GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~ 作:石井
俺は今、訓練所の中央に立っている。目の前には赤く物々しいプレス機のようなものが設置されており、その中に身の丈ほどある奇妙な形をした巨大な剣が置かれている。
「長く待たせてすまない」
見ず知らずの場所故に挙動不審になっていると、男性の落ち着いた声がスピーカーを通して聞こえてきた。不意に見上げると壁の上方に取り付けられたガラス越しに三、四名の人影が見える。
(彼処から話してんのか?)
目を凝らして姿を確認しようとするが、此方からは影の数以外識別することは出来なかった。スピーカーの向こうで男は一つ咳払いをする。
「さて、ようこそ……人類最後の砦『フェンリル』へ。」
(ふぇんりるふぇんりる……フェンリル!?)
『フェンリル』、この言葉を聞いてやっと赤毛の少女に話しかけられた時に気になった喉元の引っ掛かりが取れた。
フェンリルは急激な進化を遂げる怪物『アラガミ』から人類を守るために尽力する大企業だ。世界中に支部を展開し、そこで働く『ゴッドイーター』と呼ばれる人々は生体兵器『
だが、これらは全てゲーム『GOD EATER』の設定であり、現実の話ではない。それがどういうわけか、今俺の目の前でゲームのシナリオ通りに事実の如く繰り広げられている。考えられるとすれば、これが夢の中の出来事であるということ。
(でも、視覚とか聴覚をはっきりと意識できるんだからこれが夢とは考えにくいし……。となると現実ということになるわけだが……うーん、何が起きてるんだ?。)
つまるところ、経緯はわからないが俺は今『GOD EATER』の世界にいるらしい。
(流れに身を任せた結果がこれなら案外悪くないな。)
幸い、お気に入りのゲームなので大まかな出来事と人名ならしっかり覚えている。今後この世界を生きていく上で役にたつこともあるだろう。
(にしても……あの絵馬に書いた願い、まさか叶うとはなぁ……。)
人の感慨を余所に男は説明を続ける。
「今から、対荒神討伐部隊『ゴッドイーター』の適性試験を始める。」
俺は目の前に置かれている武器に恐る恐る視線を落とす。
(……これが神機か。)
見たところ剣形態、銃形態、捕食形態への可変式タイプのものだ。これは第二世代のゴッドイーターが扱う神機で、第一世代の不可変式タイプの神機の欠点を完全に補完した代物だ。
(やべぇ、緊張してきた……。)
自然と手汗が吹き出る。体と顔が熱くなる。足が震える。頭が、真っ白になる。
「……ふっ、少しリラックスしたまえ、その方がいい結果が出やすい。」
俺の気持ちを察してか社交辞令か(恐らく後者だと思うが)、口調を和らげて男が諭してきた。
しかし、リラックスしろという方が無理な話だ。何故ならこの適性試験、ゲームのムービーを見る限り絶叫物の痛さだからだ。おまけに一般の受験者には知らされないが、試験の失敗は事実上の死を意味する。そんな要らんことを知った上で受けるのだから、此方は今にも漏らしそうである。
「心の準備が出来たら、君の前にある台の上の神機を握ってくれ。」
落ち着いた男の言葉が内容とは裏腹に急かしているように聞こえる。被害妄想全開だ。
(ヤバイ、逃げたい……凄い逃げたい……。でも…………)
脳裏に先程応援の言葉をかけてくれた赤毛の女の子、受付嬢兼オペレーターの竹田ヒバリさんの笑顔が浮かぶ。彼女に失望されないためにもやらねば。
(というか、人に悪印象持たれるのが怖いだけなんですけどねぇ。)
余計なことを考えて恐怖をまぎらわしつつ、即座に右手で神機の柄を握り締める。
(来イヤ!)
脳内で気合いを入れると同時に機械の上部が降りてきて右腕を挟み込む。直後、肉が潰れるような生々しい音と共に、右手に喰い千切られるような激痛が走る。
「……っ…………っ!」
何とか声を抑えるも痛みで意識が飛びかける。まだ終わらないのかと思った矢先、ゆっくりと機械の上部が上げられた。肝心の右手を見てみると大して変わったところはなく、手首に赤くてデカイ腕輪『P53アームドインプラント』がつけられているだけだ。
俺はおもむろに神機を持ち上げてみる。相当の重量を感じるが、常人をはるかに上回る筋力を今の過程で体に植え付けられたため(詳しくは追々補足しよう)、木の枝のように神機を振り回せる。
「おめでとう、君がこの極東支部初の新型ゴッドイーターだ。」
(命がけの職場勤めなんて何もめでたくはないが……。)
顔には出さずとも内心皮肉を垂れる。『GOD EATER』の主人公になりたいと願いはしたが、アラガミとの戦闘で死ぬのは御免だ。かわいい女の子とおしゃべりするという甘い蜜だけを吸いたいのだ。我ながら小さい男の考え方だとは思うが。
「適性試験はこれで終了だ。次は適合後のメディカルチェックが予定されている。始まるまで君が先程までいたロビーで待機してくれたまえ。気分が悪いなどの症状がある場合は直ぐに申し出るように。…………期待しているよ。」
需要があるかわからない男のデレを聞き流し、俺は訓練所を後にした。
このあと、神機を携えてロビーもといエントランスに入ったために、ヒバリさんに優しく神機の戻し方を教えてもらったのはまた別の話である。