GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~ 作:石井
―Kanbara's view―
コウタの不在に気づいた俺は、オウガテイルに囲まれた状況を打破するためにスタングレネードを使った。
スタングレネードは荒神が現れる前から使用されていた兵器の一つで、目眩ましや耳鳴りを引き起こすのを目的とした殺傷能力ゼロの手榴弾である。荒神出現当初から有用性は証明され、離脱や体勢の立て直しなど、主に荒神の隙を生むのに多用される。ただし、味方も巻き込み兼ねないので、使用時には注意が必要という代物だ。
視力と聴力を一時的に奪われてオロオロと戸惑う数多のオウガテイルの間を、俺は全速力で走り抜け、通り過ぎ様にバスターで切り払っていく。吹き上がる荒神の血を置き去りに、服を赤く染めることもなく入り組んだ路地を駆けた。
(コウタのことだ、どうせ家族が心配で真っ先に会いに行ったんだろう。となると、行きそうな場所といえばコウタの家だが……何処にあるんだ?)
ゲーム『GOD EATER』はかなりやりこんでいたが、コウタの家の所在地はストーリー中には出てこなかった。そもそも外部居住区自体、ゲームでは地図や景観などの描写も殆どなく、名称でしか登場しない。自分の居場所すらよくわかっていないのだ。
これがゲーム知識の限界である。たとえゲームと同じ世界に生きることを望み、叶ったとしても、その人は予めセッティングされた範囲での知識と展開しかわからない。それらを逸脱した瞬間、白紙のページに一から書き加えていくことになる。俺が陥ってるのは正にこれだ。
どうやって見つけたものかと悩んでいると、E26の中でも荒神防壁から比較的離れた住宅街の屋根の上を、悠々とヴァジュラが歩いているのが見えた。
(……あんなにでかいのか。やっぱ小さい画面よりも生で見る方が迫力あるな。)
我ながら呑気なことを考えていると、急にヴァジュラは進路を変え、路地へと飛び降りた。
荒神が突然に機敏な行動をとるのは、ゲーム上での経験則からして人を発見した時ぐらいしかない。ヴァジュラは一切此方を見ていなかったことから、恐らく別の誰かが目をつけられたのだろう。
(マズイな……。)
ヴァジュラまで多少距離はあるが、見過ごして死体を増やすのも寝覚めが悪い。
俺は近くのオウガテイルを踏み台に屋根へと飛び乗り、常人離れした脚力で次々と別の屋根へ跳び移る。目指すはヴァジュラが降りた地点だ。
「ギャオオォォオオオォォォ!!!」
「んなっ!?」
後50メートル足らずというところでヴァジュラが雷球を一軒の家に目掛けて発射した。今までの推察が正しければ、家の中には人がいる。このままでは丸焦げだ。
「くっ!」
俺は助走をつけて飛び上がり、空中でタワーシールドを展開する。
(間に合えっ!)
すんでのところでなんとか着地し、雷球をタワーシールドで防ぐ。
「っ!」
雷球の衝撃で全身が痺れる。ちらりと後ろを見ると、扉の開いた家の中に血塗れのコウタが変形した神機を胸に抱えて突っ立っていた。
(どうすりゃ神機があんな風になるんだ。……ツバキ教官に殺されるな。)
「……え、なんでお前、ここに……?」
俺はコウタの疑問を無視して視線を前へ戻し、これからのことを考える。さっさと逃げ出したいところだが、俺がタワーシールドを神機に収納すれば遠距離型神機使いのコウタが無防備になってしまう。あれだけ満身創痍ならもう一発喰らえば即死確定だ。
(…………こうなりゃ仕方無い。)
俺は一つだけ思い付いた策を実行するために、コウタに呼び掛ける。
「コウタ、スタングレネード持ってるか?」
「え、無いけど?」
さも持っていないことが当たり前のように受け答えてきた。
(なんで持ってねえんだよ、必需品だろ。)
ど突きたい衝動が沸き立つがここは抑える。
「俺のウエストバッグの中に7個入ってる。今すぐ使ってくれ。」
「わかった!」
こんな話をしてる間にもヴァジュラは雷球を飛ばしてきている。吹き飛ばされないように踏ん張り続けるが、体力的には限界が来ていた。
「スタングレネード、いくよ!」
聞くなり俺はすぐに目を閉じる。ゴッドイーターの使うスタングレネードは荒神だけでなく人にも有効なため、使用時は近辺にいる人々に合図を送ることが義務付けられている。
瞼越しにもわかる眼を射抜く閃光をやり過ごし、タワーシールドを収納して目の前を見据える。眼前ではいつのまにか迫っていたヴァジュラがスタングレネードにやられ、獅子の体を伏せてへたり込んでいた。
(これなら……。)
視覚聴覚を取り戻される前に仕留めんと、俺は両手で掴んでいるバスターを矢を引くように顔の真横に添え、軽く膝を曲げ、重心を後ろへ寄せる。深く息をして沸き上がる恐怖を誤魔化し、狙いを一点に絞る。
「…………ちぇすとおおおおおおお!!」
気合いを入れて後ろ足を踏ん張り、重心を前に飛ばしながらバスターを突き出す。急激な加速で押し出された体から繰り出される突きは、空気を切り裂き、ヴァジュラの歯を砕き、両腕もろとも口内に吸い込まれる。バスターがヴァジュラの体奥深くに刺さるのを体感のみで確認すると、俺は喉が裂けんばかりの大声で神機に命じる。
「喰らえ!!!!」
「グォオオォォォオオオォンッ!!!」
ヴァジュラの中で生々しい音をたてて荒ぶる神機を俺は必死で押さえ込む。いくら荒神といえど、体内は動物に毛が生えた程度の硬度であるため、すんなりと顎に喰わすことができる。顎に内臓をもがれたヴァジュラはピクリと一瞬だけ痙攣すると、次第に巨体から力を抜いていき、二度と動くことはなくなった。俺はゆっくりと神機をヴァジュラの口から引き抜く。
「………………はぁぁぁ。」
緊張の糸が一気に切れ、その場に尻を着いて深く息を吐いた。
「危なかった、マジで危なかった、こんな体験洒落にもならんわ。」
今もここは戦場に変わりないが、そんなことも忘れて誰に語るわけでもなく一人でぶつぶつと呟く。こうは言いつつも、何処かで俺は達成感に満たされていた。初陣で、素人二人だけでヴァジュラ討伐なんて余程の快挙ではなかろうか。
(そうだ、コウタは!?)
後ろを振り向くと、オウガテイルの針を体から生やしたサボテン少年が口をポカンと開けて突っ立っていた。人様が命張ってるときにこのアホ面をしていたのなら、殴られても文句は言えないレベルだ。俺は血だらけのバスターで疲労困憊の体を支え、おもむろに腰を上げる。
「コウタ、しっかりしろ。」
「……は!?」
「放心するならTPOを考えてからにしろ。こちとら死ぬかと思ったぞ。」
優しく注意すると、コウタはそんなの関係ないと言わんばかりに俺の言葉をスルーして近づいてきた。いい加減に殴ってもいいだろうか。
「ユキ、お前すげえよ!!」
「……は?」
拳を握りしめて青アザをつくる場所を考えていると、コウタが興奮ぎみに話し出す。
「お前、たった一人でヴァジュラ倒したんだぞ!ほんとすげえよ!」
「いや、お前もいただろ……。」
「何言ってんだよ、倒したのはおまえだろ?ほら、もっと喜べよ!これはアナグラでご馳走が待ってるかもなぁ!」
コウタに待っているのはツバキ教官のビンタだと思うが黙っておく。俺にだって空気ぐらい読める。
子供らしくはしゃぐコウタを置いといて、俺は周囲を見渡す。姿は見えないが、其処ら中から荒神の声が聞こえる。
(戦闘音を聞いたのが集まってきたらヤバイな。)
移動しなければ危ないが、この場を離れようにも体が言うことを聞かない。ゴッドイーターになったばかりで慣れていないのに無理をしたからか、全身が悲鳴を上げている。
(……あ、これダメなやつだ。)
脳内で弱音を吐いた途端、力が入らなくなり、意識が途切れた。
レイジバーストのopかっこいいですね。pvも映画のワンシーンみたいに迫力がありますし。発売が待ち遠しいです。