そう、だよね……」

 

 悲しみを押し殺したような久瀬の声が、俺の胸を掻き乱す。……俺に、どうしろっていうんだ。彼女を放っておくのは嫌だが、家族を捨てることも選べない。迷いに揺れる心が、ひどく歯痒かった。

 

「……なら、せめて……シよう?」

「……良いのか?俺は、お前には付いて行けないのに……」

「うん……。―――くんには、あたしのことを忘れないでいて欲しいから……」

 

 もぞりと布団から抜け出し、久瀬と抱き合う。必ずやってくる別れを思うと、二人して涙が流れていた。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 俺の背には、久瀬の爪痕が残っている。離れたくないと言ってくれた、彼女の痕が残っている。いつか彼女が帰ってくる場所になると誓い、俺は彼女を見送った。別れの際には、涙は流れなかった。

 

―――久瀬の乗る船が見えなくなってから、振り続けていた手を下し、空を仰ぐ。温かい雨が頬を濡らした。

 久瀬が泣いてないことを祈りながら、踵を返す。俺にできることは、いつか彼女が帰ってくる日常を保つことだけだ。胸に残る罪悪感と無力感が、ひどく鬱陶しかった。




雷の匂いがして 雲が動きだす
どんなことが起きたって 不思議じゃないよ

ふみ出した大きな一歩に 後悔はしないけど
この先に何が待ち受ける ビビっているけど
だれにも言えねぇ
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