無敵の呪術師。されど凡夫   作:実験者

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三話:最強達と顔合わせ

 

 俺は部屋の鏡の前で、ネクタイの結び目を何度も直していた。

 

 白いシャツの上に水色の薄いジャケット。襟元を少し開けて、堅苦しくならないように。

 

 鏡に映る自分を見ながら、深呼吸を一つ。

 

 今日は五条悟と夏油傑という、二人の特級術師と初めて顔を合わせる日だ。

どちらも高専生とはいえ、すでに「国家転覆級」の評価を受けている化け物。

 

 五条は無下限呪術による絶対防御と、六眼による情報過多の破壊力。夏油は呪霊操術で、数千、数万の呪霊を自在に操る軍団戦の極み。

 

 そんな二人と同じ任務に放り込まれるなんて、禪院家でも滅多にない話だ。内容はまだ知らされていない。ただ、時期が時期だけに、天内理子の護衛任務だろう。

 

 星漿体である少女を天元様との同化まで守り抜く、あの歴史的な任務。失敗すれば呪術界全体が揺らぐレベルの大仕事。

 

俺みたいな一級最上位――特級カウンター特化の術師が呼ばれるのも、納得はできる。でも、正直緊張していた。

 

 五条家と禪院家は犬猿の仲。

 五条悟本人は特に禪院を嫌っているという噂も耳にする。だからこそ、初対面で険悪な空気を作りたくない。

 好印象を与えられるように、服装も明るめにした。

 黒や濃紺だと威圧的になる。白と水色なら、少なくとも「敵意はない」というメッセージは伝わるはずだ。集合場所は高専から少し離れた、古びた喫茶店。

 

 木製のドアを押して中に入ると、店内は静かだった。

 カウンターの奥でマスターがグラスを拭いていて、客はほとんどいない。

 

 窓際のテーブルに、二人の学生が座っていた。一人は銀髪。蒼い瞳が印象的な、まるで人形のように整った顔立ちの少年。

 

 サングラスを頭の上にずらして、退屈そうに頬杖をついている。

 五条悟だ。

 

 もう一人は黒髪で、細い目が穏やかで真面目そうな印象を与える。姿勢が良く、資料を広げて何かを確認している。

 夏油傑。

 

 五条が俺に気づくと、すぐに口を開いた。

 

「おせーよ。お前のせいで任務失敗して怒られるの、ごめんなんだけど?」

 

 声は軽い。でも、明らかにからかっている。夏油が静かにため息をついて、フォローに入る。

 

「悟。まだ開始時刻の30分前だ。彼は遅刻していないよ」

 

 俺は二人に近づき、静かに頭を下げた。

 

「申し訳ありません。確かに特級レベルの案件が予想される以上、素早い行動をするべきでした。現在の状況を教えてもらっても構いませんか?」

 

 五条がサングラスを指で押し上げて、面白そうに笑う。

 

「禪院家が俺に頭を下げる、ね。なんで?」

「五条と禪院は仲が悪い。それは事実です。しかし自分と貴方が険悪になる必要はないでしょう。無論、パフォーマンスは必要でしょうが」

 

 五条の口角が上がる。明らかに気に入ったらしい。

 

「いいね。名前は?」

「禪院王土。そちらの方の名前を聞いても?」

 

 俺は視線を夏油に移した。夏油は穏やかに微笑んで、丁寧に答える。

 

「私は夏油傑だ。よろしく。禪院さん」

「はい、よろしくお願いします」

 

 俺たちはテーブルに着席した。

 夏油が資料を俺の方へ滑らせてくる。任務の概要は簡潔だった。

 

 護衛対象:天内理子。14歳。星漿体。

 

 目的:天元様との同化を成功させる。満月の夜までに、指定の場所まで安全に送り届ける。

 

 敵対勢力:呪詛師集団『Q』。盤星教の信者たち。そして、一般人の傭兵組織。

 

 俺は資料を読みながら、ゆっくりと口を開いた。

 

「敵は呪詛師と一般人の組織……厄介ですね」

 

 五条が肩をすくめて、能天気に返す。

 

 「そうかぁ?  呪詛師の方はまだしも、一般人が俺達に何ができるよ」

「呪力を使えないということは、近代兵器が使われる、ということです。スナイパーライフルを起点として、化学兵器、爆発物、毒ガスなども想定しなければいけません。呪術師は呪力で防げる範囲が広いですが、一般人の攻撃は予測不能です」

 

 夏油が静かに頷く。

 

「なるほど。呪詛師はあくまで呪術で攻撃する可能性が高い。そういうスタイルで生きているから。でも一般人の組織は可能性すべてが有り得る」

「その通りです。我々は特別ですが、一般人の真骨頂はあらゆる手段が使えることです。武力には武力を、交渉には交渉を、非戦には非戦を。多様な道具を使うことに長けている」

 

 夏油が少し眉を寄せて、考え込むように言う。

 

「すべてを警戒するのはこちらのエネルギーを削がれる。いても、いなくてもこちらの気力を削られるのは痛い」

 

 そこで五条が明るく割り込む。

 

「大丈夫っしょ」

 

 その言葉が終わらないうちに、外から凄まじい爆音が響いた。喫茶店のガラス窓がビリビリと震え、店内の照明が一瞬揺れる。

 

 俺たちは反射的に立ち上がった。窓の外――護衛対象の天内理子が待機しているはずのホテルが、巨大な火柱を上げて爆発四散していた。

 

 コンクリートの破片が空を舞い、炎が夜空を赤く染める。煙がゆっくりと広がっていく。店内のマスターが悲鳴を上げてカウンターの下に隠れる。

 五条のサングラスが、火の光を反射して赤く輝いた。

 

「これは派手だね」

「ガキンチョ死んでたらこれ、王土のせいだから」

 

 夏油が静かに呟く。

 

「任務、開始だ」

 

 俺はジャケットの袖をまくり、影に意識を集中させた。

 式神達を即座に召喚できる。でも、今回は相手が相手だ。五条悟と夏油傑が本気を出せば、ほとんどの敵は一瞬で消える。

 

 それでも、爆発の規模を見れば、ただの呪詛師の仕業とは思えない。一般人の組織か。

 

 それとも、両方が絡んでいるのか。外の炎が、俺たちの顔を照らしていた。熱風が窓を叩き、ガラスが微かに軋む音がする。俺は小さく息を吐いて、二人を見た。

 

「まずは現場の確認を。俺の式神で周囲を索敵します」

 

 五条がニヤリと笑う。

 

「へぇ、便利そうだねぇ。王土くん」

 

 夏油が頷く。

 

「頼むよ」

 

 俺は目を閉じて、影の世界に意識を滑らせた。任務は、もう始まっていた。そして、予想以上に厄介なものになりそうな予感がした。

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