俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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13.そのクリーチャーは相手によって選ばれない

 

 

 あぁ……恥っず……。

 

 紙を叩くシャーペンの緻密な音が、四方八方から飛び込んでくるなか、俺はただ頭を抱えることしかできない。

 

 目の前にある古文の小テスト用紙は、もはや解読されることのない古文書と化していた。

 ぜんぶぜんぶ、このぐちゃぐちゃになった情緒のせいだ。

 

 

 昨夜、俺は確かにこの机で海風と初デュエルをした。

 

『ククク……』とか『君のお兄さんより、もっと凄いカードゲームにする!』とか、そんなことを口に出した。

 

 そして――泣いた。

 

 

 あのあと、どうやって海風と別れたのかすらも覚えていない。

 今まさに煮えたぎっている俺の羞恥心は、そんなどう付いたのかも分からない、折り合いの不明瞭さが後押ししているような気がしてならない。

 

 

 件の海風を見やると、彼女は彼女でペンを動かさず、どこかぼーっとしている様子だった。

 この時間は普段から部活の朝練でお疲れなことも多いし、本人も勉強は不得意だと言っていたから、もしかするとこれが平常運転なのかもしれない。

 

 ……しかし、やはり昨日のことで、何か思うことがあった可能性は否めない。

 まさか、幻滅されてしまったのかな。

 

 そりゃ、昨日の俺はどう考えても重かったし、テンションもヘンだった。

 でも、だからって……なんで俺だけ、こんなにソワソワしなくちゃいけないんだ。

 

 

 ……くそ、このままじゃダメだ。

 

 俺も海風のスイッチを見習って、平常心に立ち返らねば。

 平常心、平常心……。

 

 

「……ヨシっ!」

 

 

 ◆

 

 

「すげーなお前、もう1-4でも“ヨシツネ”呼びが浸透し始めてるぞ……一躍スターじゃんか、よかったな」

 

 

 西垣はパンをかじり、ニヤつきながら俺に言った。

 

 いいじゃないか、小テスト中にちょっと声を上げるくらい。

 なんて世知辛い世の中なんだ……世界も古文も滅びちゃえ、チクショウ。

 

 

「あーもう、ほっとけやい!」

「ほっとけるかよ、親友だろ」

 

「に、西垣……」

「ヨシツネ……」

 

「うがーっ!」

「あっはっは」

 

 

 くそっ、覚えておけよ西垣め。

 

 しかし……まぁ、なんだ。

 正直、今回の件はまだ傷の浅い問題と見ていい。

 

 このようにして謎のアダ名が爆誕してしまったのは、たしかに痛恨だった。

 だがもし、これが“エタデモ”がクラスの他の奴に見つかるような最悪の事態だった場合は……こんなしっぺ返しでは済まなかっただろうな。

 

 俺なんかのしょうもないトピックが、あっという間に広まるくらいだ。

 もしもがあったときの想像なんて、最早したくもない。

 

 

「――やっぱり、ストローク中の息継ぎの動きが大きいんじゃないかな」

「うぅ~ん、海風さんの言う通りにやってるんだけどなぁ」

 

 

 ラップおにぎりを手にした海風は、窓際近くで同じ女子水泳部員の古瀬と身振り手振りを交えて、話をしていた。

 それも、えらく真面目なアドバイスを送っているようだ。

 

 

「あとは……キックは無理に回数を上げようとする前に、まず一回壁に向けて蹴り方を色々試してみて、一番よく進む蹴り方を繰り返してみるとか。その方が効率いいかもだよ。結局は体幹の問題だし」

「理屈は分かるんだけど……うん、やっぱりあたしには無理かも」

 

 

 泳げない俺にはさっぱりだが、どうやらクロールひとつでも、色々チェックしないといけないところがあるようだ。

 そんな海風のアドバイスに対して、古瀬は少しネガティブな反応が窺える。

 

 あぁ……古瀬にも、あの満面の笑顔で害悪無限バウンス戦法を仕掛けてくるデュエリスト海風の姿を見せてやりたいよ。

 きっと驚いて、アドバイスをポジティブに受け取れるようになるよ、知らんけど。

 

 俺がそんなしょうもないことを考えていると、主将の坂野先輩が教室のドアの外までやってきた。

 

 

「海風、ちょっと来て」

 

「あ、はいっ!またあとでね、古瀬さん」

「うん、またあとで」

 

 

 海風は古瀬に手を振りながら教室の外へと出て、おにぎりを齧りながら先輩と何処かへ行ってしまった。

 ほどなくして、古瀬のそばに他の女子生徒がやってくる。

 

 

「おっす古瀬ー、海風さん相変わらずストイックだねー」

「うん、なんかほんと……雲の上の人ってかんじだよ」

 

「ですよねー。おかげで遊びに誘っても、なかなか捕まらないんだよ」

「まぁ、今は大会近いし。そもそも海風さん、寮暮らしであまり出歩けないし……」

 

「あぁそっか。特待生は大変だなぁ……でも水泳以外のことにあまり興味なさそうだし、本人は却って寮暮らしが居心地いいのかもね」

「うん、なんかリレーも何もかも、あの子一人に任しちゃえば?って感じだよ」

 

 

 二人は「あはは」と笑ってから、間もなく窓際を離れていった。

 

 なんか……何とも言えない距離感だな。

 二人とも、やっぱり一度あの“スマイル害悪無限バウンス”を目の当たりにするといいと思うよ。

 

 

「ヨシツネ、さっきから古瀬ばかり見て……もしかして“君を恋ふ”っちゃうのか」

「ちゃうわい、アホウ」

 

 

 まぁそんなことは、絶対無理なんだけど。

 

 

 ◆

 

 

『ニジュシー、ニジュゴー、ニジュローク――』

 

 コンクリートと板付きのフェンスで構築された高さ4mほどの壁の向こうから、水が跳ねる幾つもの音と、顧問の先生の声が聞こえてくる。

 当然ながら、下から中の様子は全く見えない。

 

 だから俺は、こうしてプールの壁が作る日陰に腰を落として、スマホのメモアプリに昨夜のデュエルの問題点を洗い出している。

 

 

 海風の練習が、いつも何時に終わるのかを俺は知らない。

 だから今日の放課後は、プールの近くで待っていようとはじめから思っていた。

 

 昨日は俺が泣いてしまったせいで、エタデモ第2弾の感想を聞けていなかったんだ。

 それに、あの後……彼女が俺のことをどう思ったのかも、気になって仕方ない。

 

 

 陽が段々と落ちて、プールをナイター照明が照らし始めても、俺は待った。

 メモアプリには時おり“ダサい”、“弱い”といった言葉が無意識に顔を出して、ハッとなって消す。

 

 そんな行動を、俺は何度か繰り返した。

 

 

『海風、ちょっと来て~』

『はい、穂高先輩』

 

 

 コースロープの片付けをしているであろうタイミングで、フェンスの越しに海風の声が聞こえた。

 あまりよくないことだとは思いながらも、俺は思わず聞き耳を立ててしまった

 

 

『今日のタイム……30,34か。特待生なのに30秒切れないのは、流石にちょっと良くないよね』

『す、すみません……』

 

『スランプ?無理なんだったら私、いつでもリレメン変わる準備はできてるんだけど』

『……すみません、大丈夫です。やります』

 

『あっそ、何が大丈夫なのか知らないケド。坂野先輩に気に入られてるからって、あんまり調子乗らないでね』

『……すみません』

 

 

 コンクリート上をヒタヒタと鳴る足音が一つ、遠く離れていく。

 

 そして、壁を隔てた俺のすぐ後ろで、ひとつのため息がはっきりと聞こえた。

 

 

 

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