GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~   作:石井

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「疲れたぁ~……、グフゥ…………。」

 

新人区画のエレベーター付近に設置されたベンチに倒れ込む。誰かとまともに会話を交わしたことのない俺がいきなり知らない人に挨拶をするというのはやはりハードルが高すぎた。

ゴッドイーターは殆ど任務に出払っているようで探した限りでは会うことが出来なかったが、それ以外の人、整備班の紅一点である楠リッカさんや大先輩である百田ゲンさん、同期のコウタによろず屋のオッサン等はいたので挨拶をした。言葉を話すときに使われる筋肉は俺の場合ここ10年ほど怠けていたので上手く機能するわけもなく、尽くどもったり噛んだりして日本語として相手に伝わったかも怪しいレベルだった。

 

(絶対変人だと思われたろうな、俺なら思うもん。)

 

挨拶をした人は皆ひきつった笑顔で「……うん、よろしくね」等のことを言ってくれたが、あれは間違いなく歓迎されてない雰囲気だ。無難な対応で、トラブルになりそうな人から距離をとろうとする時に使われる常套手段だ。

 

「はぁ~…………、先が思いやられるな……。」

 

独り言を呟きながら壁にかけられた時計で時間を確認する。

 

(14時50分ちょっとか、そろそろ向かうかな。)

 

渦巻く鬱な感情を押さえ込んで立ち上がる。面倒臭いが時間厳守という日本人として当たり前なこともこなせなければツバキ教官に後々こってり絞られかねない。俺はエレベーターに乗り込んでラボラトリの区画へと向かった。

 

アナグラは階層毎にそれぞれの用途が定められており、主に『エントランス』『新人区画』『ベテラン区画』『ラボラトリ』『役員区画』の五つの階を区画移動用エレベーターで行き来する形である。他にも多種多様な区画があるがゴッドイーターには用が無いため、行ったことのない者が殆どである。

 

エレベーターの扉が開くと、緑色のワンピースと黒のスパッツを着用したピンク色ショートヘアーの女の子が通路に立っているのが見えた。

 

(あ、まだ挨拶してない人いたのか……。よし、今度こそ普通の人に思われる挨拶をするんだ!)

 

背筋を伸ばして胸を張り、自らを奮い立たせて俺は女の子に一歩一歩近付く。これは人類にとっては小さな一歩だが、私にとっては偉大な一歩となるのだ。

 

「あ、あの……。」

 

早くも及び腰になってしまった。

 

「はい?」

 

女の子は踊るようにクルリと回って俺の方に向き直る。艶やかな髪とワンピースの裾が、地球の重力を無視してふわりとなびく。そんな姿に見とれて口がだらしなく開いてしまった。が、すぐに我に返って任務遂行(挨拶)に移行する。

 

「ほ、本日より此方で働くこととなりました、神原雪です。よ、よろしくおねがいしましゅ……、おねがいします。」

 

(ふ、我ながら惚れ惚れする普通の挨拶!)

 

噛んでしまったが挨拶回りの時と比べればかなり上手く言うことができた。少なくとも日本語としては伝わったはずだ。

 

「……ああっ、新人の方ですよね!」

 

女の子はパッと顔を輝かせると、両手を膝上に揃えて深くお辞儀をする。

 

「台場カノンです、ブラストを扱ってます。此方こそよろしくおねがいしますね?」

 

頭を上げた時のカノンさんの笑顔は全てを抱擁してくれるような、とても優しそうな印象を持たせるものだった。ドキリとした。案外俺はちょろい男なのかもしれない。

カノンさんは左腕を胸の下に、右手を顎に軽く当てて考える素振りを見せる。

 

「二人新しい方が来るって言ってたっけ……。あ、今からメディカルチェックですね!廊下の突き当たり、サカキ博士のラボですよ!博士ってちょっと変わってますけど……、あ、でも!とても優しい方なんです!大丈夫ですよ!」

 

「え………………。」

 

カノンさんの含みある言い方に早くも不安を抱えたような表情を取り繕う。

 

「ほ、本当に優しいかたですから!大丈夫ですよ!」

 

カノンさんは自分がしたサカキ博士の人物紹介が要らぬ不安を招いたと察したのか、慌てふためきながら前言の最後の部分を強調した。

サカキ博士が優しい人であるのはこの世界に来る前からゲームを通して知っているので本当は不安など無い。が、カノンさんを困らせたいというちょっとした悪戯心が働いてしまった。反省はすれど後悔はしない。

 

「そ、そうですよね。色々とありがとうございます。」

 

誤解を解けたと安心したのか、カノンさんが心底安心した面持ちで小さく息を吐く。

 

「困ったことがあったらいつでも言ってくださいね!」

 

「はい、それでは失礼します。」

 

お互いにお辞儀を交わし、俺は言われた通り廊下の突き当たりへと進む。途中振り返ると、カノンさんが満面の笑みで手を振ってきた。抱き締めたくなるくらい可愛かった。存在するだけで場の空気を和ませる人が居るとすれば、きっとこの女の子のことだと誰しも思うだろう。

しかし、俺は騙されない。

 

(……あんないい子が戦場に立つと人格変わるんだもんなぁ。)

 

そう、台場カノンはいわゆる多重人格の持ち主で、一度引き金を引けば仲間にすら躊躇せず射撃を浴びせる悪魔と成り変わるのだ。故にゴッドイーターの間では『誤射姫』と呼ばれるほどにまで成長した。

 

(世の中、何があるかわからんものだな。)

 

一人胸の内で納得する。俺は誤射姫に軽く片手を挙げて応じた後に前へ向きなおり、ラボへの扉をノックした。

 




カノンちゃんは通路に突っ立って何をしてたんでしょうか。永遠の謎ですね。
次からの投稿は書き溜めが無いので少し間が空きます。気ながーーーーーーーにお待ちください。
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