リリカルヤンデル短編集   作:コミュニ爺

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どうも皆さんこんにちは、コミュニ爺です。
今回はギン姉編となっています。最初はもっと精神的な病みだけだったはずなのに、どうしてこうなった…。

サブタイは心の奥底の気持ちは完全には分かり合えないが、それでも分かり合えるところを見つけて、それを尊重しようぜ、って感じです。若干一名が都合よく爆走してますけど。

今回のオリ主の詳細をば
年齢:一応ギン姉よりちょっと年上想定です。3つ4つ上くらい?
名前、外見:例によって皆さんのご想像におまかせします。


『MY LONELY TOWN』Case:ギンガ・ナカジマ

吾輩は格闘者である。名前はまだない―――ごめんなさい、嘘です…ッ!

かろうじて右のフックを防ぐ。彼女(・・)とのスパーリング中にンなこと考えてる余裕はないのだ、ないったらない。

 

「うおっ!」

 

飛んできた右回し蹴りを左腕で受ける。反射的に防ぐことができたが、相変わらず重たい蹴りだ。だが今ので彼女の呼吸は乱れたので、攻めを続けることは難しいだろう。彼女が足を戻し切る前に、右の拳打を打ち込む。思った通り防がれるが、これで攻撃のペースはこちらが掴めた。だが、彼女の防御は巧い。それをこじ開けねば俺に勝機はない…!

左のジャブを二発、しかし受け止められる。

続けて右のロー、これもレガースで受けられる。

右のミドル…と見せかけてロー、なんとか決まる。

右の上段突き…と見せかけてロー、これも決まる。

彼女の体制が崩れた!ここで決めるっ!裂帛の気合を込め、左の手刀を打ち下ろす!もらったあっ!!

 

―――メシリ、と嫌な音が響く。肩口を狙ったハズの手刀は、彼女の右腕に阻まれたからだ。手刀が着弾した箇所が赤く染まる。あちらも相当な痛手であろうが、この機を逃したのはあまりに痛い。思わず顔をしかめる俺の耳へ、彼女の凛とした声が響いてきた。

 

「―――一撃、必倒ォオッ!」

 

鳩尾へ、左拳の一撃。ハンマーで殴られたかのような衝撃に、たまらず膝を折る。嘔吐しそうになるのを気合で押し留め、かろうじて立ち上がる。しかし、既に彼女はその左肘を天高く掲げていた。

 

「―――ぜえいっ!」

 

打ち下ろされる、脳天への強い衝撃。そのまま地面に叩き伏せられると同時に、俺は意識を手放した。くそ、また、負けた…。

 

☆☆

覚醒し、上体を起こす。どうやら医務室のベッドの上のようだ。これまでにも何度となく訪れた場所なので、すぐに分かった。できればあまり縁がないようにしたいんだがなぁ…。

 

「あっ、目が覚めました?」

 

小柄ながら、優れたプロポーション。凛々しさと美しさを感じさせる長い紫髪。そこには女神―――なんていうのは大げさだと怒られるかもしれない―――がいた。ギンガ・ナカジマさんである。

 

「えぇ、ついさっき…今回も完敗でした…くそぅ」

「そんなことないですよ、私の方もギリギリの試合でした」

「…一撃でひっくり返してる身で言っても説得力薄いぞ〜」

 

俺の負け惜しみに、彼女は頬をかきながら苦笑いを浮かべる。違う、俺が言いたかったのはこんなんじゃない。こんなセコい言葉じゃ…。

自己嫌悪に沈んだ俺を見かねて、ナカジマさんが慌ててフォローを重ねてくれた。彼女の優しさは素晴らしい美点だと常々思うが、今の俺にとっては逆効果でしかないらしい。一向に心が沈んだままだ。思いを伝えたい相手(・・・・・・・・・)にこのザマとは情けない。

 

―――こんな醜い思いを、彼女に伝えるわけにはいかない。

 

彼女と出会って、俺の人生は一変したように思う。それまでなんとなく続けていただけの格闘技に、本腰を入れて取り組むようになった。彼女に勝ちたかったから。強く、優しい心を持つ、彼女のようになりたかったから。

だが形だけをなぞっても、彼女に追いつける気がしない。ここ最近の手合わせでも、成長したという実感をまるで感じられないのだ。今回のスパーリングに手応えを感じられなかったことで、決心がついた。

 

―――もう一度、師匠に鍛え直してもらおう。

 

「…ナカジマさん、私事で申し訳ないんですけど」

「なんでしょうか?」

「俺、今月でこのジムを辞めます」

「え…?」

 

呆然とする彼女を見て、この人でもこんな顔をするんだな、と呑気な感想が浮かぶ。だが、吐いた唾は飲めない。俺は前々から練っていた計画を彼女に伝えた。自分でも驚くほど冷静に言葉にすることができた。

 

「俺、ナカジマさんに憧れてたんです。あんな風に強く、優しくなりたいって」

「だ…だったら!だったらここでだってできるじゃないですか!!」

「違う、違うんだ…それじゃダメなんだよ…」

「なにがダメなんですか!?」

「…俺は、あなたに出会って変われたんです。だから、あなたに恥じないよう、心身共にもっと強くなりたい。だから―――」

 

―――師匠のもとで鍛え直して、また出直してきます。いつの日かこの街に戻ってきますから、その時はまた、手合わせをお願いします。

 

そう告げると、彼女は力なくくずおれた。罪悪感が胸を締め付けるが、許してくれ、などと言う資格はない。甘んじて受け止めよう。彼女の方を見ることができなかった俺は、医務室の窓を仰ぐ。日が沈みつつあり、夜の帳が下りようとしていた。傷つけてしまった彼女への罪悪感が黒々と胸中を占めている、今の俺にぴったりな空だった。

 

☆☆☆

ジムの会長にも話をつけた。これからは会員の皆にも挨拶をして回ろうと思う。

 

『人間関係は、礼に始まり礼に終わる』

 

師匠から何度となく聞いた言葉だ。これまで世話になった皆に筋を通しておきたかった俺は、急な話であることを申し訳なく思いつつも事情を伝えた。皆が惜しんでくれたことを嬉しく思うと同時に、自分だけの都合でここを去る俺自身を心底情けなく思った。

 

ギンガさん(・・・・・)…いつか俺は、あなたと…」

 

この街での最後の日、眠れなかった俺は明け方の公園で時間を潰していた。思わず口をついてでた一言で彼女のことが頭をよぎるが、頭を振ってごまかす。この気持ちを伝えるのは、彼女に正々堂々と勝ってからだと決めたじゃないか。しばらく会えないことへの未練が重くのしかかってくるが、一度決めたことをそう簡単に反故にするのでは男が廃る。決意を新たに、俺は街を出て行く―――

 

「―――待ってください。最後に、お手合わせ願います」

 

歩みが止まる。振り返ると、そこには彼女が立っていた。俺が憧れた人で、ついぞ一度も勝てなかった人。そして、いつか伝えたい思いがある人―――ギンガ・ナカジマが、拳を構え、立っていた。

 

「私も…どうしても伝えたいことがあるんです。私が勝ったら、聞いて…くれませんか?」

「ナカジマさん…大事な話なら、別に手合わせしなくたって聞きますよ?」

「それじゃダメなんです…言葉だけじゃ、きっと伝わらないと思うから」

 

惚れた人に悲しい(そんな)顔をして欲しくはない。深呼吸を一つして、意識を切り替える。了承の意を伝えこちらも身構えると、彼女は小さく礼の言葉をつぶやいた。

風が一陣、目の前をよぎり、張り詰めた空気が広がる。互いに継ぎ脚で歩を進めていく。少しずつ互いの距離が縮まるこの感覚につられて、俺の身にも緊張が走る。間合いが、重なった。

彼女の前蹴りを受ける。一歩詰めて、左のジャブを繰り出すが、当然捌かれる。左のローもスネでカットされる。

―――その隙を見逃す彼女ではない。拳打の嵐が、俺の身体を穿った。的確に弱所を射抜いてくるそれを完璧に防ぐことはできず、苦悶の息が漏れる。モロに入ったのは二発、されど二発だ。彼女の細腕の一体どこに、これほどのパワーがあるのだろうか。

だが、このままやられるだけの俺じゃない。連打の一瞬の切れ目を狙い、前蹴りで距離を離す。密着したままではこちらが圧倒的に不利だからだ。なんとか呼吸を整え、彼女を見据える。今まで幾度となく行ってきたスパーリングと同じようなものだ。ただひとつ気がかりなのは、彼女の顔つきがいつもと異なること。普段の真剣な顔つきではなく、上気した顔で、どこか恍惚としたような表情を浮かべていた。あまりの違いに不審に思っていると、彼女が不意に口を開いた。

 

「―――あぁ…たまりません」

 

蕩けきった瞳と、切なげな声色。思わずあっけにとられたが、なにがたまらないのか尋ねてみることにした。

 

「こうしてあなたと拳をぶつけ合うことが、ですよ。肉が弾ける感覚と、体を走る痛みが、どうしようもなく好きなんです。そして、これからも―――」

 

―――あなたの苦しむ姿を…ずっとずっと見ていたかったのに…。

 

至極残念そうに告げた彼女に恐怖を覚えた。確かに彼女の言う通り、拳をぶつけ合うことに興奮を覚えたことがないと言うと嘘になる。自分の体や技が磨かれていく感覚を覚えるには、向き合ってくれる相手が必要不可欠だからだ。だが、彼女の言うそれのニュアンスは明らかに違う。技を極めるとか、肉体を強くするとか、そういったことではない。より本能の深いところで疼いているナニカ(・・・)が愛おしくて仕方ないという口ぶりだった。

 

「―――あなたに嫌われたくないから、ずっと我慢して隠してきたんですよ?あなたにもらった打撃(痛み)で体が疼く夜は、自分を慰めたりもしました」

「な、なにを…」

「あなたと拳を交わしている時だけ、私の中が熱くなるんです。殴られる(イタい)のも、極められる(クルしい)のも、傷つけ合う(キモチいい)のも…あなたのじゃないとダメなんです」

 

もう、わけがわからない。頭がどうにかなりそうだ。今まで彼女のことを強く、優しい人だと思っていた俺は、間違っていたのか?彼女の優しさに惹かれていたのだと思っていたが、全部嘘だったのか?好きだの惚れただの思っていた彼女のことを、俺は本当の意味で理解できていなかったのか…?

心が打ちのめされる。呆然としていた俺は、たまらずくずおれた。膝に力が入らず、立ち上がることもできない。

―――そんな俺を肉欲に濡れた瞳で見つめながら、彼女は上擦った声で続けた。

 

「―――あぁ…そうやって弱ってる姿も素敵ですよ♡」

「ぎ…ギンガ…さん…?」

「いつもと違って体より心が傷ついているあなたも、これはこれでイイかも…」

 

―――なぜだ?何が彼女をこうさせてしまった?

―――俺が、変えてしまったのか?俺のせいなのか…?

 

「う…うおおうあ―――っ!」

 

まとまらない思考を切り捨て、雄叫びを上げる。よろよろと立ちがり、拳を握った。フラつく体をごまかして、そのまま拳を振るう。今はただ、コレが悪い夢なのだと思いたかった。無秩序に振るった拳は、彼女の頬に吸い込まれていく。技術もへったくれもない、パンチとも呼べない何か。鈍い音と重い不快感だけが、俺の腕に残った。

 

「…痛い、です」

「―――あ…違っ、そんな…そんなつもりじゃ…」

「でも…ダメダメですよ?こんなのじゃ、全然キモチよくありませんし」

 

今ので口内が切れたのだろう。唇にわずか滴る血を舐め取りながら、彼女は残念そうに告げた。

 

「いつものあなたならもっとイタく、キモチよくしてくれるのに…ガッカリです」

「ご…ごめん…」

 

思わず謝ってしまった俺の頭を優しく抱きしめ、引き寄せると、子どもに言い聞かせるように彼女は小さくつぶやいた。

 

「―――だから、お手本を見せてあげますね?」

 

言うが早いか、彼女の膝が俺のみぞおちを捉えた。突然のことにガードなど間に合わない。激痛に喘ぎ、苦悶の声を上げる俺を押し倒すと、彼女は切なげな声を上げた。

 

「どうですか?ただ闇雲に暴力を振るわれるより、鋭く磨き上げた打撃の方がキモチいいでしょう?」

「―――ッ!」

「! そうですよね!分かってくれますよね!」

 

俺の苦しんでいる声を聞いて、彼女は突飛な方向に思考を飛ばしたらしい。その満面の笑顔は、いつか、真っ当な方法で拝んでみたかったのに。

気を良くした彼女は自身のズボンを下ろし、俺のシャツをめくりあげると、俺の体に跨ってきた。彼女の柔肌と温もり、そして下着越しに謎の熱を感じる。

 

「ほら…私もうこんなに濡れてきちゃいました…♡」

「や…めろ…こんなこと、もう…」

「うふふ…ダーメ♡私のパンチ(気持ち)…受け取ってください♡」

 

彼女が左拳を構えたと同時、俺の顔面が抉られる。意識を手放す寸前に見えた彼女の瞳は、金色に変わっているように見えた。

 

☆☆☆☆

ミッドチルダ某所にて、時空管理局・陸士108部隊所属のギンガ・ナカジマ捜査官が何度も足を運ぶ姿が確認されている。その際の彼女の表情は普段のものとは違い緩みきっているが、そこに何があるのか、何の目的で足繁く通っているのかを知る者は、誰もいない―――ただ一人を除いて。

 

「―――月の照らす下であなたと会えるなら、それは…素晴らしい事件だとは思いませんか?」

 

恍惚とした笑顔と拳を向けられ、涙を流す男が一人。彼だけが知っているこの真実を公にすることは、もう誰にもできなくなっていた。

 

―――人はバラバラな生き物だというのなら、彼が離れていくのなら、縛って閉じ込めてしまえば良い。

 

彼女は、変わっていない。善良で、強く優しい…そんな人間だ。ただ、出会ってしまっただけだ。何もかも見せあえる、もう一人の自分と。そう思えてしまった男(・・・・・・・・)と。

これからも、彼女は彼を貪るだろう。昂ぶる衝動のまま、苦痛を、快楽を与え続けるだろう。そして、かつて愛していると思えた女性の変貌に、彼の心は壊れてしまうだろう。

 

かつて望んだ場所に立てても、彼は幸せなどではなかった。変にこだわらず、ありのままの気持ちを伝えていたら、こんなことにはならなかったのではないか。後悔がまたひとつ、彼の頬を濡らした。




明かりの下に集まったなら
笑い語り合う仲間
でもきっと 誰も互いのことを
わかりあうのは不可能

人はバラバラな生き物
それを忘れちゃいけない

ひとりずつみんな 歩いてるこの街で
いつの日か あなたと
会えるなら それは 素晴らしい事件
月の照らす My Lonely Town
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