百万回超生きたねこ   作:百万回死んだねこ

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猫の手

『私がいいって言うまで、私の側にいてよ』

 

 

 確かに、そう言った。

 ……誰が?

 

 

 彩葉だ、あの言葉とともにボクをベンチに押し倒している。

 なぜ?

 

 

 ……わからない、ボクはそんなに想われるようなことをしてしまったのだろうか。

 ただ、キミのそばにいた、それだけなのに。

 

 

 

「ねえ、覚えてる?」

 

「なにっ」

 

「キミと初めて出会ったときのこと」

 

 

 

 水滴が一粒、ボクの頬に垂れてきて。

 ……嗚呼、泣かないでおくれよ。

 

 

 

「キミと言う人間は当時からすごい人間だった、知恵も力も、そしてその行動力も」

 

 

 

 ボクが死んで、ヤチヨ……当時はまだかぐやだった彼女の居場所がわからなくなってしまって、放浪を余儀なくされていた時だった。

 偶々忍び込んだ学校のグラウンドで、一際目立つ女の子を見つけたんだ。

 

 

 

「キミに話しかけるちょっと前からボクは、キミのことを知っていたんだよ?」

 

「そう、なんだ」

 

「うん、最初は珍しい人間がいるものだって見てただけだったんだけどね」

 

 

 

 際立った人間というのは、どんな時代であれ生まれるもの。

 彼女もそんな中の1人なんだろうなって、最初は思っていただけなんだから。

 でも。

 

 

 

「見ていくうちに、ボクはキミの裏を知ってしまった」

 

「……」

 

「苦しそうだった。辛そうだった」

 

 

 

 バイトが終わって、勉強をして、趣味も両立して。

 その後にようやく寝る段階に入ったキミの寝顔は、言葉にできないほどぼろぼろに見えたんだ。

 

 

 

「……」

 

「それなのに、来る日も来る日もキミは己を追い込み続けている」

 

「それは」

 

 

 

 不可解だった、疑問だった、一瞬キミという人間のことを恐ろしいとさえ思った。

 でも、それでも。

 

 

 

「そんな中でも、やり遂げて笑うキミの顔は、綺麗だった」

 

    

 

「そこまで思い至ったとき、ふと思ったんだよ」

 

 

 

 キミの、彩葉が背負う重荷を軽くしてあげたいってね。

 初めてだったよ、ボクがかぐや以外の人間を助けようだなんて思ったのは。

 

 

 

「ボクは、キミにそんな顔をさせたくない、そう思い続けてここまで来たんだ。なのに」

 

「よろず」

 

「……ボクは、何を間違えたんだろうねぇ」

 

 

 

 かぐやの時だってそうだ、ボクはずっと間違え続けている。

 ボクが死ぬたびに彼女は泣いていた、ウミウシの身体をボクに貼り付けて、大粒の涙をぽろぽろと。

 ボクはそれが嫌で嫌で仕方なかったんだ。

 

 

 ボクがいくら苦しもうが死のうが、次があるんだから大丈夫だと思っているから。

 そんな顔をさせないために、ボクは(ボク)を使うのに。

 

 

 

「ボクには、キミたちがわからない。この世界で1番合理的に進化して来たくせに、合理性に欠けるキミたちが」

 

「……」

 

「でも、何でだろうね。キミたちが悲しむ顔は見たくないんだ」

 

「よろず……」

 

 

 

 彩葉の涙を、指で拭う。

 何度も何度も……本当に何度もその壁にぶつかって立ち往生して来たんだけどね。

 未だに答えがわからないんだ。

 

 

 

「この答えを、キミは知っているのかい、彩葉」

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