無敵の呪術師。されど凡夫   作:実験者

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二話:禪院家は才能大好き

 

 俺は自室のベッドにどっかりと腰を下ろし、右手に握ったスマホの画面を凝視していた。

 

 今まさに天井狙いのガチャを回している最中だ。残りあと7回。演出が派手になればなるほど心臓がうるさくなる。隣に置いたタブレットからは、いつもの配信者が淡々と実況を続けている。

 

 BGMと効果音が部屋に響き渡って、妙に心地いい。

 コンコン。控えめなノック音が、ゲームの音にかき消されそうになりながらも耳に届いた。

 

「王土様、よろしいでしょうか?」

 

 使用人の女性――名前は知らない。いつも通り丁寧で、少しだけ緊張が混じっている。

 

「ええ、大丈夫ですよ。入って」

 

 ドアが静かに開いて、彼女が一歩踏み込む。黒い制服に白いエプロン、髪はきっちりまとめられていて、いつ見ても隙がない。

 

「呪霊の討伐依頼が下りました。対応をしてほしい、と上から指示が」

「わかった。場所を教えて」

 

 使用人は手に持っていたタブレットを俺の方へ差し出した。画面には地図アプリが起動していて、赤いピンが立てられている。

 

 場所は都心から少し離れた工業地帯の倉庫街。呪霊の推定等級は一級下位~中位あたり。

 

 特級じゃないけど、放っておくと被害が出るレベル。俺はスマホのガチャを一時停止させて、タブレットを受け取る。

 座標を頭に叩き込んで、軽く息を吐いた。

 

「犬と鳥だけで十分だな。出撃」

 

 十種の影法術の最大の強みは、これだ。影さえ繋がっていれば、距離なんて関係ない。

 

 世界のどこにでも式神を出現させられる。しかも有機物だろうが無機物だろうが、影を通せば運べる。武器も、罠も、果ては俺自身の分身だって送り込める――まあ、そこまではまだやったことないけど。

 

 もちろん、式神の総数は限られているし、一匹あたりの火力も特級呪霊を正面からぶっ潰せるほどじゃない。国も転覆させる火力も数もない。だから特級には認定されない。でも、特級を相手にしたときのカウンター性能だけなら、一級術師の中でもトップクラスだって言われるのも、まあ納得できる。

 

 俺は目を閉じて、意識を影の世界に沈めた。工業地帯の薄暗い路地。錆びた鉄柵の影。倉庫の隙間に落ちたコンクリートの影。街灯の下に伸びる長い影。

 

 そこから、まず『玉犬・白』と『玉犬・黒』を一匹ずつ召喚。続けて『鵺』を召喚する。

 

 頭の中で簡単な命令を流し込む。

 

「目標は赤いピンの位置。呪霊を確認次第撃。殲滅優先。生存率は二の次。速度最優先」

 

 式神たちは俺の意志をそのまま受け取って、影の中を滑るように移動し始めた。

 

 自律稼働だから、俺がここでゲームを続けていても、向こうは勝手に狩ってくれる。

 

「便利だね。素晴らしい能力」

 

 呟いた瞬間、廊下から軽快な足音が近づいてきた。聞き慣れた、リズムのいい足音。

 

「おーい、王土くん。相変わらずイカれてるわな」

 

 ドアが開け放たれたまま、禪院直哉が顔を覗かせた。いつもの嫌味たっぷりの笑顔。髪は適当に乱れていて、高級そうな着物の襟が少し開いている。

 

「直哉さん。お久しぶりです」

「久しぶりやな。最近、何見てんの? 流行りものとかないん?」

 

 俺はスマホを軽く振って見せながら答えた。

 

「今はガチャ回してるだけですけど……直哉さんのインスピレーションになりそうなやつだと、強いて言えばRTA動画とかどうですかね」

「RTA?」

「スピードラン。ゲームを最短時間でクリアするんです。無駄な動きを極限まで削って、効率化の塊みたいなプレイ。直哉さんの『投射』とか『術式反転』とか、あの精密で無駄のない動きと相性良さそうだと思います」

 

 直哉は少し目を細めて、興味深そうに顎を撫でた。

 

「ほーん……なるほどね。確かに面白そうやね。URLでも送っといて」

「わかりました。後で送りますね」

 

 そのとき、使用人の持っていた端末が小さく電子音を鳴らした。彼女が画面を確認して、静かに報告する。

 

「呪霊、討伐完了の連絡が入りました。周辺に二次被害ありません、完璧です」

 

 俺はスマホのガチャ画面に戻りながら、軽く笑った。

 

「四分三十二秒か。まあまあ早いですかね」

 

 直哉が肩をすくめて、ドア枠から体を離す。

 

「ほんまズルいわ。俺なんかまだ現場まで走ってかなきゃあかんのに」

「直哉さんなら一瞬で飛んでけそうですけど」

「飛ぶのはいいけど、着地で毎回服汚れるの嫌やん?」

 

 愚痴っぽく言いながら、直哉は手を振って去っていった。部屋に静けさが戻る。

 

 俺はベッドに寝転がり直して、タブレットの配信を再生再開した。ガチャの残り回数はあと3回。

 

「この力は神からの恩寵。全く張り合いがないな」

 

 呟きながら、指を画面に滑らせる。SSRの演出が始まった瞬間、俺は小さくガッツポーズをした。

 

「……来た」

 

 式神の戦闘報告も、親の金で引くガチャの結果も、どっちも悪くない一日だった。

 張り合いはないが、だけどこれでよい。こういう与えられたものに甘えている自分が最低だという自覚はある。しかしこの現状を好転させようと頑張る気力は無かった。

 

 

 

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