今日もブラックマーケットは平和です。 作:ドカキモス
「おはようございます!ルウさん!」
ヒフミと出会ってから次の日。私は早速彼女から呼び出しを受けていた。……早朝の4時に。
「くぁ……おはよぉ……」
眠い、とっても眠い。ギリ日登ってないし、まだ鳥がチュンチュン鳴くためのウォーミングアップし始めてる時間帯だよ?このままじゃファルセット安定しないよ?そんなんじゃインターハイ出られないよ?
それにしたってヒフミはどうしてこんなに元気なのか。4時って相当朝型の人でも寝てるくらいだと思うんだけど〜……いやペロロか。どうせ例の鳥案件で謎パワー発揮してるだけだねきっと。
「さて、今日ルウさんにこんな早朝に来てもらったのには理由がありまして……」
もうフリにしか聞こえないんだよね。答え分かりきっちゃってるんだよね。
「実は先程この辺りでレアペロロ様がのグッズが目撃されたと情報が入りまして……」
まぁですよね。知ってたよ。改めてみたら服装大体ペロロ様意識してるもんね。なんなら背負ってるもんね。何を背負ってんだよ。
「頬が紅潮してるペロロ様なんですけど、なんと早朝から午前の時間帯にしか見られないんですよ!」
出現条件に時間帯が関係してて図鑑コンプにちょっと苦戦を強いられるポケ○ンみたいな扱いなんだあいつ。確かに目撃って言い方も変だったわ。意志があるもんね明らかに。
「種族でいうとフシギ族ですかね」
あぁ陣組んだら妖力上がる方だったんだ。妖怪の類いなんだ。絶対Dランクでしょ。でも合成魂に使えそう感があるのはなんなんだろうね。……いや何の話をしてんの?
不意に我に返り、一度深呼吸をする。
ヒフミの話……というよりペロロ関連に真面目に取り合うと話が進行しない上頭もおかしくなりそうなので、さっさとそのレアペロロとかいうやつを探しに行くことにした。……あぁ、ねむ。
◇
「くっ!まさかもう既に他のグループに占拠されているなんて……!」
ヒフミの指定した場所に向かうと、そこには至る所に木の棒と丸籠で作られた典型的で古典的な簡易的罠が仕掛けられていた。
うん、明らかにグッズを探しに来ている人の行動じゃないと思う。もう生き物にする仕掛けだよね。ほんで餌現ナマだし。そこも生々しくしなくていいんだよ。意思があるならこれで釣れるよねみたいな思考やめた方がいいと思う。
「この界隈はどんな理由があろうと先に来た人が絶対なんです……。だからこそルウさんに無理を言って朝の4時に集合と頼み込んだのに……不甲斐ないです……」
「あ、ああいやそれは大丈夫だよ……。まさかこんな人類が他にもいるなんて思いもしてなかったし……。」
「ルウさんも見たかったですよね……」
「いやまぁうんはいそうかも。」
とりあえずはぐらかしておいた。いつかこのイメージが払拭されることはあるのだろうか。
多分無理なので気を取り直し、ヒフミに他の場所も探してみようと近辺を散策してみることにした。
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「ここは既に荒らされてそうですね……。逃亡の時にかくペロロ様の汗の匂いがします。」
「嗅覚警察犬レベルなん……ねぇ今汗かくって言った???」
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「んー、誰か来た痕跡はないですけど……あ、駄目ですね。近くにチキン屋がありました。これじゃペロロ様は寄り付きません。」
「ちゃんと自認鳥なんだアレ。」
「アレ?」
「……ペロロ様です」
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「えっ!ヒ、ヒフミ!ツチノコ!ツチノコみたいのいるよ!」
「もールウさん、それはペロロ様じゃありませんよ?」
「えいやだからツチノコって」
「それはペロロ様じゃなくてツチノコですよ?ルウさんも早くペロロ様を見分けられるようになりましょうね!」
「うん……ごめん……」
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「全っ然見つからない……」
現在時刻は午前九時。ヒフミと合流してから5時間は経過しているが、未だ痕跡すら確認出来ていない。
レアとは言っていたけど、まさかここまでとは思わなかったな……。
看板の裏やゴミ箱の中、さらには気になるあの子のベッドの下までくまなく探したが、その姿が視界に移ることはただの一度もなかった。
「どうして……私はこんなにもペロロ様を敬愛しているのに……」
見つからなすぎてヒフミが信仰するべき対象を見失ったのシスターみたいになってるし。このペロロ狂の闇堕ちとか考えたくもないから是非とも元気を出して欲しい。目的のためなら銀行強盗とかやりそうだし。…………い、いや、流石にそれは言い過ぎたかな……ヒフミと言えどね……うん……。
「……ごめんなさい、ルウさん。」
「んぇ?急にどうしたの?」
それなりに失礼なことを考えていると、いつの間にかヒフミに一切の覇気がなくなっており、体育座りで頭を地面に向けている状態で話しかけてきていた。
「本当は今日、ルウさんにペロロ様の魅力をお伝えしようと連絡したんです……。いつもルウさんが案内人としてのお仕事で沢山働いていたのはよく見かけてましたし、息抜きになれる何かを見つけられたらって……」
「それなのに結局何も得れずにただ時間だけを浪費していって……こうして付き合ってくれているのも最初は私のわがままからで……」
「ルウさんには、最初から何の利益もないのが……ずっと……申し訳なくて……」
そう言葉を吐露するヒフミの目には、段々と涙が滲んできていた。
あぁ、そっか。ペロロ様だからって流してたけど、やけに気合いが入ってたのはそういうことだったのか。
最初から私を楽しませるために、色々調べて、計画を練って、誘ってきてくれていたんだ。……それで朝4時集合って、どんだけ詰め詰めのスケジュールにしてんだか。
私はクスッと笑ってから、一歩、二歩と、ヒフミに対して少しずつ近づいて行った。
可哀想だから、とか。
見てられないから、とか。
そういう理由なんかじゃなくって。
ただ単純に、今度は私が勇気を出さなきゃって。
あの子がそう思わしてくれたから。
「ヒフミ、ちょっと失礼っ」
「?ルウさ……んんんん!?い、いきなり何を!?!?」
体育座りがあまりにも丁度いい体制だったので、そのままお姫様抱っこの形でヒフミを抱えあげた。
うん、やっぱり泣いてる姿よりこっちの慌てふためいてる感じの方がしっくりくるね。
……でも。それよりも私は。
「よし完璧!しっかり捕まっててよぉ!」
「え!?え!?」
君の笑ってる表情が好きだから。
少し頑張っちゃおうかなって。そう思っちゃったんだ。
「ひゃあああああああああああああ!!!!!」
「かっとばしていくよー!!!!!」
私はヒフミを抱えながらビルの壁を思いっきり駆け上り、そのまま数多の屋上を地面にパルクールの要領で飛び越えながら風を切っていた。
「は、はやっ、はやわわわわわわわわ!!!」
あまりにも速度を出しすぎてヒフミが言語能力を無くしてしまった。ぐるぐる目になりながらも私の首を掴む力だけは変わらなくて、少し笑いそうになる。
ああ、本当
「ヒフミと居ると、久々に退屈じゃないって思えるんだ」
「えっ……?」
なんだか驚いた顔をしているけど、あれだけの時間ずっと二人で話してたのだから、少しくらい察して欲しかったものだよ。わがままだなんて言ってたけど、最初から了承したのは私なんだしさ。
だからこれは、ちょっとした仕返しだ。
「だから今日のお礼として、ヒフミの欲しがってたペロロ様のグッズ、見つけてあげるよ」
「そ、それは……とっても嬉しいんですけど、でもあれだけ探しても痕跡すら……」
弱みにつけ込むってわけでは断じてないけれど。
「ふふん、私がなんて呼ばれてるのか忘れちゃったの?」
「ここでの探し物はこのブラックマーケットの案内人にお任せを!」
少しくらい君の前でカッコつけても、バチは当たらないよね?
◇
「ぁもうめっちゃあるわ。馬鹿みたいに目立つ所に一羽佇んでるわ」
カッコつけてから早5分。普通に近場の公園にあった。
えなんなん?最初絶対なかったよね?絶対ここ見に来たよね?灯台下暗しで終わるには全っ然納得いかないんだけど。いやカッコつけた途端のこれだからとかは関係ないんだけどね!いや本気で!ほんとだからね!!!
恥ずかしさで一人脳内で慌てふためいている私を置いて、真っ先に例のペロロ様を抱きしめにいったヒフミが嬉しさのあまりかクルクルその場で回っていた。
「見てくださいルウさん!!!ほんとにありましたよ!!!すごいですすごいです!!!!!」
そんなわけないのにキャッキャッという音が似合うマークがヒフミの頭上に見えてきた。
どんだけ嬉しいんだよと、なんだか自分まで気恥ずかしくなってくる。
そんな彼女を眺めていると、不意に動きを止めては、そのグッズを胸に抱えたまま私の方に向かってきた。
「その……えっと……このペロロ様、ルウさんに差し上げます!!!」
「え、わ、私に!?」
急にそんなことを言われ、本気で驚く。
布教のためなら納得は行くけど、それでもコレクター気質のあるヒフミがわざわざ苦労して手に入れたレア物でそれをするとは考えてもいなかったから。
「このペロロ様に出逢えたのもルウさんのお陰ですし……今回の思い出としても持ってて貰いたいと言いますか……その…………ど、どうぞ!!!」
「む、むぅ。そういうことなら……」
私がそう言ってペロロ様に手を近付けると、ヒフミの顔がどんどん苦悶に満ちた表情へと変化していく。
逆に手をどんどん話していくと、どんどん安らかな顔へと変化していって……。
近づけて、離して、近づけて、離して……。
「……ふはっ」
「わ、私で遊んでますよね!!!?ルウさん!!!ねぇ!!!」
あまりにも分かりやすく変わるもので、思わず遊んでしまった。なんでこんなんなのに……ふふっ。ほんとに面白いなぁ……。
でも、流石にこんなところ見せられちゃったら。
「私の目的はそのグッズをヒフミに渡すことだったから、大丈夫だよ。それはヒフミが大事に持っておきな。」
「で、でも……」
「お礼なんていつでも大丈夫だから。それに……」
「まだまだ危なかっしぃヒフミに、案内人は必須でしょ?」
揶揄うように、はにかみながらそう言ってみる。
そうしてまた分かりやすく表情を変える君に、同じように笑ってしまう。
……君は知らないだろうけど、私はもう十分貰っているんだよ。
「ふわぁ…………なんだか一段落ついて眠気が……」
なんだかんだ二人でだらだら雑談していると、ヒフミが大きな欠伸をしては呟いた。
「そりゃあ、4時起きだったし……。むしろよく今まで起きてれたよ……」
かくいう私も実はだーいぶ眠気が限界である。
普段0時過ぎに寝るような私に朝4時はキツかったよ……ふへ……。
「ふふん、実は徹夜して計画を立てていたので4時起きでは……」
「寝なさい」
急にヒフミが口を滑らしたのでさっさと帰ることにした。今度からはちゃんと生活リズムにも目をつけてやろうと思う。
「ああもうほら、ちゃんとグッズ持ってー」
「んむぅ……ぺろろさまぁ……」
口を滑らしたことで糸がプツリと途切れたのか、明らかに眠気に負け始めていた。というか寝言すらペロロなんだ。もうずっとじゃん、頭の中で同居してるじゃん。
ぼけっーとしてるヒフミをおんぶするために少し体制を調整していると、眠気で力が抜けたのか握っていたペロロのグッズが手から離れてしまった。
「……!あっぶな!」
チャリン、という音と共にすんでのところでキャッチすることに成功した。
いやぁ、危うく無駄に汚れが増えるところで…………チャリンって何?
そう思い地面を見てみると、何処から出現したか分からない硬貨が落ちていた。
「………………」
私はまさぐった。このペロロのぬいぐるみの至る所をまさぐった。
ドサッ、ドサッと音を立てて顕現するは何十枚にも重なった現ナマ達。
「……あの罠、効果あったんかい」
◇
「ねぇねぇ、あの噂知ってる?」
「聞いた聞いた、あの頬が赤いペロロのぬいぐるみのでしょ?」
休み時間に何気なくベンチに座ってくつろいでいると、他の生徒の会話が耳に入ってきた。
どうやら、私がたった今膝の上に乗せているペロロ様についての噂話らしい。
しかし、そんな情報は未だ耳に入ってきてはいなかった。この私の耳にである。
昨日はルウさんの目の前で寝落ちして、そのまま目が覚めたら既に準備をしないと間に合わない時間だったから、その間に広まったものかな?と、そんな推測を立てながら、私は彼女らの会話にこっそり耳を傾けた。
「あれ、普通に探してたら絶対に見つからないんだってね」
「確か見つけた人はみんな共通してたことがあったんだよね」
ああ、道理であれだけ見つからないと……。
何かしらペロロ様がお気に召すようなことがなければ姿を表してくれないというのなら納得だ。そして最後には私の前に……ふふふっ。
悪い噂じゃなくてよかった、しかもルウさんの前にも姿を見せてくれたということは、ルウさんもお気に召されたということ……!
これはハマるのも時間の問題……次会った時に教えてあげよう。ああ、早く誘える口実はないかなぁ。
そんなことを考えながら辺りを見渡していると、壁にかかっている時計の針が休み時間の終わりを告げようとしていることに気づいた。
最近は抜け出すことが多かったし、ここでまた遅刻なんてしたらどうなってしまうか。
そう思い立ち上がろうとすると、先程夢中になって聞いていた生徒の声がまた耳に入ってきた。
「そうそう、確かみーんな二人組なんだってね」
「そこから頬が紅潮してるペロロを見つけた二人組は恋人同士になれるって!」
「きゃー!」
……………………へ?。
「わ、わわ、私とルウさんが、こ、ここ、こいい……。」
既に噂話に花を咲かせていた彼女たちは居なくなっており、時計の針も仕事を終え一息をついていた。
しかし、そんなことに私が気づく余裕はなく。
ショートしてしまった頭を置いて、ただただ動くこともなく。
膝上に乗っけていたペロロ様を、少しだけぎゅっと抱きしめていた。