ブラック・ブレット -change the world-   作:プロジェクトE

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第01話 三ケ島ロイヤルガーダー

 

部屋には三人の人間がいた。

一人は風格のある身なりの良い小洒落たスーツを着た、而立(じりつ)*1を迎えるか迎えないかという男。

一人は背が高く、がっしりとした肉付きのいい体格を黒いタンクトップ*2に押し込んでいる筋肉質な男。

一人は背の高い男の半分ほどしか身長がない、ニット*3のロングカーディガン*4からスパッツ*5が覗く少女。

その中の一人、スーツ姿の男は社長机越しに立っている背の高い男向けて重い口調で話し出した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「さて、将監(しょうげん)。今日はなぜ呼び出されたか分かっているか?」

 

「いえ、わかりません」

 

将監と呼ばれた男、本名伊熊将監(いくましょうげん)は短く返事をする。

 

ここは、三ケ島ロイヤルガーダーの社長室だった。

そして、スーツ姿で社長椅子に腰かけ社長机の上で手を組んでいる男こそ、この三ケ島ロイヤルガーダーの社長、三ケ島だった。

三ケ島ロイヤルガーダー、世間でも名の通った大手『民間警備会社』である。

西暦2021年に突如(とつじょ)世界中に出現し爆発的に蔓延(まんえん)*6した寄生生物『ガストレア』により、人類は感染され絶滅の危機に瀕した。

しかし、人類は何もせず全滅することはなかった。

滅亡寸前だった人類は、ガストレアを退ける金属『バラニウム』で作られた巨大な壁『モノリス』を建築し、その中で生活を行うようになった。

しかし、モノリスの内部であっても、(まれ)にガストレアは侵入してくることがある。

その際にガストレアの駆除を請け負う会社それが、民間警備会社である。

国営でなく、民間の警備会社であるため、規模は各々(おのおの)異なり、弱小や大手などさまざまであるが、この三ケ島ロイヤルガーダーは大手に分類される。

 

「何か俺の実績に問題でもあるんですか?」

 

一応言葉の上では丁寧語がつかわれているが、言葉の端々から『そんなものあるわけない』という自信が(にじ)みでていて、聞くものからすればヤンキーに喧嘩腰で話しかけられているようにも聞こえる。

だが、三ケ島も大手民間警備会社の社長。

まだ若いが落ち着いたもので、将監のような体格の大きな男相手であっても、おどおどしたりはしない。また、社長という立場でふんぞり返っているわけでもない。ただただ、社長として言わなければならないことを伝えるため、なにごともなく将監に話す。

 

「いや、将監。君はよくやってくれている。討伐数も問題ない」

 

「じゃあ、三ケ島さん。今日俺はなんでここに呼び出されたんですか」

 

三ケ島はふうと溜息をつくと、社長机の上にがさりと紙の束を置いた。

 

「これは?」

 

「見覚えはないかね?」

 

質問したのに逆に質問を返され、将監は怪訝(けげん)な顔をする。

その様子に三ケ島は『やはりか』というと顔に手を当てた。

 

「これは君に提出してもらった、ガストレア討伐に際したレポートだ」

 

「・・・ああ、それか。それがどうかしたんですか」

 

「将監、今君はこれを見たとき最初何かわからなかっただろう。やはり普段これを書いているのは君ではないようだね」

 

「う゛…」

 

言われて将監は今日なぜ呼び出されたかを悟った。

このガストレア討伐レポート、名前の通りガストレアを討伐した際にそのガストレアに関する情報を残す意味合いで、作成することをこの三ケ島ロイヤルガーダーでは義務付けられている。

これを残しておくことにより、近い種類のガストレアが出現した際に討伐を楽にし、戦闘員の死亡確率を減らすことができる。

内容としては、そのガストレアの弱点部位や攻撃パターン、移動速度など様々だ。

全く同じガストレアが出現する確率は低いが近い個体との戦闘になった際には役立つ情報だ。

これらの情報を残しておく民間警備会社は少なくはない。

 

「将監、確かに情報を残せているという点において、このレポートに不備や問題はない。しかし、君が前衛向きな性格であることを考慮しても、これは君が書くべきではないかな?少なくとも私は君の加速因子(イニシエーター)に書かせるのはどうかと思うのだが君はどう思うんだ将監?」

 

「知ってるだろ三ケ島さん、俺はそういうチマチマしたのは苦手なんだ。だから―――」

 

「だから、加速因子(イニシエーター)に書かせたと?十歳にしかならない、普通ならば小学生の年齢の彼女に?」

 

そういって、三ケ島の指さした先にいたのが、この部屋にいた最後の一人。

開始因子(プロモーター)伊熊将監の加速因子(イニシエーター)、千寿夏世だった。

 

人類を滅亡寸前まで追いやったガストレアウイルスは基本的に体液感染しかしないが、稀にガストレアウイルスが妊婦の口から入り、胎児に蓄積されて生まれてくることがある。そのように生まれてきた子供は『呪われた子供たち』と呼ばれ、その子供たちは全員が女子である。そして、その子たちの目はガストレア同様に赤く、ガストレアから受け継いだ高い再生能力と運動能力を持っている。ガストレアウイルスが体に蓄積して生まれてくる彼女たちは、体内に抑制因子を持つため、通常人類がガストレアウイルスに感染するよりも非常にゆっくりとウイルス浸食が進む。

通常の人類であれば、ガストレアウイルスに感染されると早ければ数分、長くとも数日で体内のガストレアウイルスの浸食率が50%を超え肉体がガストレアに変貌してしまう。

呪われた子供たちもウイルス浸食率が50%を超えるとガストレアに変貌してしまうのは同じだが、通常の感染が起こった場合通常人類より浸食率の上昇速度は段違いに遅い。ただし、生まれた時からガストレアウイルスに感染している彼女たちは何もせずともガストレアウイルスの浸食率が少しずつ上昇していく。ただし、ウイルスの浸食抑制剤を使用し、日常生活だけを送っていけば、天寿を全うできるという説もある。

ただし、2021年にガストレアウイルスが大感染したのちに急激に増えた呪われた子供たちは2031年現在では20歳になるものすらいないため、仮説の域を出ない。

そして、ガストレア化する可能性を生まれつき持っている彼女たちを同じ人間だと認められない人間は多く、呪われた子供たちの多くは生まれて間もなく捨て子になる場合が非常に多い。

そして、彼女たちの一部は国際イニシエーター監督機構、通称IISOに登録される。

IISOに登録された呪われた子供たちには、ウイルスの浸食抑制剤の配布と引き換えに加速因子(イニシエーター)となり、開始因子(プロモーター)と共にガストレアと戦う義務が生まれる。

千寿夏世、彼女もそんな加速因子(イニシエーター)の一人だった。

 

三ケ島に指さされた夏世は、10歳という年齢にそぐわない落ち着いた態度で将監の顔を見上げると、将監は無言ながらもどうにかしろと目で(うった)えかけてきていた。

夏世は心の中で溜息をつき、三ケ島に向き直る。

 

「三ケ島社長、討伐レポートでしたら作成は今後も作成は私で構いません。将監さんは闘いに夢中になると相手のガストレアの動きは野生の勘で避けるので、相手の動きなどはあまり覚えていません。私が戦闘の後でガストレアの特徴を将監さんに伝えてレポートを書くのでは二度手間です。それに私としてもレポートの正しい書き方から将監さんに教えるのはいささか面倒なので」

 

「夏世っ!」

 

将監は顔を真っ赤にして、自らの加速因子(イニシエーター)に向き直る。その後ろで、三ケ島は先ほどよりさらに深い溜息をついた。

 

「分かった、君たちペアのレポート提出方法は任せる。ただし、将監。君は彼女がレポートを書いているのを見て、一人でも書けるようにはしておきたまえ、以上だ。下がってい―――」

 

言葉の途中で、三ケ島の机の上の固定電話が鳴り響いた。

三ケ島は受話器を取り、相手を確認すると、二、三了承を示す言葉を電話口に投げ、受話器を置いた。そして、退席を指示しようとした将監に向き直ると一言。

 

「将監、仕事だ」

 

その一言で将監の目の色が変わる。

 

「場所は!」

 

「第四区の森林公園付近の大通りを北上中。情報が正確ではないが、モデルスネークのようだ。この件、我が社だけへの依頼ではない。急げ、すでに近くにいた民警たちも動き始めているころだ」

 

「了解、行くぞ夏世ッ!」

 

「分かりました将監さん」

 

言うが早いか、二人は社長室を飛び出すと、廊下を駆け抜けロッカールームに飛び込む。

そして、五秒もかからずに今入った扉を蹴り開け、武器を手に将監は飛び出してくる。

将監はバラニウム製の巨大なバスタードソード、夏世は銃火器の詰まった夏世の身長ほどもあるトランクを背負い、二人は階段を駆け下りる。

こういう時、高い建物は面倒だと思いながら、将監は階段を三段抜かしくらいで駆け下り、その後ろを高速で夏世が一段一段走り降りる。

小中学校だったら、廊下を走るなと教師に怒られないはずのない速度で駆け下り、ビルのロビーを駆け抜け、ビルを飛び出す。

そして、ビルを抜けて道路に面する階段を降りる。

つもりだった。

 

「ぎゅむ」

 

という謎の音と共に千寿夏世は足の裏に何かの感触を感じ、自分が転倒するのを感じた。

 

「痛ッ何だ?」

 

声がして夏世が横を向くと、自分の隣で将監もビル出口の階段半ばで転んでいた。

将監が忌々しそうにつぶやき、夏世は自分が踏んでいるものを見る。

 

「え?」

 

そこには人間の死体が二体転がっていた。

高校生くらいの男と、夏世と同年齢くらいの少女。

その二人の頭を踏んでしまったのだ。

夏世は現在進行形で男の頭の上に座り込んでいて、将監も少女の体の上に尻餅をついていた。

瞬間、夏世は気持ちを切り替える。

こんなところに死体が転がってるのは不自然だ。

なら、その原因として考えられるのは―――この近くにもガストレアがいる。

社長から指令のあったガストレアでないにしろ、自分の会社のすぐ目の前で暴れられたのでは会社の面子が立たない。

まず、第一にこうしている間に自分たちもそのガストレアに狙われているかもしれない。

そう思い、立ち上がろうとしたその時、夏世は男の死体に足をガッと掴まれた。

 

「ッ!」

 

夏世は冷汗が噴き出るのを感じた。

マズイ、銃の類はまだトランクの中。

倒れているのがただの死体だと思ったのがまずかった。

ウイルスを注入された形象崩壊前の人間だということに気が付かなかった。

動き出した死体の頭が夏世のスパッツ越しに尻の下で暴れ、その頭が座り込んでいる夏世のM字開脚に近い座り方をしている夏世の股の間に抜けると突然。

 

「おなかすいた」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「・・・・・・・・・・・・はっ?」

 

死体だと思っていた男の頭は夏世の股の間でうつぶせで顔を地面につけたまま腹が減ったとそう言った。

 

 

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*1.而立:30歳の別名。

*2.タンクトップ:袖なしで襟ぐりが深い衿のない上半身用下着。

*3.ニット:やわらかく()った糸をループの連鎖で編み上げたものの総称。

*4.カーディガン:袖付、前開きのセーター。

*5.スパッツ:下着の一種である。伸縮性のある素材でできた、腰から脚までにぴったりとフィットするズボンまたは、タイツ状の衣類の総称。

*6.蔓延:病気や習慣が広がること。

 

 




というわけで、第01話です。
みなさん、主人公が誰だか分かりましたか?
分かった人も分からなかった人もいると思いますが、
主人公は、夏世ちゃんのお尻の下でガサゴソ蠢いていた男です。
まったく羨まし・・・ゲフンゲフン、もとい、不届きな野郎ですね。
まったく。

まあ、第01話終了しても、名前すら出てきませんでしたね。
多分、次話くらいで名前は出てくるんじゃないかなあ・・・
といいつつ、主人公な名前、実はまだ決まっていません。
苗字くらいしかまだ決まっていないという。

さて、第01話つながりで、アニメ:ブラック・ブレットを皆さんは見ましたか?
見ている人は思い出して、見ていない人はこれから見なさい。
第01話では蓮太郎君の倒したじゃなかった、
延珠ちゃんの倒したモデルスパイダーのガストレアは室戸菫先生のもとに運ばれました。
その後、蓮太郎君が室戸先生の仕事場を訪れるにあたって、
出されたシチューのようなものを覚えているでしょうか?
私はあれを見たときガストレアの肉で作ったシチューかと思ったものです。
火にかけるとガストレアウイルスって死ぬのかなあなんて思いながら見ていました。
まあ、実際どうなんでしょうね?
死んだガストレアの肉って人間が食べれるのかなあ?

そんなことを考えながら書いている作者ですが、
書いてて分かったこと。
将監と夏世ちゃんの会話がどんな感じなのか分からないということ。
原作で、蓮太郎君と話している感じで夏世ちゃんは話すのかとか、
将監は夏世ちゃんに怒ったりするのかとか、etc。
会話シーンが少なかったこともあり、
特に将監と夏世ちゃんの会話が、
そのあたりを憶測で書くしかなかったのが、ちょっと気になっています。
まあ、わたしは将監は夏世ちゃんに理不尽に怒りをぶつけたりしない感じにしようかなと。
逆に夏世ちゃんは、割と毒を吐く率が高いかもしれないです。
ホントにこれでいいのかなあ・・・

そんなこんなと迷いながらの執筆ですが、
楽しんでいただけたなら何より。

書いてて分かったことですが、
変態的なキャラは割と書きやすかったりするのかなと
思ったり思わなかったり。

というわけで、あとがきはここまで。
また次回まで、さようならです。

ではでは―――

ちなみに、感想や評価をくれるとうれしいです。

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