俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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15.このターン、あなたは山札からカードを引くことができない

 

 海風と別れた後、今日も今日とて俺は自室のデスクに着いている。

 スタンドライトだけが白く照らす、金定規や紙の切れ端が散乱する天板の上に、俺は頭を抱えながら両肘をついた。

 

 

「だめだ、思い浮かばない……!」

 

 

 誰もいない部屋で、一人ごちる。

 壁掛け時計の秒針は、止まることがない。

 

 俺は海風の言いつけを守り、カード制作を続けようとしたはいいが、何故か絶望的にインスピレーションが湧いてこない。

 まずい、明日と明後日はバイトだから、集中してのカード制作なんて今日しかできないのに。

 

 

「“蒼いトカゲ ブルーリザード”……いやいや、こんなのダメに決まってんじゃん!」

 

 

 生まれ損ないのクリーチャーが描かれた紙をくしゃくしゃと丸め、机下のゴミ箱に向けてアンダースローで投げるも、外した。

 大きく息を吐き、俺はデスクチェアの背もたれに深く身体を預けながら、スマホのメッセージ画面を開いた。

 

 

『今日はありがとう。第3弾も楽しみにしてるね!おやすみ! 20:56』

『こちらこそ、感想とかありがとう!おやすみ  20:58』

 

 

 二時間前で止まったメッセージを開いては閉じてを、ここまで何度も繰り返している。

 

 俺は今までしていなかった、海風とのメッセージアプリでの連絡先の交換を、今日ようやく行った。

 二人で会う時間を作るには、このツールはたしかにもっと早くから利用すべきだったかもしれない。

 

 しかし寮暮らしの海風は、就寝時間などのスマホ利用に厳しい制限がかけられており、特に平日のやり取りはあまりできないと聞いていた。

 つまるところ、海風の迷惑になるんじゃないかと思っていたんだ。

 

 だから、海風がメッセージ交換しようと言ってくれたことには、心底驚いた。

 そして、嬉しかった。

 

 同時に――俺のエタデモ制作に対する重責が増したことも、今まさに実感している。

 

 一人でカードを作り始めたときの自分には、想像もつかなかっただろう。

 机の上のチープなカードたちが、今やクラスいちの頑張り屋さんが抱える、重責の一部を肩代わりしているんだぞ。

 

 そう考えれば考えるほど、手にした鉛筆の動きが止まってしまう。

 

 

 ◆

 

 

「……たまご蒸しパンでいいか?」

「悪い。俺もさっき寝てたから、なんもノート書いてないわ」

 

 

 翌日の教室。

 一学期でもう何度目か分からない、タイムトリップから帰還した俺は、絶望にうちひしがれていた。

 なんと頼みの綱だった西垣も、今日は陥落してしまったらしい。

 

 

「お前もお疲れか……」

「あぁ、期間無料のガンボルサンボルを読破したもんで」

 

「さよか……」

「お前もバイト入れすぎだろ。進級できなくなるぞ?」

 

 

 なんだよ、急に重い現実を突きつけてくるじゃないか西垣。

『バイトじゃなくて、自作カードを作ってたんだぞ!』なんて言ったらこいつ、どんな反応をするんだろう。

 

 

「とりあえず俺、パン買いにいくわ。忍は?」

「俺は昼飯持ってきてるし、このままもうちょっと他も当たってみる」

 

 

 西垣は「りょ」とだけ返して、大柄な体を購買部に向けて運んでいった。

 それを見送るとほぼ同時に、ポケットのスマホが振動した。

 

 

『今から先輩とミーティングしてくるから、私のノート勝手に見ていいよ! 12:04』

 

 

 メッセージから目を離し、海風の方を見やると、彼女は笑顔で小さく手を振ってから立ち上がった。

 それに対して俺はヘドバンのように頭を上げ下げして、両手を合わせ、高く突き上げて文字通り拝んだ。

 

 

 

「……よしっ」

 

 

 海風のノートをばっちり写させてもらった俺は、ビニール袋で包んだ借り物のタオルを、ノートと一緒に彼女の机に返しに行こうと立ち上がった。

 

 

「……あ」

「あ、ヨシツネくん。どうしたの?」

 

 

 机のそばには先客がいた。

 古瀬も手にA5サイズのノートを抱えていて、同じくそれを返しに来ているようだった。

 

 

「ヨシツネって、古瀬までそんな呼び方を……」

「だって板に付いてきてるでしょ。さっきも一人で『よしっ』て言ってたし」

 

 

 あぁ、たしかに言ってたわ。

 その事実を俺は心の中で認めつつも、わざとらしく咳払いをして話題を逸らすことにした。

 

 

「古瀬もさっきの古文寝てたの?」

「あはは、ちがうよ。これ、海風さんが貸してくれた水泳のメモ帳なんだ。おすすめの練習メニューとか、フォームの図解とか書いてくれてるんだ」

 

 

 古瀬がノートを開くと、そこには過去に先輩から受けたアドバイスや褒められた点が綺麗な字で書き連ねられ、緻密な注釈を交えたイラストが要所に差し込まれていた。

 さっき見せてもらった、ほぼ全部の文に下線が引かれた古文ノートとの熱量の違いを、俺は申し訳なく思いつつもありありと感じた。

 

 

「すっげぇ……」

「うん、さすがって感じだよね」

 

 

 その声色は、どことなく他人事のようだ。

 海風と同じくらい焼けた肌に、少し長めの髪を揺らしながら古瀬はノートを閉じて、それを机の上に置いた。

 

 

「これがあれば、カナヅチの俺も泳げるようになるのかな」

「どうだろ……少なくとも、私にはちょっと」

 

「え、結構難しいこと書いてあるの?」

「ううん、分かりやすいよ。だから同じことをしても、私は海風さんのように速くはなれないんだなって……より痛感するんだ」

 

 

 古瀬はそう言って、「あはは」と笑顔を作った。

 

 

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