現代にダンジョンが現れたので海賊始めました ~街中のパンデミックとか面倒くさいし、海に出てダンジョン攻略する~ 作:カゴメ
誰もいなくなったショッピングモールで、大きめのバックに荷物を詰める。
「食料長持ちするものにしなきゃな。
それとガソリンでしょ……
あと釣り竿もいるな。
ソーラー充電式のモバイルバッテリー、30個くらい入れとこ。
あ、歯ブラシ忘れてた。
服も5着くらいは欲しいな」
今朝のことだ。
突然、世界中に謎の建造物が現れた。
塔だったり、城だったり、洞窟だったり。
それらから大量の魔物としか呼べない生物が溢れ出て来て、人間を手あたり次第襲いだした。
皆避難しちゃって、街にはもう誰もいない。
っていうか、魔物に占拠されてるから人間が居住区として取り戻すのが何年後かもわからない。
だからちょっと貰っていくけど、ここの店長さん怒らないでね。
使われないまま錆びる方が勿体ないし。
じゃあなんで、そんな危険地帯を僕は歩いているのか。
まぁ、逃げ遅れたっていうのが大きな理由なんだけど、避難したくなかったからだ。
避難しても生活圏が大きく減ったのは変えようのない事実。
富裕層が富や土地を分配するわけもない。
富の差はより激しくなって、差別とかも生まれて、考えるだけで憂鬱だ。
だから、逃げることにした。
人間関係という柵から。
全部自分でやって、自分を生かすための全部を自分で作る。
そんな生活をすることにした。
海岸沿いにクルーザーがあった。
その鍵を拝借し、今は荷物を積んでる最中って訳。
「グルルルルッッ!!」
後ろから、そんな唸り声が響く。
「え?」
声に驚いて振り向くと、そこには……
「ギャウ……」
真っ赤な犬が居た。
鬣から炎が出ている。
確実に魔物だ。
「やっば……!」
僕は、荷物を放り投げて走る。
けれど、犬型の魔物だけある。
クラスで5番目くらいの僕の足に余裕で付いて来る。
っていうかこれ、追い付かれッ……!
あぁ、サーフィンサークルとか入んなきゃ良かった。
あぁ、絶対ヤリサーだってわかってたのに海まで来なけりゃ良かった。
昨日の夜、未成年の僕に死ぬ程酒飲ませて、目覚めた時にはもう誰もいなかった。
あいつ等、僕だけ置いて逃げやがって……
なんて、走馬灯みたいな物が頭に走る。
こんな時でも怨みが湧いて来る辺り、僕は性格が良く無いんだろうな。
世界がゆっくりと進んでいる。
犬が吠えながら口を大きく開く。
そのまま僕へ向かって飛びかかってきている。
あぁ、食われる。
そう思って目を瞑ったけど、中々来ない。
「あれ?」
目を開けると、時が止まってるみたいだった。
いや、本当に少しずつだが犬は迫ってきている。
凄くスローモーションだ。
今のうちに逃げられるかな?
そう思って足を上げようとしてみるが、無理。
僕自身もスローになってる。
「あなた……」
犬の遠吠えはゆっくりになっているのに、その声はスローな世界でも普通に聞こえた。
だとしたら、この現象を引き起こしている誰かの声なのだろうか。
そんな想定を持って、声の方へ目を向ける。
「君かな?」
本当に小さな存在だった。
僕の手に乗りそうなぐらい。
ひな人形位のサイズ。
ディープブルーの髪、スカイブルーの瞳、エメラルドグリーンの衣服。
まるで西洋の姫のようなドレスを着た、小人だ。
それが、浮遊して僕の前に立っていた。
「お願いがあるの」
「悪いけど、僕、今すごくゆっくりしか行動できないから時間ある時でも良いかな?」
「今じゃ無きゃ駄目」
冗談が通じなさそう。
いや、真面目な性格なだけかな。
「……なに?」
気さくさを心がけて、そう聞いてみる。
「私と契約して、やっと見つけたんだから」
「契約ね、今時ビジネスでくらいしか使わない響きだね」
「びじねす?
良く分からないけど、私は今死にそうなの」
「奇遇だね、僕も僕も」
「分かってるわ。
だから、私と契約してくれれば水の精霊魔法で貴方のピンチを救って上げる」
「ほんとに?」
魔物っていうのは、この犬みたいに言語の通じない化物しかいないのかと思ったけど、随分話のわかる魔物もいた物だ。
「えぇ、その代わり私を水のある所に連れてって?」
「わ、わかった。けどそろそろ、助けて欲しいかも。
もう犬の牙がね、僕の腕に突き刺さっちゃうから」
無駄話が過ぎたらしい。
犬の燃える鬣が熱い。
牙が僕に突き立てられる直前まで来てる。
「契約成立?」
「うん、イエス、はい! ヘルプ!」
「ありがとう。
私の名前はシーラ、あなたは?」
「
あ、でももうマジで、あとちょっとで死んじゃうかもなんですけど」
そんな事を言っていると、シーラと名乗った少女が僕の肩の上に乗った。
そのまま前方、犬に向けて手を伸ばす。
「魔力接続――
代行詠唱――
――アクアブレイド」
そう唱えた瞬間だった。
炎の犬は真っ二つに切り裂かれた。
時間が通常通りに動き始め、べちゃりと真っ二つになった犬の肉片が飛び散った。
グロい。
「これでいい?」
「ありがとう、助かった」
「いいわ。その代わり、約束通り水のある場所へ連れてってね」
少し、苦しそうな表情で彼女は僕の肩に座る。
疲れているというか、弱ってるって感じだ。
「わかったよ、死んだ婆ちゃんから借りはちゃんと返せって言われてるから」
「いい御婆様ね」
「そうだね」
僕はさっき投げて来た荷物を担ぎ、クルーザーのある海岸沿いに急いで戻った。
「淡水じゃないと駄目とかないよね?」
そう言って肩の方へ視線を向けると、妖精だか精霊だか……シーラは薄く青い涙を流していた。
「海なんて見るの、何百年振りかしら……」
なにを言っているのか、良くわからなかった。
毎日見てるから。
けど、彼女には彼女の事情があるのだろう。
それを今聞いている暇はない。
「見晴らしが良いと魔物が多いね」
「頑張って海に私を浸けて、そうしたら一掃して上げる」
「頼もしいよ」
「当然ね。私はこれでも元は水の大精霊だったのだから」
よくわからない大型の鳥。
よくわからない百本足の化物。
よくわからない巨大カニ。後、巨大サザミと、巨大ナメクジと、巨大……イカ? 頭の尖った魚人ってかおっさん。
そんなよくわからない魑魅魍魎の間を僕は全速力で駆け抜ける。
「50メートル走7.05秒!」
「この世界の人間は走る時にそんな台詞を言うのが通例なの?」
「自己分析しないと、覚醒してるかどうかわかんないから」
荷物は多いけど今なら6.5秒くらいで走れそうな気がする。
クラウチングスタートで用意。
出せる限りの力と回転数で、僕は疾走する。
「あなた、おもしろいわね」
「どうも!」
海の中に入水する。
僕は辿り着いたらしい。
「海を得た水の大精霊の力。
とくと視なさい。
代行詠唱――
そう、彼女が唱えた瞬間海の水が撒き上がる。
それはまるで、巨大な竜巻のように。
「すごいけど、船は傷付けないでぇ!」
ほんと、これが壊れちゃったら僕行くとこ無くなっちゃうからさ!
「水は私の一部、操作なんて呼吸のような物よ」
ガシャン!
「ごめん、ちょっと当たっちゃったわ」
水の渦が少しクルーザーに激突。
凹んではなさそうだけど……
「振りじゃないんです! お願いします!」
「わかった、わかったわよ。
それっ」
そう言って、指を魔物へ向ける。
渦が指の先を走り、大量の魔物を一掃していく。
「巨大ルンバみたい」
「なにかしらそれ、中々良いネーミングじゃない」
「あぁうん、そうだね」
その渦巻によって、十妙とかからず見える範囲の魔物が蹴散らされた。
「これで、私の仕事は終わりね。
私は海の中でしか生きていけないからお別れかしら?」
「言ってなかったっけ、ちょうど僕も海に出ようと思ってたところなんだ」
「そうなの?」
「もしよかったら、船のクルーになってくないかい?
正直、僕一人で海に出ても魔物の食べられるのがオチだろうし」
「そういうことならいいわよ。
カイと一緒なら、退屈しなさそうな気がするし。
あなたに、
願うように、シーラは胸の前で両手を握る。
僕はそれに「ありがとう」と返した。
それが、僕とシーラの出会いだった。