俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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23.クリーチャーが出るまで山札をめくる

 

 俺たちはいつものように、背中を向け合いながらデッキを作っていた。

 すでにピークを過ぎつつあるセミの叫びと、日陰などお構いなしに立ち込める熱気に包まれながら汗をぬぐい、一枚、また一枚とデッキは厚みを増していく。

 

 いつもと違うのは、ここが公園の東屋という公共の場であること。

 つまり、オーディエンスの出現率が普段より高いのだ。

 

 

「そーてん……しんまりゅう……おーしゃん、ういんどどらごん……?」

 

 

 海風がいつものように難読名をたどたどしく読み上げると、同じ東屋の2mほど離れたベンチによじ登っていた2歳くらいの男の子が、真顔でまっすぐ海風を見た。

 おさんぽの途中だったのだろうか。

 海風が気付いて男の子に手を振ると、その後ろで座っていたお疲れな様子のママさんが子供の手を取って、ブンブンと振り返すよう促していた。

 男の子は、終始真顔だった。

 

 そのやりとりを尻目に――俺は嵐が過ぎ去るのを待つように、ただソワソワしていた。

 

 

“蒼天神魔龍オーシャン・ウインド・ドラゴン”。

 

 それは、海風の泳ぎに勇気とインスピレーションをもらったあの日の俺が、バイト先での謝罪後に勢いで生み出したカード。

 モデルは……ゴホン。

 

 本当に、なんでこんなものを作ったのかと、何度も自分を問い詰め、何度もボツにしようと考えた。

 しかし、とうとうできなかった。

 

 制作に3時間もかかったからだろうか。

 それとも海か……ゴホン、ある人物の影がチラついたからだろうか。

 理由は俺にも分からない。

 

 

「パワー20000、召喚酔いしない、守護クリーチャーにブロックされない……。これ大丈夫? このドラゴン、かなりエグめなテキストが書いてあるんだけど……」

 

 

 た、助かった。

 どうやら、彼女はこのカードの誕生経緯まで詮索をするつもりは今のところないらしい。

 ……い、いや別に、知られて困るようなことなんてないんですけど?

 

 男の子も、ママさんが差し出したストロー付きのお茶を飲みながら、興味は公園外に停まっているブーブーに移っているようだ。

 

 

「まぁ、目玉カードのつもりで作ったからな……」

「あーでも、召喚コストもやばいね。それなら釣り合い取れてるかぁ」

 

 

 海風の言う通りで、こいつは“出る頃には勝負がもう決まってる”という、よくあるパターンのカードとして、意図的にデザインしたものだ。

 

 暗黒期となった第3弾の不評を受け、俺はスランプ脱出を図るべく修行を行った。

 長靴で10㎝くらいの深さの水たまりを歩いた。

 雨降りの後に傘をバサバサして、水滴で周囲の地面を暗黒に染め上げた。

 こうした全能感を地道に積み重ねていくことで、俺は小学生が喜びそうな要素をしっかりフィードバックできるようになったのだ。

 

 

「あ、この“へんしんけもの”ってカードかわいいっ。ネコみたい……にゃんにゃんっ」

 

 

 その言葉がふと耳に入って、俺は自然と口角が上がるのを止められなかった。

変身獣(へんしんじゅう)ケルベロスキッド”は、本作に多層的な遊び方をプラスするべく生み出した、いわば変わり種のお遊びカードだ。

 

 こいつはなんと場に出た瞬間、自分が山札の一番下に戻ってしまう。

 その代わり、クリーチャーが出るまで山札を墓地において、次に出たクリーチャーを代わりに場に出すという、文字通りの変身カードなのだ。

 中途半端なコストで、なかなか狙ったクリーチャーが出ないことと、かつ山札切れが早まってしまうリスクもあり、つぶらな目でもふもふな見た目のわりに使いこなすのは難しい。

 

 

「へへへ……こういうのもいいねっ、室井くん!」

 

 

 ……断じて、女子ウケを狙いたくて入れたカードなどではない。

 

 

「……よし、できたっ」

「室井くん、私もデッキ完成したよ。さっそくやろう!」

 

 

 海風は鈴の鳴るような声で、デュエルの開始を促した。

 

 さっきまでブーブーを見ていた男の子は、また俺たちの方を真顔で見ていた。

 ふっ、そこで見ていなボーイ。

 

 お兄さんのゲームクリエイター魂の結実を――その目に、未来に焼き付けておくれ。

 

 

 ◆

 

 

「“へんしんけものケルベロスキッド”を召喚! 同時に山札に戻して……いーち、にー、さーん……はい、“オーシャン・ウインド・ドラゴン”を場に出します。そして、召喚酔いしないのでこのまま壁を2枚破壊するね!」

「……」

 

 

 海風の“蒼天神魔龍オーシャン・ウインド・ドラゴン”は、3ターンで出た。

 次のターン、俺はまだマナを溜めていた。

 あの男の子はすでに、ママさんに連れられてヨチヨチと帰っていった。

 

 

「……俺のターン終わりです。次どうぞ……」

「じゃあ、2体目の“ケルベロスキッド”召喚! そして山札からまた“ケルベロスキッド”が出たのでもう一回山札に戻して……はい、2体目の“オーシャン・ウインド・ドラゴン”を召喚! 一体目で最後の壁を破壊して、二体目で室井くんにとどめ! はい、ボーン、ボボーン! 私の勝ちっ!」

 

 

 海風は手をこちらに突き出して、何か衝撃波的なものを放つ真似をしながら、全力で小学生になりきっていた。

 

 彼女は、デッキに入れるクリーチャーを“ケルベロスキッド”と“オーシャン・ウインド・ドラゴン”の2種類だけに絞り、残りをマナ加速などのイベントカードで埋める“確定ドラゴンデッキ”という解答を見せた。

 

 俺は――またしても負けたのだ。

 

 

 

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