GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~   作:石井

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カレーは飲み物

-Canon's view-

 

夜の11時、殆どの方が就寝に付いている時間帯、入浴を終えた私は新人区画のエレベーター付近に設置された自動販売機で飲み物を買おうとしていました。何にするか決めていなかったので、たまには運任せに目を瞑って押してみようと思います。ぽちっと。自動販売機の中で金属同士がぶつかり合う音が無人の廊下に響きます。最後の落下音を聞き届けてから恐る恐る取り出し口に手を滑り込ませると、指先にヒンヤリと冷たい金属の感触が伝わりました。これはカンの冷た~い飲み物ですね。あたたか~いのを当てることは免れたようです。カンを掌で包んで胸の前まで持ち上げます。何を押し当てたのでしょうか、ドキドキと胸を高鳴らせながら目を開きます。

 

「……冷やしカレードリンク…………。」

 

ラベルに表記された文字を読んで、ガクリと肩を落とします。疑いようもないハズレです。リッカさん愛飲らしいのですが、アナグラでは彼女以外にこれを飲んでる人を見たことがありません。理由は言わずもがな、皆さんのお口に合わないからです。私も前に一度試しにと飲んだことがあるのですが、色んな意味で想像を絶する体験でした。あの恐怖が今再び、私の手の中で禍々しいオーラを放っています。

 

「うう……、でも飲まないと勿体ないし……。」

 

何より体が先程のお風呂で流しただけの水分を欲していました。仕方がありません。プルタブの下に親指を入れて、危険物を取り扱うように顔から出来るだけ遠ざけます。

 

「いざっ!」

 

掛け声と共にプルタブを押し上げます。プシュッと飲み口に穴が開き、解き放たれたカレーの香りが鼻腔をくすぐります。何故でしょうか、喉を潤すために買ったのに、嫌な緊張で喉が渇いてしまいます。

 

「い、いきますよ……。」

 

唇を飲み口に触れさせます。中に茶色い液体が入ってるのが見えてしまいました。心が揺らぎますが、意を決して一息にカンをあおります。味はともかくとして、お風呂上がりの火照った身体に冷たいものを流し込むというのは何とも言えない爽快感があります、堪りません。味はともかくとして。

 

「……ん……んぐ…………んぐ…………ぷはぁぁぁ!」

 

やりました。飲みきりました。不思議な達成感が沸き上がります。物事を成し遂げるというのはいいものですね。

壮絶な戦いを終えた私は空きカンをごみ箱に捨てて、近くに設置されたベンチに腰かけます。サカキ博士の言葉を借りるなら戦士の束の間の休息です。

 

「うう……、口の中にカレーが残ってるみたいで気持ち悪い……。」

 

寝る前に飲むものではありませんでした。寝る前でなくても飲みたくないですけど。今日はいつも以上に丁寧に歯を磨きましょう。

 

「……ふぅ。」

 

背中を壁に預けると、力の抜けた体から一日の疲れがフツフツと沸き上がります。このままでは部屋に戻る前に眠ってしまいそうです。それはいけません。口内の残留カレーと一夜を過ごすなど、最悪の目覚めを迎えること間違いなしです。首を左右に強く振り、頬を叩いて眠気を飛ばします。

 

「よし!」

 

足腰に活を入れて勢いよく立ち上がります。今日は夜更かしをせずに早く歯を磨いて寝た方がいいですね。

 

「あら?」

 

視線を通路に向けると、コウタさんがお財布を片手に自動販売機に歩いていくのが見えました。彼はユキさんと同じく最近入った新人さんです。

 

「あ、カノンちゃ……さん。」

 

私の声でコウタさんもこちらに気づきました。

 

「何か飲み物を?」

 

「はい、バガラリーを見ていたらちょっと喉が渇いてきて。」

 

「バガラリー?」

 

「アニメですよ。」

 

話ながらコウタさんが自動販売機で購入したのは有名な飲料メイカーが売り出しているカンコーヒーでした。お若いのにコーヒーが飲めるなんてかっこいいです。

 

「カノンさん、……ちょっと相談したいことがあるんすけど、少しだけ時間もらってもいいですか?」

 

突然、深刻そうな面持ちで相談事を持ちかけられてしまいました。これは先輩としてしっかり受け答えをしないといけませんね。寝惚けた顔を引き締めないと。

 

「どうぞどうぞ。」

 

私に出来る最大限の凛々しい表情でコウタさんのお悩みを受け付けます。上手くいけば「カノン先輩!」なんて呼んでくれるかも。いけません、折角取り繕った顔がにやけてしまいます。

 

「カノンさん、座らないんですか?」

 

「え?」

 

いつの間にかコウタさんは私の向かいにあるベンチに座っていました。自分の世界に入り込んでしまって周りが見えなくなっていたようです。これはいけない、先輩と呼ばれるためにはもっと頼りがいのある振る舞いをしなければ。

コウタさんに促されたからではなく、あくまでも自分の意思でそうしようとしているような所作で腰を下ろします。その方がカッコいい先輩という印象を持ってもらえそうだからです。つい先程まで座っていた場所なので温もりがまだ残っています。

 

「それで、相談といいますと?」

 

悩みを打ち明けやすいように、まずは私から尋ねます。コウタさんは少し逡巡してから、ポツリポツリと話始めました。

 

「俺、ユキと一緒に行った今回の戦闘で、そこに住んでる母さんと妹の無事ばかりが気になって、荒神と戦ってるアイツを一人置いて勝手に家に戻ったんです。それで家族の避難を確かめたところでヴァジュラと遭遇して、ヤバイって思ったときに間一髪、置いてきたはずのユキに助けてもらったんです。アイツがヴァジュラと戦ってる間は後ろでそれを見てることしか出来ませんでした。……荒神を倒すことも誰かを助けることもできずに、それどころか他の人達に迷惑をかけて、」

 

カンコーヒーを包んでいたコウタさんの指先に力が入ります。

 

「ゴッドイーターになったのに、何もそれらしいことが出来ていないなって、……そう思ったんです。」

 

なにやらコウタさんは、自分の思い描いているゴッドイーターの役割を果たせなかったことに負い目を感じているみたいですね。新人気分が抜けていないと度々怒られる私にも耳が痛い話ではあります。他の人達が結果を出している中、自分だけが何も残せていないととても惨めな気持ちになるんです。

 

「……俺はどうすればいいんでしょうか。」

 

なんとも漠然としていますが、右も左もわからない新人さんらしい相談です。しかし、この答えをコウタさんは既に知っています。ここは先輩である私がそれに気づかせなければ。

 

「では、まず私から一つ質問です。コウタさんは何のために戦うんですか?」

 

「何のためって……それはもちろん民間人を守るために」

 

ゴッドイーターとしては大変模範的な回答ですが、私は首を振ってコウタさんの言葉を遮ります。

 

「違いますよ。そんな世間体で塗り固められたものじゃなくて、コウタさんの本心を聞きたいんです。」

 

先程の話からすると、コウタさんは同行のゴッドイーターを戦闘の渦中に置いてでも先ずは家族の無事を確認しに行く人です。民間人を守るために荒神と戦う、なんて言う人のとる行動ではありません。すなわち、今のコウタさんの答えは本心ではない、偽りの言葉です。偽りの言葉は周りへの印象操作が出来ますが、人に相談する際は使うべきではありません。当人の本心を打ち明けてもらわなければ、相談された側も適切な解決案、若しくはそれに類するものを導けないからです。

相談者の本心を明確にするためにも、少し質問を変えてみます。

 

「そうですね……。では、コウタさんの譲れないものは何ですか?」

 

私の質問に対して、コウタさんは口を開いて閉じてと繰り返します。他人に話して良いものか迷っているみたいです。もどかしい気持ちになりますが、私は黙って見守り続けます。初めからポンと自分の本心を語れるような人はそうそういませんし、語られた側としてもガードの薄すぎる相手は疑惑の対象となりますからね。

暫く口をパクパクさせたコウタさんは、一旦口を引き締めて私に力強い視線を送りました。そして、一言。

 

「家族、母さんと妹……です…………。」

 

私は大きく首を縦に振ります。全てを後回しにして家族を優先した彼の言葉です。そこに嘘偽りはありません。

「どうすればいいか?」漠然とした問には様々な解が存在しますが、コウタさんの場合はこれに集約されるでしょう。

 

「それなら、コウタさんはコウタさんらしく、家族のためにこの職場で働けばいいんじゃないでしょうか?」

 

「……俺らしく?」

 

「はい。勿論、民間人を守ることがこの職業の目的である以上、今回コウタさんがとった任務中の行動は誉められたものではありません。けれど、自分の大切な人も守れない人が民間人を守れるとも思いません。仕事仲間として責められることはあれど、人として責められることは無いと思いますよ?」

 

周りと自分を比べると、周りが輝いて見えること、自分が霞んで見えることはままあります。人という不完全な生き物である以上、隣の芝生が青く見えるのは致し方ないことなのです。しかし、本当に大切なのはそれらを育み、支えている土の部分です。周りばかりが気になって自分の本心を見失う、なんてことがあってはいけません。

 

「……そっか。」

 

コウタさんは俯き気味になっていた顔を上げると、流れるような動作でカンコーヒーの封を開けて口の真上に飲み口がくるようひっくり返しました。少しだけ口元から溢れつつも止めどなく出てくるコーヒーを喉を鳴らして飲んでいきます。

 

「ぷはっ!」

 

最後の数滴を口内に送り届け、のけ反っていた体を引き戻しつつコウタさんは立ち上がりました。

 

「相談にのってくれてありがとうございました!なんか俺、頑張れそうです!」

 

ハツラツとした笑みでガッツポーズをきめるコウタさん。どうやら吹っ切れたみたいですね。人の悩みを解決できた嬉しさで、自然と顔がほころびます。

 

「私でよければいつでも相談に来てくださいね!」

 

「はい!それじゃカノンちゃん、おやすみ!」

 

「おやすみなさい!」

 

こうして、私の先輩としての初任務は成功に終わるのでした。

 

(………………あれ?コウタさん、今カノンちゃんって……。)

 

お悩み解決しても抱かれた印象は敬いの対象ではなく親しみの対象だったようです。私が先輩と呼ばれるのは、まだまだ先の話になりそうですね。

 

(ユキさんならカノン先輩って呼んでくれるかなぁ……。)

 

-out of Canon's view-




どうも、一段も消せないテトリスの如く疲労がたまりゆく作者です。今回はまさかの4000字オーバー。これはびっくりですな。

投稿ペースを早くしたいなぁ……。
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