無敵の呪術師。されど凡夫   作:実験者

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一話:神祖のお告げ

 

 神様にチート能力を与えてもらい、呪術廻戦の世界に転生させてもらえた。

 そこでは神に選ばれた自分はハーレムを築いて、何の努力もせず恵まれた生活を送る。

 

 めでたし、めでたし。

 成功は約束され、薔薇色の人生。

 

 流石にここまで都合良くなりはしないだろうが、少なくとも神様に見初められた時点で、平凡なサラリーマンの生活とは比べ物にならないほどの人生が送れると思っていた。

 

 実際、最初はそうだった。

 優れた容姿に、健康的な肉体。家柄は禪院の一族で、仕事の報酬で下賜されるものは極上品。

 金に、女に、食べ物に、名誉に、地位に、武勲に称賛。あらゆる全てが欲しいまま。だが仕事を始めて一年ほどで、物足りなくなる。

 

 自分の考えや提案が認められない。

 優秀な付き人が管理しているから、自分より優秀な解決策や方法を提示してしまう。それに加えて、自分の中身は考慮されていないのだ。

 

 必要なのは自分ではなく力であり、一族や組織のルールに黙して従うようにたしなめられる。

 

「なんだそれは、認められるか。おかしいだろ。我も人、彼も人。故に対等。基本だろう」

 

 そもそも転生先の方がハードモードなんてふざけるな。こんな人格が認められない世界で、一体どうやって生きていけば良いんだ?

 

 目上の誰かに従い、粛々と命じられるまま呪術師として活躍して、家のために、決められた相手と結婚する。

 

 そんなのは前世の昭和で終わっただろう。呪術廻戦の世界で繰り返し体験させられることの、どこか幸福な転生人生だ。

 これでは一言、進歩がない。

 

「俺は、強い信念を持った強い男として、雄々しく生きてみせる」

 

 そう息巻いてみるものの。

 無敵の呪術師として活動しつつ、みんな達から賞賛されることは気持ちよくて、欲しいものが欲しいだけ下賜される生活は不自由がなくてストレスがない。

 呆れるほど簡単に、その決意はガス抜きされてしまう。

 その精神状態で、神様と繋がって、悩みを打ち明けると、彼女達は言った。

 

『だから貴方をこちらの世界へ転生させたのさ。精神が極めて凡俗であり、不満を溜めるけど爆発しない。適度に下賜するガス抜きで容易に操作できる』

 

 神様は言う。

 

『それに加え、貴方は人を傷つけない。中東の自爆テロよろしく、自分の未来が閉ざされれば周囲を巻き込んで爆散する。そういうタイプの人間ではない』

 

 静かに首をロープで縛って自殺するだろうね、と神は笑う。

 

『もっといえば、権力や立場を得てもそれで人を虐げようと思うタイプでもない。罪なき市民を磨り潰して燃料に変えて、国を繁栄させる支配者階級の属性でもないわけだ。やるとしても、呪術師として報酬をもらう範囲の程度だろう』

 

 だからね、と神は告げる。

 

『君は本当に優秀な人材だ。可愛い女の子と恋人になりたいだろう? 人々から賞賛を浴びたいだろう? 自分の望む自己実現をしたいだろう? 構わないとも。すべて認めるし全て応援しよう』

 

 神の恩寵を与えられ、心が軋む。

 

『君はどこへいくこともできない。君は自分一人では何もできない。君は前世より自分の努力で何かを成し遂げられた事など、何一つないのだから。だから私が救い、与えよう』

 

 お前の才能は無能であることと平凡な精神であること。だからこそ神は『扱いやすい駒』として、転生させた。

 

『私の威光で世界を照らすべく、無敵となってくれ。そうすればあらゆるものを下賜しよう』

 

 自分は無能で、平凡。しかしだからこそできることもあるはずだ。自分にしかできない何かが。

 

『あるだろうね。だけど難易度を念頭に考えて見てほしい。億万長者になるのと、無一文になるの。どっちが簡単だと思う? 基本的に創ることはコストがかるが、壊すのは簡単なんだ』

 

 自分は神の道具なのか? ただの端末なのか? これからの人生はすべて操り人形なのか?

 

『人生は基本的に総合力勝負だ。勝てる要因が多ければ多いほど成功者になれる。強くて、顔が良い。才能があり、努力もする。財力や友人に恵まれ、勝つのに頭を回すライバルがいる。そして崇高な理想がありますよって……そりゃあ勝てるんだよ。だって持っているんだから。で、君は? 神が与えたもの以外で自慢できるものはあるのかい?』

 

 心が折れる。

 自分は静かに、膝をつく。

 

『何もない。君は何もないんだ。努力せず、日々を無為に過ごす。与えた力に頼って考えなければ行動もしない。罪悪感や失望も、金や女や食事を与えれば忘れてしまう』

 

 何も言い返せなかった。だって、考えるのは面倒だし、努力するのは疲れるし、そんなことしなくても美味しい思いができるのだから、わざわざ辛いことはしたくない。

 いくら正しくても、痛くて苦しくて面倒なのは嫌だ。

 やりたくない。

 

『それだぜ。ソレが良いんだ。そういうのが嫌なんだろう? ならやらなくて良い。努力や苦労なんていうのは、必要性がなければしなくて良い。君は君のまま好きに生きれば良いんだよ。神はありのままの平凡な君を祝福するよ』

 

 自分は完全に神に屈する。

 頭を垂れて、言うのだった。

 

「神の御慈悲。頂戴します」

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