今日もブラックマーケットは平和です。 作:ドカキモス
鳴り止まない喧騒。終息を知らない暴力。違法物の売買は当然のように行われており、コンビニと同じ感覚で犯罪者とすれ違える場所、そんな反抗期のディ○ニーランドことブラックマーケットに私はいつものようにパトロールのため訪れては……
「今日もブラックマーケットは平和だ!」
そう、高らかに声を上げていた。
◇
……まぁ、こんなのが平和なわけないんだけどね?
私は2秒で梯子を外した。
いや、別に自覚が無いわけじゃないんだよ。ただこれが日常風景すぎるっていうか、相対的に見て平和?みたいな?だいたい問題起こすメンツも代わり映えしないし、若干飽きがやってきたというか…………あ、わ、私が対処できる分にはいいんだけどね!?
危うく闘争を求めるバトルジャンキーのような思考に染まってきているが、実際のところ私が行っているのは人助けのようなものである。具体的に言うと、ブラックマーケットの案内人、かな?どうやら裏でそう呼ばれてるらしいんだよね、私。
一年前の今頃、高校に所属もせずクソニートを謳歌していた私はとっても暇をしていた。それはもうほんとに暇をしていた。どれくらい暇をしていたかって、人口が4桁いるかいないか分からないクソゲーのスコアランキングTOP10を全て自分の名前で埋めるくらいには暇をしていた。
しかしふと、5つ目のクソゲーのランキングを完全制覇した辺りで思ったのだ。いい加減太陽の光でも浴びないと、身体が部屋の机の上に置いてある緑色のショートケーキのようになってしまうと。
そうして始めた趣味がブラックマーケットの巡回である。理由は色々あるけど、一番は退屈しなさそうだから。
だってこんな明らかな治外法権、問題が起きないはずがないじゃないか!
もちろんそれは予測通りで、もう通い始めた頃はとってもとっても酷かった!
一番怖かったのは集落の人達が全員で1つの豆腐に土下座してた場面を目撃した時だったな。豆腐のヒエラルキーが頂点に立ってるの初めて見たから。豆腐に命でも救われたのかなぁ。わざわざ椅子に座らせてたし。……あ、過程は聞かれても分からないよ。そんなの私だって知りたいんだから。
とまぁ、こんな感じでなんかめっちゃ常識外の状況にぽんぽこでくわせる楽しい場所として通いつめてたんだ。その過程でキチパークに迷い込んだ学生を安全な場所まで送ってあげたりしてたから、いつの間にかブラックマーケットの住民には案内人だなんて呼ばれるようにはなっていたんだけど。
でも最初に言った通り、慣れてきちゃったというか、若干マンネリ化のようなものが湧いてきてしまって……。
今だって目の前でトーテムポールにマイクロビキニを被せながら豆腐を食べてる人が居るけど、大して何も思わなくなってきたし。というか豆腐食べてるから例の集落の人だし。なんならこの辺りで豆腐を見すぎて最近それ自体を見るのも嫌にうわこっち見てきた!声出してないのに!なんなんだよあの集落の奴ら!!!
……い、いや若干面白かったけど、それでもこういうのが稀有な状況にはなってしまっていて。まぁその、退屈をしのげる何かを定期的に供給してくれる人やら物やらに飢えているのですよ、私は。
路上で寝ている女子生徒のスカートをこっそり覗こうとしている住民を壁にめり込ませながらボヤいてはいるが……。
「そんな都合のいいことが起きるはずもないかぁ……」
クソゲーに時間吸われるよりはマシだなと、自己完結し巡回を続けていると、正面からこちらに向かって走ってきている人影…………人だよね?あれ。なんかめっちゃ翼生えてるけど流石に、影かかってよく見えてはないけどさ。いやでもなんか不規則に11対くらい生えてるんだよなぁ……大小違うし……Z軸狂ってるし……。
頭を悩ませながら品種改良に失敗し生まれてしまった悲しきキメラを観察していると、近づくにつれそれが沢山の鳥のぬいぐるみを抱えている学生ということが分かった。
キメラじゃないのは少し残念だけど、何かから慌てて逃げているような様子だし、またいつもみたいに迷い込んじゃった学生の子かなぁ。とりあえず助けてあげよう。
鳥キメラの姿がより鮮明になると、その後ろにヘルメットを被っている不良のような見た目の学生が3人ほど追いかけていることに気づいた。
んー、十中八九お金目当ての犯行かな。逃げてる子の制服、トリニティだし。……トリニティかぁ。
少し杞憂はあるけど、見捨てるのは違うし。さくっと安全な場所に送り出してやりますか!
「わぁぁぁぁ!!!付いてこないでくださいー!!!」
「じゃあトリニティの制服でこんなとこにくるんじゃねぇ!」
「安全に買い物したいなら身分くらい隠しやがれ!」
「うわーーーん!!! 正論ですー!!!」
コントでもしてんのかな。
「わわわっ、そこどいてくださ……い……?」
私は勢いのまま突っ込んできた鳥キメラちゃんを受け流すように近くの壁に寄りかかせた。そしてそのまま正面を切ってきたチンピラ2人を視界に据え、腰に携えていた銃を……そこら辺に投げ捨てた。
「なんだあいつ、ヒーロー気取ったくせにすぐ降伏かあ?」
「だって邪魔だし……」
「……は?」
「ふんっ!」
明らかに油断していたので、さっさとチンピラの目の前に移動して拳を振り抜いた。
晄輪大祭の徒競走で伝説を残しすぎて殿堂入りした私の前で悠長にしすぎだよ。そんな綺麗な壁尻状態になっちゃってさ……………………えっちだな……。
身代金目当てで拉致とか企ててる不良女生徒が意識のない状態でこちらにおしりを向けながら壁に埋まってるって、ちょっとあまりにも過ぎないかな。全然そういう意図はなかったんだけど。いやにしたってこの状況をみすみす見逃すわけにうわ改めて見るとケツでっ「隙あり!!!」
「ぁいったぁ!!!?」
残っていたもう一人の不良が地面に置いていたのを拾ったのか、スレッジハンマーを思いっきり頭に振りかぶってきた。
「いきなりなにすんの!!!」
「戦闘中に友達に邪な視線送ってくる敵とかそりゃぶん殴るだろうが!!!」
「そ、そんなことしてないし!大きい方が悪いし!」
「してるじゃねぇか舐めんな!!!」
どうやら私が次の戦闘に備え思考をフルに回している隙を突かれてしまったようだ。まさかここまでの実力の持ち主とはね……。
「このまま畳み掛けてやる!!!おらもう一発!!!」
そうして私に振りかぶられたのは、ヘッドの付いていないハンマー。すなわち木の棒だった。
勢いのままペキっと折れてしまったそれはそのまま地面に落ちたのと同時に暫しの静寂を運んできた。
「……どうやらさっきの一撃で壊れちゃってたみたいだね!」
「お、おかしいだろ!!!なんっでこっちの方が先に壊れ……」
「そういうこともある!ドンマイ!」
「ちょ、待て!壁尻だけは勘弁しぐはぁ!!!」
そう言った不良は見事に壁に埋まりお尻をこちらに向けていた。こちらもこちらでまた小ぶりで可愛らしくえっちだった。
「さてと……さっきは急にごめんね。大丈夫だった? 怪我とかもない?」
私は大量の鳥のぬいぐるみと共に地面に座っていたトリニティの子に手を差し伸べた。
こんな所に迷い込んだ挙句、不良らに襲われるなんてさぞ怖かっただろうに……。
「た、助けてくださりありがとうございます! お陰様で怪我の方も全然で……!」
「そっか、それなら良かった。」
あんな目にあったすぐでもこうして振舞ってくれていて、こちらとしても安心だ。助けた子の中にはまだ恐怖が勝って震えたままの子とかも居たし、強い子なんだなぁ。
「それじゃあ、このまま出口まで送るよ。こんな所に迷い込んで大変だったね。」
私がそう言って手を掴もうとすると、彼女はその手を避けて申し訳なさそうに口を開き始めた。
「えっと、ごめんなさい……私まだここに用がありまして……」
「……はい???」
意味が分からなかった。トリニティの普通そうな子がここに自ら入り込んできたのも、先程あんな目にあったにも関わらずまた単騎で乗り込もうとしてるのも、目のイカれた鳥のぬいぐるみを大量に抱え始めたのも、何もかもが理解出来なかった。
「その、実は探し物がありまして……」
「こ、ここに? ブラックマーケットに探し物? 君が?」
こんな見てくれで兵器でも掻き集めてるの???
ここに売ってるものなんてそういうものか多種多様の豆腐くらいなんだけど……。
「は、はい。ペロロ様の限定グッズを探しに来ていて、こういうのなんですけど……」
そうして見せられたのは、大量に抱えられている鳥のぬいぐるみの一つにあった口にアイスをぶち込まれている目のイカれた鶏のグッズ。
畏怖である。
典型的な被害者が化け物なパターンだった。いや善良ではあるんだろうけど、こう、善良な分より恐ろしいっていうか。というか普通にこれは何?ニーズはどこ?いやこいつか、目の前のこいつだわ。
「ペロロ様とアイス屋さんとのコラボなんです。限定生産で100個しか作られていないグッズなんですよ?」
「ね、可愛いでしょう?」
「……カ、カワイイネ……ホント……」
大人の対応である。
私にこれを可愛いと言える感性はないが、他人の好きなものを面と向かって否定するほど腐ってはない。別に趣味が悪いとかは思ってないし、言葉に困ってるだけだし。別にこれの対応から逃げてる訳じゃないし。
……しかし、この対応が良くなかったみたいだ。
私の内心とは裏腹に、彼女の表情は目を輝かせ口を大きく開いてはこちらを覗いてきていた。
「分かるんですか……!!!」
一歩、二歩と、じりじりと詰め寄られる。
「ペロロ様の良さが……!!!!!」
しまった。そんなことを思うにはもう手遅れだった。
「初めて見たけどね?」
「詳しくは知らないけどね?」
「あんまりそういうのに関心がないっていうか?」
「あんまり触れる機会がなかったっていうか?」
怒涛の逃げである。
「つまりハマれる素質があるってことですね!!!」
あんまりだと思う。
あぁもうダメだ明らかにロックオンされている。多分、深めのファンに。目の輝き止まらないし。なんか紅潮してはぁはぁ言い始めてるし怖いって。
大体それの為にブラックマーケットに単身で乗り込むお嬢様とか強かすぎるし。私が助けなくても案外どうにかなってたんじゃないのってくらいなんだけど。
私がどうこの状況から逃げるかを考えていると、今度は例の被害者さんの方から何か意を決したように手を握ってきた。
「あ、あの!もし宜しければなんですが……」
「私のお買い物に付き合ってくれませんか……?」
……デートのお誘いを受けてしまった。
いやでもどう考えてもさっきのニワトリのやつハマらせようとしてきてるよね。新規ファン獲得のためだよねこれ絶対。
「買い物って、今日みたいな?」
「は、はい!その、やっぱりここにトリニティの生徒一人は危ないとずっと思っていて……」
「でも私は確実にペロロ様のためなら一人で向かっちゃうので……」
なんでしっかり自覚してて向かっちゃうんだよ。
「だからあのブラックマーケットの案内人さんが一緒に居てくれればとっても心強いなと……」
「それはまぁ、否定はしないけど…………って、え?」
「……?」
「な、なんで私が案内人って呼ばれてること知ってるの……???」
本当に怖くなってきた。この呼び名、ブラックマーケットに常駐してる人達の中でしか通ってないはずなんだけど……???
「なんで知ってると言われましても、ここじゃ有名な話じゃないですか?」
「ここだったらね!?君どんだけブラックマーケット通ってるの!?」
「う、うーん……。具体的な回数はあんまり……あはは……」
ヤバいやつに目付けられた!!!!!!
漫画だったら黒幕ポジだよこれ!!!なんかこの善良そうな見た目も全て私を騙すためのカモフラージュに思えてきたんだけど!!!
私が本格的に逃げ出すためにアップを始めようと脚を動かすと、逃がさないぞと言わんばかりにさらに手を強く握られ、彼女の方に身体を引かれた。
「そ、その、どうでしょうか……?」
……本音を言えば、応えてあげてもいい気持ちはある。
実際この子本人に自分の身を守れるほどの力はないだろうし、危険な目にあっていたのもそうだ。
だけど私は"ブラックマーケット"の案内人だ。ただでさえ学園数個分の規模があるこの場所で、この子一人の為だけに動いていたら他に困っている子に気付けないことが増えてしまう。それは私の意志に反してしまうから。
だから申し訳ないけど、今回の件は断っ「もし受けてくれたら私にできることはなんでもするので!」
「この案内人に全部任せなァ!!!!!」
「ほ、本当ですか!ありがとうございます!!!」
勢いのまま受けてしまった。
でも可愛い子からそんなこと言われたら誰だって受けちゃうと思う。仕方ないよね、私悪くない。
「では早速今から行きましょう! 今日は先程見せたペロロ様グッズを10個買い揃えるまで帰らない予定だったんです!」
「えっあれ限定100個って言ってなかった……?」
「だから10個だけ揃えに行くんですよ?」
「あっはい……」
後悔先に立たずとはこの事である。
……でもまぁ。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね!」
「阿慈谷ヒフミといいます!」
「狼谷ルウ、気軽にるーちゃんと……」
「ルウさんですね!これからよろしくお願いします!」
「あ、うん……。よろしく……」
退屈は凌げそうかな!
……やっぱりまだちょっと怖いけど。