GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~ 作:石井
アナグラに完備されている病室で、俺は両手を後頭部に当てて枕代わりにし、硬いベッドへ寝転がる。
看護師の話によると俺がE26で気を失った後、偶然上空を通りかかった帰投中のヘリが俺達を発見し、傷だらけのコウタと一緒にアナグラへ運んだらしい。診断の結果、極度の疲労が気絶を、ゴッドイーターの体に馴染みきっていない状態でのバーストモードが筋肉の損傷を引き起こしていると判明した。完治はサボテンだったコウタよりも俺の方が時間がかかっており、今は四人まで入れる病室を一人で占領している。
「………………暇だ。」
病室の中には時間を潰せるような娯楽アイテムは何一つ無い。となると、物思いにふける以外にやることはなかった。
(……今回の荒神侵入、ゲームのストーリーなら大分先の出来事なのに。)
なんとなしにこれまでを振り返る。本来ならメディカルチェックの後に入るのは雨宮リンドウとのオウガテイル一体討伐任務だ。しかし、この世界はそれを無視して初っぱなから外部居住区に荒神侵入と来た。しかも、コウタの家族がいるE26への。もしもこの侵入でコウタの家族が荒神に殺されていれば、ゲームのシナリオとは全く別の路線へ進むこと確定だ。それを防ぐためにも戦闘演習なしに出撃せざるをえなかった訳だ。一緒に病室で療養していたコウタの話から、コウタファミリーが無事避難し、その後連絡も取り合えたことがわかった。これならゲームのシナリオへ戻る可能性も十分あるだろう。
(別にゲーム通りにする必要は無いが……、そうなると不測の事態もあり得るからなぁ。)
ゲームのシナリオに固執する理由は色々あるが、やはり一番は今後の出来事を有利に進められるからだ。ゲーム通りに事が進めばモノによっては事前に回避するなり、何らかの対策を練ることも出来るが、ゲームから外れた未来となると俺の知識は最大限活かせなくなる。困難や災難への対応も遅れ、被害も増えるだろう。
(やはりゲーム通りに事を運んでいくべきだな、うん。)
俺が一人で頷いていると、病室の扉が開いてショートヘアの銀髪少女が入室してきた。
「ユキ君、大丈夫?」
俺は体を起こし、心配そうに声をかけてくれた相手へ軽く頭を下げる。
「り、リッカさん、こここここんにちは。」
「ふふっ、ニワトリみたいになってるよ。」
相も変わらずリッカさんは上半身タンクトップのみという男性に刺激的な格好をしている。これが狙ってやっていることならば荒神以上に質が悪いかもしれない。
「体調の方はどう?」
リッカさんは俺のベッドの近くに丸椅子を寄せて腰かける。
「……だ、大丈夫だと思います。」
俺は両肘で円を描くように肩を回し、体の具合を確かめた。まだ関節が痛むが、これ以上休むと周りから白い目で見られるかもしれない。職場をそんな雰囲気に持っていくのは避けたいところだ。
「そっか、よかったー!」
整備で頬についたオイル汚れを拭いつつ、リッカさんが安堵の笑みを浮かべる。なんだか、今のを見れただけで悪いものが全部吹き飛んだ気がした。
「いやぁ、一昨日はビックリしたよ!E26の修繕から帰って早々、ベコベコに凹んだコウタ君の神機と、盾収納部が壊れた君の神機がうちに届けられてきたんだから。」
(あれ、目が笑ってない……。)
前言撤回、これは巷で話題の笑顔で怒るというやつだ。さっきまで魅力的だったのに今では背後に阿修羅が見える。吹き出す冷や汗で患者衣が体にべたつく。
「あ、あの、コウタの神機については存じておりましたが、わ、わたくしめの神機については気がつかなかったというか、そ、その…………、た、大変申し訳ごじゃいましぇんでした……。」
嘘を言っている訳ではないのだが視線がキョロキョロと泳いでしまう。神機に損傷を与えてしまった後ろめたさと、リッカさんのタンクトップ姿から来る扇情と、二つの理由で動揺していたからだろう。
リッカさんは暫く無言で俺を睨み付けると、張り詰めた空気を解すように大きく息を吐いた。
「私は君が神機を壊したことに怒ってるんじゃないよ。いや、怒ってないと言えば嘘になるけど……。」
リッカさんの表情が暗くなる。
「君の神機を診れば、君がどんな戦い方をしたのかぐらい簡単に想像できる。大方、ヴァジュラの攻撃から誰かを守って、ヴァジュラの口に神機をぶちこんだ後、そのまま捕食形態にしたとか、そんなところでしょ?」
(なにこの人、エスパーかよ。)
まるで全て見ていたかのように的確に答えられた。
(もしかして、アナグラの自室で俺が我がムスコを慰めてたのも神機から読み取られてたり……。)
全身に、主に下半身に戦慄が走った。と同時に、それはそれでありにも思えた。新たな扉が開いてしまったかも。
「……ユキ君、私は真面目な話をしているんだけど、なんで鼻の下を伸ばしてるのかな?」
「き、気のせいですよ。」
「……ふぅん。」
リッカさんの山吹色の瞳から疑惑の視線を向けられる。誤魔化しきれなかったらしい。
「ま、兎も角、もう二度とそんな戦い方をしないように!今回は偶々上手くいったみたいだけど、今後もこんなことを繰り返してたら命が幾つあってもたりないよ!」
「は、はい、重々承知しております。」
「それならよろしい。」
俺の恭しい対応に合わせて、リッカさんも仰々しく胸を張る。大きく揺れた二つのソレに目が行かないよう、俺はひたすら無心に努めた。
「ところで、一つだけ聞きたいことがあるんだけど。」
「な、何ですか?」
騒ぎ出そうとするムスコを沈めつつ、何気なく応じる。
「君はどうして…………経験もロクに積んでないのに今回の任務に無断で参加したの?」
「…………ど、どうしてと言われましても。」
非常に痛いところを突かれた。コウタの家族が死ぬとシナリオが変わるから、等とリッカさんに話すわけにもいかない。
(事前に言い訳考えとくべきだったな……。)
リッカさんの顔が段々と迫り、返答を急かす圧力が増す。シャンプーのいい臭いもする。
「……お、」
「お?」
「お綺麗ですね~、リッカさん!もしかして髪形変えました?いや、お似合いですよ!これなら引く手数多ですよ!本当にお美しい!リッカさんをお嫁さんに出来る人は幸せですね!」
上手い言い訳か思い付かなかった俺は褒めることに逃げた。コミュ障でもこれだけ一息に言えたのは全て本心だからだ。いい終えてからなんだか恥ずかしくなってくるが、背に腹は変えられない。俺はリッカさんのリアクションを伺う。
「…………ユキ君、誤魔化そうとしてるでしょ?」
作戦失敗、速やかに撤退したい。あれだけ本心ぶちまけたのにノーリアクションとは、中々心にクるものがある。
リッカさんは呆れ気味に立ち上がると椅子を元の場所に戻しながら呟く。
「言いたくないなら余計な詮索はしないけど、無茶だけはやめてね?君だけの体じゃないんだから。」
「あ、ありがとうございます。」
「うん。じゃあ、体調には気を付けてね!またね!」
親ですらくれなかった優しさをリッカさんから貰い、嬉しくて病室で一人泣き出しそうになる。
艦これのアニメを見始めた作者です。
ゴッドイーターのアニメはいつ放送なんですかね。楽しみで夜しか眠れない日々が続いてます……。