俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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26.山札が残り1枚になるまでカードを引く

 

 海風がこの不格好でちゃっちいカードを欲しがったのは、今のぐちゃぐちゃとした関係に対する、彼女なりのひとまずの肯定だと直感した。

 

 俺は、それが何より嬉しかった。

 

 だから、スリーブについた砂を軽く払って、今や“気持ち”の代弁者となった“オーシャン・ウインド・ドラゴン”を差し出すことにしたんだ。

 

 震えを伴った海風の手が、ゆっくりとカードに触れて、掴んだ。

 

 そして、俺が手を離すと――海風はそれを、胸の前で大切そうに抱えた。

 

 

「……今日もありがとう」

 

 

 そう言い残し、間もなく海風は水浸しになった自転車を押しながら、雨の上がった薄明の世界へと歩き出していった。

 

 

 

 ◆

 

 

 家に帰って、俺は今日のことを忘れないうちに、新たなカード制作に取り組み始めた。

 いつもと変わらないルーティンのはずなのに、さっきまでのことを思い出したとたん、妙に筆が進む。

 

 途中、「ときめくエルフ ラブ&ピース」とか「君に届け チワワ」みたいな化け物を生み出してしまって、一人悶絶しながら時間を溶かしてしまうというアクシデントもあったが、泣いて馬謖を切る気持ちでボツにすることで、あとは順調にことが進んでいった。

 

 

 深夜になって、俺は脳内に満ち足りた達成感と共に、身体が求める最高の伸びを提供した。

 

 出来上がった第5弾のカードたちを机に並べ、テキストやイラストを確認する。

 概ね満足のいく出来だと思った。

 きっとどれも、“おにい感”を抜かりなく発揮できている。

 

 ……だが、俺はある一点だけがどうしても気になった。

 

 

「なんか……既視感のあるテキストが増えてきたな」

 

 

 正直これは、今まで仕方ないと割り切っていた部分でもあった。

 昔のドラクロでも、同型再販(カード名が違うけど、効果は同じ)のカードなんてものは度々売られていた。

 何枚あってもいいような汎用性の高い効果ほどその傾向は強く、バランス崩壊しがちな自作カードゲームであれば尚更、ちゃんとゲームを回すためにはそういったシンプルな潤滑油が常に必要だった。

 

 まぁ、そこはイラストのクオリティの向上で、なんとか満足してもらうしか……。

 

 

『――きゃはははっ、絵も下手すぎんだろ!』

 

 

 どこぞの小学生の言葉が、突如としてリフレインした。

 あいつら、いくらなんでも容赦なさすぎんだろ。

 

 ……いや、まてよ。

 そういえば。

 

 海風は、俺の作ったカードの方向性にこそ口出しするが……今までクオリティそのものには何も言及してこなかった。

 そこには否定がなくて心地は良いのだが、逆に今まで褒められたことといえば、エタデモの基本的なシステムと、あとはすべて“おにい感”という謎の指標で肯定されるクリーチャーたちだけだった。

 

 イラストだけでなく、ゲームとしてのクオリティも上がっているのかどうか、今一つ判断がつかない。

 海風は、根底が優しい人間だ。

 だから、万一マンネリを感じるようになっても、何も言わない可能性がある。

 

 

 ……あ。

 

 もしかして、もしかするとだけど……海風が今日受け取ってくれた“気持ち”って。

 

 彼女がエタデモに飽きるか、満足してしまった瞬間――なかったことになってしまうのか?

 

 だって、俺の気持ちはどう言葉に言い表せばいいのか分からなくて、カードを介した表現しかできなかったのだから。

 

 

 そう思ってしまったが最後、俺は急に足元がおぼつかなくなる感覚を覚えた。

 

 

 ◆

 

 

 それからの一週間は、まさに地獄だった。

 

 海風のインターハイ直前の最終調整期間、そして複数日に渡る遠方でのインターハイが始まったことで、彼女との接触はおろか、連絡すら憚られる状況となった。

 

 インターハイは先の地方予選と異なり、直接会いに行きたくても数ヶ月前からのADカード登録がなければ会場に入れない。

 そして、彼女たち水泳部の移動は今回、完全な集団バス移動となると聞いているため、応援として駆けつけることは叶わなかった。

 

 大会の進捗、海風のコンディションがどうなっているのか、とにかく気になって仕方がなかった。

 

 

 俺の方はというと、それまで「よくできた」と思っていた第5弾のカードたちが、どれも一気に陳腐なものに見え始めてしまっていた。

 終わりのない、エンドレスリテイクが始まったのだ。

 

「ああでもない」「こうでもない」と頭を捻って、いくつものカードを生み出しては、あえなくゴミ箱行きになっていった。

 

 挙げ句の果てに、途中で『ドラクロ 超コンプリートパーフェクトBOOK』に掲載された実物大カードイラストのトレースに手を付けそうになり、激しい自己嫌悪を起こしたりもした。

 

 何せ一週間もの間、正解もヒントも得ることができなかったのだ。

 

 

 もはや海風のためではなく――関係を失いたくない利己のため。

 

 過去最悪の混迷を極めた第5弾の開発は、こうして進んでいった。

 

 

 ◆

 

 

 その結果、俺は更なる修羅場を迎えることとなる。

 

 

「……ぐすっ……すんっ……!」

 

 

 インターハイの結果の悔しさ。

 

 そして、多層的な楽しみを追求した結果、複雑化しすぎたエタデモの膨大なテキストを前にして、頭がパンクしてしまい――

 

 ただ大粒の涙を流すことしかできない海風と、俺は対面することになってしまった。

 

 

 

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