リリカルヤンデル短編集   作:コミュニ爺

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こんにちは、コミュニ爺です。今回は前話のはやてちゃん視点のお話になります。といっても、今までと同様に回想が多めですけど…。

まぁやはりというかなんというか、キャラクターの内面解釈が異なる場合や、誤字脱字などがあれば、お気軽に報告していただけると幸いです。
それではどうぞ。


『ひとしずくのアナタ』Side:八神はやて

―――お父さんと、お母さんが死んじゃって、もう何年になるだろうか。

 

私がうんと小さい頃に、お父さんとお母さんは亡くなってしまった。それからはお父さんたちのお友達らしい、グレアムっておじさんが私の生活の面倒を見てくれている。その人も忙しいらしいから、一緒に暮らしているわけではないけれど。

だから、私はひとりで暮らしている。家政夫さんを雇ってもらったこともあったけど、結局夜をひとりで過ごすことに変わりはなく、かえって寂しくなるからと言って一人暮らしすることを認めてもらった。

だから、家事を一通りこなせるようになるまで、たくさん練習をした。必要なものの買い出しだって、もうひとりで立派にできるようになった。自分で言うのもなんだけど、とてもしっかりした子どもだと思う。それでも…それでもやっぱり―――。

 

『どうして私には、お父さんやお母さんがおらへんのやろ…?』

 

寂しいと想う夜は、何度も、何度も訪れた。その度に私は頬を濡らし、枕に顔を埋めながら朝を待った。

そんな頃だ。悲しみを堪えるだけだった私に、転機が訪れる。それは、お兄さんとの出会いだった。

 

☆☆

ある日の午後6時、夕食の準備を終えた私の耳にインターホンが鳴り響いた。こんな時間に一体何事だろうか。インターホンの受話器に向かいながら、ふと思案する。私に用事がある人というのは、正直なところあまり思いつかない。学校にも行けていないし、知り合いもそこまで多くないからだ。だから、インターホン越しに要件を尋ねる時、少しだけ怖かった。

 

『すみませーん、―――でーす。母が晩ごはん作りすぎちゃったんで、お裾分けに来ました〜』

 

これがお兄さんとの出会い。その優しげな声に、怖いという気持ちは少しずつ薄れていった。

 

『どうも、ありがとうございます〜。―――さんって、確かウチのご近所の方ですよね?すみません、わざわざ…』

『あぁ、いいよいいよ、気にしなくて…。僕も母さんから頼まれて持って来ただけだからね』

『えっ?』

『…うーん、イヤな気持ちにさせるようで悪いんだけど…。君、足が悪いんだろ?子どもの一人暮らしってだけでも大変なのに、ほっとけないんだってさ。それで僕が来たってわけ』

 

あっけらかんとした態度とかなりストレートな物言いに対し、正直なところ少し頭にきたが、お裾分けしてもらった料理はありがたくいただくことにする。明日のお昼にでも食べよう。

お兄さんにお礼を告げて別れた後、晩ごはんを食べることにした。そのご飯はいつもに比べ、少しだけ美味しいような気がした。私のことを気遣ってくれる人がいたことが、嬉しかったからかもしれない。

 

その日の夜は、ぐっすりとよく眠れた。寂しいという気持ちが、ちょっとだけ落ち着いていたからかな。

 

☆☆☆

その翌日のことだ。同じ頃の時間に、またお兄さんが尋ねてきてくれた。

 

『こんばんは、八神さん。昨日の肉じゃが、どうだった?口に合ったかな』

『あっ、―――さん。美味しかったですよ、肉じゃが。ホンマに、ホンマに…ありがとう、ございます』

『そっか、それは良かったよ。母さんにも伝えとくね。あと、昨日のタッパを返してもらえると嬉しいんだけど…』

『は、はい!すぐ持ってきまーす!』

『あっ、いいよ急がなくて。急かしてるわけじゃないからさ』

 

お兄さんの声を受けながら、昨日もらった肉じゃがの容器を準備する。お兄さんに伝えたとおり、本当に美味しかった。美味しくて、嬉しくて、思わず涙がこぼれてしまったほどに。

 

―――私にもお母さんがいたら、あんなご飯を毎日食べられたのかな…。

 

頭をよぎる暗い考えを振り払う。善意でくれたものを妬むなんて、最低だから。

玄関にたどり着いた私は、お兄さんに容器を渡し、お礼の言葉を再び。私の顔は、しっかり笑えていただろうか?暗い考えに引っ張られていないだろうか?出会ったばかりだと言うのに、お兄さんたちに嫌われたくないと思う気持ちが強くなっている。そのことに自分のことながら驚いた。単純すぎるぞ、私…。

 

『あぁ、そうそう。もし君がよかったら、なんだけど…。明日もなにかご飯持ってこようか?そんだけ喜んでくれたなら、きっと母さんも腕を振るってくれるさ』

『え…!?き…気持ちは嬉しいですけど…流石に悪いですわぁ…』

『いいっていいって。君のことはウチの両親とも心配してたからさ。嫌とは言わないと思うよ、絶対』

『あの…迷惑じゃなければ…その…また、お願いします』

『あいよ〜。ま、楽しみにしててくれよな。それじゃ、また』

 

ひらひらと手を振って去っていくお兄さんを見送り、明日に思いを馳せる。また会おう、という言葉がこれ程嬉しいものだと感じたのは、初めてのことだった。私はひとりじゃないと思えたから。その晩も、私は安らかな気持ちで眠ることができた。

 

―――私は、ひとりじゃないんだ。あぁ、明日が楽しみだなぁ。

 

☆☆☆☆

それから、私の毎日は少し温かいものになった。時々お兄さんがお裾分けを持ってきてくれて、お礼のお手紙を書いて翌日に渡す。その際の少しのおしゃべりが、ささやかな楽しみになっていた。病院の先生たちとはまた違った付き合いで、新鮮だったように思う。

だけど、未だにお兄さんから微妙に距離を感じることがある。私は彼を本当の家族のように思っているのに、いつまで経ってもご近所のひとりとしてしか扱ってくれないのだ。お手紙や彼との世間話で、たまにはウチに寄ってゆっくりして欲しいとは伝えている。それでもお兄さんはやんわりと断り、すぐに立ち去ってしまう。ひとりでいるのは寂しいから、一緒にいて欲しいのだが…。

 

『なぁなぁお兄さ〜ん、たまにはウチでご飯食べてってーな。いつものお返しや〜』

『えー?そりゃ流石に悪いよ。子どもが気を使うんじゃないの』

『むぅ…お兄さんだってまだ高校生のくせに〜』

『少なくとも、君よりは大人だよ…』

 

予想通り、すげなく断られてしまう。だけど、今日は秘策があるのだ。図書館で見つけた、男の子をイチコロにする必殺技が…!ここで使うしかないっ!

 

『―――気を使うてるんやなくて、たまには一緒にご飯食べたいんや…。ダメ、ですか?』

『うぐっ、断りづらい…』

『なっ、お兄さん…お・ね・が・い♡』

『―――分かったよ。親に電話するから、電話貸してくれ』

『…!うん、うん!もちろんや!』

 

嬉しさのあまり、大げさに体が動いてしまう。誰かと食べるご飯なんていつぶりだろうか。誰かを家に上げるなんて、いつぶりだろうか。電話をかけているお兄さんを見つめながら、夕食をよそう。あぁ、今日は本当に幸せだ。

 

『『いただきます』』

 

誰かと一緒にいただきますを言うことが、これほど嬉しいのだと、初めて気がついた。

 

『ごちそうさまでした…すごいな、はやてちゃん(・・・・・・)は。僕が君くらいの時なんて、料理とかロクに作ったこともなかったよ…』

『あはは、照れますわぁ』

『いや、マジにすごいね。下手しなくとも僕よりずっと上手だ』

『あはは…。お、お兄さん…流石に恥ずかしいわ…』

『そうか?すごいことだと思うけどなぁ…自信持っていいと思うよ』

『お、おおきに…』

 

褒められて赤くなったであろう顔を隠しつつ、一緒に洗い片付けをする。使った食器は多いけど、ふたりで分担した分いつもより早く終わった。なにより、お兄さんが私の作った料理を美味しいと言ってくれたから、片付ける時まで楽しかったのだ。元々料理は数少ない趣味だったけれど、お兄さんに喜んでもらえたからか、どこか充足感を感じた。願わくば、毎日こんな風に過ごしたいものだ。

 

『んじゃ、僕はそろそろ帰るよ。長居しても申し訳ないしね』

『そ、そんなことあらへん!むしろずっと居てくれても…』

『こらこら、軽はずみにそんな事言わないの。男は狼だ〜!って、昔から言うだろ?まぁ家に上がってる時点で今更か…』

『むぅ…お兄さんだから(・・・・・・・)良いのに…』

『ハハハ、そりゃ光栄だ。じゃ、またね、はやてちゃん。本読むのも良いけど、あんまり夜ふかしし過ぎんなよ〜』

『もう、いけずやなぁ…お兄さんは…』

『はは、冗談だよ、冗談…。―――ご飯、美味しかったよ。また機会があればご馳走してくれよな。それじゃ、また…』

 

足早に去っていくお兄さんを見送りながら、ひとつ思う。お兄さんは、ずるい人だ。こっちが言われて嬉しい言葉を的確に伝えてくるのだから。しかも無意識にやっているみたいだから、尚のこと性質(たち)が悪い。でも、そんなお兄さんのことが、どうしようもなく好きだった。彼と何気なく過ごす時間が、好きだった。

 

そんな日も、唐突に終わりを迎えることになる。9歳になった6月4日、私の新しい家族(ヴォルケンリッター)と出会ったからだ。

 

それ以降、お兄さんが私の家にやってくる機会は、めっきり減ってしまう。家族や友達が増えた代わりに、私は一抹の寂しさを抱えることになった。

 

☆☆☆☆☆

闇の書事件が解決してしばらく経ち、私は久しぶりにお兄さんと会った。お兄さんは、私の足が完治していたことに驚きつつも、それを喜んでくれた。

 

『足、治ったんだね。良かったな…はやてちゃん。本当に、良かった…』

『おおきにな、お兄さん…』

『外国の親戚がホームステイしてるって聞いた時はちょっと驚いたけど…元気にやってるようで何よりだよ』

『そうそう、みんなえぇ子なんですわ。良かったらお兄さんも―――』

『悪いが遠慮しとくよ。部外者(・・・)が家族の団らんに混じるなんて忍びないしね』

 

―――え?なんで?どうして?

困惑し、呆然とする私をよそに、お兄さんは続けた。

 

―――はやてちゃんも、家族と居る方が気を使わなくていいだろ?

その言葉は、私の心をひどく傷つけた。お兄さんから見れば、私はどこまで行っても他人(・・)なのだと、そう思い知らされたから。なんとかその場は取り繕い、お兄さんに背を向けて駆け出す。彼には泣き面を見られたくなかった。常に他人との距離を保ち、ドライな一面があるとはいえ、優しいお兄さんを傷つけてしまうような真似はできなかったからだ。

その晩、私は自室でひとり枕を濡らした。

 

☆☆☆☆☆☆

それからだ。私がお兄さんに多くを望まなくなったのは。ただ、私のことを心の隅に留めておいてくれれば良いのだと、思うようになった。悲しいと思うし、寂しいとも思う。だけど、それで良い。良いのだ。私は彼を家族のように思っているが、独りよがりになってしまっていては、意味がないから。まあ、流石に"ただのご近所"だと言われた時はムキになって否定してしまったけれど…。

それに、ミッドチルダに移住することが決まった以上、この気持ちにケリはつけておきたい。初めてお裾分けをしてもらった料理と同じ肉じゃがを作り、彼の家へと向かう。お義父さんやお義母さんとは、すぐに仲良くなることができた。それもそのはず、町中で何度か顔を合わせたり、お兄さんに頼んでお礼のお手紙を渡してもらっていたのだから。

お兄さんの帰りを待つ間に、海鳴市を離れること、彼を愛していること、そしてそれを彼に伝えようと思っていることをお義父さんとお義母さんに伝える。当然驚かれたが、私の決意を悟ってくれたお義母さんが、優しく背中を擦ってくれた。お義父さんも、息子をよろしく頼む、と言ってくれた。嬉しさのあまり嗚咽が漏れるが、それを咎められることもない。ひとしきり感謝の言葉を伝えた後、私の気持ちをお兄さんにそれとなく伝えるよう、ふたりに根回しをしておく。この気持ちが報われなくとも、せめて彼には忘れないでいて欲しいから。お義父さんもお義母さんも、二つ返事で了承してくれた。あとは彼を待つのみである。あぁ、早く帰ってこないかなぁ。

 

☆☆☆☆☆☆☆

それからの数年は、まさしく激動の日々だったと言えよう。管理局では年齢に不相応な地位に上り詰めたものの、その分毎日が忙しく、海鳴に帰ることはあまりなかった。だがエアメールの体を取ってお兄さんには何度も連絡をしたので、まぁ良しとしよう。都度送ってくれた返信のお手紙は、一枚と漏らさず手元に残してある、宝物だ。

さて、JS事件の事後処理にも一段落つき、珍しくまとまった休みが取れた。なかなかない機会だし、彼に会っておきたい。ずっと手紙越しでしかやり取りしていなかったから少々緊張するが、ちょっとしたサプライズだ。喜んでくれると良いが。

 

「久々の海鳴やなぁ…待っててや、お兄さん♡」

 

彼に喜んでもらえるだろうか。綺麗になったね、なんて言ってくれるだろうか。…ちょっとくらい、期待してもいいだろうか?私は再会に胸を躍らせ、歩を進めた。

 

☆☆☆☆☆☆☆☆

この日、八神はやてに家族がひとり増えました。間柄は…エヘヘ♡




時間がどんなことでも きれいにしてくれるの?
風にふかれるうちに 楽になったような気がしたんだ

恋とは 互いを根こそぎ奪う戦い
そして今 湧きあがる新しい欲望

ひとしずくのアナタでいい ください
それで僕は無限にうるおう
朝でも昼でも夜でもいい
待ってますよなんて言わないから
ひとしずくの想いでいい 今は
与えあえるなら それは最強のpeace
壊れそうで壊れないダイアモンド
胸に秘めて今宵も目を閉じよう
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