俺の自作黒歴史カードゲームが、潰されそうなキミの逃げ場になるなんて   作:とむ×2

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30.「駅」

 

 それから俺と海風は、この広い店内に置かれたありとあらゆるアイテムを手に取り、ああでもないこうでもないと、試着を繰り返した。

 

 

「なるほど、肩幅か……たしかに、水泳してると絶対がっちりしちゃうよなぁ」

「うん……おかげでみんなの言う“女の子らしい服”が、ちょっと難しくて……」

 

 

 はたから見れば、きっとスマートさの欠片もない光景。

 すぱっと誰かの服を見繕ってあげられるような、自分のセンスに自信を持っている人には理解し難いかもしれない。

 

 だけど意外なことに、俺はこの時間をそれほど辛いとは思わなかった。

 いや、むしろ……楽しんでいるのかもしれない。

 単に海風の態度が軟化してきていることもあるけれど、この時間にはそれ以上の何かが、確かにあった。

 

 

「……なんか、環境デッキのメタを考えてるときみたいだ」

 

 

 海風が気になった服を広げて持ち上げていた横で、俺は思わずそんなことを口にしてしまった。

 しまった、よりにもよってこんな場面でカードゲーマーの悲しい性が発動してしまうとは!

 

 

「あ、ごめ、ちが……!」

「あははっ。君とデュエルするとき、いつも似たようなコト考えてるよ」

 

 

 でも――海風はこの時、笑ってくれたんだ。

 

 そして特にお咎めもなく、広げたカットソーを自分の前に重ね、「これとかどうかな」なんて聞いてくる始末だ。

 

 うーん……女の子って、よく分からない。

 

 

 ◆

 

 

 店を出たとき、海風はそれまで着ていた制服を紙袋にしまい、手に持っていた。

 

 そして、彼女は値札を店員さんに切ってもらい――さっそく新たな装いに身を包んでいた。

 

 トップスは日焼け肌に馴染みの良いオフホワイトかつ、袖先に広がりがあって、中央に黒いボタンが並ぶことで肩幅に目が行きにくい“フレアスリーブのブラウス”。

 ボトムスは海風のイメージによく合い、そして上半身のボリュームを中和するフレッシュな“デニムワイドパンツ”を選択した。

 

 正直なところ、はじめから合わせる色味自体は大きく外していなかったから、どちらかというと体型カバーと、彼女の「せっかくなら大人びた服が着たい」という要望に沿うことに注力した。

 いきなり全部を清楚系にまとめてしまうと、たぶん違和感が凄いことになると思ったので、ボトムスだけはカジュアルなデニムで納得してもらったが、今でも正解だったと思う。

 

 予算の都合上、どうしても靴はローファーのままとなったが、そこにさほど違和感はなくて安心した。

 

 

「うん、よく似合ってる。 やったね!」

「あ、ありがとう……室井くん」

 

 

 すかさずサムズアップを向けると、海風はさっきと同じく小恥ずかしそうに少し俯いて、でも今度は確かに嬉しそうな表情を見せてくれた。

 

 その姿にほっとして、俺は改めて本題を切り出すことにした。

 

 

「えっと、それじゃあ海風。そろそろ大会の話を……」

「……えっ、あっ」

 

 

 え……なにその反応。

 

 

「……ま、まだ……だもん」

「……ちょ」

 

「こ、今度付き合ってもらうのは……」

「……ちょい待てぇーいっ!」

 

 

 なんか、よく分からないテンション感で声を発してしまったな。

 ビクンと肩を弾ませ、分かりやすく驚いた顔になった海風を見て、自分でもそう思った。

 

 

「こんなこと、自分が言うのもなんだけどさ……ぶっちゃけもう怒ってないよね?」

「そ、そんなことないっ……もん」

 

「い、いや、誤魔化そうとしてもそうはいかんぜよ!」

「えと……だって、その……うぅっ」

 

 

 しどろもどろになりながら、言葉のドローに失敗している海風。

 そんな様子を見ているうち、俺も朝の失敗を思い出して、謎にぶち上がっていたテンションが落ち着いていくのを感じた。

 

 駅のホームや電車を見下ろせる、大きな窓ガラスの前に置かれたベンチにゆっくりと移動して、腰をかける。

 

 

「朝の件は悪かったよ。俺もずっと海風と会えてなくて……自分の溜まりに溜まった不安が、なにより先走ってしまって……その、本当ごめん」

「……べ、別にそれは……私も、かなりオーバーに取り乱しちゃって……その」

 

 

 バツが悪そうな様子で言葉を返しながら、海風も隣に座った。

 それを見て、俺は一度息を吸って吐いてから、言葉を綴った。

 

 

「相談でもエタデモでも……海風の気が晴れることなら何でも付き合うよ」

「……わかった。じゃあ、しようと思ってたインターハイのお話から……」

 

 

 海風は、視線をガラスの向こうのどこかに向けている。

 なんだろう、その目に深刻な色はほとんど感じない。

 

 

「朝も言ったけど、インターハイの順位とタイムは……全体的に微妙だった。でも、私が本当に悲しかったのは……別にそこじゃなかったんだ」

「ん、どういうこと?」

 

「室井くん、あの時のこと覚えてるかな? 練習終わりに合流して、学校裏で第2弾の反省会をしたときのこと」

「うん、覚えてるけど……」

 

「あの合流前に……私が穂高先輩に色々言われてたの、本当は室井くんも聞いてたでしょ」

「えっ……い、いや、聞いてナイヨ。穂高なんて名前、初めて聞いタヨ」

 

 

 ば、バカな、何故バレてるんだ?

 あの時、海風に気を遣ったと思われないために、完璧に知らないフリをしていたはずだが……。

 

 

「あはは、別に隠さなくてもいいよ。それでね、実はあの穂高先輩から……閉会式の後に『よく頑張ったね。あんたは、まぎれもなくウチのエースの器だよ……調子に乗るななんて言ってゴメン』って言われちゃったんだ……私、それが心底悔しくて……」

「そうか、それは……ん?」

 

 

 え、あの先輩から、認められたのに……なんでそれが悔しいんだ?

 一瞬だけ考えを巡らせて、俺の頭にそれっぽい理由が浮かんできたタイミングで海風は言葉を続けた。

 

 

「どうせなら、もっと圧倒的なタイムで認めさせて『ギャフンギャフン!』って言わせたかったのに……なんか、慰められるような終わり方になっちゃって、それが私ほんとに悔しくてさ……!」

「あ、あぁ……そういう……」

 

 

 いや、やっぱりブレねーなこの人。

 これもトップアスリートの素養なのかもしれないけど、なんというかこの“勝ち方”にまでこだわる姿勢が、俺たちなんかの常識をはるかに上回ってしまっている。

 それに、一度怒らせちゃったらなぁなぁでは終わらせたくないってところも……実にまぁ海風だな。

 

 

「……なんて言ってみたけど。それすらもどうでもよくなっちゃった」

「え、どうして?」

 

 

 俺がそう聞き返すと、それまで饒舌に話していていた海風は顔を真っ赤にしながら、再び何かを言い淀むようにソワソワとしはじめた。

 悔しそうにぎゅっと握っていた拳をほどいて、ワイドパンツの膝の上で落ち着きなく手を重ね合わせる。

 そして、今度はガラス窓越しの眼下を走る列車を目で追うようにしながら、彼女は口を開いた。

 

 

「……は、白状すると……実は今日のおでかけ、途中からキミと一緒にいるのが……その……」

「……その?」

 

「……すごく、楽しく……なっちゃって……」

「……そっか」

 

 

 俺は努めて冷静だった。

 でも本当はこの瞬間、心の中ではどちゃくそガッツポーズを決めまくっていた。

 

 

「たしかに……エタデモが意味不明なゲームになっちゃってたのは悲しかったけど」

「……うん」

 

 

 俺は努めて冷静だった。

 でも本当はこの瞬間、心の中ではめちゃくちゃ吐きそうだった。

 

 

「でも、それすらもなんで怒ってたのか分からないくらい、途中から……もっと一緒にいたいなって……思うようになっちゃって。でも、それを言うに言えなくて……その……怒ったフリを……」

「あぁ、じゃあだいたい、カフェの辺りからがフリだったのか……」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 海風は謝罪を口にするとともに、しゅんと大人しくなってしまった。

 そんな彼女から敢えて目線を外して、窓の外の空に目を向けた。

 

 ちょうど数羽のハトが、眼前を横切るように飛んで行った。

 

 

「……じゃあ、今度は俺の買い物に付き合ってもらおうかな」

 

 

 そう言うと、隣から少しの間を置いて――「うん!」と元気のいい返事が返って来た。

 

 

 

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