GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~ 作:石井
退院してすぐに俺を待ち受けていたのは、ツバキ教官の有難い御言葉だった。
「この馬鹿者!訓練も受けずに戦場に行くヤツがあるか!死んだらどうする!」
エントランス一階のど真ん中で俺は正座をし、目の前に仁王立ちでたたずむツバキ教官に頭を垂れていた。隣にコウタが居れば少しは怒りの矛先も分かれただろうが、俺より早く退院して既に御言葉を貰っていたので生憎それは望めない。十五分前に「ユキ、俺が大分ツバキさんの怒りを静めといたからお前に降りかかる火の粉はかなり減ったはずだ。」とか恩着せがましいことをほざいていたコウタのドヤ顔が浮かぶ。何処をどう捉えればこれが減ったように思えるのか。
(てかコウタの野郎、二階で顔を真っ青にしてこっち見てんじゃねえか。助けろや。)
「ユキ、何処を見ている!私の話を聞け!」
「は、はいぃぃぃ!」
以心伝心というわけにもいかず、コウタはそそくさとエレベーターへ逃げてしまった。いや、仮に俺の心中が伝わっていたとしても第三者が口を挟めるような空気ではない。ここは潔く御説教を承る他ないだろう。
ツバキ教官が荒神にも勝る眼光で俺を睨み付ける。
「いくらゴッドイーターがアナグラに残っていなかったからといえど新人の出る幕ではなかった!お前たちが危険な目にあっても今回のような状況下では救援を送る余裕すらないんだ!運良く発見されて死なずに帰ってこれたようだが、次も助かるとは限らん!二度とこんな真似はするな!」
新人がしゃしゃり出るなということか。全くもってその通りだ。ド素人がいたところで普通なら戦況が良くなることなど見込めないし、分をわきまえず下手に掻き回して悪化させられても困るのだろう。
「わ、わかりました……。」
ぐうの音も出ない忠告を受けたときは素直に聞く。社会人としては勿論、人としても世の中を上手く生きていくには大切なことだ。生と死が隣り合わせのこの世界では特に。
ツバキ教官はクリップボードで自分の肩を軽く叩きつつ、空いた方の手を腰にあてる。
「まぁ、本来なら懲罰ものだが……ヴァジュラ遭遇時における臨機応変な対応、及びその討伐の功績を汲んで今回に限り免状すると上からはお達しがきた。二度とこんな真似はするなよ。」
「あ、ありがとうございます。」
規律を犯している時点で賞賛を貰える期待はしていなかったが、罰を帳消しにできる程度には認めてもらえたらしい。
「明日から任務に出てもらう。自分の勝手な行動が招いた怪我なのだから入院で体が鈍ってるなんて言い訳は聞かんぞ。今日中に調子を取り戻しておけ、いいな?」
「は、はい。」
「よろしい。今日一日は明日に備えた生活を心掛けるように。以上だ。」
クリップボードを片手に抱え直し、ツバキ教官は颯爽と二階へ上がっていった。緊張感が一気に解れる。
「はぁ……。」
病室でゴロゴロしていただけに明日から任務と言われると気が重くなる。日曜日の夕方に明日が学校だ仕事だと考えると鬱になるのと同じだ。
(……言ってもはじまらないよな、アイテム買い揃えてから訓練場に行くか。)
ポケットから財布を取り出し、エントランスの隅で風呂敷の上に商品を広げているよろず屋へ足を向けた。今月は財布の中身がキツキツになりそうだ。
-out of Kanbara's view-
-the third person's view-
「いいんですか?アイツにE26へ行った理由を問い詰めなくて。」
二階へ上がってきたツバキに、何処と無く顔立ちが似ている男性が声をかける。ツバキとユキのやり取りを聞いていた口振りだ。
「盗み聞きは感心しないな、リンドウ。」
「あれだけ怒鳴ってたら嫌でも聞こえてきますよ。」
リンドウと呼ばれた男性は心外そうに眉をひそめる。
「で、実際のところどうなんです?」
その問に、ツバキはふと視線を落とす。
「そうだな……。コウタが飛び出したのは書類に記載された身辺情報を調べれば家族を守るためだと判断できるのに対し、ユキについては身辺情報欄に無記載が多すぎて素性が掴めないため、E26へ行った理由も皆目検討がつかない。私としても気になるところだ。」
「現代の情報保有量トップクラスであるフェンリルの力をもってしても個人情報が穴だらけですか……、気味悪いですね。」
身の上がわからぬ人間と働くのは普通ならさして気に止めることではないが、命を預け合う職場となれば話は別だ。少しでも多くの信頼要素を得たいが為に相手を調べるのは自分の身を守るためにも不可欠な行為である。その点において、リンドウが手元にある情報のみで出した見解は必然だった。
「でしたら尚更、問い詰めたほうがよかったんじゃないですか?」
「……訳を問うというのは相手の話に耳を貸すということだ。私情を挟むことの許されぬ規律を叩き込んでる最中にそんなことをすれば、訳ありなら規律を破ってもいいなどという甘い考えを生むやもしれん。」
「相変わらずお堅いですね、上官殿は。」
長々と説明するツバキにリンドウが茶化すような笑みを浮かべる。
共に何年も過ごしてきたツバキには、この表情の裏に隠れた弟の不安が見て取れた。これからは得体の知れない新人と背中を預け合うのだから無理もない。しかし、余計な不安を抱えたまま荒神を相手にすれば隙が生まれて死に繋がる。
「黙れ、お前はさっさと任務に行け。」
だからこそ、姉として弟を支えんとするツバキはリンドウの背中を平手で叩き、気合いを入れさせる。これが今のツバキにできる唯一の助力だった。
「……へいへい、了解です。」
叩かれた場所を擦りながらリンドウは面倒臭そうに応じる。弟の肩から余分な力が抜けたのが、姉にはわかった。
-out of the third person's view-