俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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12.あなたはこのデュエルに勝利する

 

「室井くん、いま私……おにいと遊んだときと、同じくらい楽しんでるよ……!」

 

 

 吐き気を催すほどの邪悪な盤面とは裏腹に、海風の口からは心のこもった感嘆の言葉がとめどなく溢れてきている。

 

 

「うちは貧乏だったからさ……私もおにいも、ちょっとしかドラクロが買えなくて、デッキが作れなかったんだ。だから、はじめは足りないカードをおにいが自分で作ってくれて、それで補いながら遊んでた」

 

 

 彼女はマナゾーンにカードを置くことなく、“精霊龍”を場に召還した。

 

 

「でも、途中からおにいが『こうした方が良い』『こんな奴いたら面白そう』って勝手に作ったオリジナルカードが段々と増えてきて、ドラクロとはまったく違うゲームになっていったんだ」

 

 

 海風の“創世の悪魔”と“精霊龍”、そして俺の“ダークネスワーム”が手札に戻される。

 

 

「どれもこれもヘンテコな絵で、テキストも思いつきだらけ。遠慮なくツッコんだらおにいが泣きそうな顔をするような、そんなカードばかりで……それがすごく、すごく愛おしい二人だけの遊びになったんだよ」

 

 

“創世の悪魔”が再び場に現れ、手札に戻った“ダークネスワーム”が墓地に置かれる。

 

 

「こんな遊び、もう二度とできないと思ってたのに……この遠く離れた街で、同じ楽しみを共有できる室井くんがいたなんて。こんなの……奇跡だとしか思えないよっ」

 

 

 海風は陽に焼けて、プールで少しふやけた自身の右手を、俺に向けて差し出してきた。

 

 

「さぁ次は、室井くんのターンだよ!もっと、もっと楽しませて!」

 

 

 目を背けたくなるような戦況、海風がくれた全肯定の言葉。

 

 

「ありがとう海風、俺も嬉しいよ……でも」

 

 

 残り少なくなった山札から、新たに一枚のカードをドローする。

 俺はそのテキストを見て、はっとした。

 蛍光灯の平たい光がカードにわずかに反射して、ほのかな輝きを見せた気がした。

 

 俺だって、海風に伝えたい言葉が胸の内で迸っているんだ。

 

 

「海風……申し訳ないけど、俺は君のお兄さんの代わりにはなれない」

「え……」

 

「なぜなら俺は――君のお兄さんより、“エタデモ”をもっとすごいカードゲームにするつもりだからだ!」

 

 

 海風の瞳孔が、わずかに大きく広がったのが分かった。

 

 手札から場に出したのは、俺のデッキ中唯一『ハンデス(手札破壊)』が可能なカード。

 そして、デッキ作りの最後で間に合せ的に突っ込んだ、使うつもりもなかった3枚のカードの正体。

 

 それは、まだガニ股黒タイツだったころの悪魔――“死滅の悪魔”だった。

 

『ハンデスは卑怯』

『ハンデスは男らしくない』

『ハンデスは脂ギッシュオタクの戦術』

 

 そんな“大艦巨砲主義”な小学生男子時代の常識に囚われていた俺は、こんなに純粋に『楽しい』と口にしながら“クソ戦術”を嬉々として行う海風の姿を前にして、ついに吹っ切れた。

 

 

「捨てるカードは……これだぁ!」

 

 

 俺はしっかり覚えている。

 さっき、“精霊龍”が初めて場にでる前に見た、ヤツの裏面の筆圧隆起の形を――

 

 

「わわっ……」

 

 

 ついに墓地に置かれた“精霊龍”。

 驚きを伴った海風の声。

 どうだ、一矢報いてやったぞ。

 

 まだ勝ちの目は――きっとある!

 

 

「さぁ来い!つぎは海風の番だ!!」

「うん、分かった。じゃあ二枚目の“精霊龍プラチナ・ユニバース・ドラゴン”を出すね」

 

 

 あぁ……そっかぁ。

 そりゃ、デッキに一枚しか入れてないワケないよなぁ。

 

 こうして、俺は最後まで“白タイツ悪魔”の顔を延々と拝み続ける――本当の意味での『エターナルデモンズ』を味わい、そして敗北した。

 

 

 ◆

 

 

「……」

「……」

 

 

“デュエル”という空間の魔法が切れた俺たちは、無言の空気のなか、机の上に散らかったカードをまとめて片付けている。

 

 遊ばれ、場に叩きつけられ、そして蹂躙されたカードたち。

 互いに一つも壊されることのなかった壁。

 活躍できなかったドラゴンたち。

 

 

「……ぐすっ……」

「えっ」

 

 

 沈黙を破ったのは――俺の頬を自然と伝った何かと、呼応してせり上がってきた俺の嗚咽だった。

 

 

「ぐすっ……えぐっ……」

「な、なんで泣いてるの室井くん!?」

 

 

 あぁ、本当にみっともない。

 年甲斐もなく、女の子の前でこんな姿を晒すなんて。

 

 

「すん……うえぇ……」

「あわわっ、ご、ごめん!つ、つい、おにい相手と同じテンションでデッキ組んじゃって……ほんと、そんなつ、つもりじゃ……」

 

 

 ぐしゃぐしゃになった視界のなかに、オロオロと揺れる海風の影が見える。

 

 

「ほ、本当にごめんなさい……でも、本当の私の姿なんて、室井くんにしか見せ――」

「――ちがう……ぐすっ、ひがうんだ……ひぐっ……」

 

 

 涙を拭いながら、精一杯首を横に振ってみせる。

 だって、どうして海風が謝るんだよ。

 

 

「おでが……つぐっだ、“エダデモ”の戦術研究を、ごんなひも、してもらえで……ぐすっ」

「……室井くん」

 

「ごんなにほ、全力で楽じんで、もらえて……ああぁ……!」

「……うん、すごく楽しかったよ。これからも楽しみにしてるね」

 

 

 声と吐息が、一気に近くなった。

 その言葉にはまるで、俺の心に直に触れるような心地よさがあった。

 

 あぁ、これまで誰にも言えなかった楽しみだったのに。

 

 彼女の言った通り、俺が海風とこんなヘンテコな自作カードなんかで遊べているのは――まさに奇跡なんだ。

 

 

 

 

 

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