班分けの日の夜、ルーキーの上忍師たちは行きつけの酒酒屋で酒を酌み交わしていた。
「オレんところは猪鹿蝶で有名な家のガキどもだが、なんせ個性が強すぎて疲れる。一人は一言目にメンドクセーメンドクセーって。一人はポテチ食ってばっか。くノ一はキーキーうるせえ」
「ああ、……あれくらいの年頃のくノ一はそうよね。私のところは……サクラとキバがよくぶつかるわ。キバはバカだけどリーダーシップとりたがるし、サクラは頭が良いから口を出したくなるのよ。シノは……静かね。……零班はどうなの?」
「どうなんだカカシ」
紅もアスマも今日はその話が聞きたくて来たようなものだった。
「うーん……。サスケもヒナタも何でかナルトのことが大好きなんだよね。ナルトを中心にいい感じに初めからまとまってて、逆にオレ、必要なのかな?って」
「どんな感じでまとまってんだ?」
「将来の夢を聞いたらさ、ナルトが火影になるって言って、サスケが影から支えて、ヒナタは二人の隣に並んでもおかしくないくノ一になるってさ。そんなかんじ」
「なんというか……限りなく純粋で可愛いわね」
「いいじゃねえか。手がかからなさそうで」
確かに二人の言う通りだ。しかし、カカシには良い面だけではなく都合の悪い面まで見えていた。
「いや、……明日さ、例の鈴取り演習するんだけど、正直怖い。何されるかわかんない……。チームプレイも難なくできそうだし」
「あー……。写輪眼に白眼に……九尾。上もそれを一纏めにするあたり、上からのお前に対する信頼も相当だな。どう指導する?何か考えがあるんだろう」
二人はカカシの言葉を待つ。三人は同期であったが、中でもカカシの忍としての素質は他と一線を画しており彼は常に同期たちの先頭に立つ存在であった。そんな二人の期待を知ってか、カカシは目を逸らす。
「……おそらく、サスケとナルトに教えることは何にもない。あの人たちのお墨付きだしね。五代目はアカデミーを飛び級させようかとも考えていたらしいし。……ヒナタだけかな。オレが何か教えるとしたら」
「そんなに?」
「ナルトなんか六歳の頃から蛾蟇と契約して仙術も使えるし、チャクラの性質変化までやってのける」
カカシの言うことが本当ならば、規格外もいいところだ。上忍レベルかそれ以上だろう。
「それからサスケは最終形態の写輪眼とか持ってるし、うちはの秘蔵っ子だよ。しかもあの大蛇丸を口説き落とした張本人。もちろん蛇と契約済み」
「なにそれやだ怖い……。もし零班が中忍試験に出るなら、他の受験生にとっては悪夢の中忍試験になるわね」
「でしょ?!怖いんだよ。明日の演習であいつらどこまで力出すか分かんないから!」
「……カカシ、その鈴取り演習、ムリにしなくても良いんじゃねえか?……オレならしたくない。いや、しない」
「アスマ……。オレはその言葉が聞きたかった」
翌日、零班の三名はカカシから言われた通り朝食抜きで待ち合わせの場所に集合した。
「おい、手を出せ」
サスケに言われナルトとヒナタは首を傾げながらも手を出すと、手のひらの上に小さな包みが置かれた。
「あ!サンキューってばよ」
「これ、何?」
ナルトは分かっているようだが、ヒナタは首を傾げた。
「サスケお手製の兵糧丸だってばよ」
「そうなの?サスケくん、ありがとう」
「礼はいい。今のうちに食っとけ」
その瞬間、今までなかった気配にナルトとサスケは身構えた。
「お前ら!!……合格合格。もう合格で良いよ」
「「「え?!」」」
「兵糧丸なんか使われたら先生困るよー。確かに飯は食ってくんなって言ったけど、兵糧丸のことは禁止してないもんね。腹ごしらえは大切だよほんとに。それに、万が一オレが任務で負傷してお前らだけで任務続行しなきゃいけないって場合もあるかもしれないしね。自分で考えて行動するってのはできてる、と思ってもうみんな、ごーかっく」
「えー。先生と手合わせしてみたかったってばよ」
「お前らの実力がおかしいってことくらい先生もわかるよ。……午後からできるような任務があれば、任務、やってみる?」
「おー!やってやるってばよ!」
「わかった」
「はい、やってみたいです」
「じゃ、午後一時にまたここに集合。オレは火影様のところに行ってくるから」
カカシは姿を消した。飯の代わりに兵糧丸という考えが恐ろしい。
「火影様、失礼します」
「ん?カカシか。……お前からはナルトとサスケはどう見える?」
自来也は、ナルトのアカデミー卒業と同時にナルトのアパートを出た。ナルトと同居している間、時々邪魔そうに見てくるサスケの視線が気になっていた。ナルトと何か話したそうにしており、気をつかって何度か席を外してやったことがあるくらいだ。
「どうって……仲がいいですね」
「それは知っとる」
「……それに、とてもオレの手に負えません。実力がおかしすぎるのは分かっていますし、三名の仲間意識は高いので合格にしました。まずは難易度の低い任務でもやらせようかと」
「そうだのぉ……。今日は里の草取りの任務くらいしかないぞ」
「もうそれでいいです。里中の雑草を根こそぎきれいにさせます」
午後一時、ナルトたちはもちろん、カカシも集合時間ぴったりに姿を現した。
「カカシ先生~!何の任務だってばよ?」
ナルトは目をキラキラさせてカカシに迫る。
「落ち着けナルト。下忍の任務はDランクからと決まってる。今日は里の草取りだ」
「カカシ、範囲は?」
「特に決まってないけど、どうしたの?」
「……効率が悪いだろうが。他の下忍も同じ所を数日前にしていたらどうする気だ」
正論だった。
「はい……。善処します」
「先生、頑張りますから……」
カカシはヒナタから気をつかわれた。
「じゃ、先生は草取り任務の改善案をまとめるから……って聞いてない?!」
「ヒナタとオレはこのエリアを担当する。ナルト、お前は残りの九割のエリアを頼む」
サスケはどこから出したのか里の地図を広げていた。
「え?!それってちょっとひどくねぇ?」
ノルマがナルトに偏りすぎやしないか。
「得意の影分身があるだろう。ホラ、追加の兵糧丸。……お前のために作った」
(サスケがオレのために……)
「やらせていただきまーっす!多重影分身の術!」
ナルトはサスケに転がされ演習場には影分身約百人が整列した。
「ナルトくんが、たくさん……!!」
「くれぐれも雑草だけを始末しろ」
「「「「「オッス!!」」」」」
全員が敬礼すると、ナルトの分身は四方八方に散らばった。サスケのナルトを扱うスキルはすでに最高値に達している。
「ヒナタ、オレたちはこっちだ」
「う、うん」
サスケは勝手に里全体の草取りをすることにしたらしい。
「ちょ……おまえら……」
仮にも部下である下忍を止めることができないのは問題かと考えたが、草取りという公共奉仕任務であれば問題なかろうと都合の良い解釈をし現実逃避したカカシであった。
三時間後、サスケは演習場に集められた雑草の山を見つめていた。
ーー天照
雑草の山が黒い炎に包まれた。いくらサスケの右目が永遠の万華鏡写輪眼でも天照の無駄遣いだ。
「それって普通の火遁でもよくね?」
「他のものに移った時が面倒だ」
「あ、なるほど」
そんなやり取りを普通にしているナルトとサスケ。
「先生、わたし……今回の任務に必要なかったのではないでしょうか……」
「……そんなことないよー」
「あ!こんな任務ならオレらが片付けるから、その間ヒナタはカカシ先生と一緒に修行したらいいってばよ」
ナルトの言葉を受け、ヒナタの肩が震えている。
「ひ、ヒナタ?」
カカシは恐る恐るヒナタの顔を覗き込む。
「先生……。たしかにわたしは役立たずです。強くなりたいです!修行をつけてください!」
「よ、よーし。先生と一緒に頑張ろう!」
「よろしくお願いします!」
この日を境にDランク任務でも忍でなくてもできるような奉仕系の作業任務の時は、二手に分かれることとなった。スリーマンセルというシステム上、推奨されないスタイルである。
「ナルト、サスケ、今日はよく頑張ってたが、一つだけ、先生と約束してくれ」
「なんだってばよ」
「約束?」
「今日はびっくりしたから、これからは必ず何をするのか先生に言ってから行動すること!」
カカシは頑張って叱ってみた。
「カカシ先生、ごめんなさいってばよ」
「……すまない」
意外と素直な反応が返ってきたためカカシは拍子抜けする。
「……分かってくれたら良いんだよ。次からよろしく頼むぞ」
その間、ヒナタは演習場の丸太に向かって柔拳を打ち続けていた。
任務が早々に片付いたため、申の刻には解散となった。
帰宅途中にある里の演習場。そこには第八班が担当上忍師と共に修行に励んでいるようで、サスケはフェンス越しにその様子を見ていた。
サクラは手裏剣術の練習。一方、キバとシノは忍術も使用可の模擬戦をしている。大方、上忍師が各々の戦法や傾向、タイプの見極めを目的としているのだろう。
「シノ!オレのとっておきの技を見せてやるぜ!」
「……」
シノが喋らないお陰でキバが盛大な独り言を言っているようにも見える。
その場には夕日紅もいるが、サスケはなんとなく嫌な予感がして二人の手合いを見守ることにした。
「獣人分身!」
両手で抱えることのできる程度の赤丸という小さな忍犬が、地面に四つ足となったキバの背に飛び乗ると、キバと同じ姿に変化した。そしてそのまま身体を捻る。
「牙通牙!」
シノを目がけて勢いよく回転しながら突き進む。だが、シノの蟲がその行手を阻む。人には分からない程度であるが臭いを放つ蟲が少数紛れており、キバと赤丸の嗅神経を刺激する。
途端にコントロールが失われた。
ーー天手力
サスケは咄嗟に眼帯を外し、サクラの手にある手裏剣を目に捕らえる。
「わぁああああ!!イデッ!!」
シノを目がけて体当たりをしようとしていたものの、キバと赤丸の軌道は大きくずれてサクラが手裏剣術の練習に使っていた丸太に激突していた。幸いにも、手裏剣の刺さっている場所にはぶつからず、血が流れることはなかった。
唐突な浮遊感と重力にサクラは思わず目を瞑った。しかし地面に足が着く感覚はなく、恐る恐る目を開く。
「サスケくん?!……って、え?!」
手裏剣術に集中していたサクラはキバの牙通牙が向かって来ることに気づかず、そのままであったなら直撃は免れなかった。
「サクラ、忍なら目を閉じるな」
丸太とキバの様子を見て、一体何が起こったのかサクラは瞬時に察した。
サクラは地面に降りると、おずおずとサスケの顔を見る。
「……ありがとう、サスケくん」
「あなたがうちはサスケね。正直驚いた……。カカシがああ言うのも頷けるわ」
紅もサクラを庇おうと動いたが、それでも間に合っていたか分からない。
「アンタも上忍なら気を抜くな」
サスケは紅を見上げて凄む。
「……返す言葉もないわね。ありがとう。助かったわ」
紅は、なぜだか部下の父兄から苦言を呈されたような感覚をおぼえた。
「相変わらずスカしてんな。……ありがとよ」
キバは自分の失態を恥じているのか、ボソボソと気まずそうにそう言った。
「たまたま通りがかっただけだ」
サクラはそのまま演習場を立ち去ろうとするサスケの肩を掴んだ。
「サスケくん、ありがとう」
「何度も言うな」
「そうじゃなくって……手紙の件。知ってるかもしれないけど、おかげでイタチ先生に修行みてもらえるようになったの」
ふふっと笑うサクラは可愛かった。
「よかったな」
「サスケくんって……イタチ先生の言う通り優しいんだ。知らなかった」
(……兄さん、サクラに一体何を教えているんだ)
(2026.4.11追記)
後半のサクラの部分、追記しました。サスサクの流れのために。。