百万回超生きたねこ   作:百万回死んだねこ

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名をば、よろづと言いけり

「ありがとうございましたー」

 

 

 

 これで買いたいものは買えた筈だ。

 ……しかしあの赤子、ゲーミング電柱から出てきたと彩葉は言っていたね。

 

 

 

「ふむ、ボクの友人に詳しい話を聞きたいところだね」

 

 

 

 もうかれこれ8年は会っていないのかな?

 前回死んだきり出会えていない筈だからそれくらいになるか。

 

 

 次に出た場所が微妙に前回と重なって探すのに難航しているんだよね、現代ってば便利だけどどこも景色が変わらなくって困ったものだ。

 ……とはいえ探している途中でご主人サマとも出会えたのだから、生きるということはなかなかどうして難しい。

 

 

 

「彩葉の下をしばらく離れる、というのもそれはそれで心配になる」

 

 

 

 獣に芽生えた親心というものなのかはわからないが、あの子は目を離すのに覚悟がいるね、いつどこで倒れてしまうかわからないハラハラを感じはあまり喜ばしくない。

 それに今はあの赤子だっている。

 

 

 

「早く戻るべきだろうか」

 

 

 

 帰る頃くらいにまじないも解けてしまうからね。

 

 

 


 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 適当に化かした鍵で扉を開けると……ほら、やっぱり。

 

 

 

「相当お疲れだった様だね、ご主人」

 

 

 

 赤子と仲良く布団の上で寝てしまっているご主人サマの姿が。

 これは起こしたら申し訳ないという奴さ。

 

 

 

「ふむ、子供の類がいたことはないから……」

 

 

 

 ふふ。

 百万回の生の中で初めてのミルク作りと行こうじゃないか。

 

 

 

「……えっ、湯を沸かすの?」

 

 

 

 いきなり頓挫させてしまいそうだ。

 そ、それはちょっとずつ頂けないかなぁ?

 いやしかし、苦手は克服してこそだとご主人も言っていたし。

 

 

 

「ぐ、むむむむ……とりあえずやかんに水を入れて」

 

 

 

 火は動物の本能的なもので慣れないというかなぁ……うーん、やっぱり火を使いこなし始めた人類という動物種は偉大ということか。

 彼女の尽力もあったのだろうけれどね。

 

 

 

「彩葉は、これを捻っていたような?」

 

 

 

 人間体というのはこういう時に便利だ、四足歩行は失われてしまうけれど。

 文明が進んでかつこっちに慣れてしまえば、ずっと人間体でいるというのも悪くない選択肢になるのかもしれない。

 

 

 

「んっ……あれ、思っていたより硬いな」

 

 

 

 捻って……うん、捻れない。

 錆びついているというのか何なのか、硬いね。

 

 

 

「んっ……んー……!」

 

 

 

 ボクってば力がない? ああいや、もう少し大きい身体に化ければもっと力は出る筈……しかし人間体の化け先なんてこれか彩葉しかないから。

 うーん、困った。

 

 

 

「もう、貸して」

 

「!」

 

「危なっかしくて見てらんないから、選手交代」

 

「助かるよ、ご主人サマ」

 

 

 

 面目ない、まさか捻るという行為ができないとは思っていなかった。

 

 

 

「友人の様には行かないものだと思わされたよ」

 

「友人? あんた友達いたの?」

 

「ああ、古い友人さ。……もう何年も会っていないから忘れられているかもしれないね」

 

「そっか」

 

 

 

 確かこの時代には、彼女の大切な人間がいるらしいから。

 その子のことを思うならば、ボクのような怪物は忘れて然るべきだろう。

 残念ながら細かなことは覚えていないのだけどね、前回は酷く脳を負傷したみたいだから。

 

 

 

「私は忘れないよ、あんたのこと」

 

「ほう?」

 

「前にも言ってたでしょ、自分は基本死んだら忘れ去られる生き物だって」

 

「そうだね」

 

 

 

 人間の常識的に考えて、死んだ生き物が蘇ることはあり得ないのだから。

 見覚えがある猫に出会ったって他猫の空似で終わるものなのさ。

 

 

 

「その点私はヨロズのことよく知ってるし」

 

「それに関しては概ね同意するよ、ボクの身上についてまで話したのはキミで2人目だ」

 

「2人目?」

 

「最初はもう1人の友人に」

 

「ふーん……」

 

 

 

 湯を沸かしながら、自分自身のご飯も用意していくご主人だが。

 ……相変わらずあの味気ないものを食べようとしているのか?

 

 

 

「はあ、レジ袋に追加の食材が入ってるから、それも使ってくれると助かるよご主人」

 

「えっ?」

 

「いつまでも倹約を続ける彩葉へ、飼い猫から些細なプレゼントさ」

 

 

 

 本当ならもう少し多い頻度で差し入れしたいところなのだけど、彩葉は絶対に渋るという予想がつく。

 タイミングを測りかねていたということだ。

 

 

 

「あんた本当に用意がいいというか……」

 

「何、この8000年は学ぶことも多かったからね、老猫の知恵さ」

 

 

 

 おてんば……な彼女の人柄に合わせると、大体こうなる。

 まあ彼女はウミウシなのだけれどね?

 

 

 

「……ヨロズ」

 

「うん? どうかしたのかい」

 

「ちょっとこっち来て」

 

「ああ」

 

 

 

 言われた通りご主人サマの方へと向かうと……うん?

 捕まってしまったな。

 

 

 

「もう撫でたくなったのか?」

 

「いやそうじゃなくて、今のあんたは私の飼い猫なんだよって」

 

「?」

 

 

 

 撫でたいのなら猫に戻るべきだったのだが、そうではないと。

 ふむ、しっかり捕まえられているにも関わらず苦しさを感じないとは、人間の体は丈夫だ。

 

 

 

「マーキング」

 

「それはボクたちがすることなのだけど……ああ、まあ好きにしてくれよ、ご主人」

 

 

 

 まあ、嫌ではないのだからこの暖かさに身を任せておくべきだろう。

 ……流れに身を任せるのも人間社会らしいからね。




飼い猫よろず(推定魂8000歳?)
とりあえず老猫とかいう次元じゃない
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