結界の強化について話し合った翌朝、ナルトはインターホンの音で起こされた。
「はいってばよー……。んだよ、シカマルか」
ドアの向こうにはアカデミーの同期達。シカマルを筆頭にチョウジ、キバ、シノが立っていた。
「お前……もう巳の刻だぞ」
シカマルは寝衣姿で、丁寧にもナイトキャップまで被って出てきたナルトの姿を見て呆れ返った。
「昨日夜遅くってさ。……ん?何か約束してたっけ」
「いや、月末に組手のテストがあるだろ。アドバイスとかもらえねぇかって、皆で話して来たんだよ。……急で悪かったな」
シカマルはバツが悪そうに視線を逸らす。ナルトはいつも朝修行をしているようで、アカデミーには薄汚れて来ることが多く、休日も早くから起きているものとふんでの訪問だった。
一方ナルトはというと、かつてのアカデミー時代は同期が頼ってくることなどなかったため、そんなことで家を訪ねて来られるのは新鮮に感じた。
「特訓ってことだな。いいってばよ」
シカマルは玄関に置かれた靴が二足あることに気づく。
「……誰かいんのか?」
「サスケが泊まってんの。とにかく中入れば?狭ぇけど」
サスケという名が出て、どんだけ仲が良いんだとシカマルたちは呆れにも似た感情を抱く。
部屋に入るとサスケはすでに服を着替えて歯を磨いていた。ナルトと同じようにインターホンの音で目が覚めたが、ナルトが彼らの対応をしているうちに身支度を終えてしまっていた。
「サスケも行くよな」
ナルトは当たり前のようにそう言ってのけるが、サスケはちらりとシカマルたちの顔を見る。嫌な顔はしていないようだ。
「……ああ」
ナルトが身支度を終える間、特にキバが不躾に部屋の中の様子をうかがっていた。
「初めて来たけどお前にしては意外と綺麗にしてんだな」
「おまえどんなん想像してんだってばよ。オレってばキレー好きなの」
「……随分と難しそうな巻物だな」
シカマルは部屋の隅に乱雑に積み重ねられている巻物を手に取り広げた。
「そうそう。それで昨日寝るのが遅くなったんだってばよ。サスケと話が弾んでさ」
「結界に、封印術……」
どう見てもアカデミー生が読むような内容のものではない。
「ナルト、おまえこんなん理解できんのかよ。この前の試験の点数ならオレの方がよかったろ」
キバは相変わらず悪態をつく。
「オレってば、興味のあることは頭に入ってくるタイプ!」
「にしても、この内容……」
あまりにも複雑な術式にシカマルは唖然とする。
「扱う術にも向き不向きがある。おまえたちはそれぞれ名のある一族の出で、一族に伝わる術があるだろう。それと同じだ。ナルトには血筋的に封印術や結界に関する適性がある」
孤児であるナルトに血筋という言葉は結びつかず、発言したサスケに視線が集まる。
「……少し歴史を遡れば分かることだ。うずまき一族は代々膨大なチャクラを持ち、封印術や結界関連の術を得意としていた。千手一族と祖先は同じで、初代火影の妻もうずまき姓。この里とも深い関係がある」
そう言われてみると、里の忍び装束の背にはうずまきの紋があることにシカマルはハッとする。あまりに日常的に見るもので、それに関してこれまで深く考えることもなかった。
「もーオレの話はいいってばよ。特訓いくぞ!」
ダンゾウは、報告のあった演習場へと向かっていた。
弱冠六歳にして写輪眼を開眼したというサスケという少年。その左目には輪廻眼があるという。
うちは一族には、写輪眼が開眼した際には速やかに里へ報告する義務が課せられている。しかし、輪廻眼については言及されていない。歴史を遡ってみても、これまで、うちは一族から輪廻眼が開眼したという記録はなく伝説上のものでしかなかった。
うちはサスケについて調査してみると、左目は日常的に黒い眼帯で隠していることがわかった。それから、アカデミーでの成績順位は首席。品行方正。これといった問題はなく、アカデミー始まって以来の異才と言われた数年前のイタチを彷彿とさせた。強いて問題があるとするならば、九尾の人柱力であるうずまきナルトとの関係性だ。直属の部下に調査を依頼すると、報告時には必ずと言っていいほどナルトの名が出てくる。
アカデミーに程近い演習場は授業のない日は誰も使っていないことが多い穴場でもある。
「シカマル、どうすりゃいい?」
「そうだな……お前とサスケなら、二対一でもいけるだろ」
アカデミーの同期内でもナルトとサスケの体術が一線を画していることはもはや共通認識となっていた。
まずはナルト対シカマル・チョウジ、サスケ対キバ・シノという組み合わせで、それぞれ組手を始めた。
二人がかりであっても敵うはずもなく、四人は地面に座り込んだ。
「マジつえーな……。ナルトもサスケもさ、一体何やったらそうなるんだよ!?師匠とかいんのか!?」
キバが喚くと、四人は確かに誰に習ったんだと騒つく。
そう言われても、今は師と言えるほど教えを乞うような人物はいない。ナルトに関しては自宅で自来也がゆっくりしている時に新しい術を教えてもらったりしているくらいで、体術についてとなるとかなり記憶を遡ることになる。
「えっと……エロ仙人?あ、五代目か……」
「兄さんとカカシと……いや、アレは違うか」
サスケの脳裏に大蛇丸と共に過ごした三年間の記憶が過ぎったが、主に毒物耐性と薬物による身体強化と麒麟の伝授であり体術に関しては何もなかったはずだ。そもそもあまり師とは認めたくないが、こうして思い返せば得難いものを授けてもらったような気がしなくもない。
(身体強化はともかく、毒物耐性は欲しい……)
目の前の四人の気も知らず、サスケの思考はとんでもないところに飛躍していた。
師匠が誰かと聞いたら現職の火影と界隈で、名の知れたエリート忍者であるイタチとカカシの名が出たら納得するほかない。
「ナルトもサスケもこんなに強いのに、どうして毎日修行しているの?少しくらい怠けてもいいよね。勉強もそうだけど」
チョウジの言葉に他の三人も全くだと頷く。
「オレの夢は火影っつたろ?なら努力しねーとな」
「体術があってこそ瞳術や忍術が活きる。相手によっては体術のみで対応しなければならないこともあるし、……オレの場合、目を抉られたらなすすべがないという状況は死んでも避けたい。学習に関しては、敵と対峙する際の分析に有効だ。相手の戦法や術を看破するにはそれなりの知識量が必要になる。アカデミーの授業も何一つ無駄なことはない。ナルトの家で話した術の向き不向きはあるが、知識としては全て知っていても良いくらいだ」
言っていることがやや分かりづらいが、それが瞳術を扱う者としてのプライドだ。
「ちょいとサスケ、目を抉られるって、エグいてばよ」
「冗談抜きであり得ることだ」
何話してんだと思いながら四人は二人の会話を聞いていた。だが、サスケの言う学習することの意義についてはアカデミーの授業よりもわかりやすかった。
「てか、さっきからなんだよあのジイさん」
「こちらを見ているな……」
シノがやっと喋った。
ナルトとサスケもその男の存在には気づいていた。広い演習場の隅にあるベンチに座っている男は、サスケにとって一生忘れることがないであろう敵だ。
「ダンゾウ……里の上層部のヤツだ」
サスケの右目に万華鏡写輪眼が浮かぶ。
「サスケ!!」
ナルトの声でサスケの右目は黒く戻った。
クーデターも未遂で、シスイの両目も無事ということは今のダンゾウの身に写輪眼はないはずだ。大蛇丸の件もあり、彼が再び敵となるか、共に戦う同志となるかは今はわからない。だが、サスケには殺すまではせずとも、せめて子どもという立場を利用して言ってやりたいことがあった。
近づいてきたダンゾウに、サスケは一切の躊躇なく言い放つ。
「オレが、うちはが……九尾を操って里に仇なすことは絶対にありえない。ナルトは、オレにとって最も大切な繋がりだ」
ナルトもそれに便乗した。
「マジでねーからな!サスケはオレのライバルで半身でめちゃくちゃ大切なヤツなの!てか最近コソコソ暗部つけて探りいれてねーで男なら初めっから正面から勝負しろってばよ!」
話しかける前に、年端も行かない男児から一方的にギャーギャー反抗されて困る爺さんの図だった。
「わかった、わかった!……すまん」
何だか色々わかっている風な事を言われ、ダンゾウは謝るしかなかった。
「……なんだよ。逆に怪しいってばよ」
大人から言われるならまだしも、子どもから言われるとダメージが大きい。
ダンゾウがこの演習場に来たそもそもの目的は、自分の目でナルトとサスケの関係性を探り、里に仇なす者となるか判断するためであった。
「様子を見に来ただけだ。心配ない。……お前たちの気持ちはよくわかった」
「ほんとかよ」
「……邪魔して悪かったな」
ダンゾウは姿を消した。
「おまえら……あのジイさん里の上役なんだろ?良かったのかよ……」
シカマルは訳の分からない状況であっても、二人が一方的に里の上役に対し捲し立てていることだけはわかった。
「オレたちは間違ってねぇ」
この日から、「根」の縮小が始まったという。
サスケは解散後そのまま帰宅し、ナルトの家に寝衣と歯ブラシとコップをそのまま置いてきてしまったことを思い出したが、まあいいかと放っておくことにした。綺麗好きのナルトが洗濯してくれるだろう。
家族と大蛇丸で食卓を囲み食事をしていると、フガクとイタチがやけに見てくる。何かと思い視線を合わせると、妙な沈黙が流れた。まさかダンゾウに生意気な態度をとったことが既に二人の耳に入ったのかとサスケは勘繰っていた。
「……どうだった?」
「何が」
フガクが尋ねるも、意味がわからずサスケは首を傾げる。
「……外泊だ」
「普通に……楽しかった」
「楽しかったのか……。何をしたんだ」
「何って……カレー作って食べたり、結界や封印術の書物を読んで議論しただけだ」
「そうか……」
「そういえば、寝衣はどうしたの?まだ洗濯に出していないのかしら」
「ああ、置いてきた」
ーーあああああああ
フガクとイタチは両手で顔を覆い心の中で声にならない声を上げていた。
「もしかして……歯ブラシとコップも?」
「ああ」
ーーあああああああ
「あなたもイタチも、少し過剰反応すぎないかしら……」
「自覚はある……」
「大蛇丸、一つ頼みがある」
「あら、珍しいじゃない。私にできることかしら」
「毒耐性をつけたい。そういうのはアンタの得意分野だろう」
ーーズコッ
家族全員食卓に頭をぶつけた。
「そうね、もう少し成長してから始めましょうか。まだ先になるけれど、アカデミーを卒業する頃に合わせるのはどうかしら」
「すまない。よろしく頼む」
「「ちょっと待った!!!」」