身近に巨大ロボのある日常が憧れです。
毎日仕事して、巻き込まれてロボットバトル。
社会人あるあるを混ぜながら、異世界マギアースの社会人ライフを描いていきたいと思います。
書き溜めがあるうちは週一の日曜19時更新
次回は3/29(日)を予定しています
需要がニッチな自己満足系の物語ですが、
趣味が合いそうな読者の方、どうぞよろしくお願いします。
勤怠日報1:労基なんてこわくない
前略、天国のおふくろさま。
今、俺は異世界でドライバーをしています。
数奇な我が身の運命に、タツタは死んだ親に思わず心で呼びかける。
『まいど、こちら二国パイプ営業部。
社有”ザンマギア”、バンディットです!』
所属の名乗りを高らかに外部へ響かせ、鋼の巨人が鬱蒼とした夜の森を進んでいく。
夜の森を行く運転者には、頭部ライトと暗視カメラ視界の視界は悪すぎる。
おまけに路面は未舗装のオフロード、
上司命令と言っても正気の沙汰じゃない。
緑の装甲に覆われた胸部運転席で鋼の巨人を注意深く運転しながら、タツタは思わずぼやいていた。
「日付変わりそうな深夜まで物流が配送とか、とんだブラック企業だな!
我が社はいつの間に長距離トラック会社になったんだ?」
「大丈夫、こっちじゃタイムカードやシステム監視員なんてございません。
うるさい総務も目が届きやしないっす」
お互いなんてひでぇセリフだ。
助手席の後輩の言葉にタツタは苦笑する。
まもなく午前0時にまだ残業中、現実逃避したくもなるってもんだ。
地球ならもちろん定時超え。それどころか勤務可能時間すらとっくに超過してる。
こんな深夜に勤務とか、数年前に何度かこっそりやったっきり。
しかも間もなく到着する目的地の方からは鐘の音が高らかに鳴り響き、非常事態を訴えている。
「ホントか?
パソコンみたいに遠隔で監視してて、ザンマギアのシステム強制ロックとかねーだろな?」
「そんな技術あるなら、ふつーまず定時とかにシステム警告入れるっしょ」
軽口を叩きあう間にも、全身緑色の鋼の巨人は鋼の足で道なき道を進んでいく。
タツタと後輩が乗るこの鋼の巨人は”ザンマギア”。
この異世界に存在する20mサイズの巨大な有人搭乗型巨大ロボットの総称だ。
「サービス残業に労基違反だって誰か垂れ込むかもよ?」
「こんなとこまで覗きに来るような根性ある労基職員とか惚れるっすよ」
くだらないやりとりを続けながら、タツタは気を抜かずザンマギアの運転する。
周囲の闇を照らす明かりはザンマギアのヘッドライトたった一つ。
ザンマギアの足元に舗装された路面やガードレールなんてものはない。
路面は木々の根っこだらけ、昨日の雨でぬかるむオフロード。
もちろん辺りに街灯なんてここ数時間見た覚えがない。
「ったく、いくらザンマギアが便利だからってよ……」
「こんな道のりだから、ザンマギアが社有車なんすよ。
……さて、間もなく到着のようっすよ?」
鋼の腕で前方をふさぐ長い枝を払いのけ、ザンマギアの鋼の巨体が闇の中を進む。
いよいよだ。だんだんと鳴り響く鐘の音が近づいて来る。
後輩の声の録音アナウンスが、再び森に響き渡った。
『ただいま当ザンマギアが巡航速度で配送中です。
危険ですので進路への急な飛び出しはおやめください』
普通のタイヤ車両じゃ、こんな夜の闇の悪路を進めるはずもない。
故にこのザンマギア”バンディット”が商品の輸送手段として運用されるのだ。
頭部カメラの高さは20m弱、それでも木々の高さはバンディットの2倍近く。
バンディットの頭部を左右に振り、タツタは周囲を目視警戒しながら鋼の足を進める。
「さて、チキンなパイセン。
覚悟はいいっすか。いよいよ噂の”チュートリアル”がお待ちっすよ」
「クソッタレ。赴任先での初配送が深夜まで残業。
その上で最後の配送先でトラブル確定か……」
赤々とした明かりが、木々の間からちらちら見え始める。
後輩のあおりに、タツタはうめく。
ここまで近づけばはっきりわかる。
断続的な鐘の音は、間違いなく目的地からだ。
小さく息を吸い込み、タツタは一定の速度で慎重な運転を続ける。
前方に木々の切れ目が見えた。
森が終わり、目的地へ到着したのだ。
「……よし、行くぞ」
「はいな、ご随意に」
タツタがバンディットを慎重に森から歩き出させたその瞬間だった。
堅固なザンマギアの運転席にも拘らず、タツタの背筋をぞっとする悪寒が駆け抜けた。
『コンピラー召喚神殿様。
ご注文の品をお持ちしました!』
響く後輩のアナウンス。
同時に上方からこちら目掛けて無数の赤い光が降り注ぐ。
「緊っ急ー制動!」
「わきゃあ!?」
悪寒に突き動かされるまま、反射的に回避運動。
頭部を鋼の腕でかばい、バンディットが鋼の足で地面を真横に蹴る。
かすめた赤い光が乾いた音と共に装甲で弾かれ、散発的に地に落ちてゆく。
「曳光弾!?
爆撃か、ミサイルか!?」
「火矢!
文明レベル考えてくださいよ」
なんというヒヤリハット。いきなりの攻撃だった。
出会いがしらの事故を避けるには、視野を広く!
タツタはバンディットのカメラで周囲の様子を慎重に伺う。
森から抜けた先は平地が広がり、その向こうに大きな湖と、湖畔の向こうに広がる大きな建物が目に入る。
こちらへ矢を射かけて来たのは、その平地に布陣した人型の骨どものようだった。
湖のほとりの平地に人型の骨の一軍が布陣し、湖の中央に築かれた巨大な建造物へと矢を射掛けている。
幸いどうやら建造物へ張られた半透明な結界らしきものに弾かれ、効果は発揮していないらしい。
けれど建造物のふもとでは上陸した人型の骨と人間の兵士達が手にした激しく武器を打ち合わせている。
「得意先の方々が襲われてるぞ!
なんだあれ、理科室の骨格模型……?」
「スケルトン!
この異世界の人類の敵……“魔王”の”尖兵”っす!」
なるほど確かに、ここは平和な日本とはまるで違う。
ここはマギアース。地球とは別の文明を築いた中世ファンタジー風の異世界だ。
骨達の軍勢の中央には、巨大な攻城兵器らしきものまで見える。
建造物……目的地であるコンピラー召喚神殿の鐘楼では鐘が鳴り響き、非常事態を告げていた。
布陣した人型の骨……スケルトンの一個小隊ほどが弓を構え、バンディットへ再度狙いを定める。
「お得意先のザンマギア3台、荷受けどころじゃなさそうなんだが!」
「3台じゃなく3機。
……うん、アレは明らかにヤバそうな相手っすね」
放たれた矢の雨を回避し、タツタは召喚神殿側の戦況をちらりと見やる。
湖の真ん中辺り、激しくぶつかり合う巨体が計4つ。
全身から毒々しい体液を垂れ流しながら、毒々しい巨人が暴れる。
それを巨大な長柄の槍を持った白銀色のザンマギア3機が必死で押しとどめていた。
ザンマギアと同サイズの巨体を、3機のザンマギアが槍のリーチを生かして必死で戦っている。
「……アレ、近づかない方が多分いいっす。
ウチら素人が混じったら、逆に邪魔なるかと」
「……だな、たぶんプロだ。
軍人さん……いや、騎士さん辺りだろう」
槍で突かれた毒巨人の身体からはどろどろした液体がこぼれ、湖に落ちては煙を上げる。
紫色のあからさまな警戒色、おそらく猛毒の体液だ。
白銀のザンマギアの装甲のそこかしこが紫に溶けただれている以上、相当やばいものに違いない。
「さてどうする。
お得意先はどこもかしこも絶賛取込中のようだが……!」
まったく、赴任して初日からこれか。
タツタがぼやいた次の瞬間、硬い何かが砕けるぞっとするような轟音が響く。
3基ある大型攻城兵器……バリスタの放つ巨大な矢が結界に突き刺さっていたのだ。
結界に割れかけたガラスのようなクモの巣状のヒビが走る。
「……ああ、うん。
あのデカい武器、ヤバいな」
「ははん。ビビってますね、パイセン。
さすがうまれながらのチキン」
あれはまずい。どうやら連続発射は出来ないらしいが、二度三度と当たれば結界は保つだろうか。
後輩の揶揄を聞き流し、タツタは小さく息を吸い込む。
自分は物流、バンディットの職務は配送であって戦闘ではない。
「言いましたよね、パイセン。
得意先が困ってる時こそ営業のチャンス。
お得意先様に恩を売り、グッドカルマも稼ぐ!」
「わかった、任せる。
……あのデカいのだけでも潰しておかなきゃあな!」
後背の言葉に、タツタはふっと力の抜けた笑みを浮かべる。
ああ、それでも自分はどうしようもないおせっかい焼きなのだ。
自分が何か出来る……自分しか出来ないことがあれば、首を突っ込んでしまう。
「まったくひでぇよ。
俺はさ!
こっちの営業所に!
物流として着任したんだけどな……!」
泣き言のように叫び、タツタは静かに覚悟を決める。
ここはやはり異世界なのだ。
地球とは常識も、やらなきゃいけないことも違いすぎる。
「ふっふ、ほんとに感謝してますよ、”先輩”」
「こんな時だけ丁寧語か。
……まったく、仕方ないやつめ」
しおらしい顔でこちらを見上げ、後輩がにっこり微笑んでくる。
小さく息を吐き出し、タツタは心の中で嘆く。
そんな小さな感謝で張り切ってしまうのだ。
自分はなんと安いヤツだろう。
「指示は頼むぞ。
俺のバトルは初陣、ど素人なんだからな!」
「あいあい、先任社員にお任せあれ!」
自分を鼓舞するように叫び、タツタはもう一度深く息を吸い込む。
さぁ、初陣だ。
ロボアニメでなら、何度も見たことがある。
それが自分の身に降りかかろうなんて、夢にも思いはしなかったけれど。
「二国パイプ社内規定10項ー2!
【我が社の商品並びに社員の身に危険が発生した場合、自衛のための交戦を許可する】っす!
バンディットのリンクドライブ、戦闘モードで起動!」
「背面コンテナ接地及び固定を完了!
二国パイプ社内規定10項ー3!
【自衛のための交戦において、商品の破損並びに紛失に対し弊社社員の責任は問わないものとする】だ」
ここは異世界。
今いる場所は人型社有車ザンマギア、バンディットの助手席だ。
助手席でぶるりと一つ武者震いし、タツタの後輩……ネモは紅色の唇を噛みしめる。
ネモとタツタの声に、社内規定を音声認証。
輸送用の頑丈で重いコンテナを背から下ろし、ザンマギアのシステムが戦闘モードへ切り替わる。
さぁここからが問題だ。頼れる先輩とは言え、荒事には不慣れ。
「パイセン、戦闘モードは相当な暴れ馬!
なんとか乗りこなしてくださいっす」
「事前に練習したかったぜ、ったく!
ネモ、攻撃はそっちに任せる!」
バンディットの機体が大きく揺れ、タツタが強い語調で言い放つ。
同時に助手席のネモの前へターゲットサイトとウェポントリガーが出現した。
自分はやれるのか? 身体を動かすのは得意じゃないし、つかみ合いのケンカもしたことない。
いいや、やるっきゃない。先輩が先輩らしくあるため、たきつけたのは自分だ。
先輩の足手まといになりたくない。
この異世界を自分らしく生きていくのだ。
ネモは弱気を振り切り、外部スピーカーで叫ぶ。
『こちら、二国パイプのバンディットです。
どうやらお得意先様がお取込み中のため、
独自判断で営業活動を開始します!』
ジェネレータであるマギア炉が出力を上げ、駆動音が大きく鳴り響く。
胸部のダクトの排気音が聞こえる。アームバンパー稼働準備よし。
自分たちの職務は戦闘ではなく輸送だ。
けれどザンマギア……その本来の役目は輸送ではなく、戦闘なのだ。
バンディットで戦闘行動をとるのも、ネモは初めてじゃない。
大丈夫、相手はスケルトン。人間じゃないし、狙いは大型兵器だ。
「バンディットライフル復元!
射撃戦、よぉーい!」
「任せた、ネモ!」
声高く叫ぶと同時、ネモの右手とバンディットの右手がきらきらと輝く。
輝きと共に出現した巨大な長銃を右手に構え、バンディットが射撃姿勢をとる。
ターゲット・インサイト。狙いを定め、ウェポントリガーを引き絞る。
鋼の指がトリガーを引く。撃鉄が落ち、轟音と共に砲口から砲弾が放たれる。
まっすぐ飛んだ砲弾が右端の攻城兵器バリスタの横っぱらに命中し、台座ごと粉砕する。
「標的に命中、再装填開始っす。
リロードタイム中は格闘戦へ移行。
パイセン、大型攻城兵器目掛けて前進!」
「ええい、格闘だと!?」
タツタが射撃の轟音に目をまん丸に見開く。
その驚きの分だけ反応が遅れ、スケルトンの軍勢の方が素早く陣形を変える。
盾と武器を構えたスケルトンの一団が前に出、バンディット目掛けて殺到する。
神殿へ攻撃していた弓スケルトン達が向きを変え、一斉に火矢を放ってくる。
だが、攻撃へのタツタの反応は瞬時だった。
ライフルの構えを下ろし、強引に地面を蹴って横っ飛び。
矢を避けたバンディットの方へ、盾持ちのスケルトン達が向きを変えて迫る。
「故意に人身事故とか、ゴールド免許が泣くぜ……」
「大丈夫、物損事故っす!
アレは単なる使役された亡骸っすから」
慰めにもならないネモの言葉が響く中、バンディットが前へ出る。
一歩、二歩、すぐにトップスピードへ乗り、軍勢のただなかへ猛烈なスピードで踏み込む。
20mの鋼の巨人と2m弱の骨人形の群れが交錯する。それはまさしく蹂躙だった。
バンディットとスケルトンのサイズ差は10倍、戦いにすらなりはしない。
群がるスケルトンを鋼の腕が跳ね飛ばし、鋼の足が人間大の骨を容赦なく踏みつけ、粉砕する。
突き刺さる火矢や武器を緑の装甲で受け止め、残る2基のバリスタへ巨体がまっすぐ突っ走る。
「アームバンパー励起!
ターゲット、中央の敵大型兵器!
接触時に腕部コントロール貰うっす!」
「さようなら、俺の無事故無違反!」
左のウェポントリガーを引き絞り、ネモが拳のようにレバーを突き出す。
左腕部にせり出した大型のガントレットを構え、バンディットが突進の勢いを乗せて拳を打ち込む。
大きな衝撃音と共に真ん中のバリスタの上半分が吹き飛び、土台が横倒しになる。
よっしあと1基! 着実な戦果に、思わずネモの頬が緩む。
だが視線を向けた先、こちらへ狙いを定めた最後のバリスタがモニターに映る。
思った以上に、転回が早い!?
「うぁ、ヤッバ!?」
「唇をかんで頭をシートに!」
激烈な悪寒が突き抜ける。攻撃も妨害も間に合わない。
タツタの叱咤に慌てて耐衝撃姿勢をとる。同時に空気を裂く鋭い音が響く。
遅れて衝撃が走る。思ったより軽い。
直撃じゃ……ない?
バリスタが放った巨大な矢は、盾のようにかざした左アームバンパーが防いでくれていた。
「ひぃっ!? あっぶな!」
「やってくれたな、骨格模型ども!」
悲鳴を打ち消すように、タツタが荒々しく罵声を吐き出す。
着弾の衝撃によろけた鋼の巨体が足元のスケルトン達の数体を踏みつける。
だが次の瞬間、機体を立て直したバンディットが低い姿勢で前へ飛び出す。
ネモが反応する間もない。タツタの運転でバンディットがバリスタへ襲い掛かる。
肩を前に出し、ショルダータックルでザンマギアの大質量をバリスタに正面からぶち当てる。
さっきに数倍する衝撃と轟音。巨大な攻城兵器が吹き飛ぶ。
「……ああ、もう!
これ、車載保険の適用大丈夫なのか?
自賠責とか法律、裁判だなんて考えたくもねぇ……」
「魔王の尖兵相手に裁判とか、聞いたことないっすよ!」
いや、おみごと。
粉々になったバリスタの破片が湖に落ちる音が響く中、荒い息を吐きながらタツタがぼやく。
大型兵器はぶっ壊した、後は雑魚のスケルトンだけ。
これで大勢は決した。気の抜けた表情でネモは呟く。
「よーし終わり終わり。
あとは流して終業チャイム待ちっす」
散発的に打たれる火矢やスケルトンの突進ぐらい、ざっくり流して終わりだ。
湖側の戦闘も、神殿側優位に進んでいるようだ。
毒々しい巨人の腕が一本落とされ、神殿のザンマギアが慎重な攻撃を繰り返している。
上陸したスケルトンの大半は撃退され、白兵戦もほぼ終結している。
「まだだ、ネモ!
……たぶん、残業のお知らせだ」
緩んだ空気の中、タツタの苦い呟きが響く。
群がるスケルトンを払いのけ、バンディットが全速力で敵陣から遠ざかる。
ほんのわずかに遅れ、スケルトンの陣営中央に巨大な漆黒の六芒星が浮かび上がる。
【”支配”の権能を確認】
ぐぇ。つぶされたカエルのような悲鳴がこぼれる。
ネモは思わずモニターのメッセージを二度見した。
メッセージの向こう、漆黒の六芒星の中でスケルトンが寄せ集まり、黒い何かに溶け合う。
大地に現出した六芒星の中に、ザンマギアサイズの巨大な何かの影が見える。
人類の仇敵、”魔王”の皆様はやる気満々、”尖兵”を追加投入してきたらしい。
「なんでよりによって今日に限って!
面倒な電話って、なんで終業時間間近にかかってくるんすかね!」
「明日ですむ電話なら、得意先だって明日にするからな!」
【”スケルトントルーパー”をリリース、”ジャイアントスケルトン”が召喚されます】
赤錆びた武器を持った巨大なスケルトンが二体、法術陣の中から歩み出てくる。
相手は同じスケルトン。だがそのサイズだけで危険なのは明らかにわかる。
生唾を呑み込み、ネモは真剣な顔で手札と状況を頭の中で確認する。
「……まことに申し訳ないんすけど、パイセン。
サービス残業開始っす」
「……アレを倒さなきゃ、仕事終わらねぇってことだな!」
楽な仕事でボーナスがっぽりのはずが、納期間近にとんだ仕様変更だ。
けれど、仕事ってのはそう言うものだ。ネモの見通しが甘すぎだっただけ。
「ギルドマスターの忠告、聞いておけば良かったな?」
「ギルマスの嘘つきぃ!
これのどぉこがチュートリアルっすか!」
バリスタの残骸の後ろで巨体を低く隠れ、バンディットが右手のライフルを虚空へ収納する。
先行した一体のジャイアントスケルトンが、赤錆びた両手剣を振り上げる。
その瞬間、低い姿勢でバンディットが飛び出す。
低いタックルが下半身に決まり、ジャイアントスケルトンが吹き飛ぶ。
追撃のチャンス。だがそのチャンスをもう一体のジャイアントスケルトンが妨害する。
ジャイアントスケルトンが構えた大金棒を横殴りに叩きつける。
「選ばれた勇者様ならチュートリアルなんだろ。
あいにく俺らは、勇者様でもエースパイロットでもないからよ!」
「ウチはチートで楽々異世界生活したかったっす!」
すかさずバリスタの台座を振り回し、大金棒にぶち当てる。
固い木材と赤錆びた金属がぶつかりあい、木材がへし折れ、金棒が弾かれる。
すわ反撃といきたいところだが、そのころには最初のジャイアントスケルトンが立ち上がる。
どうやらこの異世界でも、楽な仕事なんて回って来ないらしい。
小さくため息をつきながら、ネモは必死に頭をめぐらせる。
かがり火に照らされた戦場で、月と星に見守られながらネモとタツタの残業は続くのだった。
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さて、時刻は同日、まだ日の暮れる前の夕刻までさかのぼる。
舞台は同じく地球とは違う異世界、神殿からだいぶ離れた港湾都市である。
『まいど! "二国パイプ"です。
ご注文の品、お持ちいたしました。
ただいまより荷下ろしを行います。
危険ですのでザンマギアの周囲へ近づかないでください』
後輩が外部へ呼びかけるのを聞きながら、タツタは安全を指差し確認する。
膝つき駐機で三点接地よし、関節ロックよし。接地路面の強度問題なし。
何せここは石造りの建物ひしめく街中だ。
ここは港湾都市タカマッツ、この地方の領主さまが納める大都会らしい。
つまり全長20mのザンマギアが転倒すれば人身事故必至、企業イメージ大暴落の危機だ。
「……周囲安全確認よし!
ハッチ開けるぞ、ネモ」
コクピットハッチ開放を命じ、ギア制御システムとの接続をカット。
モニターが消灯され、薄暗くなった運転席に外の明かりが差し込んで来る。
正面ハッチ、完全開放。
流れ込んで来る新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込む。
風に交じる潮の香りが、海の近くを実感させてくれた。
たとえ異世界だって、ハンドルから手を放して窓外の空気を吸い込むの心地よさは変わらない。
「ほらパイセン、こっち。
営業のお時間っすよ」
気軽な口調で、ネモが運転席のタツタの小柄な身体を強引に抱え上げる。
モノのような扱いに、タツタは抗議を込めて後輩をじろりと睨む。
こぼれおちそうなデカいおっぱいが目に飛び込み、タツタはすっと目線をそらす。
赤毛のロングヘアと気の強そうな顔立ち、なんと右目には黒い眼帯をつけている。
こちらを小馬鹿にするような笑みを浮かべていても、美女と言うにふさわしい。
「いちいち荷下ろしに俺を連れていくな」
「あーもう、細かいパイセンっすね」
ただファッションは正直、営業部門としていかがなものか。
身長180㎝近く、女性としてはだいぶ大柄だ。
大柄な体を胸元を大きく開けた黒いレザーの着衣で包み、黒い帽子までかぶっている。
清潔感こそある。だがまるで雰囲気は山賊か海賊の頭、もしくは特撮の敵女幹部だ。
この後輩の美女の名はネモ。
地球時代から面識のある後輩で、タツタと同じ企業……”二国パイプ”の社員である。
「俺はドライバーとして留守をだな……」
「パイセンは新入りなんすから。
お得意先への挨拶、もっと大事!」
嘘つけ。一人だと心細いだけだろ?
タツタは心の中で毒づく。
ネモがコクピットからひらりと身を躍らせ、タツタは強引に外へ連れ出される。
華麗に着地した後輩の肩へ小柄な自分の身体を移動させ、周囲を見回す。
「念のためだ、俺はただのペットのフリするからな?」
「はいはい、チキンだけどしょうがないか。
しゃべるひよことか、明らかに異様っすもんね」
さすがに街中には中世文明の香りを色濃い。
駐機したバンデッドの正面には学校の体育館ほどの大きさの石造りの立派な建物がある。
周辺に立ち並ぶ露店や飲食店より明らかに一回り大きい。
この立派な建物は”タカマッツ冒険者ギルド”だ。
タツタのとぼしい知識によると、異世界でのハローワークみたいなものらしい。
「こんにちは、二国パイプさん。
検品に参りました」
「まいどっす、ギルドマスター!
お届け遅くなって申し訳ありません」
荷受け対応に出て来てくれた上品な雰囲気の女性に、ネモが帽子を取って一礼する。
タツタはネモの肩でペットのフリをしながらかすかに目を見開く。
整った顔立ちのその女性は人間とは違う、非常に横に長くとがった耳をしていた。
森の精、エルフ……タツタだって知ってる有名な異種族だ。
ギルドマスターと呼ばれたエルフの女性が、ネモへにっこりと笑いかける。
「大丈夫よ。
森が育つことと比べれば、待ったうちに入らないわ」
「……樹の生育とか、年単位じゃないっすか?」
ううん、これはエルフ流のジョークか。センスがちょっとわからない。
けれどジョークと違って衣装のセンスはいいらしい。
いかにも偉い人と言う感じのきっちりした仕立てのいい衣類とネクタイ。
ネモとはえらい違いだ。いい意味で異世界らしさがない。
見た目の年齢はタツタの実年齢より若そうに見える。
けれどきっちりした衣装も相まって屋久島の杉のようなどっしりした風格を感じる。
「さっそくですが、品目確認願います。
浄化法術内蔵型衛生陶器7点、
浄化法術内蔵タッチレス水栓12点、
点火法術式卓上コンロ3点、
屋外設置型大型給湯器1点」
小脇に抱えたバインダーから納品書を手渡し、ネモが品目を読み上げる。
どれもタツタが勤務する異世界商社”二国パイプ”自慢の一級品ばかり。
品目を読み上げるネモの肩の上から、タツタは無言で周囲に目を光らせる。
さすがにパレットごと軒先下ろしした積荷をかっさらおうとするようなヤツらはいない。
だが、いくつかの人影がネモとギルドマスターのやりとりを遠巻きに見守っている。
「お支払いはいつも通りで?」
「ええ、カルマ払いで一括」
たぶんおそらくギルド所属の冒険者達なんだろう。
甲冑を着込んだフルフェイスの騎士と槍持ちの従者、三角帽子とローブ姿の魔女に短剣と革鎧姿の女斥候。
少し離れた場所には矢筒を背負った耳長の森妖精に、虫のような羽の小さな花妖精。
変わり種は毛むくじゃらで帽子とズボン姿の直立したアライグマまでいる。
地球ではゲームやアニメの中でしか見られない奇抜な恰好ばかりだ。
「まいど!
お支払いを確認いたしまた。
契約はこれにて成立、所有権が冒険者ギルドへ譲渡されます」
「はい、確かに。
それじゃ、間配りはこちらでさせてもらうわね」
ギルドマスターが手元の羊皮紙と納品書を突き合わせてうなずき、手を叩いて人を呼ぶ。
簡素な衣類を着込んだ大柄な獣人の労働者達が大股に歩み寄り、パレットに置かれた商品へ慎重に手をかける。
身長2mを超えるこの労働者達の頭部に牛や馬の耳、腰の後ろから尻尾が生えている。
いやあさすがは異世界マギアース。荷運びはパワフルな獣人種族の役目らしい。
「全部アーティファクトよ。
二番倉庫にしまって【施錠】の魔具をお願い」
ギルドマスターの言葉に獣人労働者達がうなずき、多数の商品を軽々と持ち上げ運んでいく。
ウソだろおい、女子が荷運び二人基本の給湯器を一人で担いでやがる。
タツタは目を剥き、異世界の人々のたくましさにしみじみ感服する。
今回納入したのは二国パイプの主力商品、どれも結構な重量のある品ばかり。
水回り並びにキッチン用品……人々に快適なライフスタイルを提供するものだ。
「わ~、助かります。
あとこちら、サービスの地球式保存食100食分です」
「あら、これはどうも。
うちの冒険者の皆に配らせていただきますね」
またお得意先に”サービス”しやがって。
営業用笑顔を浮かべて段ボール箱を手渡すネモに、タツタは内心で肩をすくめる。
元営業の物流社員として思うところはあるが、お得意先の前でいうべきことではない。
「ところでそのかわいらしい方は?
ひょっとして二国パイプの新人さん?」
「あ、はい!
ウチの新人……ペットのパイセンちゃんです」
ギルドマスターの笑顔が、ネモの肩に乗ったままの小柄なタツタへ向いた。
タツタは胸を張り、意外に鋭いギルドマスターの眼差しを受け止める。
ネモに腹を立てることはない、ペットのフリは自衛のためだ。
ここは街中だ。素性をさらすには人目がありすぎる。
「ほら、パイセン。
ごあいさつ」
「ぴよっ!」
ネモが差し出した両掌へはばたいて飛び移り、タツタは元気良く鳴いて小さく頭を下げる。
人間の掌大の大きさの黄色い毛並みのふわふわボディ。
二本の足と二対の手羽、くちばしと二つの目、そして頭に一本の角が生えた愛らしいひよこ。
このマギアースで食肉用に飼育される一角にわとりのヒナ、一角ひよこの一羽……それがタツタだった。
「あら、かわいい。
”怪物”種族の社員さんじゃなくてペットなのね?
じゃあ結局新しいギアドライバーは見つからないままなのね……」
ギルドマスターの呟きに、タツタはひよこボディにかわいく首をかしげてとぼけてみせる。
もちろん普通の一角ひよこは喋らず、たぶん人語も解さない。
地球から来訪したタツタは、ネモ同様に特別な存在なのだ。
「どうせなら、あちらの世界の子をペットにすればいいのに」
「こっちの世界に来たなら、こっちの子をかわいがりたいじゃないっすか」
雑談を開始したネモの肩へ飛び移り、タツタは大人しくペットのフリを続ける。
何故ひよこなのか? むしろタツタがわけを知りたい。
満面の笑みを浮かべたネモに頬ずりされながらタツタは愛玩動物のフリを続ける。
「食物連鎖最下層、最弱クラスの家畜の子よ?
他にも素敵な子たちいっぱいいるでしょうに」
「いーじゃないですか、一角ひよこ
かわいいでしょう、パイセンちゃん」
かわいいだけが取り柄だと胸を張って主張され、タツタは遠い目をする。
赴任先で目覚めてみればこのふさふさまん丸ボディで、物流としてザンマギアで配送業務を命じられた。
ひよこのままバンディットの“ギアドライバー”として業務を遂行しているだけである。
「ほら、ウチがブタさんの獣人なんすよね。
家畜ならぬ社畜コンビで売って行こうかなって」
「エルフは畜産しないからわからないのだけれど……
でも、インパクトあっていいんじゃないかしら」
確かに俺はしがない社畜だが、自虐が過ぎる。
ペットのフリを続けながらタツタは後輩へ心の中で容赦なくツッコむ。
まさかお前、そんな理由で俺をひよこにしたんじゃあるまいな。
ぼやく心の声に、ネモの返事はもちろんない。
けれど社畜の自分に、一人と一羽の社畜コンビを解消する勇気などない。
この異世界マギアースで最弱クラスのひよこボディのまま、ダラダラ現状維持を目指すほかないのであった。
●筆者の自己満足用語辞典
・アームバンパー
拳の保護を目的とした腕部装備型の追加装甲。
いわゆるスパイクシールドの一種である。
打突に使用され、大型生物への威嚇目的として多用される。
武装としても盾としても心もとないが、 ザンマギアを社有車登録した企業が多用する。
あくまで車体保護を目的と強弁するため、保険の査定や車検を通過しやすい。