百万回超生きたねこ 作:百万回死んだねこ
月日は巡りて、葉月の晦日……あれ、今の八月って三十一日まであるんだっけ?
まぁ、月末近辺なのには間違いないよね。
「ねー、ほんとによろずは踊らないのぉっ!?」
「あはは、ほんとに踊らないよ」
むぎゅっとかぐやに「おねだり」をされ続けていた。ライブ直前だと言うのにだ。
緊張感ないねかぐや、さすがかぐや。
ボクを無理やり関係者として押し通して控え部屋に連れ込んだのもそうだけど、ほんと行動力あるんだから、キミたちは。
「というか、ボクが今更混ざりに行ってもダメだろ? 二人の邪魔になっちゃうのも、三人のライブを台無しにするのも、ボクは望んでないよ」
「大丈夫! よろず器用だもん!」
「そう言う水準の話じゃなくってね?」
うるうると目を潤ませてもだめだよ、というか無茶振りが過ぎる。
流石に長生きした化け猫とは言えど、現代風ダンスは出来ないかなぁ。
「むー……」
「こら、最後の最後までよろずを困らせないの」
「彩葉だって一緒に踊りたがってたじゃん!」
「それはそれ、これはこれ。無理強いは話が別」
「ぐむむむむ……」
「あはは、よしよし」
いやぁ、こう見るとほんと母娘みたいだよねぇ、この二人。しっかり者のお母さん彩葉と、まだまだ甘えたがりな娘のかぐや。
さしづめボクは孫を甘やかす姑の立ち位置か。
……にしてはご主人に大事にされ過ぎている、かなぁ。
老猫に比喩や例えは難しいや。
「というかリラックスしてるねぇ、二人とも。かぐやはいつも通りだろうけど。彩葉は大丈夫なのかい?」
「う」
ぴしり、と固まってしまった。あらら、図星を突いてしまったかな、やらかしたかも。
指摘しない方が良かった、って奴だ。
「しないわけないじゃん」
「だよねぇ、かぐやがこういう時に無敵過ぎるだけか」
「?」
ボクにむぎゅっとくっ付いたまま疑問符を浮かべていそうなかぐやが緊張にめっぽう強いだけで、人間ってものはこう言う時に萎縮してしまうものだ。
溜め込むタイプなご主人はその典型例だね、日々の積み重ねはしっかりしてるけど、それを自覚し切れないから。
「ん」
「……はーい」
ふふん、こう言う時こそボク、アニマルセラピーの出番だよね。
するっとかぐやから抜け出して、手を広げた彩葉のところに収まる。
空気を読める猫だからね、ボクは。
まぁ今人間体だけど。いい加減かぐやにボクは猫だってばらした方がいいかなぁ、タイミング見失っちゃった。
人間として生きるのも悪くないんだけど、やっぱりボクって化け猫だし。
「……ん」
「あはは、んしか言わなくなっちゃった。意識させちゃってごめんねぇ」
ぎゅっと、抱きしめたまま動かなくなるご主人。こつんと顔をボクの後頭部に埋めてるのかな? それがちょっとくすぐったかったり。
随分と緊張を溜め込んでるみたい。
「むー……やっぱり彩葉のよろずで、よろずの彩葉……」
「? どうかしたのかい、かぐや」
「なんでもない! 彩葉もよろずもずるい!」
「わぶ」
どむ、とボクたちに抱き付いたかぐや。
ボクは確かご主人の飼い猫だけど、ご主人はボクのじゃないよ?
こっそり帰って来たヨ。