GOD EATER ~転生してもコミュ障は治りません~   作:石井

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侵入

ツバキ教官はエントランスの一階にいた。相変わらず愛想の無さそうな表情で手元の書類に目を通している。いきなりツバキ教官に話しかけるのもメンタルへの負担が大きそうなので、一先ずヒバリさんの働く姿で目の保養をすることにした。覗きと思われて気持ち悪がられるのも嫌なので、極力バレぬように物陰から然り気無くヒバリさんを眺める。手元のパソコンに集中しているその姿は幼さを残しつつも、自分の職務に懸命に取り組む真剣さが表れていて大変惹かれるところがある。たまりませんなぁ。

 

(っと、いかんいかん。時間を忘れて見とれてしまう。)

 

流石に上司を、しかも女性を何時までも待たせるのは良心が痛むのでやることをさっさと終わらせよう。俺はそれとなく物陰から出てツバキ教官の元へ歩み寄る。

 

「あ、あの……。」

 

呼び掛けには相応しくない掠れ気味の声しか発せられなかった。今のでは聞こえなかっただろう。

 

「ん?ああ、ユキか。」

 

ツバキ教官は俺を一瞥すると、すぐに視線を書類に戻す。意外にも聞こえていたようだ。これが地獄耳というやつか。

 

「メディカルチェックは無事に終わったか?」

 

「は、はい。」

 

俺の返答を聞いて満足げに頷く。

 

「よろしい、さっそく任務に就いてもらうことにしよう。そこにいるのがゴッドイーターのミッション情報処理を担当する竹田ヒバリだ。」

 

書類から目を放さずにヒバリさんのいる方を顎でしゃくる。この人には女性の恥じらいというものはないのだろうか。

 

「彼女に話しかけてミッションを受注するように。その後、二階に設置されているターミナルで兵装を整えろ、いいな?」

 

「は、はい、わかりました。」

 

「よろしい、期待しているぞ。」

 

話が終わるや否や、俺は若い女の子のピチピチオーラを欲してヒバリさんのもとへ駆け寄る。ヒバリさんは満面の笑みで迎えてくれた。やはり仏頂面のツバキ教官よりエンジェルスマイルのヒバリさんだ。シュンとの挨拶で負った心の傷を忽ち癒してくれる。

 

「ユキさん、メディカルチェックお疲れさまでした!改めまして、ミッション発注を管理する竹田ヒバリと申します。さっそくですが、今後の任務の流れについてご説明しますね。」

 

「よ、よろしくお願いします。」

 

「はい!まずはこちらでミッションを受注します。その後、事前情報をもとに、二階に設置されているターミナルで兵装の変更や補充を行います。」

 

アラガミとの戦闘において尤も重要なのは兵装の準備だ。アラガミと一重に言えど実際には様々な種類がおり、効果の薄い武器で任務に向かえば苦戦を強いられる。今まではゲームの中の出来事だったため、兵装を変え忘れても「ミスっちった(笑)」で済んだが、これからは笑い事では済まない。本物の命を賭けた戦いでの些細なミスは、いとも容易く死へと結び付く。

この世界をゲームで深く知っているからこそ、俺は油断せぬように自分自身に戒めを説いていた。

 

「最後に、二階の一番奥にある出撃ゲートから車やヘリ等の移動手段を用いて現場へと向かいます。」

 

説明が終わり、ヒバリさんはふぅ、と一息つく。

 

「……えーと、わかりましたか?」

 

「わ、わかりました。」

 

「ああ、よかった!」

 

不安げな表情から一転、満面の笑みに切り替わった。

 

(俺はヒバリさんの笑顔を見れてよかったです。)

 

コミュ障の口からはとても出せないようなことを心中で呟く。コミュ障でなくともこんなことを言ったら訝しげな視線を向けられることは想像に容易いので、口に出すような輩はいないだろうけれど。

 

「色々と至らぬ点もあると思いますが、今後ともよろしくお願いいたします!」

 

(かわええなぁ……。)

 

俺みたいな人種でも思うだけなら自由なはずだ。大目に見て欲しい。

 

「うーん……、最初は体をならすためにも訓練所でダミーアラガミと模擬戦闘をするのはいかがでしょうか?」

 

早くもヒバリさんが俺の訓練メニューを組み出す。これも仕事の一環でやっているだけだとわかってはいても、自分の為に女性が何かをしてくれるというのは男からすれば嬉しいものだ。顔には出さずとも内心テンションMAXである。

 

「じ、じゃあそれでお、お願いします。」

 

「かしこまりました!それではまず……」

 

ヒバリさんはカウンターの下から紙とペンを取りだし、俺にもわかるように図解を混ぜつつ訓練メニューの説明を始めた。

 

~~~~~~~~~~

 

アナグラの周りには多数の居住施設がある。外部居住区と呼ばれ、フェンリルの保護を約束された一般市民が大勢住んでいる場所だ。保護というのは、生活面での支援、食料の支給、生命の安全保証等である。生活面の支援と食料の支給は文字どおりフェンリルが物資を市民に供給しているという意味だ。では、生命の安全保証とはなにか。これは別に、ゴッドイーターが常に見回りをしてアラガミから守るという意味ではない。勿論いざという時はゴッドイーターが出動して最優先にアラガミからの防衛・救助活動へ回るが、適合者自体少ない中、普段から外部居住区に数を割くのは無理というものだ。

実は、外部居住区周辺はアラガミ装甲という巨大な防壁で囲われている。これはアラガミに「この壁は食べたくない」と思わせる特殊な壁だ。

アラガミ装甲で外部居住区を囲うことによりアラガミが近寄らなくなる、これがフェンリルから施される主な生命の安全保証だ。しかし、アラガミも日々進化している。前までは食べたくなかったものが、一ヶ月後も食べたくないとは限らない。アラガミの進化に伴ってアラガミ装甲も更新しなければ、人類の砦に大穴が開けられること待った無しだ。

 

ヒバリさんからの説明も終わり俺が訓練に関する質問していると、突然アナグラ内にけたたましい警報が鳴り響いた。照明が赤く点滅し、人々の危機感を煽る。

 

「な、何ですか?」

 

俺の困惑を他所にヒバリさんが目にも留まらぬ速さで側にあったパソコンのキーボードを叩き出す。

 

「………………これは!」

 

いつも満面営業スマイルのヒバリさんの顔に焦りの色が浮かんだ。

 

「ど、どうしたんですか?」

 

「……外部居住区に大型荒神が三体、小型荒神が大多数侵入!侵入経路は……E26方面のアラガミ装甲に巨大な穴を確認!」

 

俺の問に答えるためというよりは、エントランスにいる人全員に発生した問題を伝えるために声を上げていた。

今のヒバリさんの言葉が確かなら、原因は二通りある。一つはアラガミ装甲の効力から外れた新種アラガミの発生。だが、新種が発生したとしても大抵の場合は外部居住区に接近される前に偵察部隊が発見次第各支部に報告し、討伐任務が優先して組まれるため、この可能性は薄い。もう一つはアラガミ装甲の老朽化。資源不足の御時世では常に万全の状態を維持するのは難しい。古くなり、効力耐久性共に失いかけたアラガミ装甲などアラガミからすればスポンジケーキのようなものである。大半のアラガミ外部居住区侵入の原因はこれだ。

現状ではどちらとも判断がつかないが、早急な対策が必要なことにかわりない。

 

「ヒバリ、手の空いているゴッドイーターを全員向かわせろ!」

 

ツバキ教官が俺の後ろから怒鳴り声でヒバリさんへ命令する。

 

「……駄目です!全ゴッドイーター、他の任務のために残っていません!」

 

ヒバリさんの声が悲鳴に変わりつつある。残っているのは非戦闘員のみ。アラガミに襲われれば逃げ惑う以外に選択肢は残されていない人々だ。今、自分達は天敵を前に守る術が無い。絶望的な状況に嫌な緊張が走る。

 

「………………仕方ない、私が……出る……。」

 

ツバキ教官が、絞り出すように言った。

 

―out of Kanbara's view―

 

―the third person's view―

 

「訓練所にいるコウタを直ちに引き上げさせろ!私が適合した神機は今アイツが使っている!」

 

「了解いたしました!」

 

命令に応じ、ヒバリはマイク付きイヤホンに手を添えて、各方面へ連絡を始めた。ツバキは腕を組んで落ち着きなくエントランスを行き来する。

 

ゴッドイーターの使える神機は、各々が適合したモノのみである。もしも自分の適合した神機以外を使えば、ゴッドイーターの体が神機を構成するアラガミの細胞に蝕まれ、『アラガミ化』という現象が起きる。アラガミ化の進行したゴッドイーターは最終的には自我を失い、アラガミと成り変わる。

故に、ツバキが出撃するにはコウタの神機を使う他無かった。

 

「……はい、お願いします。ツバキさん!コウタさんの神機、格納庫に戻りました!」

 

「よし、ヘリを用意!Oアンプルを50本乗せておけ!すぐに向かう!」

 

オラクルアンプル剤、通称Oアンプルは遠距離型神機を使う人の必需品だ。神機は普通の銃器とは異なり、(バレット)を撃つ際にオラクルというゴッドイーターの体内に貯蔵されたエネルギーを使用する。しかし、オラクルはその殆どが近接型神機でアラガミを切り裂いた時にしか得られない。そこで本来なら遠距離型神機使いは近接型神機使いと共に任務へ行き、近接型が貯めたオラクルを渡してもらうという手段を取っているのだが、Oアンプルを使用すれば近接型が居なくとも体に一定量のオラクルを取り入れることができる。早い話がドーピングだ。勿論、多量の使用は体に多大な負担がかかるため、一回の任務に使用できる数は多くとも一桁に制限されている。

過去に長らく神機使いとしての経験を積んだツバキがその事を知らない訳がない。こうでもしなければならないほどに切羽詰まった状況だということだ。

準備のためにツバキが二階への階段を上がろうとすると、先輩である百田ゲンがツバキの前に立ち塞がった。

 

「……おめえ、死ぬ気か?」

 

ゲンは声色こそ静かだが、その言葉には怒気が含まれていた。

 

「……退いてください、ゲンさん。あなたの忠告を受けたとしても、放って置けません。私達ゴッドイーターの最優先任務は、民間人の、人類の安全を守ることです。」

 

対するツバキも、拳を強く握り締め、凄みのある声でゲンに歯向かった。ゴッドイーターは階級や規律を重んじる職業だ。引退したゴッドイーターにも最大限の敬意を払うのが一般的である。特に百田ゲンは最初機の神機『ピストル型』の使い手で、彼らの活躍による荒神討伐及び素材収集が無ければ今の神機が築き上げられることは無かった。それどころか、人類が残っていたかも怪しくなる。ピストル型神機使いの存在はそれほどまでに大きいものなのだ。ツバキほどの階級で引退したゲンに歯向かうなど、本来あってはならないことである。ツバキとてそれをわかっていない訳ではない。ただ、逸る気持ちでそれすらも些細なことに思えていた。

 

「今のお前が行っても無駄死にするだけだ。他の連中が戻ってくるまで待て。」

 

「しかし!」

 

「ツバキ!!」

 

冷静だったゲンが、顔を真っ赤にして怒号を上げる。ツバキはビクリと肩を震わせた。

 

「……堪えろ。俺だって、引退して何も出来ない自分に腹がたってしかたねぇんだ。それでも……自分のやるべきことを忘れちゃいけねぇ。」

 

ゲンに諭され、ツバキはゆっくりと拳から力を抜いた。

 

「………………そうでした。すみません、ゲンさん。」

 

「気にすんな。こういうときこそ助け合うんだ。」

 

ゲンの豪快な笑顔に、エントランスに充満していた焦燥感が取り除かれる。

皆が冷静な思考能力を取り戻した時である。ヒバリが突然大声で予想だにしないことを口にした。

 

「ツバキさんが搭乗する予定だったヘリが離陸しました!」

 

ツバキはエントランスにいる。にも拘らずヘリが離陸した。それは、誰かが渦中の現場へ向かっていることを意味する。

エントランスがざわめき始める。ヒバリは続けた。

 

「ユキさんとコウタさんの神機が格納庫にありません!!」

 

―out of the third person's view―

 




長かった、今回は本当に長かった。一話に一万とか書く人は凄いですね。

次回はやっと戦闘シーン書けるかどうかって感じです。気長に待っていて下さいまし。
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