GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~   作:石井

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プロローグ:日常の終わり

八月上旬の昼下がり、快晴の空から降り注ぐ日光が教室の窓際を熱する。教壇では、夏休みにも関わらず教師がチョークと教科書を手に長々と有機化合物について語っていた。黒板は化学式で埋められており、右上に『補習授業』と小さく書かれている。

 

「えー、であるからして、この物質がサリチル酸ナトリウムであることがわかる。質問はあるか?」

 

教師の問に対して反応を示す者は誰一人としていない。それもそのはず、補習に参加した生徒の全てが机に突っ伏すか上の空で授業を受けているのだ。教師は呆れと諦めの入り雑じった溜め息を吐く。

基準とされた点数を下回り、補習を受け、それでもなお勉学へ専心的な態度を向けられないのは学校の問題ではなく本人の問題である。義務教育なら親のクレームやらなんやらの対策のために何かしら改善策を講じる必要があったが、高等学校ともなれば学生の裁量次第でどうとでもなるために学校側はやることをやれば(あずか)り知らぬで通せる。

 

「無いなら次いくぞ。」

 

すなわち、保身的な教師の瞳には、ヨダレを垂らして(いびき)をかいている(やから)は映らないのだ。

 

教室の最前列窓際の席に座る(かん)(ばら)(ゆき)は教師が黒板に向き直るのを確認すると、即座に視線を窓から見える階下のグラウンドへと落とす。外では女子陸上部が大会に備えて練習をしていた。

 

(クソあちい。ま、この退屈な時間を目の保養で潰せるから我慢するけど。)

 

成長期の女子生徒らの体育着は汗で濡れ、体のラインをくっきりと浮かび上がらせている。

 

(……あの子胸デカイな。)

 

思春期真っ盛りの高校二年生であるこの男子生徒は、勉強そっちのけで性欲を剥き出していた。

 

~~~~~~~~~~

 

15時前には補習も終わり、教室にいる生徒は各々つるんで雑談に耽る。しかし、雪だけは違った。彼は終了のチャイムと同時にそそくさと荷物をまとめると、誰に声をかけられることもなく学校を後にする。

これが神原雪の日常だ。

 

誰とも深く関わらず、出来るだけ目立たぬように生きていく。雪は重度のコミュニケーション障害を抱えていた。

きっかけは幼少の頃まで遡る。雪は育児放棄こそされなかったものの、親から無視され続けて育ってきた。何故無視されるのか、理由など雪にはわからない。もしかしたら特に理由など無いのかもしれない。だが、子供というのは何かと注目を浴びたがる生き物だ。そんな状況に耐えられるわけがない。だから、幼いながらにも注意を引こうと試行錯誤した。が、努力は報われなかった。相手が自分に振り向いてくれないことに恐怖をおぼえた子供は、人との関わりを断つことで自分の精神の安定を確保した。この方法以外に自分を守る術が思い付かなかったのだ。結果、雪は独りぼっちとなり、コミュニケーション能力も致命的になった。

そんな雪の唯一の心の拠り所が日本のサブカルチャーであるアニメ・ゲームだ。短時間で様々な感情を呼び起こさせるそれらに雪はのめり込んでいった。特にはまったのは『アラガミ』と総称される怪物と戦うアクションゲーム『GOD EATER』である。このゲームの主人公はたとえ無口であろうとも、様々な人から信頼を得ていた。雪は知らずの内に、誰とも話さぬが故に無口な自分とこのゲームの主人公を重ねていた。

 

(俺もこんな風に可愛い女の子たちと……。)

 

動機は不純だが、思いは純粋だった。一人で行った初詣で、絵馬に『GOD EATERの主人公になれますように』と書くほどに切なる願いだった。

果たしてこの行為が関係したのかは定かではないが、雪は思わぬ形で願望を叶えることとなる。

 

その日、いつものように学校を出て帰路につく雪の頭上に細長い影が射した。直後、何かが割れる音と共に強烈な衝撃が後頭部を襲う。雪は一瞬で意識を失い、その場に倒れ込んだ。周りには割れたプランターと頭の中身がぶちまけられていた。

 

 




はじめまして。本日より小説の投稿を始めます。処女作ゆえ、至らない点も多々あると思いますがよろしくおねがいします。
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